上 下
125 / 128
終章 電子仕掛けの約束

125 タイムリミット

しおりを挟む
 とにもかくにも眼前の機獣スライムを倒さなければ、時空間転移システムのコアユニットを操作することができない。
 しかし、弱点とも言える核は正にそのコアユニットそのもの。
 しかも、パーツがバラバラの状態でスライムの体内に散らばっていると来た。
 これでは下手に攻撃をすると暴走をとめられなくなる恐れがある。
 それどころか、暴走に拍車をかけてしまう可能性すらあった。
 ならば、どうするべきか。
 そうアテラとフィアのシールドに守られながら考えていると、その間に機獣スライムはマグ達を取り込もうとするように光の膜を包み込んだ。
 ここまで来て退く気は毛頭ないが、退路を断たれた形だ。

「…………一先ず、判断材料を増やしましょう」

 そんな状況を前にして、アテラは冷静に告げると自身の腰の辺りにスカート状に配置されているタングステン板を一枚動かし始める。
 先史兵装PTアーマメント【フロートバルク】によって操作されたそれは、浮遊したままシールドの境界へと緩やかに近づいていった。

「フィア」
「はい! おかー様!」

 呼びかけを受け、フィアはタングステン板とシールドを同期させたようだ。
 アテラの体に合わせて塗装された金属のプレートが、二人が作り出した光の膜を通過していく。すると――。

「うわ……」

 機獣スライムのゲル状の肉体に触れた瞬間。
 タングステンの塊は僅か数秒の内に全て溶けて跡形もなくなってしまった。

「嘘だろ。いくら腐食液のカクテルみたいなものだからって、こんな早く溶け切る訳がない。余りにも反応が速過ぎる」

 少なくともマグの常識では異常過ぎて、思わず呆然とした声を上げてしまう。

「革新の判断軸アクシス・改良の断片フラグメントが化学反応を加速させてる」

 それを受け、ククラが目の前で起きた現象の理由を告げた。

「革新の判断軸アクシス・改良の断片フラグメント……?」

 聞き覚えがあり、口の中で小さく繰り返す。

「それって確か……」

 メタが理解の断片フラグメントと並んで追い求めていた断片フラグメントだったはずだ。
 自らの能力を拡張、強化する方向性で欲していたもの。
 最後の最後になって、それが障害として立ちはだかってきたということか。

「無制限で使える物凄い触媒があるようなものデスね」
「廻天の断片フラグメントによる自己修復を、更に【アクセラレーター】で超加速してたはずなのに……それを上回る腐食速度になる程ってこと?」

 ドリィの問いかけに、ククラが小さく首を縦に振って肯定する。
 アテラを見ると、既に一枚失われていたスカート部が完全な形に戻っている。
 それ程の自己修復速度を超えていると考えると、増幅率は相当なものだろう。
 さすがはあのメタが探し求めていた断片フラグメントと言うべきか。

「チート染みてるな」

 勿論、効果対象次第ではあるのだろうが、このシナジーは厄介にも程がある。
 せめて自己修復機能で腐食を抑え込むことができれば。
 あるいはコアユニットがバラバラではなく形が整っていれば、まだやりようもあったかもしれないが……今そのような仮定をすることに意味はない。
 事実を受けとめた上で目の前の問題に対処しなければならない。
 しかし――。

「困りましたね」

 アテラがディスプレイを黒寄りの青に染めて言い、万策尽きたかのように俯く。
 他の皆も似たような様子だ。
 この機獣スライムには一目で脅威が分かるような派手さはないが、迂闊に手を出すことができない厄介さがある。
 その上、半ばコアユニットを人質に取られているような状況。
 人間を遥かに凌駕する処理能力を有しているアテラ達でさえも、打開策を思いつくことができないようだ。
 にもかかわらず、単なる人間であるマグが思考を巡らせても無駄だろう。
 そうは思いながらも、頭の中で手札を並べていく。
 メタとの最終決戦で増えたものは勿論、元からあるものも全て。

「…………いや」

 そこでふと思い至ったことがあった。
 そして、彼女達は思いつくことができなかったのではなく、思いついたことを口に出せなかったのではないか、という考えが浮かぶ。
 だからマグはアテラ達一人一人に視線をやってから、自分自身の手を見詰めた。

「パパ」

 と固い声でククラに呼ばれ、顔を上げて彼女を見る。

「微弱だけど、空間が振動を始めてる」
「なっ、タイムリミットか?」
「多分、まだ少しだけ猶予はある。けど……」
「そう長くはない、か」

 引き継ぐように告げたマグの言葉に、ククラは深刻そうな顔で頷く。
 口振りからして、数日とかそういう単位ではもはやなさそうだ。
 かと言って数秒とか数分とか、既に挽回不可能な状況という訳でもないだろう。
 数十分。あるいは数時間というところか。
 宇宙崩壊の危機。
 今すぐ覚悟を決めろと促しているのかもしれない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...