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団欒
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お母さんがお風呂から出て、私とさやかで順番にお風呂に入った。
さやかは一緒に入ると言ったけれど、見えているから大丈夫と説得した。
「ところで、おねえ?」
「なあに?」
ごはんを食べながら、さやかが口を開いた。
「何で、学校で泣いたの?」
さやかの言葉は、純粋に気になっている言い方だった。
怒っているわけでも、心配しているわけでもない。
目の赤みも、お風呂で温まったためか随分和らいだ気がする。
ゆっくりと解して、お風呂に浸かった時間で、今日あったことをちゃんと自分で消化できた。
嬉しいことも、泣いて恥ずかしかったことも、3人がお友達になったことも、ちゃんと本当のことで、今日あったことだから。
「えぇと…」
今日は、私の目のことを乃田さんと、布之さんと、高杉君の3人に伝えて、それを受け入れてもらったこと。そして、お友達になってくれて…。
…お友達。
すごく不思議な気分になった。
私が、お友達のことをさやかとお母さんに言う日が来るなんて。
「おねえ」
ハッとする。
お母さんと、さやかが心配そうにこっちを見ていた。
「どうしたの?顔が赤いんだけど…」
逆に、さやかの顔色は悪くなっているように見えた。
「さやかこそ、どうしたの?何か、青くなってない」
血の気が引いたようなさやかの顔に、私が首を傾げる。
「今日、何があったの…?」
確認するさやかの声は、少し震えていた。
気がする。
「あのね、お…お友達が、できた…の」
自分の口から、お友達という言葉が出るなんて。
不思議な気分で、少し恥ずかしい。
2人は知っている。
私に、ずっとお友達がいないことを。
お友達ができなかったことを…。
普通のお休みの日にも、長期のお休みの時でもずっと家にいる私を見て知っている。
そう、ずっと知っている。
だから、改めて言うのが少し照れる。
さやかは、自分では言わないけれど学校では人気者のようだ。
お友達がいない私に気を遣って、学校でお友達との話はほとんどしない。
でも家が近い子や、さやかと幼稚園から一緒の子で、私が知っている子が何人かいる。
さやかの口の悪さや、言葉の強さも気にしないマイペースなお友達が。
その子たちは、私のことも「のぞみちゃん」って声をかけてくれる。
さやかと同じく、優しい子達だ。
ずっと、良いなあと思って見ていたから。
羨ましい、活発な妹。
その妹と、お友達の関係を。
「友達?」
さやかが、きょとんとしている。
「うん、お友達」
私も復唱する。
「なんだぁ…」
少し、気の抜けた言葉に、私がムッとする。
「お友達がいっぱいいるさやかには、当たり前のことでしょうけど…」
「違うの、ごめんね。おねえ」
「…良いよ」
少しムッとしながら、里芋の煮物をお皿に取る。
口に入れると、おいしさに少し口元が綻ぶ。
「それで、泣いちゃったの?」
さやかの言葉に、恥ずかしいけれどコクリと頷く。
俯いて、モグモグと口を動かす。
「良かった、おねえがおねえのままで」
さやかのホッとしたような言葉に、お母さんがクスクスと笑っていた。
「もう、さやかはのぞみの保護者じゃないんだから…」
「お母さんだって、一瞬疑ったでしょ?」
「それは…まぁ」
「でも、安心したね?良かった…」
「でも、のぞみだってお年頃なんだし、ねぇ?って、さやかに言っても仕方がないんだけど…」
「だってお母さん?おねえだよ!どこの馬の骨が現れたのかと思ったら…」
「何の話?」
お母さんとさやかで話が進んでいることに、ムッとしたことも忘れて問いかける。
「おねえが、お友達を家に連れて来たら、ちゃんとオモテナシをしたいって話」
さやかが、変なことを言っている。
3人が家に来るなんて、そんなこと…。
そんなことが、この先にあるかもしれないってこと?
私の家に、3人が“遊びに来る”未来?
そんなことを想像しただけで、すごく嬉しくなる自分。
「お友達で、こんなに頬を染めるおねえは、一生家にいてもらおう。良いよね?お母さん」
「さやか…」
「だって、変な男に騙されて無駄に傷つくより、私が養う方が絶対に現実的だもん」
「さやか?」
「大丈夫、私はちゃんとキャリアウーマンになって、昔のお母さんみたいにバリバリ働く!そして、結婚も何か適当にするし、子育てはお母さんに頼んで、おねえとお母さんとお父さんの面倒もしっかり見るから。安心して」
「でもね、さやか…」
「私の幸せは、おねえの幸せがないと成り立たないもん」
「でもね?さやかものぞみも、この先は何があるか分からないし」
「分かるよ?」
「本当に、誰に似たのかしら…?頑固で困った子」
「でも、お母さんも安心だし嬉しいでしょ?」
「そうね…。さやかとのぞみとずっと一緒にいられたら、こんなに幸せなことはないわね」
「だから、安心して?何があっても、おねえのことは私が責任を持って面倒を見るから」
私が、お友達との未来を想像している時に、さやかとお母さんで何か話している。
でも、2人の会話はうっすらとしか入って来ない。
でも、聞き捨てならない言葉があったような。
「さやか?私は、さやかに面倒を見てもらわなくても、大丈夫だよ?さやかの負担になるようなこと…」
「負担じゃないもん、私の義務だし」
「義務って…」
無理やり課せられているような、そんなおんぶに抱っこのような状態は私は嫌だと思う。
「それは、さやかの人生じゃないよ?」
「間違いなく、私の人生でーす」
「もう、さやか?のぞみを困らせないで?」
「…はーい。ごめんね、おねえ?」
絶対に、反省していない。
でも、謝られたら、嫌なんて言えない。
「…良いよ」
「ありがと!おねえって本当に優し」
2人でお手伝いモードが続き、お片付けもさやかとする。
と言っても、洗い物はほとんどさやかがしてくれた。
手が濡れるからと、私はお皿を片付けることがほとんどだった。
さやかに、あれこれ指示されるけれど、私は慌てないでそれを片付けて行った。
お母さんは、それを眺めてずっとニコニコしている。
ダイニングではなく、ソファに移動してからも3人で過ごす。
食後のお茶を飲みながら、のんびりしているとサインが来た。
見慣れたであろう、私の俯き加減な仕草に2人が気付く。
サインが来ると、怖くなってしまいすぐ俯くようなになった。
それは、長年変わらない私の癖だ。
「今日は、十分見えたから…」
諦めたように笑う私の視界が、薄暗くなってくる。
お母さんとさやかの、少し悲しそうな表情。
でも、今日は本当に充実していた。
だから、良いんだ。
見えなくなるその時まで、笑えていただろうか?
「お母さん、さやか、今日もありがとう」
さやかが、隣に移動して来た。
「お礼言われることなんてないもん」
納得のいかないさやかの口調に、私が笑う。
「明日も学校だし、もう寝るだけだから…」
「おねえのとこで、寝ても良い?」
「明日学校なのに?」
「駄目?」
「駄目じゃないよ?でも、学校がある日はさやかの方が早起きじゃない?だから、私の所で寝ていたら、支度に時間かからない?」
「平気だもん」
さやかの折れない様子に、私の方が諦めた。
「じゃあ、週末にお泊りにおいで?」
「…分かった。そうする」
「じゃ、歯磨きをして、寝るね?」
「大丈夫?」
「大丈夫、ありがとう」
流し台にまで、付いて来ようとするさやかに苦笑する。
3人で、こうやって笑いながら話をして、学校であったことを話して過ごすことのありがたいこと。
見えていることに感謝して過ごす。
そして、明日からもそうだったら良いなって、願いながら眠るんだろう。
こんな日常が、本当の日常になったなら、こんなに嬉しいことはないと思う。
さやかは一緒に入ると言ったけれど、見えているから大丈夫と説得した。
「ところで、おねえ?」
「なあに?」
ごはんを食べながら、さやかが口を開いた。
「何で、学校で泣いたの?」
さやかの言葉は、純粋に気になっている言い方だった。
怒っているわけでも、心配しているわけでもない。
目の赤みも、お風呂で温まったためか随分和らいだ気がする。
ゆっくりと解して、お風呂に浸かった時間で、今日あったことをちゃんと自分で消化できた。
嬉しいことも、泣いて恥ずかしかったことも、3人がお友達になったことも、ちゃんと本当のことで、今日あったことだから。
「えぇと…」
今日は、私の目のことを乃田さんと、布之さんと、高杉君の3人に伝えて、それを受け入れてもらったこと。そして、お友達になってくれて…。
…お友達。
すごく不思議な気分になった。
私が、お友達のことをさやかとお母さんに言う日が来るなんて。
「おねえ」
ハッとする。
お母さんと、さやかが心配そうにこっちを見ていた。
「どうしたの?顔が赤いんだけど…」
逆に、さやかの顔色は悪くなっているように見えた。
「さやかこそ、どうしたの?何か、青くなってない」
血の気が引いたようなさやかの顔に、私が首を傾げる。
「今日、何があったの…?」
確認するさやかの声は、少し震えていた。
気がする。
「あのね、お…お友達が、できた…の」
自分の口から、お友達という言葉が出るなんて。
不思議な気分で、少し恥ずかしい。
2人は知っている。
私に、ずっとお友達がいないことを。
お友達ができなかったことを…。
普通のお休みの日にも、長期のお休みの時でもずっと家にいる私を見て知っている。
そう、ずっと知っている。
だから、改めて言うのが少し照れる。
さやかは、自分では言わないけれど学校では人気者のようだ。
お友達がいない私に気を遣って、学校でお友達との話はほとんどしない。
でも家が近い子や、さやかと幼稚園から一緒の子で、私が知っている子が何人かいる。
さやかの口の悪さや、言葉の強さも気にしないマイペースなお友達が。
その子たちは、私のことも「のぞみちゃん」って声をかけてくれる。
さやかと同じく、優しい子達だ。
ずっと、良いなあと思って見ていたから。
羨ましい、活発な妹。
その妹と、お友達の関係を。
「友達?」
さやかが、きょとんとしている。
「うん、お友達」
私も復唱する。
「なんだぁ…」
少し、気の抜けた言葉に、私がムッとする。
「お友達がいっぱいいるさやかには、当たり前のことでしょうけど…」
「違うの、ごめんね。おねえ」
「…良いよ」
少しムッとしながら、里芋の煮物をお皿に取る。
口に入れると、おいしさに少し口元が綻ぶ。
「それで、泣いちゃったの?」
さやかの言葉に、恥ずかしいけれどコクリと頷く。
俯いて、モグモグと口を動かす。
「良かった、おねえがおねえのままで」
さやかのホッとしたような言葉に、お母さんがクスクスと笑っていた。
「もう、さやかはのぞみの保護者じゃないんだから…」
「お母さんだって、一瞬疑ったでしょ?」
「それは…まぁ」
「でも、安心したね?良かった…」
「でも、のぞみだってお年頃なんだし、ねぇ?って、さやかに言っても仕方がないんだけど…」
「だってお母さん?おねえだよ!どこの馬の骨が現れたのかと思ったら…」
「何の話?」
お母さんとさやかで話が進んでいることに、ムッとしたことも忘れて問いかける。
「おねえが、お友達を家に連れて来たら、ちゃんとオモテナシをしたいって話」
さやかが、変なことを言っている。
3人が家に来るなんて、そんなこと…。
そんなことが、この先にあるかもしれないってこと?
私の家に、3人が“遊びに来る”未来?
そんなことを想像しただけで、すごく嬉しくなる自分。
「お友達で、こんなに頬を染めるおねえは、一生家にいてもらおう。良いよね?お母さん」
「さやか…」
「だって、変な男に騙されて無駄に傷つくより、私が養う方が絶対に現実的だもん」
「さやか?」
「大丈夫、私はちゃんとキャリアウーマンになって、昔のお母さんみたいにバリバリ働く!そして、結婚も何か適当にするし、子育てはお母さんに頼んで、おねえとお母さんとお父さんの面倒もしっかり見るから。安心して」
「でもね、さやか…」
「私の幸せは、おねえの幸せがないと成り立たないもん」
「でもね?さやかものぞみも、この先は何があるか分からないし」
「分かるよ?」
「本当に、誰に似たのかしら…?頑固で困った子」
「でも、お母さんも安心だし嬉しいでしょ?」
「そうね…。さやかとのぞみとずっと一緒にいられたら、こんなに幸せなことはないわね」
「だから、安心して?何があっても、おねえのことは私が責任を持って面倒を見るから」
私が、お友達との未来を想像している時に、さやかとお母さんで何か話している。
でも、2人の会話はうっすらとしか入って来ない。
でも、聞き捨てならない言葉があったような。
「さやか?私は、さやかに面倒を見てもらわなくても、大丈夫だよ?さやかの負担になるようなこと…」
「負担じゃないもん、私の義務だし」
「義務って…」
無理やり課せられているような、そんなおんぶに抱っこのような状態は私は嫌だと思う。
「それは、さやかの人生じゃないよ?」
「間違いなく、私の人生でーす」
「もう、さやか?のぞみを困らせないで?」
「…はーい。ごめんね、おねえ?」
絶対に、反省していない。
でも、謝られたら、嫌なんて言えない。
「…良いよ」
「ありがと!おねえって本当に優し」
2人でお手伝いモードが続き、お片付けもさやかとする。
と言っても、洗い物はほとんどさやかがしてくれた。
手が濡れるからと、私はお皿を片付けることがほとんどだった。
さやかに、あれこれ指示されるけれど、私は慌てないでそれを片付けて行った。
お母さんは、それを眺めてずっとニコニコしている。
ダイニングではなく、ソファに移動してからも3人で過ごす。
食後のお茶を飲みながら、のんびりしているとサインが来た。
見慣れたであろう、私の俯き加減な仕草に2人が気付く。
サインが来ると、怖くなってしまいすぐ俯くようなになった。
それは、長年変わらない私の癖だ。
「今日は、十分見えたから…」
諦めたように笑う私の視界が、薄暗くなってくる。
お母さんとさやかの、少し悲しそうな表情。
でも、今日は本当に充実していた。
だから、良いんだ。
見えなくなるその時まで、笑えていただろうか?
「お母さん、さやか、今日もありがとう」
さやかが、隣に移動して来た。
「お礼言われることなんてないもん」
納得のいかないさやかの口調に、私が笑う。
「明日も学校だし、もう寝るだけだから…」
「おねえのとこで、寝ても良い?」
「明日学校なのに?」
「駄目?」
「駄目じゃないよ?でも、学校がある日はさやかの方が早起きじゃない?だから、私の所で寝ていたら、支度に時間かからない?」
「平気だもん」
さやかの折れない様子に、私の方が諦めた。
「じゃあ、週末にお泊りにおいで?」
「…分かった。そうする」
「じゃ、歯磨きをして、寝るね?」
「大丈夫?」
「大丈夫、ありがとう」
流し台にまで、付いて来ようとするさやかに苦笑する。
3人で、こうやって笑いながら話をして、学校であったことを話して過ごすことのありがたいこと。
見えていることに感謝して過ごす。
そして、明日からもそうだったら良いなって、願いながら眠るんだろう。
こんな日常が、本当の日常になったなら、こんなに嬉しいことはないと思う。
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