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デレるくらいなら死ぬ
14★
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画期的なアイディアだと思った。
買い物袋を手に下げた洲崎は、目的地に向かいながら自分を褒めていた。
押し寄せる乳首の残像から目を逸らすのではなく、対峙することで克服しようと考えたのだ。
(相手はたかが乳首。しかもアラサーでリーマンの男の乳首だぞ?なにかの間違いに決まってる)
きっと、体内に残っていたアルコールが視覚に影響を及ぼしたに違いないと思った。
だからもう一度良く見てみたら、きっと、なんて事はないただの乳首のはずだ。
洲崎はその説を立証するため、佐野の家に向かっている。
一応電話して、行っても良いか確認したが、
「勝手にしろ」
という一言で電話を切られた。
そっけない反応だが、嫌がっている感じはしなかった。
むしろ嬉しがっているような気がしたが、それは洲崎の願望かもしれない。
佐野の部屋の前に着く。
息を整えてドアを開けると、Tシャツ姿の佐野が見えた。
(良かった、服着てて。初っ端からご対面はまだ心の準備が出来てないからな)
「よう」
平静を装いつつ、夕飯用の食材を冷蔵庫にしまう。
「用事あるんじゃなかったのかよ」
いつもどおり、床に寝そべっていた佐野が少し唇を尖らせて不貞腐れたように話しかけてきた。
「あぁ、急に暇になったんだよ。だから佐野の相手でもしようかなって……!」
自然に会話出来ていると思って油断していた。
何気なく佐野のそれを見てしまった。
(ちょっと待て…こいつ、唇もピンクベージュじゃねぇか!)
今まで特に気にも留めていなかった。
しかし一度意識してしまうと、またしても目が離せなくなった。
柔らかそうな艶をまといながら小さく動くそれは、ずっと見ていても飽きない。
「って、おい。聞いてんのか?」
「ぅえ?あ、ごめん。何か言った?」
「人を暇人扱いすんなって言ったんだよ。てかお前さ、酒抜けて無いんじゃねぇの?なんかボケーっとしてるけど」
「あぁ、そうかもな。ごめんごめん」
(いやいやいや、お前のせいだよ!俺だって、酒のせいであってほしいと思ってるよ!乳首だけじゃなくて唇の残像まで増えたら、俺はどうすりゃ良いんだよ)
「おい、どうした。気でも触れたか?」
気付けば、手にしていた長ネギで頭を叩いていた。
「あっ、いや、ネギは叩くと旨味が増すんだよ」
「ほんとかよ。てか…頭じゃないとダメなのか?」
「そ、そうだな。俺は頭が固いから頭で叩く派かな」
「お前さ、それするの自分ちだけにしとけよ?はたから見たら狂気の沙汰だぞ」
「う、うん。そうだな!以後そうするわ」
少ししんなりとした長ネギをそっと冷蔵庫にしまいながら、佐野に気づかれないよう深呼吸する。
(落ち着け、俺よ。ピンクベージュを恐れるな。そうだ、うちのちび太の肉球だって似たような色じゃないか。肉球だと思えばなんてことないぞ!)
ちび太は実家で飼っている猫だ。
洲崎はいたずら好きのちび太の映像を脳内で再生させる。
かわいい。ちび太はとにかくかわいい。
「なぁ、今日のご飯なに?」
「今日は鍋…ヒッ!」
振り向くと、すぐそばに佐野がいた。
驚いて喉からおかしな音が出た。
「あ?お前、幽霊でも見たような顔してんな」
「お、俺の後ろに立つなよ!びっくりするだろ」
「ふはっ、どこぞのスナイパーじゃあるまいし」
佐野は水を飲みに来ただけのようで、水道水をゴクゴク飲んでいる。
洲崎は水を飲む唇をじっと見ている自分に気づき、慌てて目を逸らした。
(かわいい…いやいやいや!おかしい。おかしいって!目の前にいるのは水道水をがぶ飲みするカルキを恐れないたくましい男だぞ?かわいいはずない)
もう一度、その唇を見る。
薄くて柔らかそうな唇に、水が吸い込まれていくだけの様子だが、ずっと見ていられる。
「そんなに飲みたいのか?しょうがねぇな、やるよ」
佐野は何を勘違いしたのか、グラスを寄越してきた。
「お、おう。サンキュー」
水が飲みたかったわけではないが、せっかく佐野からいただいたものだから、とありがたく頂戴する。
佐野の唇が触れていたグラスだと思うと、妙な気持ちが芽生えそうだったが、その気持ちごと水道水で流しこむ。
洲崎は、基本的に回し飲みのような行為は避けたいタイプだ。
けれど、佐野に対しては不快感が全くなかった。
そして、いつもより水が美味しく感じるのは、先程芽生えかけた気持ちと関係があるのだろうか。
「な。水道水も悪くねぇだろ?」
水を飲む姿を隣で見ていた佐野が自慢気に笑った。
唇の端から八重歯がのぞいている。
決して会社では見せない、無邪気な笑顔だった。
その瞬間、心臓からドクっと音がした。
血液が体中を走って体温が上がる。
慌てて目を逸らした。
自分がどんな顔をしているのか、耳の熱さで分かる。
気が動転した洲崎はとりあえず水をおかわりすることにした。
「そんなに気に入ったのか?」
「あぁ!めちゃくちゃうまいな!ハマりそうだ」
「さすがに水道水にハマりはしねぇだろ。バッカじゃねぇの。お前やっぱ頭おかしいわ」
また佐野が笑った。
胸が苦しい。
さすがに理解してしまった。
乳首の残像も、唇から目が離せないのも、笑顔を見て苦しくなるのも、どれもこれもそれが原因だ。
(俺、佐野が好きだ…)
買い物袋を手に下げた洲崎は、目的地に向かいながら自分を褒めていた。
押し寄せる乳首の残像から目を逸らすのではなく、対峙することで克服しようと考えたのだ。
(相手はたかが乳首。しかもアラサーでリーマンの男の乳首だぞ?なにかの間違いに決まってる)
きっと、体内に残っていたアルコールが視覚に影響を及ぼしたに違いないと思った。
だからもう一度良く見てみたら、きっと、なんて事はないただの乳首のはずだ。
洲崎はその説を立証するため、佐野の家に向かっている。
一応電話して、行っても良いか確認したが、
「勝手にしろ」
という一言で電話を切られた。
そっけない反応だが、嫌がっている感じはしなかった。
むしろ嬉しがっているような気がしたが、それは洲崎の願望かもしれない。
佐野の部屋の前に着く。
息を整えてドアを開けると、Tシャツ姿の佐野が見えた。
(良かった、服着てて。初っ端からご対面はまだ心の準備が出来てないからな)
「よう」
平静を装いつつ、夕飯用の食材を冷蔵庫にしまう。
「用事あるんじゃなかったのかよ」
いつもどおり、床に寝そべっていた佐野が少し唇を尖らせて不貞腐れたように話しかけてきた。
「あぁ、急に暇になったんだよ。だから佐野の相手でもしようかなって……!」
自然に会話出来ていると思って油断していた。
何気なく佐野のそれを見てしまった。
(ちょっと待て…こいつ、唇もピンクベージュじゃねぇか!)
今まで特に気にも留めていなかった。
しかし一度意識してしまうと、またしても目が離せなくなった。
柔らかそうな艶をまといながら小さく動くそれは、ずっと見ていても飽きない。
「って、おい。聞いてんのか?」
「ぅえ?あ、ごめん。何か言った?」
「人を暇人扱いすんなって言ったんだよ。てかお前さ、酒抜けて無いんじゃねぇの?なんかボケーっとしてるけど」
「あぁ、そうかもな。ごめんごめん」
(いやいやいや、お前のせいだよ!俺だって、酒のせいであってほしいと思ってるよ!乳首だけじゃなくて唇の残像まで増えたら、俺はどうすりゃ良いんだよ)
「おい、どうした。気でも触れたか?」
気付けば、手にしていた長ネギで頭を叩いていた。
「あっ、いや、ネギは叩くと旨味が増すんだよ」
「ほんとかよ。てか…頭じゃないとダメなのか?」
「そ、そうだな。俺は頭が固いから頭で叩く派かな」
「お前さ、それするの自分ちだけにしとけよ?はたから見たら狂気の沙汰だぞ」
「う、うん。そうだな!以後そうするわ」
少ししんなりとした長ネギをそっと冷蔵庫にしまいながら、佐野に気づかれないよう深呼吸する。
(落ち着け、俺よ。ピンクベージュを恐れるな。そうだ、うちのちび太の肉球だって似たような色じゃないか。肉球だと思えばなんてことないぞ!)
ちび太は実家で飼っている猫だ。
洲崎はいたずら好きのちび太の映像を脳内で再生させる。
かわいい。ちび太はとにかくかわいい。
「なぁ、今日のご飯なに?」
「今日は鍋…ヒッ!」
振り向くと、すぐそばに佐野がいた。
驚いて喉からおかしな音が出た。
「あ?お前、幽霊でも見たような顔してんな」
「お、俺の後ろに立つなよ!びっくりするだろ」
「ふはっ、どこぞのスナイパーじゃあるまいし」
佐野は水を飲みに来ただけのようで、水道水をゴクゴク飲んでいる。
洲崎は水を飲む唇をじっと見ている自分に気づき、慌てて目を逸らした。
(かわいい…いやいやいや!おかしい。おかしいって!目の前にいるのは水道水をがぶ飲みするカルキを恐れないたくましい男だぞ?かわいいはずない)
もう一度、その唇を見る。
薄くて柔らかそうな唇に、水が吸い込まれていくだけの様子だが、ずっと見ていられる。
「そんなに飲みたいのか?しょうがねぇな、やるよ」
佐野は何を勘違いしたのか、グラスを寄越してきた。
「お、おう。サンキュー」
水が飲みたかったわけではないが、せっかく佐野からいただいたものだから、とありがたく頂戴する。
佐野の唇が触れていたグラスだと思うと、妙な気持ちが芽生えそうだったが、その気持ちごと水道水で流しこむ。
洲崎は、基本的に回し飲みのような行為は避けたいタイプだ。
けれど、佐野に対しては不快感が全くなかった。
そして、いつもより水が美味しく感じるのは、先程芽生えかけた気持ちと関係があるのだろうか。
「な。水道水も悪くねぇだろ?」
水を飲む姿を隣で見ていた佐野が自慢気に笑った。
唇の端から八重歯がのぞいている。
決して会社では見せない、無邪気な笑顔だった。
その瞬間、心臓からドクっと音がした。
血液が体中を走って体温が上がる。
慌てて目を逸らした。
自分がどんな顔をしているのか、耳の熱さで分かる。
気が動転した洲崎はとりあえず水をおかわりすることにした。
「そんなに気に入ったのか?」
「あぁ!めちゃくちゃうまいな!ハマりそうだ」
「さすがに水道水にハマりはしねぇだろ。バッカじゃねぇの。お前やっぱ頭おかしいわ」
また佐野が笑った。
胸が苦しい。
さすがに理解してしまった。
乳首の残像も、唇から目が離せないのも、笑顔を見て苦しくなるのも、どれもこれもそれが原因だ。
(俺、佐野が好きだ…)
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