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6.タピオカとの出会い

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半ば脅される形でデートをすることにいまいち納得がいっていないまま歩き続けると、目的のタピオカ店に到着した。
幸いうちの生徒はいなかったけど、明らかに自分とは住む世界が違いそうな人々でごった返してるそこは私にとって魔界のような場所だった。

「夏菜何にすんの」

「あ、えと…」

「遅い。タピオカミルクティーでいいな。氷少なめ、甘さも少なめ、これが王道だ」

ヒトラーもびっくりの暴君ぶりで私の分も注文を済ませる獅童。
…実はタピオカ店に一度も来たことがなかった私。もちろん注文の仕方なんてわからなかったから、このときばかりは獅童に感謝した。
素直に来たことがないと言えばよかったかもしれないけど、そんなこと言えばこの男のことだから絶対馬鹿にしてくる。そうに決まってる。

看板にずらりと並ぶカラフルなジュースを見て、つい心が躍る。
一回は食べてみたかったタピオカ…!
こんなキラキラしたところ一人では絶対に入れないし、バイトをしている唯にタピオカを飲みに行こうと誘うのも気が引けて言えなかった。
だから獅童が隣にいることは一旦忘れて、純粋にタピオカの味を楽しもう。

「ほい」

「あ、ありがとうございます…その、お金とか」

「だから金はいらないって。女に財布は出させない主義なの」

チャラ男はチャラ男なりの流儀があるらしい。
最近新しいマイクを買ったばかりだったのでこの申し出は正直助かる。

「いただきます。………!!!」

「うまい?」

「おいひい…!!!」

なにこれ!
ミルクティーはコンビニで売っているようなものと違ってすごく上品な味がするし、何よりタピオカがもっちもち!
口の中いっぱいにもちもちが広がってる!

「もちもちもち…」

「ほっぺたすごいことになってるぞ。ハムスターか」

「むいっ」

ほっぺを軽くつままれるが私は動じない。
なぜならはじめてのタピオカミルクティーを堪能したいから。
獅童が何度もほっぺをつまんできたがすべて無視した。
私がタピオカミルクティーを堪能している横で、何故か獅童はお腹を抱えて笑っていた。

「はー、やっぱ面白いわ。こっちも飲んでみるか?紫いも味」

「む、むらさきいもあじ…」

「ツウはみんなこれよ」

そう言って紫色のジュースをちゅーっと吸っている獅童。
タピオカジュースを飲む時ですら様になっているのはなんかむかつく。
その姿を見て周りの女子たちがキャーキャー言ってるのもむかつく。
というか、私がそのジュース飲んだらそれって間接キスになるんじゃ…?

「物は試しだろ」

「んぶっ」

間接キスのことを考えていたら、唐突にストローを唇に押し当てられた。
拒否しようにもストローをぐいぐいと押し付けられて、仕方なくくわえるしかなかった。
間接キスのことばかりに意識がいって、どんな味だか認識する前に飲み込んでしまった。

「どうよ」

「…おいしい、です」

「だろー?」

満足げに獅童は笑っている。
この人にとっては間接キスとか当たり前すぎて、全く意識してないんだろうな…。
そう考えると一人悶々としているのがなんだか恥ずかしくなってきた。

「つか敬語やめろよ」

「え、でもこれは癖で…」

「敬語一回につきキス一回な」

「やめま、…やめる!」

私の焦っている姿を見てクククと笑う獅童。
私の一挙一動がツボらしい。むかつく。

「さ、帰るぞ」

タピオカを片手に歩きだす獅童に、私は思わず目を丸くしてしまった。
この人のことだから夜まで付き合えとか言い出すと思ってた。

「今日はこれで終わり。男とのデートもタピオカも初めてなくせに、これ以上連れ出したら次の日熱出して寝こみかねないだろ」

「なっ…!!」

バレている。
実は男の人とデートしたことがないことも、そしてタピオカを食べたことがないことも。
チャラチャラしてるけど、人のことはよく見てるんだ。
あまり弱みを見せないようにしないと。
…もう十分見せてるような気もするけど。
などと、私が顔を赤くしたり神妙な顔をしたりする様子を見て獅童はまた笑っていた。

「くく、俺デートでこんな笑ったのはじめてかも」

「そ、それはどうも…」

褒められているのかけなされているのかわからない。
それからも、私の家につくまでの間獅童はちょっとしたことで爆笑していた。
あまりにも笑うもんだから、つられて私も少しだけ笑ってしまったことは獅童には内緒だ。

私は獅童の認識を「怖い人」から「よく笑うちょっと怖い人」に改めることにした。

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