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いつ?
そんな始まり
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「これもダメ」
鏡に映る、自分の姿。
「これもダメ」
じっと見入るが、納得しない。いや、納得できない。
「これもダメだ」
積みあがった、新品の服。
「これも、もーっ!」
自分の価値観を、甘やかしすぎた。厳しい現実。
「これも…」
イメージとは、何でこんなに美化されるのだろう。
見ている時は似合うはずなのに、いざ着てみると、こんなにもズレている。
「これも」
楽しいはずだった試着が、苦痛に変わっていく。
「これも…」
わくわくが、イライラへと姿を変える。
「何で、ダメかなぁ…」
「だって、全然趣味じゃないものを選ぶからじゃん?」
「さきちゃん!」
そこには、何とも言えない表情をした幼馴染がいた。
「何で、さきちゃんがいるの?」
似合っていないワンピースの裾を握り、問いかける。
「何で、最近そういうヒラヒラした服ばっかり買うようになったの?」
質問に質問で返され、返答に困る。
私の学習机から椅子を引っ張り、くるりと向きを変える。
背もたれを抱えるように座り、頭を乗せる部分に顎を乗せた。
「急に、女の子みたいじゃん」
「!」
顔が赤くなるのが、自分でも分かった。
「好きな奴でも出来た?」
「なっ!」
不機嫌そうな声に、慌てて否定するが、そんな私をさきちゃんはじっと見る。
「何で、そんな…」
ドキドキが増す。
このままでは、バレてしまう。
「だって、今までの稜子と違うから。そんな無理までして」
「別に、無理なんて…」
今までは、可愛さなんて考えていなかった。
ズボン最高、と日常の服に無頓着だった。
いつでも動きやすさ重視なんて、子どもかって気付いただけ。
でも、この間部活のみんなと買い物に行った時。
ママに、ほぼ無理やり着せられたワンピースが、友達から「可愛い」って言われたの。
その場にいたさきちゃんだって、「たまには良いじゃん?」って言ってくれた。
こんなので印象が変わるなら、『可愛く』なれるなら。
『意識してもらえる』のなら、変わりたいと思った。
「少しくらいなら、良いかなって思ったの」
「だから、何で急に?」
「急じゃ、ないよ」
そう、実は少し前から変わりたいと思っていた。
「いきなりじゃ…ないもん」
近くにあったパーカーを羽織り、ワンピースを隠すようにファスナーを閉める。
「誰?」
「え?」
「稜子の、好きな奴」
「…」
「クラスに、いる?」
こんな試着に失敗して、落ち込んでいるところまで見られて、暗に『似合ってない』とまで言われて、もうヤダ。
恥ずかしい。
「だって、さきちゃんだってこの間、『たまには良い』って言ってくれたじゃん」
さきちゃんはそれを思い出してか、気の抜けた溜め息をつく。
「あれは、別に」
「だから、変われるなら可愛くなりたいって」
もう、バレても仕方ない。
開き直って、一気に言ってしまえ。
「意識してもらえるなら、服を試すくらい良いかって思ったの」
「あー、まぁ…」
さきちゃんの言葉も、濁っている。
ドキドキが萎んでいく。
みっともない。
「でも、似合わないって分かったし、さきちゃんもそう思ったって知れたから、だからもう良いの」
積み上げた服を、クローゼットを全開にして収納していく。
急に可愛い服をねだった私に、パパもママも大喜びで買ってくれた。
1人娘に甘いんだから、溜め息をつきながらハンガーを取り出していく。
「稜子」
沈黙が痛い。
空気が重い。
カッコ悪い。
終わった。
「稜子?あのさ」
コンコン
「稜ちゃん?ちょっとお買い物頼まれてくれないかな?」
言いながらドアを開け、顔を覗かせたママ。
「あら、岬君いらっしゃい。稜子の部屋、散らかっていてごめんなさいね」
「こんにちは。お邪魔してます」
ちょうど良いと、片付けも中断してメモを受け取る。
「もう、さきちゃんも帰るし、買い物に行ってくるよ」
「そう?ありがとう。岬君、お母さんによろしく言っておいてね」
「はい」
パタン
再び沈黙。
「いつもの、稜子の服が1番似合うと思う」
「え?」
「たまには、可愛い服も良いけど、稜子は元気なイメージだから」
背を向けていたから気付かなかったけど、さきちゃんの顔が赤い。
「俺は、そっちの方が似合っていると思うし、か…可愛いと、思う」
早口の言葉を、頭の中で理解する。
私のドキドキが返ってくる。
「無理しないでさ、ヒラヒラした服だって、いつか似合うようになるんだし」
さきちゃんが言う早口の言葉たちが、私に熱を与えていく。
「いつかって…」
「そんなの、自然と着たくなるようになるんじゃん?」
たたみかけるように紡がれる言葉たち。
だから、それはいつなんだろう?
「俺が見たいって思うようになったら、とか?」
Starting Love Just Now?
鏡に映る、自分の姿。
「これもダメ」
じっと見入るが、納得しない。いや、納得できない。
「これもダメだ」
積みあがった、新品の服。
「これも、もーっ!」
自分の価値観を、甘やかしすぎた。厳しい現実。
「これも…」
イメージとは、何でこんなに美化されるのだろう。
見ている時は似合うはずなのに、いざ着てみると、こんなにもズレている。
「これも」
楽しいはずだった試着が、苦痛に変わっていく。
「これも…」
わくわくが、イライラへと姿を変える。
「何で、ダメかなぁ…」
「だって、全然趣味じゃないものを選ぶからじゃん?」
「さきちゃん!」
そこには、何とも言えない表情をした幼馴染がいた。
「何で、さきちゃんがいるの?」
似合っていないワンピースの裾を握り、問いかける。
「何で、最近そういうヒラヒラした服ばっかり買うようになったの?」
質問に質問で返され、返答に困る。
私の学習机から椅子を引っ張り、くるりと向きを変える。
背もたれを抱えるように座り、頭を乗せる部分に顎を乗せた。
「急に、女の子みたいじゃん」
「!」
顔が赤くなるのが、自分でも分かった。
「好きな奴でも出来た?」
「なっ!」
不機嫌そうな声に、慌てて否定するが、そんな私をさきちゃんはじっと見る。
「何で、そんな…」
ドキドキが増す。
このままでは、バレてしまう。
「だって、今までの稜子と違うから。そんな無理までして」
「別に、無理なんて…」
今までは、可愛さなんて考えていなかった。
ズボン最高、と日常の服に無頓着だった。
いつでも動きやすさ重視なんて、子どもかって気付いただけ。
でも、この間部活のみんなと買い物に行った時。
ママに、ほぼ無理やり着せられたワンピースが、友達から「可愛い」って言われたの。
その場にいたさきちゃんだって、「たまには良いじゃん?」って言ってくれた。
こんなので印象が変わるなら、『可愛く』なれるなら。
『意識してもらえる』のなら、変わりたいと思った。
「少しくらいなら、良いかなって思ったの」
「だから、何で急に?」
「急じゃ、ないよ」
そう、実は少し前から変わりたいと思っていた。
「いきなりじゃ…ないもん」
近くにあったパーカーを羽織り、ワンピースを隠すようにファスナーを閉める。
「誰?」
「え?」
「稜子の、好きな奴」
「…」
「クラスに、いる?」
こんな試着に失敗して、落ち込んでいるところまで見られて、暗に『似合ってない』とまで言われて、もうヤダ。
恥ずかしい。
「だって、さきちゃんだってこの間、『たまには良い』って言ってくれたじゃん」
さきちゃんはそれを思い出してか、気の抜けた溜め息をつく。
「あれは、別に」
「だから、変われるなら可愛くなりたいって」
もう、バレても仕方ない。
開き直って、一気に言ってしまえ。
「意識してもらえるなら、服を試すくらい良いかって思ったの」
「あー、まぁ…」
さきちゃんの言葉も、濁っている。
ドキドキが萎んでいく。
みっともない。
「でも、似合わないって分かったし、さきちゃんもそう思ったって知れたから、だからもう良いの」
積み上げた服を、クローゼットを全開にして収納していく。
急に可愛い服をねだった私に、パパもママも大喜びで買ってくれた。
1人娘に甘いんだから、溜め息をつきながらハンガーを取り出していく。
「稜子」
沈黙が痛い。
空気が重い。
カッコ悪い。
終わった。
「稜子?あのさ」
コンコン
「稜ちゃん?ちょっとお買い物頼まれてくれないかな?」
言いながらドアを開け、顔を覗かせたママ。
「あら、岬君いらっしゃい。稜子の部屋、散らかっていてごめんなさいね」
「こんにちは。お邪魔してます」
ちょうど良いと、片付けも中断してメモを受け取る。
「もう、さきちゃんも帰るし、買い物に行ってくるよ」
「そう?ありがとう。岬君、お母さんによろしく言っておいてね」
「はい」
パタン
再び沈黙。
「いつもの、稜子の服が1番似合うと思う」
「え?」
「たまには、可愛い服も良いけど、稜子は元気なイメージだから」
背を向けていたから気付かなかったけど、さきちゃんの顔が赤い。
「俺は、そっちの方が似合っていると思うし、か…可愛いと、思う」
早口の言葉を、頭の中で理解する。
私のドキドキが返ってくる。
「無理しないでさ、ヒラヒラした服だって、いつか似合うようになるんだし」
さきちゃんが言う早口の言葉たちが、私に熱を与えていく。
「いつかって…」
「そんなの、自然と着たくなるようになるんじゃん?」
たたみかけるように紡がれる言葉たち。
だから、それはいつなんだろう?
「俺が見たいって思うようになったら、とか?」
Starting Love Just Now?
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