華ノ道標-華罪捜査官-

山茶花

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やるべき事

新たな真実

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その頃、銀壱は――


「泥棒!!待てこら!」



銀壱が歩いていた道の向こうから大きな叫び声。
正面から何かを手に持った男が走ってくる。

恐らく男は窃盗犯だ。



「兄ちゃん!そいつ、泥棒!」



住民に言われるがまま、銀壱は男を押さえにかかる。

目の前で窃盗犯を逃がす訳にはいかない。



「待ちなさい!何故逃げる!」

「ぐっ…!」

「物を盗んだのか?」

「金は払ったぞ!」



男は銀壱に取り押さえられながらも、まだ盗みを否定する。
銀壱ももう大人、鍛えた甲斐もあって力はそこらの男性よりも強い。



「では何故逃げる?金が足りないんだろう?」

「知らねえよ…!」



すると追いかけてきた店の男性が先程の出来事を話してくれた。



「お前の払った金じゃこんな上等品買えねえよ!
 ウチは良い物しか置いてねえんだから」

「やはり、足りなかったのですね?」

「ああそうだ。そいつは盗人だよ」



他にも目撃者が居たため、銀壱は現行犯でその男を逮捕した。
右足首に龍の形の傷。こいつは龍華会らしい。


盗難ひとつにしても、犯人を逮捕できたのは成果と言えるだろう。



しかし、実行犯の男たちは盗みの初心者のような振る舞いで、如何にも下っ端。

こんな短期間で数十人と捕まっている。
この調子で捕まっていれば、いつか幹部の元にも捜査の手が及ぶだろう。

それでも幹部たちが捕まらないのは何故なのか。
銀壱は疑問に思っていた。



「俺を捕まえただけでいい気になるなよ…」



龍華会の男はそう吐き捨てて、捜査本部へ送られた。

やはり銀壱には疑問が残った。

本部では本当はどのような捜査が行われているのか。
実は龍華会と華狩は繋がっているのでは無いか…と。



男の輸送を見送った後、銀壱は梅乃たちと合流した。

龍華会の下っ端は捕まえたが、梅乃たちも華狩のアジトはまだ見つけていないようだ。



「銀壱、よく捕まえたな」

「いえ。まだ華狩は……」

「見つからない。でも怪しい屋敷があったんだ」



三人は梅乃たちが矢羽根を見つけた屋敷へ向かった。



そこはごく普通の屋敷で、部屋には人の気配がある。

充分に警戒しながら、訪ねることにした。



――コンコンコン


前田が屋敷の扉を叩く。
中から草履を引きずる音が聞こえた。



「はい、何か御用ですか?」

「夜分に失礼します。今日この御屋敷の近くに、
 怪しい人物は居ませんでしたか?」

「見ていません…」



そう話すのは、梅乃と同じ歳くらいの女の子だ。

少し不気味なあの華狩の女性に似た眼力がある。



そして梅乃は、恐ろしい事に気がついてしまった。


彼女の長い前髪が揺れた瞬間、左瞼にバツ印があり、さらに足元に目を落とすと、足首には龍の印がある。

通常、犬猿の仲と言われた両組織の印を持つ者はいないとされてきた。

しかし、この女の子には何か秘密があるのかもしれない。



「あ、あの…前田さん…」

「大丈夫、分かっている」



小声で二人は話し合う。

梅乃は、これまで感じたことのない恐怖に襲われていた。
見た目は可愛らしい女の子が、極悪に染まっているのかもしれないからだ。



「お嬢さん、君は――」

「あら、お客様?」

「お、お前っ…!」

「ああ、先程の華罪捜査官さんですか」



屋敷の奥から出てきたのは、数時間前に出逢った不気味な華狩の女だった。


そう、ここは、華狩と龍華会が交わる禁断の屋敷である。



前田は考えた。
もう少し奴らを泳がせれば、確実に紫の情報を掴める、と。

そして三人は怪しさに気づいていない振りをして、作戦を練る為にその場を去ることにした。
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