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2章
困ったなぁ
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「みーちゃん…苦しいよ…」
「ごめん!痛かったよね?嬉しすぎて、のんちゃんから大好きなんて言われたら、そりゃこうなっちゃうよ!ぼくも大好き!のんちゃんが大好きすぎる!日本一、いや世界一、いやいや宇宙一大好き。可愛いのんちゃん!」
体はくるまれたままだ。
「はぁー、久々に会えてこれだもんなぁ。すごく嬉しい」
私としては、当たり前?のことを言っていただけで、そこまで喜んでくれるとは思わなかった。
「そ、そう?私も、嬉しいよ」
みーちゃんの喜び方に、自分でもビックリしてしまった。
「みーちゃん?あのね、あの…私のお友達も、紹介して良い…かな?」
「勿論良いよ!嬉しすぎて、話が全然入らない可能性はあるけど、良いよ」
みーちゃんの腕が緩み、ほっとする。
「ようやく会えたんだよ!興奮もするよ。去年からすごい時間が空いちゃって、とっても寂しかったんだから」
ここのところ毎日会っていたのに?
みーちゃんの言葉は不思議だ。
「会うのは…」
返そうと思った言葉は、途中で止まる。
みーちゃんは私の顔をじっと見ている。
それは、確かにそうだった。
でも、私は見えていなかった。
だからなのかな?
「そうだね、久しぶり。みーちゃん」
気が付いたら、私もそう返事をしていた。
「うん、何度でも言うよ。久しぶりに会えて、とっても嬉しいよ!可愛いのんちゃん」
「わ、私も会えて嬉しい、よ」
みーちゃんの言葉を繰り返す。
抱き締めている腕に力が入る。
「こんな記念日に他のことは何も頭に入らないよ」
ぎゅっという音が聞こえそうな程、体を抱き締められる。
「えぇ!?」
更に驚く私。
みーちゃんのことを紹介したから、次に3人のことを言おうと思っていたのに。
あれ?と思っている内に、体が浮いた。
みーちゃんは私を抱えたまま、玄関を歩き出した。
「みーちゃん!」
「どうしたの?ぼくのお姫様?」
みーちゃんは止まって何でもないことのように、聞き返すけれど私はどう言ったら良いのか困ってしまう。
「あのね、あの…私の、お友達を…」
「あー、うんうん。聞くから適当に教えて」
みーちゃんの機嫌の良さそうな声に、何とも言えない気持ちになる。
大事な3人を、同じく大事に思っているみーちゃんに知ってほしいのに。
適当に聞いてもらうことじゃないのに。
何だか言い出せずに、後ろにいる3人を覗くように首を伸ばす。
「あ、あの!ごめんなさい!」
少しだけ見えたのは、高杉君だけだった。
でも、表情までは見えない。
身を乗り出した私をよそに、みーちゃんは変わらない。
「ほらほらのんちゃん、落ちちゃうからさ」
みーちゃんは、やっぱり何でもないことのようにそう言った。
このまま帰ってしまうの?
戸惑う私を別に、また歩き出しどんどん3人から離れていく。
このままじゃ、中途半端にお別れになってしまう。
焦りながら、もっと身を乗り出す。
「ま、また明日!あの、さようなら」
今日は私からそう挨拶をした。
「春川また明日な!」
乃田さんの大きな声が聞こえてホッとする。
怒っているわけではなさそうな声。
「気を付けてね」
少し大きめの布之さんの声も聞こえて安心する。
折角布之さんが、みーちゃんのことを紹介してほしいって言ってくれたのに。
高杉君の声は何も聞こえなかったけれど、気にしていないと良いな。
3人を置いて来てしまったことを気にしながら、機嫌の良いみーちゃんに複雑な気持ちになる。
だけど、みーちゃんだけがニコニコしているのを見ていると、何だかおかしいという気持ちになる。
「…もう!みーちゃんは!」
すでに玄関を出て外を歩いているけれど、あまり暑さは感じない。
風が出ているからだろう。
「ほらほらのんちゃん、プリプリすると落ちちゃうよ。今日も一緒の下校が出来て嬉しいよ?ぼくの可愛いお姫様」
楽しそうなみーちゃんの声に、3人のことを聞いてくれなかったことについて触れようと思っていた気持ちが躊躇われる。
私だけが気にしていないような空間。
「ん?どうしたの?ぼくの大事な大事なお姫様」
機嫌が良さそうなみーちゃんは、私の頭に顔を寄せる。
「今日も髪の毛がサラサラだ。天使の輪が出来てる」
「天使…?」
聞いたばかりの言葉が耳に残る。
私の中の天使は、楽器を吹きながらあちこちふわふわしているイメージだ。
「天使って、何かのんきそうだね」
「のんちゃんの中ではそうなるんだ」
近い距離で、みーちゃんに視線を合わされ「ん?」と首を傾げる。
「違うの?」
「全然。ぼくの中では天使って言えば、純真無垢、純粋、高潔、何て言うかまっさら?なイメージ」
「…まっさら?」
「そう!まるで新雪みたいな、さ?雪が降って世界が一面真っ白になって、音のない静かな空間で、そこには踏み込んじゃいけないんじゃないかって思うような、ね?」
新雪。
この地域はあまり雪は降らない。
降っても数年に1回くらい。
小さい時に、外の世界が真っ白になった記憶がある。
嬉しくて、外でたくさん遊んだ。
写真で見たことや、みーちゃんや智ちゃんから聞いた記憶が自分の物となっている可能性はある。
だけど、一緒に遊んだことがとても楽しかったのは本当だ。
「私は、たくさん足跡を付けたいなぁって思っちゃう」
「ほら天使」
「何で?」
「良いの良いの。のんちゃんは、そのままでいて」
私の頭に自分のおでこを擦るようにそう言ったみーちゃん。
「ぼくの中で、のんちゃんのイメージはいくらでも出てくるよ」
「イメージ?」
「そう、天使でお姫様。妖精でお嬢様。女神で王女様、みたいな?」
「馬鹿にしてる?」
「してないしてない!何でのんちゃんは、ぼくの言葉を疑うの?」
みーちゃんの嬉しそうな問いかけ。
そして満面の笑顔。
既視感のある顔に、ハッとする。
「みーちゃんが、意地悪する時の顔」
といっても、私が喋りたいのに、『それで?それで?』って楽しそうに喋らせてくれなかったり、私が大事にしているお人形を持って行ってしまって『ぼくと遊んだほうが楽しいでしょ?』って遊ばせてくれなかったり、そういう時の表情だったけれど。
「だって、みーちゃんが話を聞いてくれないんだもん」
「はぁー、可愛いすぎ。これだもん、のんちゃんとずっとお喋りしていたいって思っても仕方ないよね」
みーちゃんはずっと嬉しそうだ。
だけど、さっきの3人に対しての態度は、何だかモヤモヤする。
私にはいつでも優しいのに。
これじゃ、3人がみーちゃんに嫌な印象を持ってしまう。
私の自慢のお兄ちゃんなのに。
明日、3人にはきちんと説明しないと。
「のんちゃん?」
「…なぁに?」
「ぼくはね、のんちゃんのオトモダチに嫌われても全然気にしないよ?」
私の考えが分かることもすごいし、嫌われることも平気そうな様子に疑問が湧いてくる。
「何で?」
「のんちゃんからの感情しかいらないから」
「…どうして?」
「必要ないでしょ?」
そうなの?
そんなことないよね。
みーちゃんの極端な言葉に、困ってしまう。
「みーちゃん、そんな残念そうな顔しないで?」
「…そう見える?」
「うん、『ガッカリ』って顔に書いてあるよ」
「嘘」
「ほんと」
そう言いながらみーちゃんは、にこりと笑う。
「また意地悪してる?」
「ありゃ、バレたか。でもさ、意地悪じゃないよ?今のぼくは、何があってものんちゃんとしか触れたくないって思うのは仕方ないと思って!」
みーちゃんの言葉に首を傾げる。
「何で?」
「だって、1年ぶりだよ!?1年ものんちゃんに会えなかった!1年!長いでしょ?そりゃ、足りなかったのんちゃんを補給したいと思うのは当然でしょ?智君から話は聞いていたけど、情報を知るのと実際に見るのは全く違うんだからね!」
昨日までの優しい声とは違って、早口のみーちゃん。
「のんちゃんのことを見たくて、のんちゃんとお喋りしたくて、こんなに毎日お迎えに来てるのに」
「…1年」
みーちゃんのしみじみとした言い方に、思わず呟く。
「長すぎだよね。本当は入学してからにしようと思ってたんだけど、タイミングが合わなくてさ…。智君からのスケジュールと、ぼくの日程とかさ。それに、のんちゃんが怪我をすることが増えたって聞いて、結果的に大怪我をしちゃってさ。そんな時に無理に会いに来て、のんちゃんの状態を悪化させても良くないしさ…」
みーちゃんが考えて会いに来てくれたことに嬉しくなる。
私も会いたかった。
去年は、少しだけ緊張した記憶がある。
みーちゃんは、智ちゃんと渋々会いに来ていた、と思う。
私に会いたくないのかと思ってドキドキしたら、急に泣きそうな顔になって。
弱く抱き締められた。
『かなり無理しないと、希望の大学に入れないから…今日から合格するまで、のんちゃんとは…会えない』
そう、苦しそうに言っていた。
…泣いていた、と思うと私も苦しくなってしまって言葉が出てこなかった。
私が上手に話せなくて、みーちゃんとしか言えなくて。
みーちゃんがぎゅうぎゅうと抱き締めてくるのを、ぼんやりと感じていた。
今まで、1年も会えなくなることなんてなかった。
智ちゃんがお迎えに来てくれてお出かけする日、合流先には必ずみーちゃんがいたから。
3人で過ごすことが当たり前すぎて、すごく不思議だったのを思い出す。
この1年間は、智ちゃんと2人でのお出かけだった。
勿論お外に行けることも嬉しいし、智ちゃんと過ごせることも嬉しかった。
だけど、いないみーちゃんを探してしまう癖は残ってしまった。
その中でも、智ちゃんが教えてくれるみーちゃんのお話は嬉しかったのを思い出す。
お出かけの中で、やっぱり違和感を感じながら過ごした記憶。
それでも、智ちゃんが『励みになるから』と智ちゃんにビデオレター?というものをたくさん撮ってもらった。
ありきたりな、『無理しすぎないで、お勉強頑張ってね』とか、『私も早く会いたい』なんて言葉しか言えなくて。
だけど、智ちゃんの『湊が喜んでいた』と聞くと私も嬉しくなって。
お勉強の効果があるというお守りとか、夜食に良いという軽食をお母さんと作って智ちゃんに届けてもらったり。
「のんちゃん?」
みーちゃんの声に、ハッとする。
「何を思い出してたの?今はぼくが目の前にいるでしょ?ぼくを見て、ぼくのことだけ考えて」
「考えてる…よ?というか、みーちゃんのことを考えていたの」
私の返答に、みーちゃんはにっこりと笑った。
「ほんとのほんとに、両想い。嬉しい」
みーちゃんにまた隙間がなくなるほどぎゅっとされて、笑ってしまう。
「何でこんなに可愛いの?何でこんなに好きにさせるの?本当にずっとずっと会いたかった」
しみじみと言うみーちゃんの言葉。
「私も、ずっと…会いたかったよ。去年から…」
「わ!嬉しい。明日、絶対智君にも言ってやって。絶対だからね!」
「智ちゃん?何で?」
「ぼくとのんちゃんが両想いだって言っても、智君信じてくれないから!のんちゃん絶対の絶対だよ」
「明日?うん、智ちゃんにも言う、ね?」
みーちゃんの言葉に、明日おじいちゃんの家には智ちゃんも来てくれるんだと楽しみになった。
「やったー!」
本当に嬉しそうに喜んでくれる表情に、私なんかが会いたいって言うくらいなら簡単だと思った。
いつでも、私のことを好きでいてくれるみーちゃんに嬉しいと同時に私も好きだなぁとしみじみ感じた。
「明日、下校前にまた玄関の外にいるからね」
「でも、そんなに毎日毎日来てもらうのも悪いし、明日は荷物もあるし…」
お泊まりの荷物はもう準備してある。
「大丈夫!何も心配いらないよ」
「え、でも…」
「大丈夫!」
みーちゃんの力強い言葉に、これ以上言っても仕方ないのかと素直に頷く。
「のんちゃんが心配することは、本当に何もないよ?そんなことよりも、久しぶりのお出かけを楽しみにしていて!」
「…うん、ありがとうみーちゃん」
みーちゃんが大丈夫と言うのなら、きっと大丈夫なのだろう。
時々意地悪なことを言うことはあるけれど、結果的にいつも優しい私のお兄ちゃんだから。
みーちゃんに抱えられながら、違う話をしていてあっという間に家に着いてしまった。
3人のことをきちんと紹介出来なかったことに、後悔はあるけれどまだ明日もあるし。
そう言い聞かせて、みーちゃんと別れる。
みーちゃんは、今日も家には寄ってくれなかった。
そのことに寂しさを感じながら、手を振って別れた。
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数話抜けていることに気付き、今まで公開したものを非公開にしています。
すみません。
繋がるように修正中です。
「ごめん!痛かったよね?嬉しすぎて、のんちゃんから大好きなんて言われたら、そりゃこうなっちゃうよ!ぼくも大好き!のんちゃんが大好きすぎる!日本一、いや世界一、いやいや宇宙一大好き。可愛いのんちゃん!」
体はくるまれたままだ。
「はぁー、久々に会えてこれだもんなぁ。すごく嬉しい」
私としては、当たり前?のことを言っていただけで、そこまで喜んでくれるとは思わなかった。
「そ、そう?私も、嬉しいよ」
みーちゃんの喜び方に、自分でもビックリしてしまった。
「みーちゃん?あのね、あの…私のお友達も、紹介して良い…かな?」
「勿論良いよ!嬉しすぎて、話が全然入らない可能性はあるけど、良いよ」
みーちゃんの腕が緩み、ほっとする。
「ようやく会えたんだよ!興奮もするよ。去年からすごい時間が空いちゃって、とっても寂しかったんだから」
ここのところ毎日会っていたのに?
みーちゃんの言葉は不思議だ。
「会うのは…」
返そうと思った言葉は、途中で止まる。
みーちゃんは私の顔をじっと見ている。
それは、確かにそうだった。
でも、私は見えていなかった。
だからなのかな?
「そうだね、久しぶり。みーちゃん」
気が付いたら、私もそう返事をしていた。
「うん、何度でも言うよ。久しぶりに会えて、とっても嬉しいよ!可愛いのんちゃん」
「わ、私も会えて嬉しい、よ」
みーちゃんの言葉を繰り返す。
抱き締めている腕に力が入る。
「こんな記念日に他のことは何も頭に入らないよ」
ぎゅっという音が聞こえそうな程、体を抱き締められる。
「えぇ!?」
更に驚く私。
みーちゃんのことを紹介したから、次に3人のことを言おうと思っていたのに。
あれ?と思っている内に、体が浮いた。
みーちゃんは私を抱えたまま、玄関を歩き出した。
「みーちゃん!」
「どうしたの?ぼくのお姫様?」
みーちゃんは止まって何でもないことのように、聞き返すけれど私はどう言ったら良いのか困ってしまう。
「あのね、あの…私の、お友達を…」
「あー、うんうん。聞くから適当に教えて」
みーちゃんの機嫌の良さそうな声に、何とも言えない気持ちになる。
大事な3人を、同じく大事に思っているみーちゃんに知ってほしいのに。
適当に聞いてもらうことじゃないのに。
何だか言い出せずに、後ろにいる3人を覗くように首を伸ばす。
「あ、あの!ごめんなさい!」
少しだけ見えたのは、高杉君だけだった。
でも、表情までは見えない。
身を乗り出した私をよそに、みーちゃんは変わらない。
「ほらほらのんちゃん、落ちちゃうからさ」
みーちゃんは、やっぱり何でもないことのようにそう言った。
このまま帰ってしまうの?
戸惑う私を別に、また歩き出しどんどん3人から離れていく。
このままじゃ、中途半端にお別れになってしまう。
焦りながら、もっと身を乗り出す。
「ま、また明日!あの、さようなら」
今日は私からそう挨拶をした。
「春川また明日な!」
乃田さんの大きな声が聞こえてホッとする。
怒っているわけではなさそうな声。
「気を付けてね」
少し大きめの布之さんの声も聞こえて安心する。
折角布之さんが、みーちゃんのことを紹介してほしいって言ってくれたのに。
高杉君の声は何も聞こえなかったけれど、気にしていないと良いな。
3人を置いて来てしまったことを気にしながら、機嫌の良いみーちゃんに複雑な気持ちになる。
だけど、みーちゃんだけがニコニコしているのを見ていると、何だかおかしいという気持ちになる。
「…もう!みーちゃんは!」
すでに玄関を出て外を歩いているけれど、あまり暑さは感じない。
風が出ているからだろう。
「ほらほらのんちゃん、プリプリすると落ちちゃうよ。今日も一緒の下校が出来て嬉しいよ?ぼくの可愛いお姫様」
楽しそうなみーちゃんの声に、3人のことを聞いてくれなかったことについて触れようと思っていた気持ちが躊躇われる。
私だけが気にしていないような空間。
「ん?どうしたの?ぼくの大事な大事なお姫様」
機嫌が良さそうなみーちゃんは、私の頭に顔を寄せる。
「今日も髪の毛がサラサラだ。天使の輪が出来てる」
「天使…?」
聞いたばかりの言葉が耳に残る。
私の中の天使は、楽器を吹きながらあちこちふわふわしているイメージだ。
「天使って、何かのんきそうだね」
「のんちゃんの中ではそうなるんだ」
近い距離で、みーちゃんに視線を合わされ「ん?」と首を傾げる。
「違うの?」
「全然。ぼくの中では天使って言えば、純真無垢、純粋、高潔、何て言うかまっさら?なイメージ」
「…まっさら?」
「そう!まるで新雪みたいな、さ?雪が降って世界が一面真っ白になって、音のない静かな空間で、そこには踏み込んじゃいけないんじゃないかって思うような、ね?」
新雪。
この地域はあまり雪は降らない。
降っても数年に1回くらい。
小さい時に、外の世界が真っ白になった記憶がある。
嬉しくて、外でたくさん遊んだ。
写真で見たことや、みーちゃんや智ちゃんから聞いた記憶が自分の物となっている可能性はある。
だけど、一緒に遊んだことがとても楽しかったのは本当だ。
「私は、たくさん足跡を付けたいなぁって思っちゃう」
「ほら天使」
「何で?」
「良いの良いの。のんちゃんは、そのままでいて」
私の頭に自分のおでこを擦るようにそう言ったみーちゃん。
「ぼくの中で、のんちゃんのイメージはいくらでも出てくるよ」
「イメージ?」
「そう、天使でお姫様。妖精でお嬢様。女神で王女様、みたいな?」
「馬鹿にしてる?」
「してないしてない!何でのんちゃんは、ぼくの言葉を疑うの?」
みーちゃんの嬉しそうな問いかけ。
そして満面の笑顔。
既視感のある顔に、ハッとする。
「みーちゃんが、意地悪する時の顔」
といっても、私が喋りたいのに、『それで?それで?』って楽しそうに喋らせてくれなかったり、私が大事にしているお人形を持って行ってしまって『ぼくと遊んだほうが楽しいでしょ?』って遊ばせてくれなかったり、そういう時の表情だったけれど。
「だって、みーちゃんが話を聞いてくれないんだもん」
「はぁー、可愛いすぎ。これだもん、のんちゃんとずっとお喋りしていたいって思っても仕方ないよね」
みーちゃんはずっと嬉しそうだ。
だけど、さっきの3人に対しての態度は、何だかモヤモヤする。
私にはいつでも優しいのに。
これじゃ、3人がみーちゃんに嫌な印象を持ってしまう。
私の自慢のお兄ちゃんなのに。
明日、3人にはきちんと説明しないと。
「のんちゃん?」
「…なぁに?」
「ぼくはね、のんちゃんのオトモダチに嫌われても全然気にしないよ?」
私の考えが分かることもすごいし、嫌われることも平気そうな様子に疑問が湧いてくる。
「何で?」
「のんちゃんからの感情しかいらないから」
「…どうして?」
「必要ないでしょ?」
そうなの?
そんなことないよね。
みーちゃんの極端な言葉に、困ってしまう。
「みーちゃん、そんな残念そうな顔しないで?」
「…そう見える?」
「うん、『ガッカリ』って顔に書いてあるよ」
「嘘」
「ほんと」
そう言いながらみーちゃんは、にこりと笑う。
「また意地悪してる?」
「ありゃ、バレたか。でもさ、意地悪じゃないよ?今のぼくは、何があってものんちゃんとしか触れたくないって思うのは仕方ないと思って!」
みーちゃんの言葉に首を傾げる。
「何で?」
「だって、1年ぶりだよ!?1年ものんちゃんに会えなかった!1年!長いでしょ?そりゃ、足りなかったのんちゃんを補給したいと思うのは当然でしょ?智君から話は聞いていたけど、情報を知るのと実際に見るのは全く違うんだからね!」
昨日までの優しい声とは違って、早口のみーちゃん。
「のんちゃんのことを見たくて、のんちゃんとお喋りしたくて、こんなに毎日お迎えに来てるのに」
「…1年」
みーちゃんのしみじみとした言い方に、思わず呟く。
「長すぎだよね。本当は入学してからにしようと思ってたんだけど、タイミングが合わなくてさ…。智君からのスケジュールと、ぼくの日程とかさ。それに、のんちゃんが怪我をすることが増えたって聞いて、結果的に大怪我をしちゃってさ。そんな時に無理に会いに来て、のんちゃんの状態を悪化させても良くないしさ…」
みーちゃんが考えて会いに来てくれたことに嬉しくなる。
私も会いたかった。
去年は、少しだけ緊張した記憶がある。
みーちゃんは、智ちゃんと渋々会いに来ていた、と思う。
私に会いたくないのかと思ってドキドキしたら、急に泣きそうな顔になって。
弱く抱き締められた。
『かなり無理しないと、希望の大学に入れないから…今日から合格するまで、のんちゃんとは…会えない』
そう、苦しそうに言っていた。
…泣いていた、と思うと私も苦しくなってしまって言葉が出てこなかった。
私が上手に話せなくて、みーちゃんとしか言えなくて。
みーちゃんがぎゅうぎゅうと抱き締めてくるのを、ぼんやりと感じていた。
今まで、1年も会えなくなることなんてなかった。
智ちゃんがお迎えに来てくれてお出かけする日、合流先には必ずみーちゃんがいたから。
3人で過ごすことが当たり前すぎて、すごく不思議だったのを思い出す。
この1年間は、智ちゃんと2人でのお出かけだった。
勿論お外に行けることも嬉しいし、智ちゃんと過ごせることも嬉しかった。
だけど、いないみーちゃんを探してしまう癖は残ってしまった。
その中でも、智ちゃんが教えてくれるみーちゃんのお話は嬉しかったのを思い出す。
お出かけの中で、やっぱり違和感を感じながら過ごした記憶。
それでも、智ちゃんが『励みになるから』と智ちゃんにビデオレター?というものをたくさん撮ってもらった。
ありきたりな、『無理しすぎないで、お勉強頑張ってね』とか、『私も早く会いたい』なんて言葉しか言えなくて。
だけど、智ちゃんの『湊が喜んでいた』と聞くと私も嬉しくなって。
お勉強の効果があるというお守りとか、夜食に良いという軽食をお母さんと作って智ちゃんに届けてもらったり。
「のんちゃん?」
みーちゃんの声に、ハッとする。
「何を思い出してたの?今はぼくが目の前にいるでしょ?ぼくを見て、ぼくのことだけ考えて」
「考えてる…よ?というか、みーちゃんのことを考えていたの」
私の返答に、みーちゃんはにっこりと笑った。
「ほんとのほんとに、両想い。嬉しい」
みーちゃんにまた隙間がなくなるほどぎゅっとされて、笑ってしまう。
「何でこんなに可愛いの?何でこんなに好きにさせるの?本当にずっとずっと会いたかった」
しみじみと言うみーちゃんの言葉。
「私も、ずっと…会いたかったよ。去年から…」
「わ!嬉しい。明日、絶対智君にも言ってやって。絶対だからね!」
「智ちゃん?何で?」
「ぼくとのんちゃんが両想いだって言っても、智君信じてくれないから!のんちゃん絶対の絶対だよ」
「明日?うん、智ちゃんにも言う、ね?」
みーちゃんの言葉に、明日おじいちゃんの家には智ちゃんも来てくれるんだと楽しみになった。
「やったー!」
本当に嬉しそうに喜んでくれる表情に、私なんかが会いたいって言うくらいなら簡単だと思った。
いつでも、私のことを好きでいてくれるみーちゃんに嬉しいと同時に私も好きだなぁとしみじみ感じた。
「明日、下校前にまた玄関の外にいるからね」
「でも、そんなに毎日毎日来てもらうのも悪いし、明日は荷物もあるし…」
お泊まりの荷物はもう準備してある。
「大丈夫!何も心配いらないよ」
「え、でも…」
「大丈夫!」
みーちゃんの力強い言葉に、これ以上言っても仕方ないのかと素直に頷く。
「のんちゃんが心配することは、本当に何もないよ?そんなことよりも、久しぶりのお出かけを楽しみにしていて!」
「…うん、ありがとうみーちゃん」
みーちゃんが大丈夫と言うのなら、きっと大丈夫なのだろう。
時々意地悪なことを言うことはあるけれど、結果的にいつも優しい私のお兄ちゃんだから。
みーちゃんに抱えられながら、違う話をしていてあっという間に家に着いてしまった。
3人のことをきちんと紹介出来なかったことに、後悔はあるけれどまだ明日もあるし。
そう言い聞かせて、みーちゃんと別れる。
みーちゃんは、今日も家には寄ってくれなかった。
そのことに寂しさを感じながら、手を振って別れた。
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