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三 涙と嘆きの種
翠のティアの変化
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放課後。
昨日と同様に一旦真弥と合流し、掃除を終えた穹路を妹と一緒に帰らせた螺希は翠にティアを返すために、彼女と共に他に誰も残っていない教室にいた。
「はい。翠のティア」
「あ、うん。何か、問題あった?」
不安そうに翠が尋ねてくるので、螺希は首を横に振って答えた。
「本当? よかった」
翠は安堵したように長く息を吐いた。
「問題は、ないはず。でも、ちょっと……」
しかし、奥歯にものが挟まったような話し方をしてしまったせいで、一転して翠の表情は再び酷く不安げなものになってしまった。
「理由はよく分からないけれど、リンク機能が失われてるの」
「え? それって――」
さらにまた表情が変わり、驚愕の色が現れる。
「連関型じゃなくなった、ってこと?」
「そういうことになる、はず」
色々と動作テストを行ったが、リンク機能の確認だけ行うことができなかった。
接続できないのは当然だが、接続エラーの表示も一切出ない。
それどころか、ティアにリンク機能に必要とされる部分が存在していなかった。
「な、なら、このままこのティアを使ってても何の問題もないってこと?」
翠の質問に頷くと、彼女はとても嬉しそうな笑顔を見せた。
「よかったあ」
「で、でも、原因が――」
「んー、でも問題はないんでしょ? なら、別にいいよ。そんなの」
そんな呑気なことを言う翠に螺希は困ってしまったが、螺希自身明確にこれが原因だと断定できなかったため、何も言えなかった。
そもそも、ティア自体がブラックボックスだけで組み上がったような怪しい技術なのだ。これ以上螺希が何を言っても徒に不安を煽る結果にしかならない。
それに、穹路が無意識的にティアに干渉したのではないか、という推測もある。
それを伝えなければならない状況になるのは避けたかった。
だから、通常機能に異常が見られない以上、翠がそれでいいならよしとするしかない。螺希はそう結論した。
「ともかく、これで連関型とか気兼ねなく使えるんだね」
翠はティアを本当に大切そうに両手で包み込みながら言った。
「ありがと、螺希」
「私が何かしたって訳じゃ……」
「でも、螺希が調べてくれたから、あたしも安心できたんだよ」
翠のいつも通りの、時に羨ましくなるような率直な笑顔と感謝の言葉がくすぐったい。しかし、やはりその感情は表情として面に出ていないだろう。
それが螺希には少し残念だった。
「じゃ、校門のとこまでだけど、一緒に帰ろっか」
「……うん」
原因が分からないことに一抹の不安を覚えるが、再び訪れる可能性がある落涙の日に翠のティアが干渉を受けかねなかったことへの懸念よりは遥かに小さい。
翠のティアからリンク機能が完全に消え去っていることは明白で、しかも、それはプログラム的なものではなく物理的に使用できないということ。
それだけは確かな事実だ。
だから、胸の中に渦巻いていた不安が相対的に小さくなったのを感じながら、螺希は翠と共に帰宅の途についた。
昨日と同様に一旦真弥と合流し、掃除を終えた穹路を妹と一緒に帰らせた螺希は翠にティアを返すために、彼女と共に他に誰も残っていない教室にいた。
「はい。翠のティア」
「あ、うん。何か、問題あった?」
不安そうに翠が尋ねてくるので、螺希は首を横に振って答えた。
「本当? よかった」
翠は安堵したように長く息を吐いた。
「問題は、ないはず。でも、ちょっと……」
しかし、奥歯にものが挟まったような話し方をしてしまったせいで、一転して翠の表情は再び酷く不安げなものになってしまった。
「理由はよく分からないけれど、リンク機能が失われてるの」
「え? それって――」
さらにまた表情が変わり、驚愕の色が現れる。
「連関型じゃなくなった、ってこと?」
「そういうことになる、はず」
色々と動作テストを行ったが、リンク機能の確認だけ行うことができなかった。
接続できないのは当然だが、接続エラーの表示も一切出ない。
それどころか、ティアにリンク機能に必要とされる部分が存在していなかった。
「な、なら、このままこのティアを使ってても何の問題もないってこと?」
翠の質問に頷くと、彼女はとても嬉しそうな笑顔を見せた。
「よかったあ」
「で、でも、原因が――」
「んー、でも問題はないんでしょ? なら、別にいいよ。そんなの」
そんな呑気なことを言う翠に螺希は困ってしまったが、螺希自身明確にこれが原因だと断定できなかったため、何も言えなかった。
そもそも、ティア自体がブラックボックスだけで組み上がったような怪しい技術なのだ。これ以上螺希が何を言っても徒に不安を煽る結果にしかならない。
それに、穹路が無意識的にティアに干渉したのではないか、という推測もある。
それを伝えなければならない状況になるのは避けたかった。
だから、通常機能に異常が見られない以上、翠がそれでいいならよしとするしかない。螺希はそう結論した。
「ともかく、これで連関型とか気兼ねなく使えるんだね」
翠はティアを本当に大切そうに両手で包み込みながら言った。
「ありがと、螺希」
「私が何かしたって訳じゃ……」
「でも、螺希が調べてくれたから、あたしも安心できたんだよ」
翠のいつも通りの、時に羨ましくなるような率直な笑顔と感謝の言葉がくすぐったい。しかし、やはりその感情は表情として面に出ていないだろう。
それが螺希には少し残念だった。
「じゃ、校門のとこまでだけど、一緒に帰ろっか」
「……うん」
原因が分からないことに一抹の不安を覚えるが、再び訪れる可能性がある落涙の日に翠のティアが干渉を受けかねなかったことへの懸念よりは遥かに小さい。
翠のティアからリンク機能が完全に消え去っていることは明白で、しかも、それはプログラム的なものではなく物理的に使用できないということ。
それだけは確かな事実だ。
だから、胸の中に渦巻いていた不安が相対的に小さくなったのを感じながら、螺希は翠と共に帰宅の途についた。
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