隻腕の聖女

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新しい世界

第15話

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敵の足に刺さった剣を抜いてしまうわけにはいかないので、
代わりに武器になりそうなものを探す。

柵として使われていたであろう、
地面に突き立てられたり、崩壊した建物の下敷きになっている、
先が尖った木の杭のようなもの数本が目に入った。

槍のようにして扱えば、武器にもなるだろう。

私は地面に突き刺さった杭を引き抜き、
右手を翳して魔力を込めた。

先端がとがった木の杭は、薄緑色の光を纏う。

私は、ふらつきから立ち直りそうな敵の足に、
追撃で薄緑色の光を纏った木の杭を突き刺す。

7つある頭が同時に叫ぶ。

4本の足のうち、2本の支えを失い、バランスを崩したセルバースは、
ふらついた後に大きな音を立てて倒れた。

ようやくチャンスだと気付いたベアトリスが、敵の頭に猛攻を加える。

私は木の杭をまた手にすると、今度は倒れているセルバースの顔の1つである、
獅子の目に、薄緑色の光を纏わせた木の杭を突き刺した。

セルバースは、倒れながらもがき始める。

ベアトリスが撥ね飛ばした首は、明らかに今までの再生能力を失い、
7本どころか、5本を保つのすら困難になっているようだ。

先ほどまでの敵の増長はどこへやら、次第に収束していくのを感じた。

勝てる、もう少しだ。

私は限界になりそうな体を動かして、
木の杭をセルバースに突き刺し続ける。

再生をしようとするが、その前にベアトリスに切り落とされ、
わずかに残された部分から別の動物の顔が再生されるというのを繰り返すうちに、
やがて、セルバースは複数の動物の顔が断片的に散りばめられた、
醜い肉塊へと変貌していく。

それも一時的なもので、更にバラバラに切り取られたから、
遂に、生命の核と思われる心臓のような小さな臓器だけが残された。

私は、最初の楔としての役目を終え、傍に落ちていた、剣を拾い上げると、
その剣に薄緑色の光を纏わせた。

「これで、最期。」
心臓のような臓器に剣を突き刺すと、
溶けるようにして萎んでいき、
赤黒い炎が渦巻く球へと変化した。

ベアトリスがすかさず球にふれて魔力を吸収する。
まるで深呼吸でもするかのようだ。

「ふぁー、生き返った。これはたまらんな。
 今までの下級悪魔とは違って生まれ変わる程の魔力が手に入ったよ。」
ベアトリスが、地面に仰向けに倒れ込みながら満足そうな笑みを浮かべる。

「これで、いよいよ本当にルザーフとの戦いね。」
私は、限界寸前の体を、ベアトリスのように倒れて休めた。

「そうだな。あいつは絶対に許さない。」
ベアトリスの声には怒りが戻った。

「そういえば、セルバースの言葉に怒っていたようだけど、
 あれはいったい何?」
私は、恐る恐るベアトリスに尋ねてみた。

「あぁ、あれか。セルバースはこの世界の番人なんだが、
 ここがオルテガに侵略されたとき、
 あたしは奴が当然やられたものだと思っていたんだ。
 この世界にやってきた敵を命懸けで排除するのがあいつの使命だからね。
 それがなぜかのうのうと生きていた。これがどういう意味か分かるか?」
ベアトリスが倒れながら私を見る。

「意味?・・・・あ。」
私はとんでもないことに気付いてしまった。

「もしかして、番人であるセルバースは、オルテガを素通りさせたってこと?」
セルバースが使命を放棄したせいで、
オルテガによる奇襲が起きてしまったということだろう。

「その通り。
 思えば、ルザーフはオルテガが侵略してくる数日前にセルバースの支配権を握っていたんだ。
 そして、セルバースはすべて仕組まれていたと言った。
 誰に?何を?
 もし、奴がオルテガを素通りさせろと命令されたのだと言うのなら、
 それが出来たのはルザーフ以外にいない。」

「もしかして、オルテガの侵略すらもルザーフの差し金だったとでも?」
そうなると、数百年も前から、既にルザーフの計画は始まっていたことになる。

そして、私は不意に、まだディメイアが左腕にいたころ、
過去のディメイアの視界を覗いた時のことを思い出した。

王座で深手を負ったウルガリウスに駆け寄った時、
その場にはいなかったルザーフ。

「初めから仕組まれていたということか・・・・。」
そうウルガリウスが呟いたこと。

あの時は、ディメイアの感情ばかり気をとられていたが、
あれは、ルザーフの裏切りにウルガリウスが気付いた瞬間だったのだ。

「じゃあ、最初っから最後まで、
 厄災を招いてきたのは、全てルザーフだったってことなの?」

「そうあたしには思える。いや、そうとしか考えられない。」
ベアトリスの声には怒りと苛立ちが感じられた。
私も同感だ。

ルザーフだけは許しておくわけにはいかない。
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