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デレるくらいなら死ぬ
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斉藤達と別れて、二人で家に帰る。と言っても帰るのは佐野の家だ。
朝は一緒に会社に行くことも多いが、二人揃って帰宅するのは初めてだった。
隣を歩く佐野は機嫌が良いようだ。
おそらく一仕事終えた達成感と、どうやら新谷に褒められたらしいので、それがうれしかったのだろう。
それに比べて、自分の機嫌は良いとはいえなかった。
(急に斉藤や松田さんと仲良くなってたな…)
いつもなら、会社内ではさわやか王子シールドの完全武装で隙のない佐野だが、斉藤や松田の前では素の部分を見せていた。
本来なら中村の嫌がらせから解放されて一番喜ぶべきは自分なのだが、どこか心に引っ掛かりを感じる。
(こんなに狭い心でこれから大丈夫なんだろうか、俺は…)
このまま佐野のそばにいたら、もっと器の小さい男になるかもしれない。
佐野はただでさえ、見た目もよく仕事も出来る。
モテる要素が満載の男だ。
ただ、今は本人の性格上、選ぼうと思えば選び放題出来るにも関わらず、選んでいないだけだ。
洲崎は、それを利用して弱みに付け込んでいる。
自分でもあきれる。
仕事では正攻法で攻める、を信条としているけれど、佐野のことに関しては姑息な手を使っていることは否めない。
そもそも大家に嘘までついて合い鍵を作った時点で、どうかしている。
「お前、腹痛いのか?」
いつのまにか、難しい顔をしていたようだ。
心配そうにこちらを見上げる佐野が、たまらなく愛しい。
「…あぁ、腹痛いかも…不安だから、手つないでくれないか?」
またしても正攻法からは遠ざかる。
「バカじゃねぇの!心配して損した」
ふくれっ面をして、ふくらはぎを蹴ってくる。
どうか、これからも蹴るのは俺だけにしてほしい、と思いながら変態的な思考に自分でも苦笑が漏れる。
「笑うな。変態、バーカ」
佐野は悪態をつくと、少し先にあるアパートへ走り出した。
チェーンだけは勘弁してくれ、と洲崎も佐野の後を追った。
*******
日曜日。
にもかかわらず、洲崎は佐野の部屋に一人でいた。
主は会社の設備点検に駆り出され、休日出勤している。
いつものように掃除に精を出している時だった。
外から、ガシャン、という大きな音がした。
何かが倒れたような音だ。
続いて、大家の悲鳴のような声が聞こえてきた。
心配になり急いで一階へ様子を見に行く。
「大家さん、どうしました?」
「洲崎君!ちょうどいいところに!社長さんが倒れてしまったの、助けてもらえないかしら」
玄関から出てきた大家が、慌てたように早口で言う。
連れていかれたのは、庭だった。
そこに、男性と倒れた脚立が見える。
「大家さん、大丈夫ですから。そんな大事にせんでください」
「でも立ち上がれないでしょう?それに音がすごかったじゃない」
幸いなことに、会話が出来る状態で、痛がりながらも地面に座っていた。
植木の剪定中にバランスを崩したようだった。
社長と呼ばれている男性は、植木屋か庭師のような恰好をしていた。
「念のため、救急車呼びましょうか?」
「いやいや、お兄さん、勘弁してくれ。本当に大丈夫だから。落っこちただけでも恥ずかしいのに、救急車呼ばれちゃもっと恥ずかしいよ」
いかにも職人気質という感じだ。
心配をかけまいとしているが、腰をさすっているので痛みがあることは間違いないだろう。
「でも病院は行った方がいいと思います。俺、送りましょうか?」
「そうよ。絶対にその方が良いわ。元々腰の調子良くなかったでしょう?そうしてもらいなさいよ」
おそらく初対面の男にそこまでされることに気後れがあるのだろう、すぐに返事はしてくれない。
「この子、とっても良い子よ。安心して任せられるわ。ごめんね、洲崎君。お願いしてもいいかしら?」
「もちろんです。車お借りしますね」
社長を抱えて、乗ってきたと思われる軽トラックに乗せる。
腰の具合は相当悪かったようで、車に乗っている間も終始、痛みのせいか顔が歪んでいた。
送った先の救急病院で予想通り即入院となり、慌てて病院に来た奥さんと従業員には数えきれないほど感謝の言葉をもらった。
当然のことをしたまでだけれど、人の役に立てたことは素直にうれしい。
帰って大家に結果を伝える。
「本当にありがとうね。やっぱり救急車呼んだ方が良かったわよねぇ。まったく、腕は良いけど昔から頑固なのよ、あの社長さん。巻き込んじゃって、ごめんね。助かったわ」
お礼に大量の羊羹を渡された。
意外にも佐野は羊羹が好きなため、ありがたくいただいた。
「そういえば、お客さんがいらしてるみたいよ?」
誰だろう。
佐野からは、特に来客があるとは聞いていなかった。
階段を上がると、部屋の前に人がいた。
派手な格好の女性と、小さな子供だった。
朝は一緒に会社に行くことも多いが、二人揃って帰宅するのは初めてだった。
隣を歩く佐野は機嫌が良いようだ。
おそらく一仕事終えた達成感と、どうやら新谷に褒められたらしいので、それがうれしかったのだろう。
それに比べて、自分の機嫌は良いとはいえなかった。
(急に斉藤や松田さんと仲良くなってたな…)
いつもなら、会社内ではさわやか王子シールドの完全武装で隙のない佐野だが、斉藤や松田の前では素の部分を見せていた。
本来なら中村の嫌がらせから解放されて一番喜ぶべきは自分なのだが、どこか心に引っ掛かりを感じる。
(こんなに狭い心でこれから大丈夫なんだろうか、俺は…)
このまま佐野のそばにいたら、もっと器の小さい男になるかもしれない。
佐野はただでさえ、見た目もよく仕事も出来る。
モテる要素が満載の男だ。
ただ、今は本人の性格上、選ぼうと思えば選び放題出来るにも関わらず、選んでいないだけだ。
洲崎は、それを利用して弱みに付け込んでいる。
自分でもあきれる。
仕事では正攻法で攻める、を信条としているけれど、佐野のことに関しては姑息な手を使っていることは否めない。
そもそも大家に嘘までついて合い鍵を作った時点で、どうかしている。
「お前、腹痛いのか?」
いつのまにか、難しい顔をしていたようだ。
心配そうにこちらを見上げる佐野が、たまらなく愛しい。
「…あぁ、腹痛いかも…不安だから、手つないでくれないか?」
またしても正攻法からは遠ざかる。
「バカじゃねぇの!心配して損した」
ふくれっ面をして、ふくらはぎを蹴ってくる。
どうか、これからも蹴るのは俺だけにしてほしい、と思いながら変態的な思考に自分でも苦笑が漏れる。
「笑うな。変態、バーカ」
佐野は悪態をつくと、少し先にあるアパートへ走り出した。
チェーンだけは勘弁してくれ、と洲崎も佐野の後を追った。
*******
日曜日。
にもかかわらず、洲崎は佐野の部屋に一人でいた。
主は会社の設備点検に駆り出され、休日出勤している。
いつものように掃除に精を出している時だった。
外から、ガシャン、という大きな音がした。
何かが倒れたような音だ。
続いて、大家の悲鳴のような声が聞こえてきた。
心配になり急いで一階へ様子を見に行く。
「大家さん、どうしました?」
「洲崎君!ちょうどいいところに!社長さんが倒れてしまったの、助けてもらえないかしら」
玄関から出てきた大家が、慌てたように早口で言う。
連れていかれたのは、庭だった。
そこに、男性と倒れた脚立が見える。
「大家さん、大丈夫ですから。そんな大事にせんでください」
「でも立ち上がれないでしょう?それに音がすごかったじゃない」
幸いなことに、会話が出来る状態で、痛がりながらも地面に座っていた。
植木の剪定中にバランスを崩したようだった。
社長と呼ばれている男性は、植木屋か庭師のような恰好をしていた。
「念のため、救急車呼びましょうか?」
「いやいや、お兄さん、勘弁してくれ。本当に大丈夫だから。落っこちただけでも恥ずかしいのに、救急車呼ばれちゃもっと恥ずかしいよ」
いかにも職人気質という感じだ。
心配をかけまいとしているが、腰をさすっているので痛みがあることは間違いないだろう。
「でも病院は行った方がいいと思います。俺、送りましょうか?」
「そうよ。絶対にその方が良いわ。元々腰の調子良くなかったでしょう?そうしてもらいなさいよ」
おそらく初対面の男にそこまでされることに気後れがあるのだろう、すぐに返事はしてくれない。
「この子、とっても良い子よ。安心して任せられるわ。ごめんね、洲崎君。お願いしてもいいかしら?」
「もちろんです。車お借りしますね」
社長を抱えて、乗ってきたと思われる軽トラックに乗せる。
腰の具合は相当悪かったようで、車に乗っている間も終始、痛みのせいか顔が歪んでいた。
送った先の救急病院で予想通り即入院となり、慌てて病院に来た奥さんと従業員には数えきれないほど感謝の言葉をもらった。
当然のことをしたまでだけれど、人の役に立てたことは素直にうれしい。
帰って大家に結果を伝える。
「本当にありがとうね。やっぱり救急車呼んだ方が良かったわよねぇ。まったく、腕は良いけど昔から頑固なのよ、あの社長さん。巻き込んじゃって、ごめんね。助かったわ」
お礼に大量の羊羹を渡された。
意外にも佐野は羊羹が好きなため、ありがたくいただいた。
「そういえば、お客さんがいらしてるみたいよ?」
誰だろう。
佐野からは、特に来客があるとは聞いていなかった。
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