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外された首輪【side環】

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「犬飼、あの大量の酒はなんだ」

少しだけ酒が抜けた様子の犬飼に対して、ずっと気になっていたことを尋ねた。

こうして犬飼が酒に溺れ続ける限り、部署内に少なからず影響が出る。
それに将来有望と言われている犬飼が酒のせいで落ちぶれてしまうのは惜しい。

しかし、私に抱き着いて肩口に顔をうずめている犬飼は待てど暮らせど口を開こうとしない。

「この一週間、お前は明らかにおかしかった。あの酒が原因だろう」

犬飼がこくりと頷くのを視界の端に捉える。
極力言葉を選ぶよう、話し下手なりに思案しながら口を開いた。

「お前の暴飲の原因は…私にあるのではないか。だから、急に突き放すような態度を取ったり、睨みつけたりしたのだろう。お前が、私のことを………」

嫌っているのは分かっている―――
これだけの言葉がどうしても言えなかった。

口を開いても、言葉が出てこない。
相当な深酒をしたから珍しく感傷的になってしまったか。

犬飼に嫌われているという事実を口にしたくないだなんて。

「…すまない。とにかく、私にできることなら力を貸そう。…その、あまり過度な要求は受け付けないが」

「そうです。全部たまきさんのせいです」

「っ」

突き放すような一言に背筋が凍る。
分かっていたはずなのに、ハッキリと言葉にされると心に刺さるものがある。



学生時代は衝突の連続だった。
自分の意思を曲げることができない自分は、あらゆる場面でクラスメイトや教師と軋轢を生んだ。
昔はそれが原因で落ち込むこともあったが、社会人になった今、衝突は避けられないものだと認識している。

自分の意見を曲げてまで人と仲良くすることより、嫌われてでも自分の意見を押し通す道を私は選んだ。
これこそが自分の生き方だ、と誇りすら感じていた。



そう。
嫌われることなんて慣れているはずだ。

「たまきさんのせいで、毎日酒がないと寝れないんです。記憶がなくなるまで飲んで、二日酔いのまま会社に行くんです」

視界がぼやける。

犬飼、私がお前に何をしたというんだ。
この数か月、お前に脅されるまま身体を差し出し続けた。
私のプライドをズタズタに傷つけ、心底楽しそうに笑っていただろう。

お前が私を嫌う道理はないはずだ。

「たまきさんのせいで、おれ、どうしたらいいか分からないんです」

私はこの男を嫌いであってしかるべきだ。
コイツは処女を強引に奪ってきて、ペットのように扱い、その上自分の都合で捨てるような身勝手極まりない男だ。
最低で、身勝手で、いいところなんて一つもない。
頭でそう分かっているはずなのに。

なぜ、私はお前のことがどうしても嫌いになれない。

分からないことばかりだ。
お前のことも、自分自身のことすらも。

「…っ」

「たまきさん、泣いてるんですか」

「ないて、ない」

頬を伝う涙が犬飼の顔に触れたのか、犬飼は焦ったように顔を上げる。
情けない姿を見られたくない一心で片腕で目元を覆う。

程なくして犬飼の熱を帯びた手のひらが頬に触れた。
今までになく優しい手つきのそれを咄嗟に叩き落とす。

「やめろ」

「でも…」

「うるさい!!」

思わず声を荒げて叱責した。

どうせ嫌われているのだから何をしても構わないだろう。
目元を隠し、犬飼の顔も見ないまま言葉を続けた。

「き、嫌いなら、嫌いと、そう言えばいいだろう!!わ、私は、別に」

「待ってください」

急に腕を掴まれ、視界が開ける。
目を見開いている犬飼がちらりと見えたが、すぐに顔を逸らす。
こんな惨めで情けない、私らしくない私を見られたくない。

「たまきさん、何か勘違いしてませんか」

「っ、なにを」

自分の意思とは反対に次々と溢れる涙を犬飼が優しく拭う。
らしくない行動をやめろ、と言おうとした瞬間だった。

「おれはたまきさんが好きなんです。好きだから困ってるんです」

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