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プロローグ 日常への回帰①
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モノクロの世界。あるいは影絵のような世界。
そう表現するしかないのは何も語彙が足りないからだけではないだろう。
視覚的に色彩が感じられない。それどころか輪郭も不鮮明だ。
なのに、そこにあるものの判別はつく。
しかし、触れても感触は曖昧だ。
周囲に人工的な音は一切なく、自然の音すらも耳に届かない。
まるで死後の世界にでも迷い込んだかのようだ。
朝日奈朔耶は突然眼前に広がった異様なその光景に、むしろ何の反応もできなかった。
日曜日。その朝。時計が九時丁度を指し示した正にその瞬間にそれは起こった。
世界の輪郭がぼやけ、色という色が抜け落ちた。
白と黒の間の濃淡だけで表現されたグレースケールをさらに滲ませたような世界。
ここと比べれば昔の白黒テレビでもまだ明瞭だろう。
それは朔耶自身の姿も同様で、本来の色もハッキリした形も失っていた。
「……は?」
思考停止から脱し、続いて驚愕が意識を支配する。が、それでも朔耶はこの異常事態を前に過度に取り乱すことなく、最低限自分を保つことができていた。
何故なら、高校生なら多くが持つだろう非日常への憧れを人一倍有していたからだ。
そういったものに巻き込まれる妄想をした経験は、恐らく同年代一般より遥かに多い。
だから、朔耶は一先ず深呼吸して心を落ち着かせてから、両親がいるはずのリビングへと向かった。
しかし、そこに彼等の姿は影も形もなく、何故か二人の服が乱雑に置かれているだけだった。
「着替えた、のか? 訳が分からないな」
どこを見ても違和感しか存在しない光景。
そこまで来るとさすがに言い知れぬ焦燥感も生じ始める。
非日常への憧れで少し目が曇っていたようだが、それを楽しむなどと悠長なことを言っていられる状況ではないのかもしれない。
メアリー・スー的な下らない妄想を排除して考えれば、一般人に過ぎない自分に非日常の中でできることは何一つない、という冷静で至極真っ当な結論が出てくるのみ。
フィクション知識を含めて今の状況を分析すれば、自分は危機的状況にある一般人Aというところ。
となれば、ここに留まるべきではない。救いのないパニックムービーなら何にせよ終わりだが、一般人は誰かに助けを求めることが唯一生き残る道なのだから。
そう考え、朔耶は外に出ることにした。
「これは――」
そうして自宅の玄関先、マンションの通路で目の当たりにしたのは動き、変化というものが一切感じられない世界が果てまで続く様だった。
マンションを離れ、少し住宅街を探索してもそれは変わらない。それどころか、人の気配が欠片もない様相はゴーストタウンと呼ぶに相応しく、余計に不気味だ。
「一体、何がどうなって……」
困惑して呟きながら、これまで呼んできた漫画やら小説やらの知識から可能性を探る。
一種の結界のようなものに閉じ込められた、と考えるのが妥当だろうか。
その範囲は、見る限り果てがないため、相当巨大なもののように思われる。
もしかしたら、そう、何かしら魔術的な――。
「馬鹿馬鹿しい」
そこまで妄想して、朔耶は首を振って自嘲気味に笑った。
この現実世界にそこまで大層な世界観が秘められているとは到底思えない。確かにそういう類の話は大好きだが、決して常識的ではない。
見たり聞いたり想像したりして楽しむ程度ならいいが、現実と区別もつけられないようなずれた存在になってはならないのだ。
「ああ、あれか。夢オチか」
昨日、大分夜更かししたにもかかわらず、日々の習慣で朝早くに起きたのだ。
睡魔に襲われてそのまま、ということも考えられなくはない。
成程、これは夢の世界か。夢と自覚する夢。明晰夢という奴だろう。
なら、精々この不条理を楽しんでしまえばいい。
朔耶はある程度論理的な思考を有していた。
しかし、それは論理的ではあっても、冷静な思考ではなかった。
自分でも気づけない程に根本で激しく混乱しているが故の、極限状態から逃避するための論理立てに他ならなかった。
だが、そんな間違った形で生じた余裕も、次の瞬間脆くも崩れ去った。
音のなかった世界に微かな音が響いていた。
勿論それだけであれば、どうということもなかった。
しかし、その音の質が問題だった。
何か粘膜的なものが蠢くような生理的嫌悪感を抱かせる音が、直前にある十字路、その左に曲がった先辺りから聞こえてくる。
その音に直感が、本能的な部分が激しく警鐘を鳴らす。
それでもまだ、ここが夢の世界だろう、という推測は朔耶に蛮勇を与えていた。
十字路手前の壁に背をつけて、申し訳程度に警戒しながら顔だけをその通路に出して音の方向を見る。
刹那、朔耶は視線の先で繰り広げられている光景に戦慄し、息を呑んだ。
影が……人間を、蹂躙している。
何本もの、触手のような何かに絡め取られ、その鋭い先端に貫かれ、男性がとても人間とは思えないおぞましい形相をして全身を痙攣させていた。
それでも尚、その影は無慈悲に触手を彼に突き立てている。
存在の尊厳を穢そうとしているかのように。
朔耶が嫌悪を感じた音は、影の行為によって彼の体から発せられているものだった。
触手自体は音もなく、と感じられる程滑らかに動いているが……。
それによって彼の体自体が酷く生物的な、肉をねじ切り、かき回し、すり潰す音を発し続けている。
白黒の、輪郭の滲んだ世界でなければ、即座に胃の中のものを全て吐き出していたに違いない。
理性がその余りにも凄惨な光景と世界の様相を、ここは夢の世界だという結論の根拠にしようとするのも無理もないことだろう。
しかし、音と気配だけは夢とは思えないリアルさを湛え、その結論を否定していた。
そして、ただ直感だけは叫び続けていた。
これは紛れもない現実であり、今正に自分は命の危機にあるのだ、と。
「あ、う、あ……」
たとえ逃避のために夢だと思い込もうとしても、本当に夢だったとしても、そこにある恐怖の感情は本物。それは朔耶の楽天的な考えを消し飛ばした。
悲鳴は上げられない。だが、それは、あの影に気づかれてはまずい、という冷静な判断ではなく、単に思考が混乱の極みにあったため。
朔耶はほとんど無意識的に踵を返していた。
自宅へ、自らのテリトリーへと逃げ込むことだけを考えて。
しかし、それは振り返った瞬間に不可能だと悟った。
いつの間にかマンションのある方角の道に同様の影が発生し、緩やかに近づいてきていたからだ。
それに瞳はないが、明らかに狙いを朔耶に定めている。
硬直したように足が止まるが、震えるそれに鞭打って何とか後退りする。
が、何か柔らかいものによって後退を阻まれ、朔耶ははっとして振り返った。
一瞬、先程の影が今度は自分を狙って襲いかかってきたのか、と考えて肝を冷やす。
しかし、違った。それならば、既に命運は尽き、殺されているはずだ。
「大丈夫?」
耳に届いたのは凛とした女性の声。
視界に映ったのは、女性にしては背の高い威風堂々とした立ち姿。
美しいというよりも格好がいい、という印象が先立つ少女だった。
年の頃は同じぐらいだと思わせる顔つきながら、その瞳に宿る意思の力は同年代と思えない程に強い。
少女は一ヶ所で束ねた長めの黒髪を揺らしながら、朔耶を守るようにその前へと素早く躍り出た。
それに合わせて朔耶と同じ高校、私立聖アフェシス学院の制服、そのスカートが軽く舞う。
「……君の方は間に合ったみたいだね。魂が砕かれた気配もなかったし」
語りかけられた声はどこか安堵しているように優しかったが、その瞳は依然として厳しく、あの影に向けられたままだった。
「え、あ、あの」
「問答は後、今は――」
少女は明確な敵意をさらに強めて、影を睨みつけた。
「あのタナトスを滅ぼさないと」
「タナ、トス?」
ギリシア神話の死神の名で呼ばれたそれは、少女に対して複数の触手を振り上げて威嚇するようにしながら、少しずつ距離を詰めてきていた。
対して、彼女は忌々しげに眉をひそめ、右の掌をそれに向けて突き出す。
瞬間、彼女から感じられる雰囲気が急激に重く圧迫するものへと変質した。
これが殺気だと言われれば、きっと納得してしまうような威圧感がそこにはあった。
いや、それはむしろ強烈な憎悪、殺意と呼ぶべきものなのかもしれない。
「黒壁……圧殺」
呟かれた短い二つの単語が、何よりも確かな存在感を持って世界に響く。
と同時に、彼女の周囲に黒塗りの板のようなものが六枚発生した。
それは瞬時に影へと襲いかかり、蠢く触手を振り払い、立方体を形成するように取り囲む。
「死の欲動には、死による浄化を」
少女の言葉と彼女が右手を握り締めるのを合図に、立方体は影を押し潰すように急激に縮小し、世界から完全に消滅してしまった。
彼女はそれを見届けると一つ息を吐き、ただ呆然と見ていることしかできなかった朔耶を静かに振り返った。その表情に先程の重い気配はない。
「一先ず、大丈夫。……だけど、ここはまだ危険だから、私について来て」
「い、いや、あの、その――」
「説明は安全な場所でしてあげるから、ね? それとも、また今のに襲われたい?」
「わ、分かりました」
彼女の制服、薄い緑色のブレザーの胸元に見える白いラインの入った赤いリボンから彼女が年上であることが分かったから、だけでなく、先程見せた戦いと彼女自身の雰囲気から自然と丁寧語が口から出る。
彼女は朔耶の返答に小さく頷くと、姿勢正しく歩き出した。
何はともあれ、彼女に従う以外の選択肢はない、と朔耶もその後に続いた。
そう表現するしかないのは何も語彙が足りないからだけではないだろう。
視覚的に色彩が感じられない。それどころか輪郭も不鮮明だ。
なのに、そこにあるものの判別はつく。
しかし、触れても感触は曖昧だ。
周囲に人工的な音は一切なく、自然の音すらも耳に届かない。
まるで死後の世界にでも迷い込んだかのようだ。
朝日奈朔耶は突然眼前に広がった異様なその光景に、むしろ何の反応もできなかった。
日曜日。その朝。時計が九時丁度を指し示した正にその瞬間にそれは起こった。
世界の輪郭がぼやけ、色という色が抜け落ちた。
白と黒の間の濃淡だけで表現されたグレースケールをさらに滲ませたような世界。
ここと比べれば昔の白黒テレビでもまだ明瞭だろう。
それは朔耶自身の姿も同様で、本来の色もハッキリした形も失っていた。
「……は?」
思考停止から脱し、続いて驚愕が意識を支配する。が、それでも朔耶はこの異常事態を前に過度に取り乱すことなく、最低限自分を保つことができていた。
何故なら、高校生なら多くが持つだろう非日常への憧れを人一倍有していたからだ。
そういったものに巻き込まれる妄想をした経験は、恐らく同年代一般より遥かに多い。
だから、朔耶は一先ず深呼吸して心を落ち着かせてから、両親がいるはずのリビングへと向かった。
しかし、そこに彼等の姿は影も形もなく、何故か二人の服が乱雑に置かれているだけだった。
「着替えた、のか? 訳が分からないな」
どこを見ても違和感しか存在しない光景。
そこまで来るとさすがに言い知れぬ焦燥感も生じ始める。
非日常への憧れで少し目が曇っていたようだが、それを楽しむなどと悠長なことを言っていられる状況ではないのかもしれない。
メアリー・スー的な下らない妄想を排除して考えれば、一般人に過ぎない自分に非日常の中でできることは何一つない、という冷静で至極真っ当な結論が出てくるのみ。
フィクション知識を含めて今の状況を分析すれば、自分は危機的状況にある一般人Aというところ。
となれば、ここに留まるべきではない。救いのないパニックムービーなら何にせよ終わりだが、一般人は誰かに助けを求めることが唯一生き残る道なのだから。
そう考え、朔耶は外に出ることにした。
「これは――」
そうして自宅の玄関先、マンションの通路で目の当たりにしたのは動き、変化というものが一切感じられない世界が果てまで続く様だった。
マンションを離れ、少し住宅街を探索してもそれは変わらない。それどころか、人の気配が欠片もない様相はゴーストタウンと呼ぶに相応しく、余計に不気味だ。
「一体、何がどうなって……」
困惑して呟きながら、これまで呼んできた漫画やら小説やらの知識から可能性を探る。
一種の結界のようなものに閉じ込められた、と考えるのが妥当だろうか。
その範囲は、見る限り果てがないため、相当巨大なもののように思われる。
もしかしたら、そう、何かしら魔術的な――。
「馬鹿馬鹿しい」
そこまで妄想して、朔耶は首を振って自嘲気味に笑った。
この現実世界にそこまで大層な世界観が秘められているとは到底思えない。確かにそういう類の話は大好きだが、決して常識的ではない。
見たり聞いたり想像したりして楽しむ程度ならいいが、現実と区別もつけられないようなずれた存在になってはならないのだ。
「ああ、あれか。夢オチか」
昨日、大分夜更かししたにもかかわらず、日々の習慣で朝早くに起きたのだ。
睡魔に襲われてそのまま、ということも考えられなくはない。
成程、これは夢の世界か。夢と自覚する夢。明晰夢という奴だろう。
なら、精々この不条理を楽しんでしまえばいい。
朔耶はある程度論理的な思考を有していた。
しかし、それは論理的ではあっても、冷静な思考ではなかった。
自分でも気づけない程に根本で激しく混乱しているが故の、極限状態から逃避するための論理立てに他ならなかった。
だが、そんな間違った形で生じた余裕も、次の瞬間脆くも崩れ去った。
音のなかった世界に微かな音が響いていた。
勿論それだけであれば、どうということもなかった。
しかし、その音の質が問題だった。
何か粘膜的なものが蠢くような生理的嫌悪感を抱かせる音が、直前にある十字路、その左に曲がった先辺りから聞こえてくる。
その音に直感が、本能的な部分が激しく警鐘を鳴らす。
それでもまだ、ここが夢の世界だろう、という推測は朔耶に蛮勇を与えていた。
十字路手前の壁に背をつけて、申し訳程度に警戒しながら顔だけをその通路に出して音の方向を見る。
刹那、朔耶は視線の先で繰り広げられている光景に戦慄し、息を呑んだ。
影が……人間を、蹂躙している。
何本もの、触手のような何かに絡め取られ、その鋭い先端に貫かれ、男性がとても人間とは思えないおぞましい形相をして全身を痙攣させていた。
それでも尚、その影は無慈悲に触手を彼に突き立てている。
存在の尊厳を穢そうとしているかのように。
朔耶が嫌悪を感じた音は、影の行為によって彼の体から発せられているものだった。
触手自体は音もなく、と感じられる程滑らかに動いているが……。
それによって彼の体自体が酷く生物的な、肉をねじ切り、かき回し、すり潰す音を発し続けている。
白黒の、輪郭の滲んだ世界でなければ、即座に胃の中のものを全て吐き出していたに違いない。
理性がその余りにも凄惨な光景と世界の様相を、ここは夢の世界だという結論の根拠にしようとするのも無理もないことだろう。
しかし、音と気配だけは夢とは思えないリアルさを湛え、その結論を否定していた。
そして、ただ直感だけは叫び続けていた。
これは紛れもない現実であり、今正に自分は命の危機にあるのだ、と。
「あ、う、あ……」
たとえ逃避のために夢だと思い込もうとしても、本当に夢だったとしても、そこにある恐怖の感情は本物。それは朔耶の楽天的な考えを消し飛ばした。
悲鳴は上げられない。だが、それは、あの影に気づかれてはまずい、という冷静な判断ではなく、単に思考が混乱の極みにあったため。
朔耶はほとんど無意識的に踵を返していた。
自宅へ、自らのテリトリーへと逃げ込むことだけを考えて。
しかし、それは振り返った瞬間に不可能だと悟った。
いつの間にかマンションのある方角の道に同様の影が発生し、緩やかに近づいてきていたからだ。
それに瞳はないが、明らかに狙いを朔耶に定めている。
硬直したように足が止まるが、震えるそれに鞭打って何とか後退りする。
が、何か柔らかいものによって後退を阻まれ、朔耶ははっとして振り返った。
一瞬、先程の影が今度は自分を狙って襲いかかってきたのか、と考えて肝を冷やす。
しかし、違った。それならば、既に命運は尽き、殺されているはずだ。
「大丈夫?」
耳に届いたのは凛とした女性の声。
視界に映ったのは、女性にしては背の高い威風堂々とした立ち姿。
美しいというよりも格好がいい、という印象が先立つ少女だった。
年の頃は同じぐらいだと思わせる顔つきながら、その瞳に宿る意思の力は同年代と思えない程に強い。
少女は一ヶ所で束ねた長めの黒髪を揺らしながら、朔耶を守るようにその前へと素早く躍り出た。
それに合わせて朔耶と同じ高校、私立聖アフェシス学院の制服、そのスカートが軽く舞う。
「……君の方は間に合ったみたいだね。魂が砕かれた気配もなかったし」
語りかけられた声はどこか安堵しているように優しかったが、その瞳は依然として厳しく、あの影に向けられたままだった。
「え、あ、あの」
「問答は後、今は――」
少女は明確な敵意をさらに強めて、影を睨みつけた。
「あのタナトスを滅ぼさないと」
「タナ、トス?」
ギリシア神話の死神の名で呼ばれたそれは、少女に対して複数の触手を振り上げて威嚇するようにしながら、少しずつ距離を詰めてきていた。
対して、彼女は忌々しげに眉をひそめ、右の掌をそれに向けて突き出す。
瞬間、彼女から感じられる雰囲気が急激に重く圧迫するものへと変質した。
これが殺気だと言われれば、きっと納得してしまうような威圧感がそこにはあった。
いや、それはむしろ強烈な憎悪、殺意と呼ぶべきものなのかもしれない。
「黒壁……圧殺」
呟かれた短い二つの単語が、何よりも確かな存在感を持って世界に響く。
と同時に、彼女の周囲に黒塗りの板のようなものが六枚発生した。
それは瞬時に影へと襲いかかり、蠢く触手を振り払い、立方体を形成するように取り囲む。
「死の欲動には、死による浄化を」
少女の言葉と彼女が右手を握り締めるのを合図に、立方体は影を押し潰すように急激に縮小し、世界から完全に消滅してしまった。
彼女はそれを見届けると一つ息を吐き、ただ呆然と見ていることしかできなかった朔耶を静かに振り返った。その表情に先程の重い気配はない。
「一先ず、大丈夫。……だけど、ここはまだ危険だから、私について来て」
「い、いや、あの、その――」
「説明は安全な場所でしてあげるから、ね? それとも、また今のに襲われたい?」
「わ、分かりました」
彼女の制服、薄い緑色のブレザーの胸元に見える白いラインの入った赤いリボンから彼女が年上であることが分かったから、だけでなく、先程見せた戦いと彼女自身の雰囲気から自然と丁寧語が口から出る。
彼女は朔耶の返答に小さく頷くと、姿勢正しく歩き出した。
何はともあれ、彼女に従う以外の選択肢はない、と朔耶もその後に続いた。
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