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王の野望編
第19話
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山を下って、一日程馬を走らせると、ドラジアの街がある。
ドラジアの街は、大きな外壁に囲まれていて、
中ほどで太い柱が空へと伸び、黒みがかった灰色の雲を吐き出していた。
街の真ん中にある大工房の煙突だ。
ドラジアの大工房は、昔の城を改装して作られたもので、
それを囲む大きな外壁は城壁の名残だ。
元来、ドラジアの煙突の煙は大工房が動いている、
"発展の象徴"ともいえるものだが、
この時、私は悪魔の吐き出した、どす黒い炎のように思えていた。
私達が街に近づくと、
街の入り口では屈強そうな男達が出迎えた。
「山で兄弟と遊んでくれたのはお前らか?」
太めのこん棒を肩に担ぎながら私達に詰め寄ってくる。
私は、男に目を凝らしてみた。
黒い炎が見える。悪魔だ。
咄嗟に後ろに飛びのいて、悪魔の弱点を狙い撃った。
油断していたのか、いとも簡単に悪魔は消滅した。
いままで人間に反抗されたことがないのか、
残りの男たちが困惑で色めきだつ。
しかし、私は躊躇することなく次々に悪魔を倒していった。
遂には私を出迎えた悪魔達は一匹もいなくなった。
「すごいなイヴ。もはや俺たちの力は必要ないかもな。」
ガイツは感心しながら言った。
「いえ、きっと奴等が使い魔だから簡単なだけで、
上位の悪魔ではこうはいかないわ。」
私はシロエルの強さ、恐ろしさを思い出していた。
あの時、シロエルを一人で追いかけたのだって、
絶対の勝算があったわけじゃない。
むしろ力の準備が間に合わず、命を失いかけた。
力が暴走してくれたおかげで助かったようなものだが、
暴走にだって命を吸われかけたのだ。
今私が生きているのは奇跡に近い。
あの時とは違い、
十邪星シロエルの力を吸収しているにしても、
他の十邪星を凌ぐ力を私は持っているのだろうか?
不安は大きかった。
ここを支配しているザヴァンだって十邪星の可能性もある。
いや、十中八九そうだろう。そんな気がしている。
「イヴの力は確かにすごい。しかし、そんなに連発して大丈夫なのか?」
アリウスが心配そうに言う。
私もそのことは少し心配していた。
少しづつ悪魔の力を吸収しているにしても、
出ていく力の方が大きければ、やがて尽きてしまう。
肝心なザヴァンとの戦いで使えないのでは意味がない。
ツヴァートでの鍛錬の結果、
私が赤い光をフルパワーで撃てるのは、
一日、三発程度が限界なことが分かっていた。
今日は力を抑えているとはいえ、十発ほど撃ってしまっている。
このまま街を進めばすぐに使い切ってしまうだろう。
もうすでにフルパワーでは撃てなくなってしまっているかもしれない。
「ここまで来たけど、
そろそろ今日はおとなしくしておく必要があるかもしれない。」
私がそういうと、何やら考え込んでいたアリウスが一人で街に入り、
宿を手配しに行ってくれた。
街の入り口でやきもきして待っていたが、
しばらくすると、私達の心配をよそに何事もないように街の入り口まで戻ってきた。
「街の中の協力者を見つけてきた。そこで今日は泊めてもらうようにしよう。
協力者の家に着くまでは、これを着て街の人を装うんだ。」
アリウスは、ドラジア製の独特な装飾が付いた衣服を持っていた。
アリウスはいつも私を助けてくれるし、的確に導いてくれる。
彼には感謝しきりだ。
この頃には、右腕を切られた恨みなど、とうの昔に忘れていた。
協力者の家には無事にたどり着き、私達はゆっくりと休憩した。
協力者は、ドラジアに住む夫婦で、
ルースとベアトリスと名乗った。
まだ引っ越してきたばかりでこの街のことはよく知らないという。
急な来訪者で布団が足りず、
私はソファー、ガイツとアリウスは床に寝たが、
いつ襲われるかもしれない野営よりは体が休まったと思うし、
何よりも気持ちが休まった。
とてもいい人達に巡り合えた、
と、私は喜んでいたのだが、
この家にいる間、アリウスの顔がなぜか優れなかったのは印象に深い。
何か気掛かりでもあるのだろうか?
ドラジアの街は、大きな外壁に囲まれていて、
中ほどで太い柱が空へと伸び、黒みがかった灰色の雲を吐き出していた。
街の真ん中にある大工房の煙突だ。
ドラジアの大工房は、昔の城を改装して作られたもので、
それを囲む大きな外壁は城壁の名残だ。
元来、ドラジアの煙突の煙は大工房が動いている、
"発展の象徴"ともいえるものだが、
この時、私は悪魔の吐き出した、どす黒い炎のように思えていた。
私達が街に近づくと、
街の入り口では屈強そうな男達が出迎えた。
「山で兄弟と遊んでくれたのはお前らか?」
太めのこん棒を肩に担ぎながら私達に詰め寄ってくる。
私は、男に目を凝らしてみた。
黒い炎が見える。悪魔だ。
咄嗟に後ろに飛びのいて、悪魔の弱点を狙い撃った。
油断していたのか、いとも簡単に悪魔は消滅した。
いままで人間に反抗されたことがないのか、
残りの男たちが困惑で色めきだつ。
しかし、私は躊躇することなく次々に悪魔を倒していった。
遂には私を出迎えた悪魔達は一匹もいなくなった。
「すごいなイヴ。もはや俺たちの力は必要ないかもな。」
ガイツは感心しながら言った。
「いえ、きっと奴等が使い魔だから簡単なだけで、
上位の悪魔ではこうはいかないわ。」
私はシロエルの強さ、恐ろしさを思い出していた。
あの時、シロエルを一人で追いかけたのだって、
絶対の勝算があったわけじゃない。
むしろ力の準備が間に合わず、命を失いかけた。
力が暴走してくれたおかげで助かったようなものだが、
暴走にだって命を吸われかけたのだ。
今私が生きているのは奇跡に近い。
あの時とは違い、
十邪星シロエルの力を吸収しているにしても、
他の十邪星を凌ぐ力を私は持っているのだろうか?
不安は大きかった。
ここを支配しているザヴァンだって十邪星の可能性もある。
いや、十中八九そうだろう。そんな気がしている。
「イヴの力は確かにすごい。しかし、そんなに連発して大丈夫なのか?」
アリウスが心配そうに言う。
私もそのことは少し心配していた。
少しづつ悪魔の力を吸収しているにしても、
出ていく力の方が大きければ、やがて尽きてしまう。
肝心なザヴァンとの戦いで使えないのでは意味がない。
ツヴァートでの鍛錬の結果、
私が赤い光をフルパワーで撃てるのは、
一日、三発程度が限界なことが分かっていた。
今日は力を抑えているとはいえ、十発ほど撃ってしまっている。
このまま街を進めばすぐに使い切ってしまうだろう。
もうすでにフルパワーでは撃てなくなってしまっているかもしれない。
「ここまで来たけど、
そろそろ今日はおとなしくしておく必要があるかもしれない。」
私がそういうと、何やら考え込んでいたアリウスが一人で街に入り、
宿を手配しに行ってくれた。
街の入り口でやきもきして待っていたが、
しばらくすると、私達の心配をよそに何事もないように街の入り口まで戻ってきた。
「街の中の協力者を見つけてきた。そこで今日は泊めてもらうようにしよう。
協力者の家に着くまでは、これを着て街の人を装うんだ。」
アリウスは、ドラジア製の独特な装飾が付いた衣服を持っていた。
アリウスはいつも私を助けてくれるし、的確に導いてくれる。
彼には感謝しきりだ。
この頃には、右腕を切られた恨みなど、とうの昔に忘れていた。
協力者の家には無事にたどり着き、私達はゆっくりと休憩した。
協力者は、ドラジアに住む夫婦で、
ルースとベアトリスと名乗った。
まだ引っ越してきたばかりでこの街のことはよく知らないという。
急な来訪者で布団が足りず、
私はソファー、ガイツとアリウスは床に寝たが、
いつ襲われるかもしれない野営よりは体が休まったと思うし、
何よりも気持ちが休まった。
とてもいい人達に巡り合えた、
と、私は喜んでいたのだが、
この家にいる間、アリウスの顔がなぜか優れなかったのは印象に深い。
何か気掛かりでもあるのだろうか?
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