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デレるくらいなら死ぬ
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「朝だぞ、起きろ」
「…へ?」
カーテンを開ける音がして部屋が一気に明るくなった。
そして、なぜか洲崎がいる。
「なんっでお前がいるんだ!」
「なんでって、来るって言ってたろ」
洲崎はいけしゃあしゃあと言った。
そのいけしゃあしゃあ具合に、朝一にも関わらず急速に頭に血が昇る。
「なんで勝手に入ってんだよ!てかどうやって入ったんだよ?」
「どうって、鍵開けて玄関から入りましたけど。さすがに寝る時はチェーン掛けた方が良いぞ?」
「お前が言うな。てか、なんで鍵持ってんだ…?」
「合鍵作ったからに決まってるだろ。っていうかおととい片付けたばっかりなのにもう散らかってるな」
「そんな散らかってねぇわ、って話を逸らすな。聞き捨てならないことをサラッと言うな!」
合鍵はあの日、買い物をしに外に出た時に作ったようだ。
しかも事前に大家に許可を得たらしく、そのちゃっかり具合に背筋が寒くなった。
「朝からキンキン喚くなよ、近所迷惑だろ。細かいことは良いから、飯食え。会社遅れるぞ」
「良くねぇわ」
と言いながらも目の前に用意されていたパンとヨーグルトとコーヒーをいただく。
いつも朝食は食べずに水を飲むだけだったが、久しぶりのちゃんとした朝食は新鮮で、体に栄養が行き渡る気がした。
(パンってこんなにうまかったかな…いや、待て待て!これどういう状況…?)
洲崎は先日言ったとおり、せっせとゴミ出しをしている。
さらには勝手に洗濯までし始めた。
しかもその様子は鼻歌が飛び出しそうなほど上機嫌なのが見て分かる。
それを見ながら朝食を食べる自分。
違和感しかない。
おととい、洲崎からおかしな提案をされ苦渋の決断を迫られた。
本性をバラされ会社を辞めるか、バラさないかわりに世話をされるか。
真澄は後者を選んだ。
選んだ時の洲崎のうれしそうな顔といったら、見ていて憐れみを覚える程だった。
そして今、それを後悔している。
(マジでこいつ人の世話が好きなだけなのか…?理解ができなさすぎて怖いんですけど。いや、本当に怖いんですけど。あー、変なのと関わっちゃったな…)
ただでさえ憂鬱で仕方ない月曜の朝が、いつにも増して憂鬱すぎる。
そして、そんなことお構いなしに洲崎が上機嫌なのが余計に腹が立つ。
「よし、準備できたな。会社行くぞ」
「うっせ、勝手に仕切るな」
文句を言いながら家を出ると一階に住む大家が掃き掃除をしていた。
「おはようございます」
「あらあら、今日は早いのね。佐野くん、私今まで全然気づかなくってごめんなさいね。何かあったらいつでも言って。でも良いお友達がいるから安心ねぇ」
「?」
一体何のことだろうか、と真澄の頭は疑問符で埋め尽くされた。
すると、洲崎が代わりに応えた。
「ありがとうございます。でも俺がついてるんで、ご心配なく。じゃあ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
洲崎は笑顔で大家に挨拶している。
「お前、大家さんになに言った?」
「あぁ、鍵作る時に。お前が病弱で時々寝込んだりすることあって、友達の俺が面倒みるから鍵作らせてってな」
「ぁあ!?誰が友達だ?俺はこんな頭のおかしい詐欺師まがいの変態家事フェチ野郎と友達になった覚えはないね」
「ふはっ!お前、よく朝からそんなに毒吐けるな」
罵ったにもかかわらず、言われた本人は楽しそうにしている。
思い返してみると、洲崎はおとといからこんな調子だ。
真澄がいくら罵っても、無愛想にしても、言い返したりはするが怒ったり不機嫌な様子は全くなかった。
(つくづく意味不明な男だな…ただの世話好き変態だとしても、油断はできねぇよな。サイコパスの可能性もあるし。でも俺に近づいてメリットなんかあるか…?)
考えてもわからない。
いつのまにか歩きながら、うーん、と唸り声を出していた。
「どうした?熱でもあるのか?」
突然、大きな手が額に当てられた。
その掌が温かく感じるから熱はないはずだ。
「ねぇよ。てか成人男性が成人男性に対してお母さんみたいなことするな!」
恥ずかしげもなく熱を計ろうとしてくるその距離感に少し驚いて、手を振り払った。
「あ、ごめんごめん。癖なんだよなぁ。それにしても佐野のおでこ、つるつるしてんなぁ」
「ぁあ!?ハゲてるって言いたいのか?」
「いや、違う違う!なんかこう、なだらかというか剥きたてのゆでたまごみたいで触りたくなるというか…」
「おい…それ完全に馬鹿にしてるよな?」
俺のおでこは絶対にゆでたまごじゃない。
腹が立って洲崎の肩に拳を当てる。
しかしイメージに違わない、服の上からでも分かるしっかりとした筋肉の硬い感触に余計に腹が立った。
「痛いな!馬鹿にしてるんじゃないって。本当にお前、口は悪いし凶暴だな」
「黙れ、サイコ家政夫」
「そのサイコ家政夫なんだけど、今日は仕事が早く終わる予定だから、またお前んち寄るから」
「なっ!?」
「晩飯は、お前の大好きなビールに合う餃子でも作るかな」
「餃子…」
餃子なら仕方ない。
仕方ないから自分も早く帰ろう、と真澄は思った。
「…へ?」
カーテンを開ける音がして部屋が一気に明るくなった。
そして、なぜか洲崎がいる。
「なんっでお前がいるんだ!」
「なんでって、来るって言ってたろ」
洲崎はいけしゃあしゃあと言った。
そのいけしゃあしゃあ具合に、朝一にも関わらず急速に頭に血が昇る。
「なんで勝手に入ってんだよ!てかどうやって入ったんだよ?」
「どうって、鍵開けて玄関から入りましたけど。さすがに寝る時はチェーン掛けた方が良いぞ?」
「お前が言うな。てか、なんで鍵持ってんだ…?」
「合鍵作ったからに決まってるだろ。っていうかおととい片付けたばっかりなのにもう散らかってるな」
「そんな散らかってねぇわ、って話を逸らすな。聞き捨てならないことをサラッと言うな!」
合鍵はあの日、買い物をしに外に出た時に作ったようだ。
しかも事前に大家に許可を得たらしく、そのちゃっかり具合に背筋が寒くなった。
「朝からキンキン喚くなよ、近所迷惑だろ。細かいことは良いから、飯食え。会社遅れるぞ」
「良くねぇわ」
と言いながらも目の前に用意されていたパンとヨーグルトとコーヒーをいただく。
いつも朝食は食べずに水を飲むだけだったが、久しぶりのちゃんとした朝食は新鮮で、体に栄養が行き渡る気がした。
(パンってこんなにうまかったかな…いや、待て待て!これどういう状況…?)
洲崎は先日言ったとおり、せっせとゴミ出しをしている。
さらには勝手に洗濯までし始めた。
しかもその様子は鼻歌が飛び出しそうなほど上機嫌なのが見て分かる。
それを見ながら朝食を食べる自分。
違和感しかない。
おととい、洲崎からおかしな提案をされ苦渋の決断を迫られた。
本性をバラされ会社を辞めるか、バラさないかわりに世話をされるか。
真澄は後者を選んだ。
選んだ時の洲崎のうれしそうな顔といったら、見ていて憐れみを覚える程だった。
そして今、それを後悔している。
(マジでこいつ人の世話が好きなだけなのか…?理解ができなさすぎて怖いんですけど。いや、本当に怖いんですけど。あー、変なのと関わっちゃったな…)
ただでさえ憂鬱で仕方ない月曜の朝が、いつにも増して憂鬱すぎる。
そして、そんなことお構いなしに洲崎が上機嫌なのが余計に腹が立つ。
「よし、準備できたな。会社行くぞ」
「うっせ、勝手に仕切るな」
文句を言いながら家を出ると一階に住む大家が掃き掃除をしていた。
「おはようございます」
「あらあら、今日は早いのね。佐野くん、私今まで全然気づかなくってごめんなさいね。何かあったらいつでも言って。でも良いお友達がいるから安心ねぇ」
「?」
一体何のことだろうか、と真澄の頭は疑問符で埋め尽くされた。
すると、洲崎が代わりに応えた。
「ありがとうございます。でも俺がついてるんで、ご心配なく。じゃあ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
洲崎は笑顔で大家に挨拶している。
「お前、大家さんになに言った?」
「あぁ、鍵作る時に。お前が病弱で時々寝込んだりすることあって、友達の俺が面倒みるから鍵作らせてってな」
「ぁあ!?誰が友達だ?俺はこんな頭のおかしい詐欺師まがいの変態家事フェチ野郎と友達になった覚えはないね」
「ふはっ!お前、よく朝からそんなに毒吐けるな」
罵ったにもかかわらず、言われた本人は楽しそうにしている。
思い返してみると、洲崎はおとといからこんな調子だ。
真澄がいくら罵っても、無愛想にしても、言い返したりはするが怒ったり不機嫌な様子は全くなかった。
(つくづく意味不明な男だな…ただの世話好き変態だとしても、油断はできねぇよな。サイコパスの可能性もあるし。でも俺に近づいてメリットなんかあるか…?)
考えてもわからない。
いつのまにか歩きながら、うーん、と唸り声を出していた。
「どうした?熱でもあるのか?」
突然、大きな手が額に当てられた。
その掌が温かく感じるから熱はないはずだ。
「ねぇよ。てか成人男性が成人男性に対してお母さんみたいなことするな!」
恥ずかしげもなく熱を計ろうとしてくるその距離感に少し驚いて、手を振り払った。
「あ、ごめんごめん。癖なんだよなぁ。それにしても佐野のおでこ、つるつるしてんなぁ」
「ぁあ!?ハゲてるって言いたいのか?」
「いや、違う違う!なんかこう、なだらかというか剥きたてのゆでたまごみたいで触りたくなるというか…」
「おい…それ完全に馬鹿にしてるよな?」
俺のおでこは絶対にゆでたまごじゃない。
腹が立って洲崎の肩に拳を当てる。
しかしイメージに違わない、服の上からでも分かるしっかりとした筋肉の硬い感触に余計に腹が立った。
「痛いな!馬鹿にしてるんじゃないって。本当にお前、口は悪いし凶暴だな」
「黙れ、サイコ家政夫」
「そのサイコ家政夫なんだけど、今日は仕事が早く終わる予定だから、またお前んち寄るから」
「なっ!?」
「晩飯は、お前の大好きなビールに合う餃子でも作るかな」
「餃子…」
餃子なら仕方ない。
仕方ないから自分も早く帰ろう、と真澄は思った。
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