10 / 33
デレるくらいなら死ぬ
10★
しおりを挟む
朝になって、目覚めた佐野から胸ぐらを掴まれて揺すられるはめになったのだが、それも今となっては良い思い出だ。
買い物をすませてスーパーを出ると、軽い足取りで佐野の家へ急ぐ。
(佐野が餃子好きで良かった)
今朝、再び佐野の家に行くと伝えた時も本当は不安だった。
全力で拒否されたら諦めざるを得なかったけれど、餃子に対する佐野の反応は悪くなかったようだった。
まだ知らないことばかりだ。
好きなものも知らないし、嫌いなものも知らない。
これから少しずつ佐野の色々なことが知れると思うと、うれしくてしょうがない。
佐野の家に着いた。
まだ少し緊張するが、あえてここはインターホンを押さずに合鍵を使うことにする。
(チェーンはかかって…ない!良かった)
心の中でガッツポーズしつつ、平静を装って部屋に入った。
「お疲れ。遅くなって悪かったな、餃子作るからちょっと待っててな…って服着ろ」
佐野はまたパンツ一丁で座布団に寝転がっていた。
家で服を着る習慣がないようだ。
家でもしっかり着る派の洲崎にはにわかに信じがたい。
おまけに風呂上がりのようで、なぜか見てはいけないような気がして目のやり場に困る。
「あ?だから着てるって」
「だからパンツだけだろ。はい、これ」
Tシャツを渡して無理矢理着させる。
佐野はしぶしぶ着ると、また寝転がってテレビを見始めた。
一応、気を遣ってくれたのか、ビールはまだ飲んでいないようだ。
(ツンツンしてるけど、かわいいところがあるじゃないか。早く飯作ってやんないとな)
料理は得意だが、味はもちろん早さに関しても自信がある。
今朝、あらかじめ調理道具を密かに持ち込んでいたから準備は万端だ。
米を炊飯器にセットして炊き上がる頃には、餃子はもちろん副菜やスープまでなんとか完成させた。
香ばしく焼き上がった餃子を机に並べると、寝転がっていた佐野も起き上がって早く食べたそうにしている。
「今日もお疲れ。はい、かんぱーい」
「ん」
缶ビールで乾杯すると、佐野はゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいる。
よほどビールが好きなんだな、と洲崎は少し可笑しくなる。
いよいよ佐野が餃子に手を伸ばした。
そして王子らしくない大きな口を開けて頬張っている。
「どうだ?」
「…うまい」
それは良かった、と平坦に言ったものの内心では相当うれしかった。
「ちゃんと野菜も食べろよ」
「食べてるわ」
「嘘つけ、餃子ばっか食べてるだろ」
「お母さんかよ」
「お母さんだよ」
「ぶっ!お前こそ嘘つけよ」
佐野が吹き出したことがうれしくて、動画に収めたい衝動に駆られたが、その感情は表に出さないように努めた。
いつも酒のつまみしか食べていないようだったので不安があったが、箸がすすんでいるようでほっとした。
あっという間に全て平らげて、佐野は食事に満足しているようだった。
その様子を見ると、洲崎も満たされた。
後片付けをしている間に、また寝転がっていた佐野がうとうとし始めている。
「おい、食べてすぐ寝ると牛になるぞ」
「ん…もう牛で良い…」
(子どもかよ。まぁ、佐野の場合少しくらい牛に近づいても問題ないか)
ただ、平べったい座布団の上で寝るのはさすがに健康上いただけない。
「ベッドあるだろ。寝るんならベッドで寝ろよ」
「いやだ」
「駄々こねるならお姫様だっこで運ぶぞ?」
お姫様だっこが嫌だったのか、佐野はしかめ面で立ち上がると自らベッドに移動した。
もちろん冗談で言ったのだが少し寂しさを覚える。
(なんだよ…せっかく運んでやろうと思ったのに。佐野くらいの重さだったら出来るのに…って同い年の男にお姫様だっこはどうなんだ)
あまりにも行き過ぎた世話は嫌がられる。
これまでの経験からそれは実証済みだ。
(でも佐野の場合、ものすごく眠たい時とか面倒くさい時に提案すればイケるんじゃないか…?ってイケるって言い方はおかしいな)
拒否されるとかえって無性にお姫様だっこがしたくなってきたが、それは今後の目標として設定しておくことにした。
帰り支度をしながら寝ている佐野に声をかける。
「佐野、俺そろそろ帰るからな」
「ん」
「明日の朝また来るからな」
「ん」
「明日の夜も来るからな」
「ん」
「毎日来るからな」
「ん」
(良いのかよ!こいつ眠たい時のガードゆるすぎるけど大丈夫か?俺が変なおじさんだったらどうするんだ。でも俺は信頼されてるってことか?まぁ、それなら良いけど…)
すでに夢の中にいる佐野は、無防備に寝顔を晒している。
(あれ…?心臓というかみぞおちあたりが苦しい…もしかしてこれが母性ってやつか…?)
心の中で何かが溢れそうになった気がした。
おやすみ、と声をかけて電気を消す。
充実した一日だった。
今から誰もいない家に帰ると思うと寂しい。
いつか佐野がもっと心を開いてくれたなら、泊まって夜通し話をしたりするのも面白そうだな、と思う。
(とりあえず、寝ぼけてたけどまた来る約束は取り付けたから良しとしよう。さて、次は何を作ろうかな)
体は疲れているけれど、気持ちのいい疲れだ。
毎日この心地良さを味わえるなら、こんなにうれしいことはない。
満ち足りた気分で洲崎は夜道を帰った。
買い物をすませてスーパーを出ると、軽い足取りで佐野の家へ急ぐ。
(佐野が餃子好きで良かった)
今朝、再び佐野の家に行くと伝えた時も本当は不安だった。
全力で拒否されたら諦めざるを得なかったけれど、餃子に対する佐野の反応は悪くなかったようだった。
まだ知らないことばかりだ。
好きなものも知らないし、嫌いなものも知らない。
これから少しずつ佐野の色々なことが知れると思うと、うれしくてしょうがない。
佐野の家に着いた。
まだ少し緊張するが、あえてここはインターホンを押さずに合鍵を使うことにする。
(チェーンはかかって…ない!良かった)
心の中でガッツポーズしつつ、平静を装って部屋に入った。
「お疲れ。遅くなって悪かったな、餃子作るからちょっと待っててな…って服着ろ」
佐野はまたパンツ一丁で座布団に寝転がっていた。
家で服を着る習慣がないようだ。
家でもしっかり着る派の洲崎にはにわかに信じがたい。
おまけに風呂上がりのようで、なぜか見てはいけないような気がして目のやり場に困る。
「あ?だから着てるって」
「だからパンツだけだろ。はい、これ」
Tシャツを渡して無理矢理着させる。
佐野はしぶしぶ着ると、また寝転がってテレビを見始めた。
一応、気を遣ってくれたのか、ビールはまだ飲んでいないようだ。
(ツンツンしてるけど、かわいいところがあるじゃないか。早く飯作ってやんないとな)
料理は得意だが、味はもちろん早さに関しても自信がある。
今朝、あらかじめ調理道具を密かに持ち込んでいたから準備は万端だ。
米を炊飯器にセットして炊き上がる頃には、餃子はもちろん副菜やスープまでなんとか完成させた。
香ばしく焼き上がった餃子を机に並べると、寝転がっていた佐野も起き上がって早く食べたそうにしている。
「今日もお疲れ。はい、かんぱーい」
「ん」
缶ビールで乾杯すると、佐野はゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいる。
よほどビールが好きなんだな、と洲崎は少し可笑しくなる。
いよいよ佐野が餃子に手を伸ばした。
そして王子らしくない大きな口を開けて頬張っている。
「どうだ?」
「…うまい」
それは良かった、と平坦に言ったものの内心では相当うれしかった。
「ちゃんと野菜も食べろよ」
「食べてるわ」
「嘘つけ、餃子ばっか食べてるだろ」
「お母さんかよ」
「お母さんだよ」
「ぶっ!お前こそ嘘つけよ」
佐野が吹き出したことがうれしくて、動画に収めたい衝動に駆られたが、その感情は表に出さないように努めた。
いつも酒のつまみしか食べていないようだったので不安があったが、箸がすすんでいるようでほっとした。
あっという間に全て平らげて、佐野は食事に満足しているようだった。
その様子を見ると、洲崎も満たされた。
後片付けをしている間に、また寝転がっていた佐野がうとうとし始めている。
「おい、食べてすぐ寝ると牛になるぞ」
「ん…もう牛で良い…」
(子どもかよ。まぁ、佐野の場合少しくらい牛に近づいても問題ないか)
ただ、平べったい座布団の上で寝るのはさすがに健康上いただけない。
「ベッドあるだろ。寝るんならベッドで寝ろよ」
「いやだ」
「駄々こねるならお姫様だっこで運ぶぞ?」
お姫様だっこが嫌だったのか、佐野はしかめ面で立ち上がると自らベッドに移動した。
もちろん冗談で言ったのだが少し寂しさを覚える。
(なんだよ…せっかく運んでやろうと思ったのに。佐野くらいの重さだったら出来るのに…って同い年の男にお姫様だっこはどうなんだ)
あまりにも行き過ぎた世話は嫌がられる。
これまでの経験からそれは実証済みだ。
(でも佐野の場合、ものすごく眠たい時とか面倒くさい時に提案すればイケるんじゃないか…?ってイケるって言い方はおかしいな)
拒否されるとかえって無性にお姫様だっこがしたくなってきたが、それは今後の目標として設定しておくことにした。
帰り支度をしながら寝ている佐野に声をかける。
「佐野、俺そろそろ帰るからな」
「ん」
「明日の朝また来るからな」
「ん」
「明日の夜も来るからな」
「ん」
「毎日来るからな」
「ん」
(良いのかよ!こいつ眠たい時のガードゆるすぎるけど大丈夫か?俺が変なおじさんだったらどうするんだ。でも俺は信頼されてるってことか?まぁ、それなら良いけど…)
すでに夢の中にいる佐野は、無防備に寝顔を晒している。
(あれ…?心臓というかみぞおちあたりが苦しい…もしかしてこれが母性ってやつか…?)
心の中で何かが溢れそうになった気がした。
おやすみ、と声をかけて電気を消す。
充実した一日だった。
今から誰もいない家に帰ると思うと寂しい。
いつか佐野がもっと心を開いてくれたなら、泊まって夜通し話をしたりするのも面白そうだな、と思う。
(とりあえず、寝ぼけてたけどまた来る約束は取り付けたから良しとしよう。さて、次は何を作ろうかな)
体は疲れているけれど、気持ちのいい疲れだ。
毎日この心地良さを味わえるなら、こんなにうれしいことはない。
満ち足りた気分で洲崎は夜道を帰った。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる