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終章 電子仕掛けの約束
123 強行突入
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「あの辺りでいい?」
群体スライムから大幅に距離を取って停車した装甲車の中、ドリィが少し離れたところにある窪地を指差しながら問いかける。
対してククラが首を縦に振って答えると、それに合わせたようにドアが開いた。
ドリィはそこから外に出ると、地面に降りずに器用にボンネットの上に乗る。
それに合わせて二重のシールドは形を変え、うまく彼女も包み込む形となった。
「お母さん」
「いつでもどうぞ」
アテラの返答に、ドリィは軽く頷くとレーザービームライトの射出口を動かして照準を自身が示した場所へと向けた。
「全門斉射!」
それから合図をするように彼女が声を張ると、いつもの細く細く研ぎ澄まされた収束レーザーではなく一定の太さを持つ光線が放たれた。
そして数瞬の後。
「……よし。貫通したわ!」
「では、【アクセラレーター】起動します」
ドリィの報告を受けてアテラがそう告げると同時に、荒れ果てた地に酸の雨が降り注ぐ光景が屋内のものへと切り替わった。
【アクセラレーター】の超加速によって一気に移動したようだ。
「……ここは、迷宮遺跡の中か?」
「はい。突入に成功しました」
言われ、後ろを向くと天井に装甲車が通れるぐらいの大穴が開いていた。
金属のイオンで微妙に色がついた酸の雨が流れ込んできているのが見える。
しかし、その穴は迷宮遺跡の自己修復機能によって徐々に閉じていき、内部に入り込んでいた強酸溶液も揮発したように消え去ってしまった。
僅か数秒でドリィの攻撃の痕跡はどこにもない。
わざわざ【アクセラレーター】を使用したのは、彼女が抉じ開けた入り口を塞がれてしまう前に突入するためだった訳だ。
「警戒しつつ、コアユニットがあると思われる方向に進みましょう」
アテラの言葉に頷き、装甲車に乗ったまま迷宮遺跡を進み始める。
中の様子は多分に漏れず研究施設という風。
ただし、今のところ都合のいいことに装甲車が走れる程に廊下は広かった。
時空間転移システムのコアユニットが存在する施設だ。
あるいは転移拠点として、かつては多くの人が行き交っていたのかもしれない。
「……割と重要な施設だと思うんだけど、警備は手薄だな」
「それは今だけの話」
ククラがそう言うと、それを証明するように道の先から蠢くものが現れる。
どうやら想定されていない侵入経路だったがためにタイムラグがあったらしい。
やはり他の迷宮遺跡と同様に、機獣がセキュリティとして立ちはだかってくるようだ。そう考えてマグは警戒を強めた。
「な、あれは、スライム!?」
しかし、目に映ったのは外で目にした幻想獣と似た存在。
液滴のような形状のゲルの塊だった。
大きさは比較にならないぐらい小さかったが……。
「どっからか迷宮遺跡の中に入り込んだのか?」
「いえ、あれこそがこの迷宮遺跡の機獣のようです」
「あれが、機獣……?」
どう見ても有機的な生命体としか思えず、マグは困惑の声を上げてしまった。
「パパ。よく見て」
ククラに言われ、よくよく目を凝らす。
すると、その意思に従うように【エクソスケルトン】の機能で拡大されたスライムの中心に、何か機械装置のようなものがあるのが分かった。
ゲル状の肉体が動くのに合わせてライトが明滅しているのを見るに、ただ単に取り込まれている訳ではないのは明らかだ。
半透明の体に時折、淡い光が走って神経のような模様が浮かび上がっている。
「もしかして、あれで制御してるのか?」
「そう」
疑問気味の確認に、ククラが簡潔に肯定の意を示す。
あの見た目スライムなゲル状の塊こそ、この迷宮遺跡の中枢に制御されて侵入者を排除する存在、機獣そのものということで間違いないようだ。
一見すると機械的な要素が乏しくて違和感が半端ないが。
「あんな機械が体内にあるってことは、あれは外の奴とは性質が違うんだよな?」
「性質は確かに違う。けど、幻想獣を利用した存在」
「どういうことだ?」
「あの体は強酸の個体と強アルカリの個体を統合したもの。それを操ってる」
「統合……? じゃあ、中性状態なのか?」
「基本は。けど、必要に応じて強酸と強アルカリの部位を作り出せる」
ククラの説明を聞く限り、あの核となる装置の機能で外にいるスライムの上位種とも言えるような性質を得ているらしい。
「どう対処する?」
「このまま押し通りましょう」
「できるのか?」
スライムの大きさは装甲車を覆うことができる程度。
この広い廊下ならば回避も容易かろうが、この先通路が狭くなれば、このゲル状の体に埋め尽くされた道も出てくるかもしれない。
そうなると、外で危惧したように身動きできなくなる可能性がある。
そう懸念したマグの問いに。
「大丈夫。リィがあの核を撃てば体を維持できない」
アテラの代わりにククラが答える。
あの装置によって能力の汎用性は向上したようだが、同時にそれこそが致命的な弱点と成り果ててしまっているようだ。
恐らく、通常はゲル状の肉体に阻まれて攻撃が届くことはないのだろう。
そう考えると実に厄介な存在だ。
しかしながら、こちらにはドリィが持つ消去の断片の力がある。
つまるところ、彼らにとって決定的に相性の悪い相手がここにいる訳だ。
「アタシ達の行く手を阻むなら、消え去りなさい!」
そうして一体ずつ。確実に。機獣スライムを破壊していくドリィ。
おかげでスムーズに迷宮遺跡を進んでいくことができる。
後は時空間転移システムのコアユニットを目指すのみだ。
群体スライムから大幅に距離を取って停車した装甲車の中、ドリィが少し離れたところにある窪地を指差しながら問いかける。
対してククラが首を縦に振って答えると、それに合わせたようにドアが開いた。
ドリィはそこから外に出ると、地面に降りずに器用にボンネットの上に乗る。
それに合わせて二重のシールドは形を変え、うまく彼女も包み込む形となった。
「お母さん」
「いつでもどうぞ」
アテラの返答に、ドリィは軽く頷くとレーザービームライトの射出口を動かして照準を自身が示した場所へと向けた。
「全門斉射!」
それから合図をするように彼女が声を張ると、いつもの細く細く研ぎ澄まされた収束レーザーではなく一定の太さを持つ光線が放たれた。
そして数瞬の後。
「……よし。貫通したわ!」
「では、【アクセラレーター】起動します」
ドリィの報告を受けてアテラがそう告げると同時に、荒れ果てた地に酸の雨が降り注ぐ光景が屋内のものへと切り替わった。
【アクセラレーター】の超加速によって一気に移動したようだ。
「……ここは、迷宮遺跡の中か?」
「はい。突入に成功しました」
言われ、後ろを向くと天井に装甲車が通れるぐらいの大穴が開いていた。
金属のイオンで微妙に色がついた酸の雨が流れ込んできているのが見える。
しかし、その穴は迷宮遺跡の自己修復機能によって徐々に閉じていき、内部に入り込んでいた強酸溶液も揮発したように消え去ってしまった。
僅か数秒でドリィの攻撃の痕跡はどこにもない。
わざわざ【アクセラレーター】を使用したのは、彼女が抉じ開けた入り口を塞がれてしまう前に突入するためだった訳だ。
「警戒しつつ、コアユニットがあると思われる方向に進みましょう」
アテラの言葉に頷き、装甲車に乗ったまま迷宮遺跡を進み始める。
中の様子は多分に漏れず研究施設という風。
ただし、今のところ都合のいいことに装甲車が走れる程に廊下は広かった。
時空間転移システムのコアユニットが存在する施設だ。
あるいは転移拠点として、かつては多くの人が行き交っていたのかもしれない。
「……割と重要な施設だと思うんだけど、警備は手薄だな」
「それは今だけの話」
ククラがそう言うと、それを証明するように道の先から蠢くものが現れる。
どうやら想定されていない侵入経路だったがためにタイムラグがあったらしい。
やはり他の迷宮遺跡と同様に、機獣がセキュリティとして立ちはだかってくるようだ。そう考えてマグは警戒を強めた。
「な、あれは、スライム!?」
しかし、目に映ったのは外で目にした幻想獣と似た存在。
液滴のような形状のゲルの塊だった。
大きさは比較にならないぐらい小さかったが……。
「どっからか迷宮遺跡の中に入り込んだのか?」
「いえ、あれこそがこの迷宮遺跡の機獣のようです」
「あれが、機獣……?」
どう見ても有機的な生命体としか思えず、マグは困惑の声を上げてしまった。
「パパ。よく見て」
ククラに言われ、よくよく目を凝らす。
すると、その意思に従うように【エクソスケルトン】の機能で拡大されたスライムの中心に、何か機械装置のようなものがあるのが分かった。
ゲル状の肉体が動くのに合わせてライトが明滅しているのを見るに、ただ単に取り込まれている訳ではないのは明らかだ。
半透明の体に時折、淡い光が走って神経のような模様が浮かび上がっている。
「もしかして、あれで制御してるのか?」
「そう」
疑問気味の確認に、ククラが簡潔に肯定の意を示す。
あの見た目スライムなゲル状の塊こそ、この迷宮遺跡の中枢に制御されて侵入者を排除する存在、機獣そのものということで間違いないようだ。
一見すると機械的な要素が乏しくて違和感が半端ないが。
「あんな機械が体内にあるってことは、あれは外の奴とは性質が違うんだよな?」
「性質は確かに違う。けど、幻想獣を利用した存在」
「どういうことだ?」
「あの体は強酸の個体と強アルカリの個体を統合したもの。それを操ってる」
「統合……? じゃあ、中性状態なのか?」
「基本は。けど、必要に応じて強酸と強アルカリの部位を作り出せる」
ククラの説明を聞く限り、あの核となる装置の機能で外にいるスライムの上位種とも言えるような性質を得ているらしい。
「どう対処する?」
「このまま押し通りましょう」
「できるのか?」
スライムの大きさは装甲車を覆うことができる程度。
この広い廊下ならば回避も容易かろうが、この先通路が狭くなれば、このゲル状の体に埋め尽くされた道も出てくるかもしれない。
そうなると、外で危惧したように身動きできなくなる可能性がある。
そう懸念したマグの問いに。
「大丈夫。リィがあの核を撃てば体を維持できない」
アテラの代わりにククラが答える。
あの装置によって能力の汎用性は向上したようだが、同時にそれこそが致命的な弱点と成り果ててしまっているようだ。
恐らく、通常はゲル状の肉体に阻まれて攻撃が届くことはないのだろう。
そう考えると実に厄介な存在だ。
しかしながら、こちらにはドリィが持つ消去の断片の力がある。
つまるところ、彼らにとって決定的に相性の悪い相手がここにいる訳だ。
「アタシ達の行く手を阻むなら、消え去りなさい!」
そうして一体ずつ。確実に。機獣スライムを破壊していくドリィ。
おかげでスムーズに迷宮遺跡を進んでいくことができる。
後は時空間転移システムのコアユニットを目指すのみだ。
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