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五 人間として
想いと共に
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それから約一時間後。遂に作戦開始の時刻となった。
この状況でもしっかりと睡眠を取っていた武人と琥珀は完全に準備を終え、表情を引き締めている。
「さて、そろそろ、行こうか」
琥珀の言葉に翠は緊張した面持ちで頷いた。その手には、武人と同様に則行から特例として受け取ったエグゼクスが握られている。
その先端に取りつけられているティアは彼女達自身のものではなく、穹路が教室で回収しておいたものだ。リンク機能が破壊され、ブランク状態にある。
エグゼクスの記憶装置の方には、武人によって必要なプログラムが既に書き込まれてあるはずだ。
「穹路」
その声と共に遠慮がちに服の裾を螺希に引かれて、穹路は振り返った。
「螺希? どうかしたのか?」
「あ、えっと、その」
穹路の問いに、螺希は珍しく歯切れ悪く言って俯いてしまった。
少しの間そうして躊躇うように視線を左右に揺らしてから、彼女は決心したように頷いた。
「こ、これ、穹路に貸してあげる」
それから螺希は父親の形見であるティアがついたネックレスを外し、真正面からそれを穹路の首にかけてきた。
「ら、螺希?」
まるでキスでもしてくるような、ほとんど抱き着いてきているような体勢で目の前に現れた螺希の端整な顔に、穹路は魅了されたように身動きが取れなくなり、彼女にされるがままになった。
「これには二つのプログラムが書き込まれてて、周囲の敵の位置を知ることができる機能と真弥のティアと引き合う機能があるの。きっと役に立つと思うから」
心臓の高鳴りがうるさく、早口で言われた螺希の言葉が少し遠い。
この距離で彼女の顔を見ると、肌のきめ細かさや睫毛の長さまで見て取れ、尚のこと彼女の整った顔つきが引き立てられていた。
そんな中、不意に彼女の微かに不安で揺れて潤んでいる瞳と目が合ってしまう。
その上目遣いは思わず抱き締めたくなる程愛らしかった。
「か、貸すだけだから、必ず返しに戻ってきて」
螺希は顔を激しく紅潮させて、制服のスカートを掴みながら俯いてしまった。
特殊な状況にあるせいで、螺希は表情に感情が出易くなっているようだ。
それが普段とのギャップとなって、余計に彼女を可愛らしく感じてしまう。
「お姉ちゃんは本当にまどろっこしいなあ。もう。素直に必ず生きて帰ってきてねって言えばいいのに。ねえ、お兄ちゃん?」
羞恥が限界に来ている様子の螺希に追い討ちをかけるように、苦笑いをしながら言う真弥。
「でも、お兄ちゃん。本当に……本当に、ちゃんと帰って、きてね。あ……あそこが、もう、お兄ちゃんの家なんだから。ね?」
話している間に感極まってしまったのか、目に涙を溜めながら抱き着いて顔を胸に埋めてくる真弥に頷いて、なるべくいつも通りに頭を撫でて微笑みかける。
「じゃあ、行ってくるよ。二人共」
彼女達はこの新しい時代で居場所を与えてくれた。
ウーシアの記憶に愕然としていた時には真っ先に自分という存在を信じてくれた。
だから彼女達の明日に日常が帰ってくるように、そして自分自身と彼女達との生活を守るために穹路はその決意をさらに固め、琥珀達と共にその部屋を後にした。
この状況でもしっかりと睡眠を取っていた武人と琥珀は完全に準備を終え、表情を引き締めている。
「さて、そろそろ、行こうか」
琥珀の言葉に翠は緊張した面持ちで頷いた。その手には、武人と同様に則行から特例として受け取ったエグゼクスが握られている。
その先端に取りつけられているティアは彼女達自身のものではなく、穹路が教室で回収しておいたものだ。リンク機能が破壊され、ブランク状態にある。
エグゼクスの記憶装置の方には、武人によって必要なプログラムが既に書き込まれてあるはずだ。
「穹路」
その声と共に遠慮がちに服の裾を螺希に引かれて、穹路は振り返った。
「螺希? どうかしたのか?」
「あ、えっと、その」
穹路の問いに、螺希は珍しく歯切れ悪く言って俯いてしまった。
少しの間そうして躊躇うように視線を左右に揺らしてから、彼女は決心したように頷いた。
「こ、これ、穹路に貸してあげる」
それから螺希は父親の形見であるティアがついたネックレスを外し、真正面からそれを穹路の首にかけてきた。
「ら、螺希?」
まるでキスでもしてくるような、ほとんど抱き着いてきているような体勢で目の前に現れた螺希の端整な顔に、穹路は魅了されたように身動きが取れなくなり、彼女にされるがままになった。
「これには二つのプログラムが書き込まれてて、周囲の敵の位置を知ることができる機能と真弥のティアと引き合う機能があるの。きっと役に立つと思うから」
心臓の高鳴りがうるさく、早口で言われた螺希の言葉が少し遠い。
この距離で彼女の顔を見ると、肌のきめ細かさや睫毛の長さまで見て取れ、尚のこと彼女の整った顔つきが引き立てられていた。
そんな中、不意に彼女の微かに不安で揺れて潤んでいる瞳と目が合ってしまう。
その上目遣いは思わず抱き締めたくなる程愛らしかった。
「か、貸すだけだから、必ず返しに戻ってきて」
螺希は顔を激しく紅潮させて、制服のスカートを掴みながら俯いてしまった。
特殊な状況にあるせいで、螺希は表情に感情が出易くなっているようだ。
それが普段とのギャップとなって、余計に彼女を可愛らしく感じてしまう。
「お姉ちゃんは本当にまどろっこしいなあ。もう。素直に必ず生きて帰ってきてねって言えばいいのに。ねえ、お兄ちゃん?」
羞恥が限界に来ている様子の螺希に追い討ちをかけるように、苦笑いをしながら言う真弥。
「でも、お兄ちゃん。本当に……本当に、ちゃんと帰って、きてね。あ……あそこが、もう、お兄ちゃんの家なんだから。ね?」
話している間に感極まってしまったのか、目に涙を溜めながら抱き着いて顔を胸に埋めてくる真弥に頷いて、なるべくいつも通りに頭を撫でて微笑みかける。
「じゃあ、行ってくるよ。二人共」
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ウーシアの記憶に愕然としていた時には真っ先に自分という存在を信じてくれた。
だから彼女達の明日に日常が帰ってくるように、そして自分自身と彼女達との生活を守るために穹路はその決意をさらに固め、琥珀達と共にその部屋を後にした。
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