上 下
5 / 39

5.デートなんてしたくない

しおりを挟む
***

「…本当に一人で大丈夫?」

「うん!大丈夫!多分!」

「…バイト休もうか」

「いやいやいや!私一人で本当に大丈夫!唯とバイバイしたあと全力ダッシュで逃げるから任せて!」

「…わかった。なんかあったら連絡してよ」

「うん!いつもありがとう、唯」

獅童との一件があってから数日後、唯がバイトのため一緒に下校できないと神妙な顔で伝えてきた。
唯は終始心配そうにしていたけど私は割と楽観視していた。
だって、獅童はいつも固定のグループと一緒に帰宅しているし、万が一下校時刻が重なっても私と獅童の下校ルートはかぶってない。





と、のんきに考えていた数時間前の自分を殴りたい。

「夏菜、このあと予定ないよな?」

「な、なっ、なっ!」

「ないな、よし。タピオカ飲みに行くぞ」

私は校門先で待ち構えていた獅童に一方的に予定を聞かれ、勝手に暇だと決めつけられ、迅速に肩を組まれ拘束された。
あまりの急展開に脳の処理が追い付かず硬直してしまった私は、そのまま獅童に引きずられながら校門を後にした。

「…い、おい、生きてるか」

「ひいっ、生きててすみませんっ」

圧のある声で正気に戻り、とっさに自分が存在していることに対して謝ってしまった。
悲しい性だ。
辺りを見回してみると、どうやら駅前に向かう道のりを歩いているらしい。
も、もしかして本当に駅前のタピオカ店に向かってる?

「俺とのキス、そんなに嫌だったか?」

唐突に数日前の事件について掘り返してくる獅童。
その全く悪びれもしない口ぶりは「俺とキスして喜ばないやつはいないんだけどな」と疑問に持っているかのようだった。

「嫌でしたけど…」

獅童のせいでファーストキスを奪われたのも、とても怖い思いをしたのも事実だ。
嬉しいとかそんな感情は一切なかった。
だからそれが伝わるようにはっきりと拒絶の意を伝えたら、私が強く出ると思わなかったのか獅童は目を丸くしていた。

というか、目立つ獅童と一緒に歩いているところを見られたくないし、今後も関わってほしくない。
獅童の一件で唯にもたくさん迷惑をかけてる。
獅童が面食らってる今、はっきりと自分の思いを伝えるしかないと思い私は勇気を振り絞って口を開いた。

「とにかく、…ラギのことを黙ってくれてるのはありがたいけど、これ以上私に関わらないでほしい、です」

「なんで?」

「わ、わたしは獅童くんみたいな人間とは違うんです。ただ毎日静かに暮らしたいだけなんです」

「あんな有名なのに?」

「そ、それはそれ、これはこれです」

「ふーん。ま、アンタの事情は知らないけど」

獅童は目じりを下げにんまりと笑う。

「俺は夏菜に興味津々だから」

「っ!」

「これくらいはいいだろ」

獅童が近づいてきたからまたキスされると思ってびくりと肩を震わせたら、髪の毛にキスをされた。「これくらい」ってなんだ。私にとっては大ごとだぞ。

「ラギのことは黙っておいてやる。その代わり俺が暇なとき付き合え」

「つ、付き合うって、どこに」

「学校帰りにファミレス行くとか、まあケンゼンなデートってやつ?」

「な、なんで」

「さっきも言っただろ、夏菜に興味があるって。しかも俺にしては配慮してやってんだぞ?普通だったら即ホテル行くところだしな」

「ひっ」

「大丈夫、夏菜とはケンゼンなデートするって。な、いい条件だろ」

獅童と、デート?
あまりの衝撃的な発言に固まってしまう。
二度と関わらないでほしいって告げたはずなのに、なんで定期的にデートする羽目になっているのだろう。
私はおそるおそる口を開いた。

「あの、それって、断ったり、とか」

「できると思ってんの?」

笑顔で一蹴される。
そうですよね、できませんよね。

「契約成立な。ま、デート代は俺が出してやる」

「えっ」

「夏菜みたいなちんちくりんでも一応女だからな」

「ち、ちんちくりん…」

すごくけなされている気がする。
…だけど、冷静に考えたらこの契約って獅童側にメリットがない。
可愛くもない「ちんちくりん」の女とデート、しかもお金は全部自分が出すって…
能力値を顔に全振りしたせいで、頭がバグっちゃったのかな…

「あと、あのヤクザ女にはこのこと内緒にしといてくれ」

「ヤクザ女?」

「いっつも俺のこと睨んでくるアンタの友達だよ!ったく、アイツの監視のせいでこの俺がわざわざアンタのこと待ち伏せする羽目になったんだぞ」

「もしかして唯のこと?」

唯、たまに般若のような形相になってたのは獅童を撃退してくれてたからだったんだ…!
私は今頃一生懸命バイトをしているはずの唯にテレパシーを送る。
ありがとう唯…!

「ひゃああっ」

「おい動くな、前髪留めてやるから」

「えっ遠慮しますっ!!!」

また前髪をかき上げられて、光の速度で獅童の手をはたき落とした。

なんでこの人は毎回私の前髪を上げようとしてくるの!
というかなんでこんなにベタベタできるの!

獅童はなぜか私の前髪を留められないことを不服そうにしていた。
意味が分からない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜

湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」 「はっ?」 突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。 しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。 モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!? 素性がバレる訳にはいかない。絶対に…… 自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。 果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

処理中です...