隻腕の聖女

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王の野望編

第16話

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気が付くと、私は病院のベッドの上にいた。

左肩の傷は塞がっていた。
あれからどれだけの時間が経っていたのだろうか。

「お、目が覚めたか、聖女様。」
私が声のした方に目をやると、
右肩に包帯を巻いたガイツが、ベッドの上で私を見つめていた。

「ガイツ、無事だったのね!私はどのくらい気を失っていたの?」
「2日くらいかな。それにしても驚いたぜ。
イヴの左手ってあんな力があったんだな。
あれならどんな悪魔が来ても楽勝だ。」
ガイツが嬉しそうに感心しながら言った。

「ごめんなさい。あの時のことはあまり覚えていないの、
一体どうなったの?」
私はガイツに尋ねてみた。

「そうなのか。実際どうなったか、見てみた方が早いかもしれないな。」
ガイツは、右肩を押さえながら痛そうに起き上がった。
しかし、久しぶりに出歩くのか、
これから外に出るのが楽しみでしょうがないといった感じだ。
「聖女様どうだい?立てるか?」
私はゆっくりと起き上がってみた。
少し右の肋骨の辺りが痛かったが、なんとか歩けそうだ。

「イヴ、ガイツもう大丈夫なのか?」
病室から出たところで、医者と話をしていたアリウスがこちらに気付いた。
「ええ、なんとか。」
私は、心配させないよう笑顔を作って答えた。

「医者が言うには、イヴはとんでもない自己回復能力だと驚いていた。」
アリウスも私を見ながら驚いた顔で言った。
きっと医者からとんでもない状態だと聞かされていたのだろう。

私も、目が覚めた時、どんな酷いことになってしまっているのだろうと恐れていた。
それが普通に歩き回っているのだ。
私自身驚いていた。アリウスや医者が驚くのも無理はない。

私はアリウスに、これから二人でシロエルの屋敷に行こうと思っていること話すと、
アリウスもついてくることになり、私達は三人で屋敷へ向かった。


屋敷に着くと、私はあまりの光景に目を疑った。

屋敷の二階部分の大半が吹き飛んでいて、
部屋が外からむき出しの状態になっており、
屋根はほぼ無くなっていた。

「これは・・・?」
私は戸惑いのあまり言葉を失った。

「恐らくイヴ、君がやったんだよ。」
アリウスが悲しそうな、不安そうな顔で言った。

「すごいだろ?これじゃあシロエルでさえひとたまりもないわけだ。」
ガイツは依然嬉しそうに語る。

「シロエルが残した球を見るか?」
アリウスがシロエルだったものに先導する。
そこには、使い魔のものより、2回りも大きな赤黒い球が落ちていた。

私は、片手で持つには少し大変そうなその球に、手を置いてみた。
すると、いつものように左手が赤く輝きだし、
逆に球は少しづつ透明なガラス玉に変わっていった。
やがて、色味がまったく無くなると、粉々に砕けて白い灰になり、
磁石にでも吸い付くように私の左手に溶けていった。

いつも通りそれで終わりかと思いきや、
流れ込んでくる力が大きかったせいか、
私の心臓が破裂しそうなくらいにドキドキし始めた。
次第に息が苦しくなり、眩暈めまいがして、
倒れそうになるのを左手で支えると、
アリウスとガイツが私を気遣って支えてくれた。
その後、一瞬気を失った。

だけど、私はすぐに意識を取り戻した。
アリウスとガイツが私を心配してくれたが、
私はむしろ、以前より力がみなぎっていることを感じていた。
しかし、大事をとって、その日はすぐ宿屋へ戻ることにした。

夜、寝る前に、私は意識を失った時のことを思い出していた。
意識を失ったほんの少しの間に私はあるイメージを見ていたのだ。

ウェナと呼ばれる女性と話す、別の女性。
それが私の視点だった。

言葉は、はっきりと聞き取れなかったが、とか、
などと話していた気がする。

聖母ウェナ様は双子?それとも同じ名前の誰か?
ひょっとすると、私はウェナ様ではなく双子の片割れの力を継いでいたのだろうか?

もしくは、単なる夢と同じで、意味のない言葉の羅列でしかなかったのだろうか。
考えたところで結論は出なかったが、
眠りに就く頃には、すっかり頭の中から消えてしまっていた。
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