隻腕の聖女

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王の野望編

第37話

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リヒヤールが大きく口を開けると、
ゴウゴウという大きな音が鳴り始めた。

私は危険を感じて、リヒヤールの正面から逃れた。

数秒後、私がいた辺りに滝のような水が打ち付けられた。

私はその水に飲みこまれそうになりながらも、
辛うじて逃げ切った。
水は地底湖へと凄まじい勢いで流れていく。

巻き込まれたら地底湖に引きずり込まれていたかもしれない。
水の中に落ちたらまず勝ち目はないだろう。

私は相手の攻撃に気を付けながら、左手に力を溜めた。
しかし、相手の弱点が全く分からない。
体が大きすぎて全体を把握することも困難だ。

そうこうしている間に、リヒヤールは体当たりして、
私を押しつぶそうとしてきた。

私はリヒヤールの体に向けて力を放った。
部分的に消失したものの、すぐに復活する。

あわてて回避しようとしたが、今度は間に合わず、
壁とリヒヤールの間に挟まれた。

リヒヤールの力は凄まじく、
体中の骨がきしんだ。
私は耐え切れず、叫び声をあげた。

「この程度か?
 ディメイアの力も落ちたものだ。
 もっとも、人間に使われている程だ。
 たかが知れているな。
 このままその娘と共に絶えるがいい。」

リヒヤールは更に強く体を押し付けてくる。

おまけに、またゴウゴウと音を立てたと思うと、
上から大量の水が降ってきた。

体は圧迫され、
上からは水が重くのしかかり、
それでいて、しばらく水の中で呼吸もできなかった。

私はそれらを息も絶え絶えに耐え抜くと、限界まで力を溜めて、
押し付けてくるリヒヤールの体に向けて力を放った。

一瞬だけ圧迫が解消されたものの、またすぐに元通りになった。

このままでは本当に死んでしまう・・・。

私の体はミシミシと音を立てていた。
今にも骨が折れてしまいそうだ。
それに、息も苦しくなってきて、
やがて、だんだん意識が遠のき始めた・・・。


ふと、一気に相手の力がおさまった。
私は命からがら、リヒヤールと壁との隙間から抜け出すと、
数回せき込んだ。

「貴様、一体何をした?」
リヒヤールが解せない様子で私に聞いてくる。

何をした?私は何かしたのだろうか?

見れば、リヒヤールの体の一部が黒く変色し、腐り落ちていた。
その部分は回復能力が落ちている様子で、
修復に時間がかかっていた。

「ロスタートの毒か・・・。
 ディメイアの力だけと侮っていた。
 そうか、すでに奴らの力を吸収していたのだったな。」
リヒヤールは毒を警戒したのか、私から距離を置いて構え直した。

シロエルの力が手に入って炎を扱えるのなら、
ロスタートの毒も操ることができるのだろう。
私はリヒヤールに起こったことを理解した。

しかし、そんなこと私も気付いていなかったのに、
自分でも気づかないうちに力を使っていたのだろうか?
火事場の馬鹿力とでもいうやつなのか。

それ以上考えるのは後にして、体中が痛む中、
とりあえず、敵に隙を見せまいと立ち上がり、左手を突き出して構えた。

「どうした、手が震えているぞ?
 立っているのも精いっぱいなのであろう。
 ならば、これでどうだ?」
そう言うとリヒヤールは今までより大きな音でゴウゴウと音を立て始めた。
心なしか、地底湖の水位が下がっている気がする。

私は急いでその場から離れようとしたが、
走ることができず、その場に倒れこんだ。

それでも逃げようと、必死に這いつくばりながら、
少しでも遠くに向かった。

当然間に合わず、リヒヤールは無慈悲に水を叩きつけてきた。
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