隻腕の聖女

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7つの断章編

第33話

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「出来たぞ。」
翌朝、いつの間にか眠ってしまっていた私は、
デュスラハの声で起きた。

デュスラハが作っていたのは、
金属の鎖に、それを巻き取る木製のドラム、
そして、その先にクロスボウが取り付けられたものだった。

「このクロスボウで魚を撃てば、
 返しが付いていて外れなくなる。
 あとは、このドラムを回して、
 思いっきり巻き上げてやればいい。
 言ってしまえば、デカくて頑丈な釣り竿だ。」
デュスラハは、その仕事の出来栄えを、
大して誇ることなく淡々と説明する。

私は短い時間でこれほどの物を作り上げてしまうのが信じられなかった。

何がすごいって、クロスボウもドラムも、鎖ですらも、全てが自作なのだ。
そしてそれらには、当然かのように、美しい彫刻が施されている。
まるで芸術品のようだ。

「こんな細かいもの作らなくてもいいのにな。
 本当に無駄な才能だ。」
ベアトリスは呆れたかのような反応を見せる。

「お前のために彫ったわけじゃない。
 彫りたいから彫った。それだけだ。」
デュスラハは、恐らく100kgはあろうかという巨大な釣り竿を、
よろよろとしながらも、一人で荷車に載せる。

体の大きさと、歳に見合わないその力に、私は再び驚く。

考えてみれば、これだけの早さで、
これほど細かい金属加工を行うには、
人間離れした腕力も必要だ。

人を超えた物理的な力と技巧。
正に、「神業」といったところなのだろう。

「もう、用はないか?
 さっさと、出ていくがいい。
 わしも、流石に疲れた。」
デュスラハは相変わらずぶっきらぼうな態度で、
虫でも追い払うかのような仕草を見せる。

「またな。」
ベアトリスは、デュスラハの顔も見ずに荷車を括り付けた馬に乗る。

私達(ベアトリスを除いて)は、デュスラハに丁寧にお礼を述べた。
すると、デュスラハは、ベアトリスに聞こえない小さな声で、
「バルゼビアを頼んだ。」と私に言った。

私は小さく頷いて、馬に乗った。

「また来い。」
ぶっきらぼうながらに、
デュスラハの温かさが伝わる言葉だった。


その後、私達は、東のレト湖へと戻ってきた。

リスバートが、鳥の姿になって、
鎖の取り付けられたクロスボウをその足に持ち、飛んでいく。

今更になって気付いたのだが、彼の足は、普通の鳥とは違い、3本あるらしい。
東方の国では、ヤタガラスと呼ばれる種族のようだ。

彼が、3本の足を器用に扱って、クロスボウを断章のある位置に撃ち込むと、
ドラムに巻き付いた鎖が、ガラガラと音を立てて湖の奥へと引かれていく。

あらかじめベアトリスが召喚していたザーロ型の悪魔が太い腕でその鎖を巻き取ると、
徐々に、断章は岸へと近づいて来た。

しばらくの格闘の末、相手は抵抗を諦めたのか、
鎖がダルダルに緩み始める。

どうやら相手の方から近づいてきているようだ。

私達は、息をのんでその姿が現れるのを待った。

湖の水が盛り上がり、大きな噴水が上がる。
噴水が引いていき、中から現れたのは、
なんと、大きな亀だった。
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