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それほど
どれまでが全て?
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今日も同期で昼食を一緒に食べる。
田中さんは、先週に自炊宣言をしたのでここにはいない。
女性は4人しかいないけれど、3人で社食に行こうか外に行こうかと言う話になった。
「たまには、パスタとか良いよね?」
如月さんの言葉に、うんと頷く。
「麺類ならお蕎麦とかうどんでも良いんじゃない?」
高田さんの言葉にも、うんと頷く。
「要さんは?」
え?私。
「何でも良いなぁ」
私の言葉に、如月さんと高田さんが顔を見合わせる。
「あぁ、そうね」
え?何?
「田中さんがいないと、こういうことになるのね」
どういうこと?
「ん?どうかした?」
私の言葉に、高田さんが笑う。
「私達、田中さんも含めて3人ね?主張があるじゃない?」
高田さんの言葉に、また頷く。
「何となくの方向だけ決めて、最後に要さんに委ねるみたいなね?この3ヶ月やってたよね?」
そうだった?
「今までは、如月さんと私で意見が分かれても田中さんがどちらかに賛成したり、更にもう1つの選択肢増やしたり、そこで最後に要さんが決める、みたいなさ?」
高田さんの表情には、本当に変化がない。
そんなことを思った。
「どうしたの?要さん?」
如月さんの言葉に、ハッとする。
「あ、ごめんなさい。高田さん、いつも通りで良かったなぁって…思っていた」
全然関係ないことを言う私。
如月さんは、高田さんを見て私を見る。
「そうね、確かに高田さんいつも通りじゃん」
昨日のことを、気にしている様子はない。
「…もうやめてよね。今日の午前中、少しやりにくかったけど、いつも通りにしたの。友成さんがいつも通りだったから…私だけが気にするのも悪いし…」
え?康ちゃん?
「そうなんだ?友成さん、大人~」
如月さんの言葉に、そうでしょうよ、と大きく頷く。
「高田さんが落ち込んでいないか、気にしているようだったし?」
私に確認する如月さん。
「そうね。でも、高田さんが、気にしていないのなら、良いんじゃないの?」
他人事のように返す。
「まぁ、私はね?それより、友成さんに悪かったなぁ、と…」
言いにくそうな高田さん。
それに頷く如月さん。
「あれは、高橋さんが結構ダメージ大きかったなじゃないの?」
「と、錦織君かな?」
思わず口にする。
如月さんが、やや遠い目をした。
「もう、良いじゃない?それよりも、今日のお昼よ。早くしないと時間なくなるし」
高田さんが、会話を切るように口にする。
「じゃあ、社食で良いんじゃないの?明日、麺類にすれば」
私の言葉に、2人も頷く。
「そうね、時間もないし」
「移動も、楽だし」
高田さん、如月さんとも効率重視だ。
今日は平和に社食で、お財布にも優しく、ね。
「じゃあ、A定かな?」
高田さんの切り替えの速さ。
「いや、B定でしょ?」
如月さんも。
行くとなったら、すぐに切り替えができるの羨ましいなぁ。
「定食、か」
思わず口にする。
「え?ダメなの?」
2人からの言葉に、ううんと首を振る。
そういう所は、すぐに一致するのに。
「違うよ。定食って、採算取れていないのに、社食はすごいなぁと思っただけ」
そう、この会社の社員食堂は、割といる従業員みんな(お財布)の強い味方だ。
定食はお肉中心のA定食と、お魚中心のB定食。
年配の人にも分かりやすい、ずっと続いているという昔からのメニュー。
どちらも、副菜や小さなデザート(主にフルーツ)まで付いている。
それなのに、350円という驚異の値段だ。
他にも、メニューは毎日少しずつ変化している。
月曜日は煮物が多いとか、火曜日は中華に特化しているとか、水曜日はといった風に…。
金曜日は、海軍のマネとかでカレーだ。
「今日は、水曜日だから丁度麺類じゃない?」
私の言葉に、高田さんと如月さんは、顔を見合わせる。
「もう、要さんは。私のおなかはすでにA定の予定になったの」
高田さんの真剣な顔。
「そうよ?もう、B定のお口になっているのに、どうして蒸し返すの?」
如月さんは、高田さんに合わせているのか、少しだけ口調が軽い。
「あぁ、そうだったの?ごめんなさい」
如月さんが、口を尖らせた高田さんをまぁまぁと宥める。
「これだもの、本当に要さんは、マイペースね」
言われても、確かにとしか思わない。
3人は会話が早い。
そこにいる私は、合わせるのがやっとだ。
でも、高田さんも如月さんも、勿論田中さんもそれで私を除け者にするようなことはない。
食券を購入し、そのままトレーを持ちながら食事を受け取る。
早い。
このサイクル、食券を購入している間にすでに準備をしているだからなのだろう。
2人は、安定のそれぞれの定食を受け取り、私は迷った挙句に今日の麺類からラーメンにした。
安いから。
ラーメンは、200円。
普通のラーメンだけど。
でも、乾麺じゃなくて生麵なのに。
「要さんの思考回路って、不思議よね?」
席に着くと、高田さんがそうぽつりと言う。
「何で?」
「私さ、昨日のことで…、何と言うか要さんも今日から別になるのかと、思っていたからさ」
ん?何で?
「友成さんとのことで、要さんに悪いかなって思っていて」
「何を?」
「その、友成さんに迷惑をかけたし、言い方が悪いけど…板挟みに、しちゃうんじゃないかって思っていたから」
高田さんが、言いにくそうに回りを気にしながらそう言う。
あぁ、まぁ。
回りにも社員さんはいるものね。
しかも、今年の新人はつるんでいるって、見られているものね。
「え?特に何とも思っていないけれど」
「大物よね」
如月さんの言葉に、やっぱり何で?と思う。
「昨日のさ?企画課でも、割とね?ほら、係長がさ大騒ぎだったし」
あぁ、高橋さんを可愛がっているっていう?
高橋さんは、どこまで社員にファンがいるのだろう?
愛想の良い、年下の先輩社員。
「折角、友成さんと高橋さんで幸せ便の話が出ていたのに、友成さんを下ろそうかって話になってさ」
「あぁ、ごめんなさい」
如月さんの言葉に、高田さんが俯く。
「違うのよ。それでも高橋さんが、もう友成さんで通すつもりで企画を立てているのなら、担当変更はおかしいって係長と口論になって」
「それで、錦織君が企画に入ろうとしていたって話でしょ?」
高田さんの言葉に、如月さんは声も小さく「そうね」と同意した。
そうなの?錦織君てば、ちゃっかりしてるんだから。
昨日、喫煙所でのごたごたは少し形が違うものの、おおまかな流れはどの課でも同じように伝わっている。
康ちゃんが高田さんへの不満を口にし、それを聞いた高橋さんが康ちゃんに食ってかかり、結果泣いてしまった。
そこで上司が間に入り、お開きとなった。
でしょ?
それで、何で高田さんが私に気まずい思いをするの?
「えぇ、話を元に戻して…。その、友成さんと要さんて、元々知っているって話でしょ?」
高田さんの言葉にこくりと頷く。
「その、私とこうやって過ごしているけれど、友成さんの評判を落とすようなことになった原因だし」
「そうなの?私はそうは思っていないけれど?」
昨日も言ったし。
「それは、結果論でしょ?…友成さんの評価が下がっても、私の中の好感度って特に落ちることはないし。かと言って、それで高田さんに思うことも、特にないというのが妥当じゃない?それに、もし信頼がなくなったのなら、それこそ高橋さんとの関係や、高田さんとの関係で今後の評価に繋がると思うから、第三者の私が言うことは何もないかな?」
それこそ、彼女でもないくせに。
「え?何かおかしい?」
私の言葉に、如月さんも高田さんも「おかしくはない」と言った。
「錦織君と要さんって、本当に芯があるなぁ」
如月さんの言葉に、そうかな?と思う。
「まぁ、これからもご一緒出来る時は、よろしくお願いします」
「え?やっぱり、これからは別ってこと?」
高田さんの言葉に、首を傾げる。
「だって、企画課も、広報課もこれから忙しくなるんでしょ?」
「企画は、時間内でどうにかなるものだけど?」
如月さんが伺うように、高田さんを見る。
「こっちだって、別に…。記念誌の方は、まぁ順調だと思うわ。ちなみに、私の仕事は特に問題ないわ」
なら、別に良いのか?
忙しいのは、営業かな?
「田中さん、元気かな?」
思い出したまま口にする。
「いや、まだ2日」
「懐かしむの、早すぎだから。退社したようなテンションで言わないで」
高田さんに続き、如月さんの苦笑する表情。
こういう時の流れは、田中さんがいなくても同じなんだから。
「本当、高田さんと如月さんはそっくりね」
「マイペース!」
如月さんの言葉にもそう?と返答し、ラーメンを食べ始める。
社食での時間って、本当にのんびりするなぁ。
社内ということで焦る必要がないという気持ちになる。
食堂、大事だよね。
3人での時間も、変わらず進む。
そのまま別れ、総務課に戻る。
退勤まで、今日は他の課に行くことが多かった。
人事課に行くことは、本当にあまりない。
だけど、大量のコピー用紙が多く発注されたとのことで、お届けに行くことになった。
人事課で、大量のコピー用紙?
何に使うのだろう?
そう思っても、答えのないことに時間は割かない。
すぐに切り替えて退勤時間になった。
今日も、帰りは康ちゃんと一緒だった。
「真理、少しだけ時間あるか?」
急な確認。
「うん、良いけど何で?」
「もし?もし真理が住むのなら、どういうとこが良いかって話」
「何?急に?」
私の言葉に、康ちゃんはまた何とも言えない顔をした。
康ちゃんと連れ立って歩くのは、いつもと同じだ。
「真理は、何も分かってないな」
「…ごめんなさい」
「違うよ。謝ってほしいわけじゃない」
「うん」
でも、何だかおかしい。
着いて行くと、会社から歩いて10分ほどのマンションに着いた。
「近い」
驚きだ。
「だろ?それに、すごいのはこの中な?」
言われるまま、着いて行く。
「おかえりなさいませ、友成様」
コンシェルジュ?とでもいうのか、丁寧な仕草の女性が居た。
それよりも、今なんて?
おかえりなさいと、言わなかったかしら?
どういうこと?
混乱する私をよそに、康ちゃんは慣れたように足を進める。
高層階とは言わないけれど、エレベーターで中層階に到着する。
「少し前に、フルでリノベ済みだ」
「へぇ~」
キョロキョロしながら、康ちゃんに続く。
リノベーションしなくても、十分綺麗だと思うんだけど。
「康ちゃん?ここって、康ちゃんのお家?」
気になるけれど、そういうことなのだろうか?
「俺の家っていうか…。ま、上がろうぜ?」
康ちゃんは、並んでいるスリッパに履き替えた。
私もそれに続く。
リビングに行くと、シンプルな空間が出迎えてくれた。
広い空間に、L時型のソファとローテーブル。
テレビをかけるであろう壁には、何も置いていなかった。
すっきりとした空間は、康ちゃんを表しているようだった。
キッチンも、綺麗なアイランドキッチンに冷蔵庫。
「冷蔵庫の中身はないから、飲み物はコーヒーかペットボトルの水しかないけど」
「あぁ、うん。お邪魔します」
ぼんやりしながら、今更の訪問を断る。
「本当、真理はそのままだな」
「えぇ?とりあえず、コーヒーにする?」
見えているコーヒーメーカーは、すぐにでも使えるのだろう。
「何でも良いよ。すぐに帰るんなら、飲まなくても良いし」
「えぇ、折角来たんだし、色々見たい」
「そっか」
素直にそう言った私に、康ちゃんはようやくほっとしたように笑った。
落としたコーヒーが漂う香りの中、リビング以外も見ていく。
「3LDK?」
「そうだな、正確には3.5LDK?だっけかな?」
「何?その0.5は?」
「何か、キッチン?だかリビングが少し広く出来ているらしい」
後ろから聞こえる声をBGMに、ワクワクしながら歩いて行く。
「そうなんだ?わぁ、お風呂も広い」
明るい。
そして、何かモデルルームとかみたいに、綺麗。
「脱衣場も、広いなぁ。明るくて驚く」
まだ、洗濯機はない。
でも、置けるスペースはちゃんとある。
何これ、すごいんだけど?
「綺麗だなぁ」
思わず呟く。
「そっか?」
康ちゃんは、後からついてくるのみで特に何かを説明することはない。
なので、勝手に引き出しや戸棚などを開けて行く。
「お部屋、3部屋もあるの?広すぎない?」
言いながら、呆れてしまう。
これじゃ、お掃除だけでも大変だ。
「掃除に時間がかかるなぁ」
「そうか?ハウスクリーニングとか入れれば良いじゃん?」
そんなものなの?
「何と言うか、康ちゃん、すごいね?」
「…他人事だな?」
康ちゃんの苦笑する顔。
え?他人事じゃないの?
何で?
まだ、何も入っていない空っぽの空間を3つ見る。
「ま、少し落ち着こうぜ?」
「うん」
落としたコーヒーを、2つのカップに入れる。
このカップは、シンプルな少しオフホワイトなペアカップのようだった。
「広いし、綺麗だし、何か別次元。良い物を見せていただきました。今後の参考にするね?ありがとう、康ちゃん」
私の言葉に、康ちゃんは「は?」と言った。
「…真理はさ、どういうつもりでここまで来たの?」
「どういう?っていっても、康ちゃんにくっついて来ただけだけど?」
何で?
だって、先に康ちゃんが言ったんだよね?
「…本当に、ごめん」
「え?何の謝罪?怖いんだけど」
「怖いって何だよ?」
康ちゃんの、少し拗ねたような口調。
「康ちゃんこそ、どうしたの?」
「どうしたって、何が?」
「急に、こんな所を紹介されても…」
言いながら、自分で思い出す。
自分で昨日聞いたんじゃん?
1人暮らしについて、康ちゃんは何て言っていたっけ?
この空間について、私はちゃんと聞かないといけない。
そう、ぼんやりと思っていた。
田中さんは、先週に自炊宣言をしたのでここにはいない。
女性は4人しかいないけれど、3人で社食に行こうか外に行こうかと言う話になった。
「たまには、パスタとか良いよね?」
如月さんの言葉に、うんと頷く。
「麺類ならお蕎麦とかうどんでも良いんじゃない?」
高田さんの言葉にも、うんと頷く。
「要さんは?」
え?私。
「何でも良いなぁ」
私の言葉に、如月さんと高田さんが顔を見合わせる。
「あぁ、そうね」
え?何?
「田中さんがいないと、こういうことになるのね」
どういうこと?
「ん?どうかした?」
私の言葉に、高田さんが笑う。
「私達、田中さんも含めて3人ね?主張があるじゃない?」
高田さんの言葉に、また頷く。
「何となくの方向だけ決めて、最後に要さんに委ねるみたいなね?この3ヶ月やってたよね?」
そうだった?
「今までは、如月さんと私で意見が分かれても田中さんがどちらかに賛成したり、更にもう1つの選択肢増やしたり、そこで最後に要さんが決める、みたいなさ?」
高田さんの表情には、本当に変化がない。
そんなことを思った。
「どうしたの?要さん?」
如月さんの言葉に、ハッとする。
「あ、ごめんなさい。高田さん、いつも通りで良かったなぁって…思っていた」
全然関係ないことを言う私。
如月さんは、高田さんを見て私を見る。
「そうね、確かに高田さんいつも通りじゃん」
昨日のことを、気にしている様子はない。
「…もうやめてよね。今日の午前中、少しやりにくかったけど、いつも通りにしたの。友成さんがいつも通りだったから…私だけが気にするのも悪いし…」
え?康ちゃん?
「そうなんだ?友成さん、大人~」
如月さんの言葉に、そうでしょうよ、と大きく頷く。
「高田さんが落ち込んでいないか、気にしているようだったし?」
私に確認する如月さん。
「そうね。でも、高田さんが、気にしていないのなら、良いんじゃないの?」
他人事のように返す。
「まぁ、私はね?それより、友成さんに悪かったなぁ、と…」
言いにくそうな高田さん。
それに頷く如月さん。
「あれは、高橋さんが結構ダメージ大きかったなじゃないの?」
「と、錦織君かな?」
思わず口にする。
如月さんが、やや遠い目をした。
「もう、良いじゃない?それよりも、今日のお昼よ。早くしないと時間なくなるし」
高田さんが、会話を切るように口にする。
「じゃあ、社食で良いんじゃないの?明日、麺類にすれば」
私の言葉に、2人も頷く。
「そうね、時間もないし」
「移動も、楽だし」
高田さん、如月さんとも効率重視だ。
今日は平和に社食で、お財布にも優しく、ね。
「じゃあ、A定かな?」
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「いや、B定でしょ?」
如月さんも。
行くとなったら、すぐに切り替えができるの羨ましいなぁ。
「定食、か」
思わず口にする。
「え?ダメなの?」
2人からの言葉に、ううんと首を振る。
そういう所は、すぐに一致するのに。
「違うよ。定食って、採算取れていないのに、社食はすごいなぁと思っただけ」
そう、この会社の社員食堂は、割といる従業員みんな(お財布)の強い味方だ。
定食はお肉中心のA定食と、お魚中心のB定食。
年配の人にも分かりやすい、ずっと続いているという昔からのメニュー。
どちらも、副菜や小さなデザート(主にフルーツ)まで付いている。
それなのに、350円という驚異の値段だ。
他にも、メニューは毎日少しずつ変化している。
月曜日は煮物が多いとか、火曜日は中華に特化しているとか、水曜日はといった風に…。
金曜日は、海軍のマネとかでカレーだ。
「今日は、水曜日だから丁度麺類じゃない?」
私の言葉に、高田さんと如月さんは、顔を見合わせる。
「もう、要さんは。私のおなかはすでにA定の予定になったの」
高田さんの真剣な顔。
「そうよ?もう、B定のお口になっているのに、どうして蒸し返すの?」
如月さんは、高田さんに合わせているのか、少しだけ口調が軽い。
「あぁ、そうだったの?ごめんなさい」
如月さんが、口を尖らせた高田さんをまぁまぁと宥める。
「これだもの、本当に要さんは、マイペースね」
言われても、確かにとしか思わない。
3人は会話が早い。
そこにいる私は、合わせるのがやっとだ。
でも、高田さんも如月さんも、勿論田中さんもそれで私を除け者にするようなことはない。
食券を購入し、そのままトレーを持ちながら食事を受け取る。
早い。
このサイクル、食券を購入している間にすでに準備をしているだからなのだろう。
2人は、安定のそれぞれの定食を受け取り、私は迷った挙句に今日の麺類からラーメンにした。
安いから。
ラーメンは、200円。
普通のラーメンだけど。
でも、乾麺じゃなくて生麵なのに。
「要さんの思考回路って、不思議よね?」
席に着くと、高田さんがそうぽつりと言う。
「何で?」
「私さ、昨日のことで…、何と言うか要さんも今日から別になるのかと、思っていたからさ」
ん?何で?
「友成さんとのことで、要さんに悪いかなって思っていて」
「何を?」
「その、友成さんに迷惑をかけたし、言い方が悪いけど…板挟みに、しちゃうんじゃないかって思っていたから」
高田さんが、言いにくそうに回りを気にしながらそう言う。
あぁ、まぁ。
回りにも社員さんはいるものね。
しかも、今年の新人はつるんでいるって、見られているものね。
「え?特に何とも思っていないけれど」
「大物よね」
如月さんの言葉に、やっぱり何で?と思う。
「昨日のさ?企画課でも、割とね?ほら、係長がさ大騒ぎだったし」
あぁ、高橋さんを可愛がっているっていう?
高橋さんは、どこまで社員にファンがいるのだろう?
愛想の良い、年下の先輩社員。
「折角、友成さんと高橋さんで幸せ便の話が出ていたのに、友成さんを下ろそうかって話になってさ」
「あぁ、ごめんなさい」
如月さんの言葉に、高田さんが俯く。
「違うのよ。それでも高橋さんが、もう友成さんで通すつもりで企画を立てているのなら、担当変更はおかしいって係長と口論になって」
「それで、錦織君が企画に入ろうとしていたって話でしょ?」
高田さんの言葉に、如月さんは声も小さく「そうね」と同意した。
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康ちゃんが高田さんへの不満を口にし、それを聞いた高橋さんが康ちゃんに食ってかかり、結果泣いてしまった。
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でしょ?
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高田さんの言葉にこくりと頷く。
「その、私とこうやって過ごしているけれど、友成さんの評判を落とすようなことになった原因だし」
「そうなの?私はそうは思っていないけれど?」
昨日も言ったし。
「それは、結果論でしょ?…友成さんの評価が下がっても、私の中の好感度って特に落ちることはないし。かと言って、それで高田さんに思うことも、特にないというのが妥当じゃない?それに、もし信頼がなくなったのなら、それこそ高橋さんとの関係や、高田さんとの関係で今後の評価に繋がると思うから、第三者の私が言うことは何もないかな?」
それこそ、彼女でもないくせに。
「え?何かおかしい?」
私の言葉に、如月さんも高田さんも「おかしくはない」と言った。
「錦織君と要さんって、本当に芯があるなぁ」
如月さんの言葉に、そうかな?と思う。
「まぁ、これからもご一緒出来る時は、よろしくお願いします」
「え?やっぱり、これからは別ってこと?」
高田さんの言葉に、首を傾げる。
「だって、企画課も、広報課もこれから忙しくなるんでしょ?」
「企画は、時間内でどうにかなるものだけど?」
如月さんが伺うように、高田さんを見る。
「こっちだって、別に…。記念誌の方は、まぁ順調だと思うわ。ちなみに、私の仕事は特に問題ないわ」
なら、別に良いのか?
忙しいのは、営業かな?
「田中さん、元気かな?」
思い出したまま口にする。
「いや、まだ2日」
「懐かしむの、早すぎだから。退社したようなテンションで言わないで」
高田さんに続き、如月さんの苦笑する表情。
こういう時の流れは、田中さんがいなくても同じなんだから。
「本当、高田さんと如月さんはそっくりね」
「マイペース!」
如月さんの言葉にもそう?と返答し、ラーメンを食べ始める。
社食での時間って、本当にのんびりするなぁ。
社内ということで焦る必要がないという気持ちになる。
食堂、大事だよね。
3人での時間も、変わらず進む。
そのまま別れ、総務課に戻る。
退勤まで、今日は他の課に行くことが多かった。
人事課に行くことは、本当にあまりない。
だけど、大量のコピー用紙が多く発注されたとのことで、お届けに行くことになった。
人事課で、大量のコピー用紙?
何に使うのだろう?
そう思っても、答えのないことに時間は割かない。
すぐに切り替えて退勤時間になった。
今日も、帰りは康ちゃんと一緒だった。
「真理、少しだけ時間あるか?」
急な確認。
「うん、良いけど何で?」
「もし?もし真理が住むのなら、どういうとこが良いかって話」
「何?急に?」
私の言葉に、康ちゃんはまた何とも言えない顔をした。
康ちゃんと連れ立って歩くのは、いつもと同じだ。
「真理は、何も分かってないな」
「…ごめんなさい」
「違うよ。謝ってほしいわけじゃない」
「うん」
でも、何だかおかしい。
着いて行くと、会社から歩いて10分ほどのマンションに着いた。
「近い」
驚きだ。
「だろ?それに、すごいのはこの中な?」
言われるまま、着いて行く。
「おかえりなさいませ、友成様」
コンシェルジュ?とでもいうのか、丁寧な仕草の女性が居た。
それよりも、今なんて?
おかえりなさいと、言わなかったかしら?
どういうこと?
混乱する私をよそに、康ちゃんは慣れたように足を進める。
高層階とは言わないけれど、エレベーターで中層階に到着する。
「少し前に、フルでリノベ済みだ」
「へぇ~」
キョロキョロしながら、康ちゃんに続く。
リノベーションしなくても、十分綺麗だと思うんだけど。
「康ちゃん?ここって、康ちゃんのお家?」
気になるけれど、そういうことなのだろうか?
「俺の家っていうか…。ま、上がろうぜ?」
康ちゃんは、並んでいるスリッパに履き替えた。
私もそれに続く。
リビングに行くと、シンプルな空間が出迎えてくれた。
広い空間に、L時型のソファとローテーブル。
テレビをかけるであろう壁には、何も置いていなかった。
すっきりとした空間は、康ちゃんを表しているようだった。
キッチンも、綺麗なアイランドキッチンに冷蔵庫。
「冷蔵庫の中身はないから、飲み物はコーヒーかペットボトルの水しかないけど」
「あぁ、うん。お邪魔します」
ぼんやりしながら、今更の訪問を断る。
「本当、真理はそのままだな」
「えぇ?とりあえず、コーヒーにする?」
見えているコーヒーメーカーは、すぐにでも使えるのだろう。
「何でも良いよ。すぐに帰るんなら、飲まなくても良いし」
「えぇ、折角来たんだし、色々見たい」
「そっか」
素直にそう言った私に、康ちゃんはようやくほっとしたように笑った。
落としたコーヒーが漂う香りの中、リビング以外も見ていく。
「3LDK?」
「そうだな、正確には3.5LDK?だっけかな?」
「何?その0.5は?」
「何か、キッチン?だかリビングが少し広く出来ているらしい」
後ろから聞こえる声をBGMに、ワクワクしながら歩いて行く。
「そうなんだ?わぁ、お風呂も広い」
明るい。
そして、何かモデルルームとかみたいに、綺麗。
「脱衣場も、広いなぁ。明るくて驚く」
まだ、洗濯機はない。
でも、置けるスペースはちゃんとある。
何これ、すごいんだけど?
「綺麗だなぁ」
思わず呟く。
「そっか?」
康ちゃんは、後からついてくるのみで特に何かを説明することはない。
なので、勝手に引き出しや戸棚などを開けて行く。
「お部屋、3部屋もあるの?広すぎない?」
言いながら、呆れてしまう。
これじゃ、お掃除だけでも大変だ。
「掃除に時間がかかるなぁ」
「そうか?ハウスクリーニングとか入れれば良いじゃん?」
そんなものなの?
「何と言うか、康ちゃん、すごいね?」
「…他人事だな?」
康ちゃんの苦笑する顔。
え?他人事じゃないの?
何で?
まだ、何も入っていない空っぽの空間を3つ見る。
「ま、少し落ち着こうぜ?」
「うん」
落としたコーヒーを、2つのカップに入れる。
このカップは、シンプルな少しオフホワイトなペアカップのようだった。
「広いし、綺麗だし、何か別次元。良い物を見せていただきました。今後の参考にするね?ありがとう、康ちゃん」
私の言葉に、康ちゃんは「は?」と言った。
「…真理はさ、どういうつもりでここまで来たの?」
「どういう?っていっても、康ちゃんにくっついて来ただけだけど?」
何で?
だって、先に康ちゃんが言ったんだよね?
「…本当に、ごめん」
「え?何の謝罪?怖いんだけど」
「怖いって何だよ?」
康ちゃんの、少し拗ねたような口調。
「康ちゃんこそ、どうしたの?」
「どうしたって、何が?」
「急に、こんな所を紹介されても…」
言いながら、自分で思い出す。
自分で昨日聞いたんじゃん?
1人暮らしについて、康ちゃんは何て言っていたっけ?
この空間について、私はちゃんと聞かないといけない。
そう、ぼんやりと思っていた。
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