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デレるくらいなら死ぬ
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「うぅ、頭いってぇ…」
痛みは一度感じてしまうと、無かったことには出来ないようで、真澄のこめかみをザクザクと刺すように攻撃してくる。
そして体が重い。
二日酔いの感覚が久しぶりすぎて、懐かしささえ覚える。
カーテンの隙間から差す光の強さから、もう昼に近い時間だと分かる。
違和感を感じて起き上がると、パンツ一丁ではなく、ワイシャツにスラックスという格好だった。
座布団を敷いた床に雑魚寝、といういつもの就寝スタイルは変わらなかったが、珍しく布団を被っていたようだ。
(あれ?昨日どうやって帰ったんだっけ…)
昨夜は同期の洲崎と飲んでいたはずだ。
楽しかった記憶がある。
しかし、その後のことを思い出そうとしても、記憶と思考が頭の中でとっ散らかっていて思い出せない。
しばらくぼーっとしていると、背後で物音がした。
(こんな時にゴキブリか?勘弁してくれ…)
今の状態で、最も体力を消耗するあの虫との格闘は避けたい。
夢であって欲しい。
きっと夢だな、そうだ、もう一回寝よう、と寝る体勢に戻ろうとした時だった。
「おはよう」
突然の声に振り返る。
「うわ―――――――――――!!!」
洲崎がいた。
なぜ?
うちに?
どうして?
見られた。
汚い部屋も、大量の空き缶も、ぺちゃんこの座布団も。
だらしない自分の正体が、全部。
終わった。
もう、この世の終わりだ。
とっさに布団にもぐる。
夢であってくれ。
お願いだから。
「ちょ、おいおい!大丈夫か?どうした、佐野」
洲崎が布団ごと揺さぶってくる。
真澄は嫌でも確信した。
残念だけど、これは夢じゃない。
現実に戻ると、無性に怒りが湧いてきた。
「おーい、佐野?」
「…せぇ」
「え?どうした?」
「…せぇっつってんだよ」
「ん?何て言った?」
「うるっせぇって言ってんだよ!!!!!」
勢いよく布団から飛び出し洲崎の胸ぐらを掴む。
「は!?どうした、佐野、落ち着け!」
「落ち着けるわけねぇだろ!俺はな、今、終わったんだよ!」
驚いて目を見開いている洲崎を睨みつける。
「何言ってんだ、お前。とにかく落ち着け!」
「ぁあ?なにが落ち着けだ、このリア充サーファーヤリチン野郎!どうせ会社のやつらに言いふらすんだろ!?さわやか王子が住んでるのは基礎がゴミで柱はビールの空き缶で出来た汚城でしたって!何なんだ、さわやか王子って!ふっざけんなカス!」
早口でまくし立てる真澄に洲崎は呆然としている。
「サーファー?…何言ってんだ?」
「どうせ本当の俺はさわやかでもなんでもない汚ねぇ部屋で暮らすだらしない男だよ!なにが王子だ!こちとら城どころか団地生まれの団地育ちのド庶民だわ!なんか文句あんのか!もういい!お前殺して俺も死んでやる!」
胸ぐらを掴んだまま思いっきり洲崎を揺さぶる。
もうどうにでもなれ。
俺はもう社会的に死んだんだ。
「いや、落ち着け!っていうか、ぶっ…変なところ真面目か…なんでそれくらいのことで心中するんだよ…ぶふっ、ちょっと待て、腹痛い、おかしくなってきた、ははっ」
真澄は思わず手を離した。
揺さぶりすぎて気が触れたのか、洲崎は大笑いしている。
「佐野、お前やっぱりおもしろいわ。あーぁ、腹いて。涙でる、はぁ、おもしれぇ」
シャツの袖で涙を拭いながらずっと笑いがとまらない洲崎を、真澄はただただ見ていることしか出来なかった。
洲崎が笑い転げている間、毒気を抜かれた真澄は再び布団にもぐることにした。
(もういい。どうせ月曜には会社辞めるし。退職届は明日書けば良いし。さようなら、俺の平穏なサラリーマン生活。もう寝よ…もうどうでもいい…)
しばらくたつと、笑い疲れた洲崎が正気を取り戻した。
「っていうか、よくここまでゴミを溜められたよな。俺、昨日どこで寝ようかまじで悩んだわ」
「うっせぇ、帰れボケ」
「おいおい、口悪いな。昨日の居酒屋で、いきなり寝たお前を運んでやったの俺だぞ?感謝してほしいくらいなんだけど」
お詫びとして飲み物くらい飲ませろ、と洲崎は勝手に冷蔵庫を開ける。
「佐野…お前の体ビールで出来てるのか?ビールしかないじゃないか。水とかお茶とかないのかよ」
「蛇口あんだろーが、見えねぇのかブス」
「いや、蛇口は見えてるわ!って、おい…もしかしてお前、水道水そのまま飲んでるとか言わないよな?」
「うっせぇ、悪いか。帰れ」
ぶはっ、とまた洲崎が吹き出した。
「ほんっとに、お前すごいな。真のワイルド王子じゃねぇか。お前こそがワイルド王国の王位継承者だわ」
洲崎は文句を言う割にはなぜか楽しそうにしている。
「おい、ちょっと買い物行ってくるから鍵貸せ」
「ない」
「嘘つけ!机の上にあるだろ。って俺が置いたんだけどな」
そう言うと、身支度を整えた洲崎は勝手に鍵を取り、玄関から出ていった。
(…よし、チェーンかけよ)
様々なことをあきらめた真澄は、とりあえず洲崎を締め出すことに決めた。
二度とこの聖域に他人を入れてはならぬ、と布団から飛び出した真澄はすぐに玄関へ向かった。
その瞬間ドアが開いた。
「チェーンかけようと思っただろ?無駄だからな。かけたら全力で大家を懐柔してチェーンごと壊してもらうから。営業部のエースなめんな?」
バタン、と音をたててドアが閉まり、外から鍵をかけられた。
(こわい…営業マンこわい…)
現実から目を逸らすように、真澄は再び布団にもぐった。
痛みは一度感じてしまうと、無かったことには出来ないようで、真澄のこめかみをザクザクと刺すように攻撃してくる。
そして体が重い。
二日酔いの感覚が久しぶりすぎて、懐かしささえ覚える。
カーテンの隙間から差す光の強さから、もう昼に近い時間だと分かる。
違和感を感じて起き上がると、パンツ一丁ではなく、ワイシャツにスラックスという格好だった。
座布団を敷いた床に雑魚寝、といういつもの就寝スタイルは変わらなかったが、珍しく布団を被っていたようだ。
(あれ?昨日どうやって帰ったんだっけ…)
昨夜は同期の洲崎と飲んでいたはずだ。
楽しかった記憶がある。
しかし、その後のことを思い出そうとしても、記憶と思考が頭の中でとっ散らかっていて思い出せない。
しばらくぼーっとしていると、背後で物音がした。
(こんな時にゴキブリか?勘弁してくれ…)
今の状態で、最も体力を消耗するあの虫との格闘は避けたい。
夢であって欲しい。
きっと夢だな、そうだ、もう一回寝よう、と寝る体勢に戻ろうとした時だった。
「おはよう」
突然の声に振り返る。
「うわ―――――――――――!!!」
洲崎がいた。
なぜ?
うちに?
どうして?
見られた。
汚い部屋も、大量の空き缶も、ぺちゃんこの座布団も。
だらしない自分の正体が、全部。
終わった。
もう、この世の終わりだ。
とっさに布団にもぐる。
夢であってくれ。
お願いだから。
「ちょ、おいおい!大丈夫か?どうした、佐野」
洲崎が布団ごと揺さぶってくる。
真澄は嫌でも確信した。
残念だけど、これは夢じゃない。
現実に戻ると、無性に怒りが湧いてきた。
「おーい、佐野?」
「…せぇ」
「え?どうした?」
「…せぇっつってんだよ」
「ん?何て言った?」
「うるっせぇって言ってんだよ!!!!!」
勢いよく布団から飛び出し洲崎の胸ぐらを掴む。
「は!?どうした、佐野、落ち着け!」
「落ち着けるわけねぇだろ!俺はな、今、終わったんだよ!」
驚いて目を見開いている洲崎を睨みつける。
「何言ってんだ、お前。とにかく落ち着け!」
「ぁあ?なにが落ち着けだ、このリア充サーファーヤリチン野郎!どうせ会社のやつらに言いふらすんだろ!?さわやか王子が住んでるのは基礎がゴミで柱はビールの空き缶で出来た汚城でしたって!何なんだ、さわやか王子って!ふっざけんなカス!」
早口でまくし立てる真澄に洲崎は呆然としている。
「サーファー?…何言ってんだ?」
「どうせ本当の俺はさわやかでもなんでもない汚ねぇ部屋で暮らすだらしない男だよ!なにが王子だ!こちとら城どころか団地生まれの団地育ちのド庶民だわ!なんか文句あんのか!もういい!お前殺して俺も死んでやる!」
胸ぐらを掴んだまま思いっきり洲崎を揺さぶる。
もうどうにでもなれ。
俺はもう社会的に死んだんだ。
「いや、落ち着け!っていうか、ぶっ…変なところ真面目か…なんでそれくらいのことで心中するんだよ…ぶふっ、ちょっと待て、腹痛い、おかしくなってきた、ははっ」
真澄は思わず手を離した。
揺さぶりすぎて気が触れたのか、洲崎は大笑いしている。
「佐野、お前やっぱりおもしろいわ。あーぁ、腹いて。涙でる、はぁ、おもしれぇ」
シャツの袖で涙を拭いながらずっと笑いがとまらない洲崎を、真澄はただただ見ていることしか出来なかった。
洲崎が笑い転げている間、毒気を抜かれた真澄は再び布団にもぐることにした。
(もういい。どうせ月曜には会社辞めるし。退職届は明日書けば良いし。さようなら、俺の平穏なサラリーマン生活。もう寝よ…もうどうでもいい…)
しばらくたつと、笑い疲れた洲崎が正気を取り戻した。
「っていうか、よくここまでゴミを溜められたよな。俺、昨日どこで寝ようかまじで悩んだわ」
「うっせぇ、帰れボケ」
「おいおい、口悪いな。昨日の居酒屋で、いきなり寝たお前を運んでやったの俺だぞ?感謝してほしいくらいなんだけど」
お詫びとして飲み物くらい飲ませろ、と洲崎は勝手に冷蔵庫を開ける。
「佐野…お前の体ビールで出来てるのか?ビールしかないじゃないか。水とかお茶とかないのかよ」
「蛇口あんだろーが、見えねぇのかブス」
「いや、蛇口は見えてるわ!って、おい…もしかしてお前、水道水そのまま飲んでるとか言わないよな?」
「うっせぇ、悪いか。帰れ」
ぶはっ、とまた洲崎が吹き出した。
「ほんっとに、お前すごいな。真のワイルド王子じゃねぇか。お前こそがワイルド王国の王位継承者だわ」
洲崎は文句を言う割にはなぜか楽しそうにしている。
「おい、ちょっと買い物行ってくるから鍵貸せ」
「ない」
「嘘つけ!机の上にあるだろ。って俺が置いたんだけどな」
そう言うと、身支度を整えた洲崎は勝手に鍵を取り、玄関から出ていった。
(…よし、チェーンかけよ)
様々なことをあきらめた真澄は、とりあえず洲崎を締め出すことに決めた。
二度とこの聖域に他人を入れてはならぬ、と布団から飛び出した真澄はすぐに玄関へ向かった。
その瞬間ドアが開いた。
「チェーンかけようと思っただろ?無駄だからな。かけたら全力で大家を懐柔してチェーンごと壊してもらうから。営業部のエースなめんな?」
バタン、と音をたててドアが閉まり、外から鍵をかけられた。
(こわい…営業マンこわい…)
現実から目を逸らすように、真澄は再び布団にもぐった。
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