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その後、と他の話
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ゆっくりと階段を降りて、1階に行く。
階段の途中で、リビングから話し声なのか時々笑い声も聞こえて来た。
楽しそうな雰囲気に、少しホッとした自分がいた。
「お待たせ、しました…」
ノックするのも変だと思い、静かに部屋に入る。
話し声がピタリと止む。
間違えてしまったのかもしれない。
急な静寂に、不安になる。
「春川、さやかちゃんって足早いんだって?」
「そんなこと言ってないでしょ?おねえに変なこと言わないで!」
「あら、春川に知られたら嫌なのかしら?」
「そんなことも言ってない!余計なことを言わないでよね」
乃田さんと布之さんが、さやかに止められていた。
「だって、これからも来るのなら、きちんとさやかちゃんのことを知っておかないと」
布之さんの声は、少しだけ楽しそうに聞こえた。
「もう!話が通じない!何でこんな人たちと一緒にいるの!?おねえ?」
「え?」
さやかの急な問いかけに、言葉が止まる。
「まぁまぁ、さやかはのぞみと宿題でもしていてちょうだい?」
お母さんの言葉に、さやかの「そうする!」という元気な声が返って来た。
「あ、宿題、まだやっていなかったんだ?」
私の言葉で、お母さんが笑っている。
「置いていかれたから、もう拗ねちゃって拗ねちゃって。大変だったのよ?絶対にのぞみと一緒にしかやらないって」
「お母さん!お母さんまで余計なこと言わないで良いから!早くこの人達送るんでしょ?」
「こら、さやか」
お母さんの言葉に、さやかが「はぁい」と返事をした。
「おねえの友達、ね?」
お母さんの声は困っているようだったけれど、さやかの機嫌はそこまで悪くないと思った。
「じゃあ、また明日な」
乃田さんの言葉に、素直に頷く。
「また、明日」
また明日、学校で会えると思うから。
「学校でね?」
布之さんの言葉にも、ゆっくりと頷く。
「うん…」
「お邪魔しました」
高杉君の言葉は、私というよりもお母さんに向かっていた。
でも、頷く。
見えていないから、分からないので、とりあえず頷いてしまった。
「また、来て…ください、ね」
私のぎこちない言葉。
ポツリと言ってしまった。。
また沈黙。
おかしいことを言ってしまったのだろう。
どうしようか戸惑ってしまう。
「嬉しいな、また来るから」
乃田さんの言葉が聞こえ、ホッとする。
「じゃあ、行きましょうか」
お母さんの声に、各々返事をしている。
そのまま話し声が遠ざかり、玄関が閉まる音がした。
「おねえ、宿題しよ?」
さやかの言葉にハッとする。
「そうだね」
「あーぁ!うるさかった」
さやかの声は、不機嫌ではなかった。
そのことにホッとしながらも、どこかぼんやりする私がいた。
さやかの話を聞きながら、明日からもみんなといられることを喜んでいる私が。
車の中では、下校時よりも更に絞った音量のラジオが流れていた。
「慌ただしくて、ごめんなさいね。わざわざ来てもらって、本当にありがとう」
咲の言葉が静かに紡がれる。
「いえ!とんでもないです。お邪魔出来て良かったです!」
あかりの声が車内に響く。
横に座るかすみは、少し苦笑したものの何も言わなかった。
咲はあかりの言葉に嬉しそうに笑った。
「遠慮しないで、これからも来てもらえたら、おばさんも嬉しいわ」
咲の言葉を、喜んだのはあかりのみではなかった。
「お母様、その言葉本気にして良いんですよね?」
「えぇ、布之さんも遠慮しないで、遊びに来てちょうだい」
「是非、お邪魔させてください」
「…のぞみが、乃田さんと布之さんと高杉君のことを、自分のことのように楽しそうに話していたから、会ってみたかったの。良かったわ…今日、一緒に過ごせて」
咲の言葉に、あかりもかすみも嬉しそうに、やや照れたようにお互いを見る。
「あの子、家のこと何か言っていたかしら?」
咲の言葉に、3人は横並びのまま顔を見合わせる。
「さやかちゃんのことを、助かるって…」
「そう?ごめんなさいね。お姉ちゃん子で、とても困っているの」
咲の苦笑に、3人もつられたように苦笑した。
「…後で、のぞみから聞くかもしれないけれど、家庭関係が複雑で、春川家は…」
咲が少し考えながら言う言葉に、あかりとかすみはお互いを見た。
「どういうことですか?」
顕檎のみが反応し、咲に聞き返す。
「乃田さんと布之さんは、少しだけ、知っているのかしらね?」
咲の言葉に、小学校が同じだったあかりとかすみは「はい」と返事をした。
「…さやかもそうだけれど、のぞみを好き過ぎる兄弟が多くて」
咲の言葉は、少しだけ困っている響きがあった。
溜め息をつくような呟きに、顕檎が首を傾げる。
「兄弟、ですか?」
「そうなの。あの子には、あと2人お兄さんがいてね。もう、社会人と言うか大人のお兄さん達がね」
咲の言葉は、遠くを想っているようだった。
「そんなに、離れているんですか?」
顕檎の声には、疑問が強く出ていた。
自分の母よりも若そうに見えた春川の母。
でも、春川よりも年上の兄がいると言ったら、話が別になる。
「…そうね。離れすぎ、かもしれないわ。でも、理由は簡単なの。…何故なら、私が後からお母さんになったから」
咲の言葉に、顕檎は返答がなく黙る。
「だから、高杉君にさっき“昔から頑固”なんて言ってしまったけれど、私が知っているのぞみは幼稚園からなの。ごめんなさいね、本当のことを言わずにいて…」
「いえ…」
どうにかそれだけを返答する。
「でも、その頃から頑固なのは、本当に変わっていないのよ?小さい頃から、意思は本当に強くて…」
笑う声に、顕檎は沈黙で応える。
「…さやかは、私の子。…だけど、のぞみは違うの」
顕檎は、さっき見た春川家での様子を思い出した。
違和感のない家族、それしか思い浮かばなかった。
「でも、私はすごくあの子のことを、大事に…本当の娘のように想っているわ」
「はい」
「…さやかと一緒に、自分の娘だと思っているの。ううん、娘だったら良いのに、っていつも思っている。思っていても、叶わないのに…ね」
呟く声に、“お母さん”の響きがあり、あかりとかすみもそれに頷く。
顕檎の頭の中で、家だけではなく車内での会話もふと思い出された。
あのやり取りは、のぞみもきちんと咲を母親だと思って接しているように見えた。
咲を信頼し、甘えながらもきちんと“母”として尊敬している。
そう、感じ取れた。
「これから先、のぞみと一緒に過ごしていると、きっと2人のお兄さん達と会うことになると思うの。あなた達のことを知って、2人が会いに行くかもしれないし…」
顕檎の中に、まだ見ぬ2人の兄が浮かぶ。
自分たちよりも年上の、兄がいるという事実。
「決して、悪い子達ではないの。…でも、みんなが困るようなことを、言うかもしれないし。…それが、少しだけ心配なの」
「はい」
顕檎の返事に、咲も頷くのみで会話を終わらせた。
「あの、これからも本当に春川に会いに来てもいいんですよね?」
あかりが話題を変えるように、咲に問いかける。
「えぇ。勿論よ」
「なら、余計私は春川の力になりたいんです。勿論、押しつけがましくはしたくないんですけど、何でも言ってくれるような関係に。それこそ、ケンカだってしたいし、もっと本音を言ってほしい、って。遠慮じゃなくて、今の春川は、おばさんのことをすごく好きだなっていうのは、私は見ていて感じたし。私のこともそうやって頼ってほしいのにって思ってるっていうか…」
あかりの言葉に、咲は少しだけ涙目になりながらも「ありがとう」とミラー越しに返事をする。
「お母様、無理をしているわけではないですよね?」
かすみの言葉に、咲は一瞬止まる。
「え、えぇ。何でかしら?」
「なら、良いんです。お母様も春川も無理をしていると、どこかで限界が来てしまうかな、ってすみません!お母様に偉そうに」
「良いのよ」
かすみの言葉にも、咲は笑って返事をした。
ポツポツと、でものぞみのことを中心に話をしていく。
すぐにあかりが指定した公民館に到着した。
「では、本当にありがとうございます!」
あかりが車から降り、元気良くお礼を言う。
「お母様、わざわざ送っていただいてありがとうございます」
かすみの言葉に、咲は「気にしないで」と返事をした。
「高杉君、本当に大丈夫?」
「はい、平気です。すぐの距離なので」
「そう、なら良いんだけど」
咲の言葉に、顕檎はしっかりとお辞儀する。
「では、また今度お邪魔します」
「えぇ、待っているわ」
咲の言葉に3人とも嬉しそうに各々の帰路に着く。
それを見送り、咲も家へと引き返す。
娘の友達としてとても楽しい出会いだったと、1人で帰る道を喜んでいる自分に咲は気付いた。
「おい、高杉。お前あまり春川に近付くなよ」
朝、早めに家を出たことで学校に無事に到着した顕檎は、急に話しかけて来たあかりに首を傾げる。
「何で?」
ろくな理由はなさそうだが、聞き返すこともなかっただろうに聞き返す。
「何でって、お前みたいに女子の人気がある奴が側にいたら、また誰かの反感くうか分からないし、そんなんであいつの精神状態が悪化したら良くないだろ?」
言われていることは理解できたが、乃田に言われるのはあまり納得がいかない。
いつかクラスメイトが春川に言いがかりをつけていたのは、新しい記憶だ。
でも、それは乃田には関係ない。
「何でそんなことを乃田に言われなくちゃいけないのか?全く意味が分からない」
あかりの勢いには反応せず、顕檎は淡々と返答する。
教室の中には、半分よりも少ないがクラスメイトは存在していた。
あかりは声を潜めながらも、席に着きながら顕檎を見る。
見られていることを意識しながらも、顕檎は視線を外した。
「お前、気軽な気持ちで春川に近付いたんじゃないだろうな?」
声を潜めてとんでもないことを言うあかりに、顕檎はやや呆れながらも口を開く。
「気軽な気持ちって何?」
「気軽は気軽だろ?あいつの気持ちが萎縮したら、また見えないままの期間が長くなるかもしれないだろ?嫌なんだよ、あいつが落ち込むのも、自分を責めるのも。あいつに、色のある世界を感じてほしいんだ。うちらとの時間を嬉しいって、楽しいって言ってくれる春川に、もっともっと喜んでほしいだろ?」
暗に、お前がいると邪魔だと言われた気分になり、顕檎は溜め息をつく。
「それこそ、乃田には関係ないだろ?」
「関係あるから言ってるんだろ!…と」
声が大きくなり、回りを気にするあかりに顕檎はくだらないと言わんばかりに止めていた手を動かす。
「お前のことを気になる奴とか、好きな奴に嫌がらせとか、嫌なことを言われて内側に閉じこもるあいつが想像できるから。だから、軽はずみにあいつにちょっかいなんか出すなよ?それに私の相手するのと、アイツの相手をするのじゃ、わけが違うからな。マジで面倒だからな!」
ドスをきかせた言葉に、高杉は思わず笑ってしまった。
「あら、何の話かしら?」
聞こえて来た声に、顕檎はともかくあかりはげんなりとした表情になった。
「おはよう」
とりあえず気にしないように挨拶をすると、かすみも変わりのない「おはよう」を口にした。
「なあに?春川のお気に入りだからって、少し良い気になっているんじゃないって話かしら」
顕檎は誰のことを言っているのかには触れずに、止めていた手を再び動かす。
「あら、聞こえているのに無視?」
「俺のことを差しているのか分からないから、返事をしていないだけだ」
自分では、春川のお気に入りだと言う気持ちは全くない。
去年、図書委員で一緒だった女の子。
それが全部だ。
中学校に入学して、同じ小学校だった女の子も、全員がもれなく“女子”になっていった。
自分も、きちんと“男子”になっていったと思う。
だけど春川はいつまでも“女の子”のままだった。
それが、第一印象だ。
乃田の言うことは、もっともだと思う。
自分にも、春川には安心して過ごしてほしいと常に思っている。
自分ができることなら、何でも手を貸すし、頼られたことなら全て叶えたいと思うくらいには、春川のことを大事に想っているということ。
しかし、当ののぞみがそこまでの過剰な支援を望んでいないという。
だから隣で過ごすことを選んだ。
今の所は、側にいることで様子を見ているだけのこと。
それに、のぞみ本人から側にいるなと言われるのと、乃田や布之から言われるのはわけが違う。
「鬱陶しいな」
つい口から出てしまった。
「あら、やはり私と高杉は袂を分かつということで良いのよね?」
いつもの、本気か冗談か分からない布之の言葉に、聞こえないフリをする。
「こっちだって、春川が言わなければお前なんか、一緒の仲間になんかするか!馬鹿高杉が!」
布之と違って、乃田はとても感情的だ。
すごく分かりやすいが、その時々で振り回されるこちらも同様に疲れる。
「本当に、鬱陶しい」
「お前はよ!」
「あかり、相手にするだけ無駄よ。そろそろ行きましょ」
布之が乃田に声をかけ、教室を出て行った。
時計をちらりと見て、自分も納得する。
春川が登校する時間になるのだろう。
それが分かる自分も、いつからこんなにお節介になったのか良く分からない。
いつから、こうやって彼女のことを考えるようになったのか。
頼りなさげな印象とは違い、意思も決意も固い。
それは、去年の委員会活動で十分伝わった。
自信がないくせに、譲らない頑固さは思わず笑ってしまうほど。
会話をしていても、どんな流れになるか分からない。
楽しんでいると思う関り。
ささやかな楽しみと、ささやかな幸せ。
彼女が隣にいることが、嬉しいんだと最近自覚した。
そう、これは間違いなく幸せだ。
去年はそうは思っていなかった。
ひどく自分を追い込む姿に、そんなに恐縮しなくても、と思う程度だった。
クラスも違うことで、委員会のみの時間しか春川を知ることはなかった。
大谷先生が自分のことをそれなりに評価してくれ、春川とセットにされていたことは何となく感じていた。
でも、それも義務のようなもので、仕方がないと思っていた。
だけど、いつからだろうか?
その小さなシルエットを目で探すようになったのは。
委員会にも、毎回いるわけではないその存在を。
何故か、人の目を引く存在だとは思っていた。
今年から同じクラスになって、少しでも交流ができればなんて思っていた。
それは見事に叶うわけで…。
彼女がいる所に、自分も混ざりたいと思うのはごく自然なことだった。
自分がしたことを、素直によろこんでくれる存在。
ぎこちなかったはずの態度は、少しだけ軟化したと思っている。
彼女が気にしないような手助けをすること、それが自分の楽しみになっていた。
自己満足の度合いが強いけれど、それで良い。
のぞみが来る前の教室で、顕檎は1人で今日の楽しみが始まることを喜んでいた。
階段の途中で、リビングから話し声なのか時々笑い声も聞こえて来た。
楽しそうな雰囲気に、少しホッとした自分がいた。
「お待たせ、しました…」
ノックするのも変だと思い、静かに部屋に入る。
話し声がピタリと止む。
間違えてしまったのかもしれない。
急な静寂に、不安になる。
「春川、さやかちゃんって足早いんだって?」
「そんなこと言ってないでしょ?おねえに変なこと言わないで!」
「あら、春川に知られたら嫌なのかしら?」
「そんなことも言ってない!余計なことを言わないでよね」
乃田さんと布之さんが、さやかに止められていた。
「だって、これからも来るのなら、きちんとさやかちゃんのことを知っておかないと」
布之さんの声は、少しだけ楽しそうに聞こえた。
「もう!話が通じない!何でこんな人たちと一緒にいるの!?おねえ?」
「え?」
さやかの急な問いかけに、言葉が止まる。
「まぁまぁ、さやかはのぞみと宿題でもしていてちょうだい?」
お母さんの言葉に、さやかの「そうする!」という元気な声が返って来た。
「あ、宿題、まだやっていなかったんだ?」
私の言葉で、お母さんが笑っている。
「置いていかれたから、もう拗ねちゃって拗ねちゃって。大変だったのよ?絶対にのぞみと一緒にしかやらないって」
「お母さん!お母さんまで余計なこと言わないで良いから!早くこの人達送るんでしょ?」
「こら、さやか」
お母さんの言葉に、さやかが「はぁい」と返事をした。
「おねえの友達、ね?」
お母さんの声は困っているようだったけれど、さやかの機嫌はそこまで悪くないと思った。
「じゃあ、また明日な」
乃田さんの言葉に、素直に頷く。
「また、明日」
また明日、学校で会えると思うから。
「学校でね?」
布之さんの言葉にも、ゆっくりと頷く。
「うん…」
「お邪魔しました」
高杉君の言葉は、私というよりもお母さんに向かっていた。
でも、頷く。
見えていないから、分からないので、とりあえず頷いてしまった。
「また、来て…ください、ね」
私のぎこちない言葉。
ポツリと言ってしまった。。
また沈黙。
おかしいことを言ってしまったのだろう。
どうしようか戸惑ってしまう。
「嬉しいな、また来るから」
乃田さんの言葉が聞こえ、ホッとする。
「じゃあ、行きましょうか」
お母さんの声に、各々返事をしている。
そのまま話し声が遠ざかり、玄関が閉まる音がした。
「おねえ、宿題しよ?」
さやかの言葉にハッとする。
「そうだね」
「あーぁ!うるさかった」
さやかの声は、不機嫌ではなかった。
そのことにホッとしながらも、どこかぼんやりする私がいた。
さやかの話を聞きながら、明日からもみんなといられることを喜んでいる私が。
車の中では、下校時よりも更に絞った音量のラジオが流れていた。
「慌ただしくて、ごめんなさいね。わざわざ来てもらって、本当にありがとう」
咲の言葉が静かに紡がれる。
「いえ!とんでもないです。お邪魔出来て良かったです!」
あかりの声が車内に響く。
横に座るかすみは、少し苦笑したものの何も言わなかった。
咲はあかりの言葉に嬉しそうに笑った。
「遠慮しないで、これからも来てもらえたら、おばさんも嬉しいわ」
咲の言葉を、喜んだのはあかりのみではなかった。
「お母様、その言葉本気にして良いんですよね?」
「えぇ、布之さんも遠慮しないで、遊びに来てちょうだい」
「是非、お邪魔させてください」
「…のぞみが、乃田さんと布之さんと高杉君のことを、自分のことのように楽しそうに話していたから、会ってみたかったの。良かったわ…今日、一緒に過ごせて」
咲の言葉に、あかりもかすみも嬉しそうに、やや照れたようにお互いを見る。
「あの子、家のこと何か言っていたかしら?」
咲の言葉に、3人は横並びのまま顔を見合わせる。
「さやかちゃんのことを、助かるって…」
「そう?ごめんなさいね。お姉ちゃん子で、とても困っているの」
咲の苦笑に、3人もつられたように苦笑した。
「…後で、のぞみから聞くかもしれないけれど、家庭関係が複雑で、春川家は…」
咲が少し考えながら言う言葉に、あかりとかすみはお互いを見た。
「どういうことですか?」
顕檎のみが反応し、咲に聞き返す。
「乃田さんと布之さんは、少しだけ、知っているのかしらね?」
咲の言葉に、小学校が同じだったあかりとかすみは「はい」と返事をした。
「…さやかもそうだけれど、のぞみを好き過ぎる兄弟が多くて」
咲の言葉は、少しだけ困っている響きがあった。
溜め息をつくような呟きに、顕檎が首を傾げる。
「兄弟、ですか?」
「そうなの。あの子には、あと2人お兄さんがいてね。もう、社会人と言うか大人のお兄さん達がね」
咲の言葉は、遠くを想っているようだった。
「そんなに、離れているんですか?」
顕檎の声には、疑問が強く出ていた。
自分の母よりも若そうに見えた春川の母。
でも、春川よりも年上の兄がいると言ったら、話が別になる。
「…そうね。離れすぎ、かもしれないわ。でも、理由は簡単なの。…何故なら、私が後からお母さんになったから」
咲の言葉に、顕檎は返答がなく黙る。
「だから、高杉君にさっき“昔から頑固”なんて言ってしまったけれど、私が知っているのぞみは幼稚園からなの。ごめんなさいね、本当のことを言わずにいて…」
「いえ…」
どうにかそれだけを返答する。
「でも、その頃から頑固なのは、本当に変わっていないのよ?小さい頃から、意思は本当に強くて…」
笑う声に、顕檎は沈黙で応える。
「…さやかは、私の子。…だけど、のぞみは違うの」
顕檎は、さっき見た春川家での様子を思い出した。
違和感のない家族、それしか思い浮かばなかった。
「でも、私はすごくあの子のことを、大事に…本当の娘のように想っているわ」
「はい」
「…さやかと一緒に、自分の娘だと思っているの。ううん、娘だったら良いのに、っていつも思っている。思っていても、叶わないのに…ね」
呟く声に、“お母さん”の響きがあり、あかりとかすみもそれに頷く。
顕檎の頭の中で、家だけではなく車内での会話もふと思い出された。
あのやり取りは、のぞみもきちんと咲を母親だと思って接しているように見えた。
咲を信頼し、甘えながらもきちんと“母”として尊敬している。
そう、感じ取れた。
「これから先、のぞみと一緒に過ごしていると、きっと2人のお兄さん達と会うことになると思うの。あなた達のことを知って、2人が会いに行くかもしれないし…」
顕檎の中に、まだ見ぬ2人の兄が浮かぶ。
自分たちよりも年上の、兄がいるという事実。
「決して、悪い子達ではないの。…でも、みんなが困るようなことを、言うかもしれないし。…それが、少しだけ心配なの」
「はい」
顕檎の返事に、咲も頷くのみで会話を終わらせた。
「あの、これからも本当に春川に会いに来てもいいんですよね?」
あかりが話題を変えるように、咲に問いかける。
「えぇ。勿論よ」
「なら、余計私は春川の力になりたいんです。勿論、押しつけがましくはしたくないんですけど、何でも言ってくれるような関係に。それこそ、ケンカだってしたいし、もっと本音を言ってほしい、って。遠慮じゃなくて、今の春川は、おばさんのことをすごく好きだなっていうのは、私は見ていて感じたし。私のこともそうやって頼ってほしいのにって思ってるっていうか…」
あかりの言葉に、咲は少しだけ涙目になりながらも「ありがとう」とミラー越しに返事をする。
「お母様、無理をしているわけではないですよね?」
かすみの言葉に、咲は一瞬止まる。
「え、えぇ。何でかしら?」
「なら、良いんです。お母様も春川も無理をしていると、どこかで限界が来てしまうかな、ってすみません!お母様に偉そうに」
「良いのよ」
かすみの言葉にも、咲は笑って返事をした。
ポツポツと、でものぞみのことを中心に話をしていく。
すぐにあかりが指定した公民館に到着した。
「では、本当にありがとうございます!」
あかりが車から降り、元気良くお礼を言う。
「お母様、わざわざ送っていただいてありがとうございます」
かすみの言葉に、咲は「気にしないで」と返事をした。
「高杉君、本当に大丈夫?」
「はい、平気です。すぐの距離なので」
「そう、なら良いんだけど」
咲の言葉に、顕檎はしっかりとお辞儀する。
「では、また今度お邪魔します」
「えぇ、待っているわ」
咲の言葉に3人とも嬉しそうに各々の帰路に着く。
それを見送り、咲も家へと引き返す。
娘の友達としてとても楽しい出会いだったと、1人で帰る道を喜んでいる自分に咲は気付いた。
「おい、高杉。お前あまり春川に近付くなよ」
朝、早めに家を出たことで学校に無事に到着した顕檎は、急に話しかけて来たあかりに首を傾げる。
「何で?」
ろくな理由はなさそうだが、聞き返すこともなかっただろうに聞き返す。
「何でって、お前みたいに女子の人気がある奴が側にいたら、また誰かの反感くうか分からないし、そんなんであいつの精神状態が悪化したら良くないだろ?」
言われていることは理解できたが、乃田に言われるのはあまり納得がいかない。
いつかクラスメイトが春川に言いがかりをつけていたのは、新しい記憶だ。
でも、それは乃田には関係ない。
「何でそんなことを乃田に言われなくちゃいけないのか?全く意味が分からない」
あかりの勢いには反応せず、顕檎は淡々と返答する。
教室の中には、半分よりも少ないがクラスメイトは存在していた。
あかりは声を潜めながらも、席に着きながら顕檎を見る。
見られていることを意識しながらも、顕檎は視線を外した。
「お前、気軽な気持ちで春川に近付いたんじゃないだろうな?」
声を潜めてとんでもないことを言うあかりに、顕檎はやや呆れながらも口を開く。
「気軽な気持ちって何?」
「気軽は気軽だろ?あいつの気持ちが萎縮したら、また見えないままの期間が長くなるかもしれないだろ?嫌なんだよ、あいつが落ち込むのも、自分を責めるのも。あいつに、色のある世界を感じてほしいんだ。うちらとの時間を嬉しいって、楽しいって言ってくれる春川に、もっともっと喜んでほしいだろ?」
暗に、お前がいると邪魔だと言われた気分になり、顕檎は溜め息をつく。
「それこそ、乃田には関係ないだろ?」
「関係あるから言ってるんだろ!…と」
声が大きくなり、回りを気にするあかりに顕檎はくだらないと言わんばかりに止めていた手を動かす。
「お前のことを気になる奴とか、好きな奴に嫌がらせとか、嫌なことを言われて内側に閉じこもるあいつが想像できるから。だから、軽はずみにあいつにちょっかいなんか出すなよ?それに私の相手するのと、アイツの相手をするのじゃ、わけが違うからな。マジで面倒だからな!」
ドスをきかせた言葉に、高杉は思わず笑ってしまった。
「あら、何の話かしら?」
聞こえて来た声に、顕檎はともかくあかりはげんなりとした表情になった。
「おはよう」
とりあえず気にしないように挨拶をすると、かすみも変わりのない「おはよう」を口にした。
「なあに?春川のお気に入りだからって、少し良い気になっているんじゃないって話かしら」
顕檎は誰のことを言っているのかには触れずに、止めていた手を再び動かす。
「あら、聞こえているのに無視?」
「俺のことを差しているのか分からないから、返事をしていないだけだ」
自分では、春川のお気に入りだと言う気持ちは全くない。
去年、図書委員で一緒だった女の子。
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中学校に入学して、同じ小学校だった女の子も、全員がもれなく“女子”になっていった。
自分も、きちんと“男子”になっていったと思う。
だけど春川はいつまでも“女の子”のままだった。
それが、第一印象だ。
乃田の言うことは、もっともだと思う。
自分にも、春川には安心して過ごしてほしいと常に思っている。
自分ができることなら、何でも手を貸すし、頼られたことなら全て叶えたいと思うくらいには、春川のことを大事に想っているということ。
しかし、当ののぞみがそこまでの過剰な支援を望んでいないという。
だから隣で過ごすことを選んだ。
今の所は、側にいることで様子を見ているだけのこと。
それに、のぞみ本人から側にいるなと言われるのと、乃田や布之から言われるのはわけが違う。
「鬱陶しいな」
つい口から出てしまった。
「あら、やはり私と高杉は袂を分かつということで良いのよね?」
いつもの、本気か冗談か分からない布之の言葉に、聞こえないフリをする。
「こっちだって、春川が言わなければお前なんか、一緒の仲間になんかするか!馬鹿高杉が!」
布之と違って、乃田はとても感情的だ。
すごく分かりやすいが、その時々で振り回されるこちらも同様に疲れる。
「本当に、鬱陶しい」
「お前はよ!」
「あかり、相手にするだけ無駄よ。そろそろ行きましょ」
布之が乃田に声をかけ、教室を出て行った。
時計をちらりと見て、自分も納得する。
春川が登校する時間になるのだろう。
それが分かる自分も、いつからこんなにお節介になったのか良く分からない。
いつから、こうやって彼女のことを考えるようになったのか。
頼りなさげな印象とは違い、意思も決意も固い。
それは、去年の委員会活動で十分伝わった。
自信がないくせに、譲らない頑固さは思わず笑ってしまうほど。
会話をしていても、どんな流れになるか分からない。
楽しんでいると思う関り。
ささやかな楽しみと、ささやかな幸せ。
彼女が隣にいることが、嬉しいんだと最近自覚した。
そう、これは間違いなく幸せだ。
去年はそうは思っていなかった。
ひどく自分を追い込む姿に、そんなに恐縮しなくても、と思う程度だった。
クラスも違うことで、委員会のみの時間しか春川を知ることはなかった。
大谷先生が自分のことをそれなりに評価してくれ、春川とセットにされていたことは何となく感じていた。
でも、それも義務のようなもので、仕方がないと思っていた。
だけど、いつからだろうか?
その小さなシルエットを目で探すようになったのは。
委員会にも、毎回いるわけではないその存在を。
何故か、人の目を引く存在だとは思っていた。
今年から同じクラスになって、少しでも交流ができればなんて思っていた。
それは見事に叶うわけで…。
彼女がいる所に、自分も混ざりたいと思うのはごく自然なことだった。
自分がしたことを、素直によろこんでくれる存在。
ぎこちなかったはずの態度は、少しだけ軟化したと思っている。
彼女が気にしないような手助けをすること、それが自分の楽しみになっていた。
自己満足の度合いが強いけれど、それで良い。
のぞみが来る前の教室で、顕檎は1人で今日の楽しみが始まることを喜んでいた。
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――それは、ちょっと変わった不思議なお店。
おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。
ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。
お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。
そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。
彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎
いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
昨日の敵は今日のパパ!
波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。
画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。
迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。
親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。
私、そんなの困ります!!
アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。
家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。
そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない!
アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか?
どうせなら楽しく過ごしたい!
そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
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