デレるくらいなら死ぬ

波辺 枦々

文字の大きさ
上 下
7 / 33
デレるくらいなら死ぬ

7☆

しおりを挟む
「朝だぞ、起きろ」
「…へ?」

カーテンを開ける音がして部屋が一気に明るくなった。
そして、なぜか洲崎がいる。

「なんっでお前がいるんだ!」
「なんでって、来るって言ってたろ」

洲崎はいけしゃあしゃあと言った。
そのいけしゃあしゃあ具合に、朝一にも関わらず急速に頭に血が昇る。

「なんで勝手に入ってんだよ!てかどうやって入ったんだよ?」
「どうって、鍵開けて玄関から入りましたけど。さすがに寝る時はチェーン掛けた方が良いぞ?」
「お前が言うな。てか、なんで鍵持ってんだ…?」
「合鍵作ったからに決まってるだろ。っていうかおととい片付けたばっかりなのにもう散らかってるな」
「そんな散らかってねぇわ、って話を逸らすな。聞き捨てならないことをサラッと言うな!」

合鍵はあの日、買い物をしに外に出た時に作ったようだ。
しかも事前に大家に許可を得たらしく、そのちゃっかり具合に背筋が寒くなった。

「朝からキンキン喚くなよ、近所迷惑だろ。細かいことは良いから、飯食え。会社遅れるぞ」
「良くねぇわ」

と言いながらも目の前に用意されていたパンとヨーグルトとコーヒーをいただく。
いつも朝食は食べずに水を飲むだけだったが、久しぶりのちゃんとした朝食は新鮮で、体に栄養が行き渡る気がした。

(パンってこんなにうまかったかな…いや、待て待て!これどういう状況…?)

洲崎は先日言ったとおり、せっせとゴミ出しをしている。
さらには勝手に洗濯までし始めた。
しかもその様子は鼻歌が飛び出しそうなほど上機嫌なのが見て分かる。
それを見ながら朝食を食べる自分。
違和感しかない。



おととい、洲崎からおかしな提案をされ苦渋の決断を迫られた。
本性をバラされ会社を辞めるか、バラさないかわりに世話をされるか。

真澄は後者を選んだ。
選んだ時の洲崎のうれしそうな顔といったら、見ていて憐れみを覚える程だった。
そして今、それを後悔している。

(マジでこいつ人の世話が好きなだけなのか…?理解ができなさすぎて怖いんですけど。いや、本当に怖いんですけど。あー、変なのと関わっちゃったな…)

ただでさえ憂鬱で仕方ない月曜の朝が、いつにも増して憂鬱すぎる。
そして、そんなことお構いなしに洲崎が上機嫌なのが余計に腹が立つ。

「よし、準備できたな。会社行くぞ」
「うっせ、勝手に仕切るな」

文句を言いながら家を出ると一階に住む大家が掃き掃除をしていた。

「おはようございます」
「あらあら、今日は早いのね。佐野くん、私今まで全然気づかなくってごめんなさいね。何かあったらいつでも言って。でも良いお友達がいるから安心ねぇ」
「?」

一体何のことだろうか、と真澄の頭は疑問符で埋め尽くされた。
すると、洲崎が代わりに応えた。

「ありがとうございます。でも俺がついてるんで、ご心配なく。じゃあ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」

洲崎は笑顔で大家に挨拶している。

「お前、大家さんになに言った?」
「あぁ、鍵作る時に。お前が病弱で時々寝込んだりすることあって、友達の俺が面倒みるから鍵作らせてってな」
「ぁあ!?誰が友達だ?俺はこんな頭のおかしい詐欺師まがいの変態家事フェチ野郎と友達になった覚えはないね」
「ふはっ!お前、よく朝からそんなに毒吐けるな」

罵ったにもかかわらず、言われた本人は楽しそうにしている。
思い返してみると、洲崎はおとといからこんな調子だ。
真澄がいくら罵っても、無愛想にしても、言い返したりはするが怒ったり不機嫌な様子は全くなかった。

(つくづく意味不明な男だな…ただの世話好き変態だとしても、油断はできねぇよな。サイコパスの可能性もあるし。でも俺に近づいてメリットなんかあるか…?)

考えてもわからない。
いつのまにか歩きながら、うーん、と唸り声を出していた。

「どうした?熱でもあるのか?」

突然、大きな手が額に当てられた。
その掌が温かく感じるから熱はないはずだ。

「ねぇよ。てか成人男性が成人男性に対してお母さんみたいなことするな!」

恥ずかしげもなく熱を計ろうとしてくるその距離感に少し驚いて、手を振り払った。

「あ、ごめんごめん。癖なんだよなぁ。それにしても佐野のおでこ、つるつるしてんなぁ」
「ぁあ!?ハゲてるって言いたいのか?」
「いや、違う違う!なんかこう、なだらかというか剥きたてのゆでたまごみたいで触りたくなるというか…」
「おい…それ完全に馬鹿にしてるよな?」

俺のおでこは絶対にゆでたまごじゃない。
腹が立って洲崎の肩に拳を当てる。
しかしイメージに違わない、服の上からでも分かるしっかりとした筋肉の硬い感触に余計に腹が立った。

「痛いな!馬鹿にしてるんじゃないって。本当にお前、口は悪いし凶暴だな」
「黙れ、サイコ家政夫」
「そのサイコ家政夫なんだけど、今日は仕事が早く終わる予定だから、またお前んち寄るから」
「なっ!?」
「晩飯は、お前の大好きなビールに合う餃子でも作るかな」
「餃子…」

餃子なら仕方ない。
仕方ないから自分も早く帰ろう、と真澄は思った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...