122 / 128
終章 電子仕掛けの約束
122 蠢くもの
しおりを挟む
未踏破領域の調査開始をアテラが宣言してから数秒後。
「事前情報の範囲の地形データ、取得完了しました。現在、データ送信中です」
動き出したかと思えば再び停車してしまった装甲車の中で、その彼女が言った。
先史兵装【アクセラレーター】の超加速を利用して指定された領域を一通り走らせることで、地形の起伏や土壌の成分など計測したのだろう。
人間の脳の処理能力では認識できないせいでマグとしては若干置いてけぼりな感があったが、さすがに三度目ともなれば慣れてくる。
「怪しい場所とかあったか?」
だから特に戸惑ったりすることなく、とりあえず集めた情報から何か手がかりが得られなかったか尋ねた。
「地下に構造物が埋まっている反応はありました」
「入口の場所は?」
「そこまでは特定できませんでした。申し訳ありません」
「迷宮遺跡からの電磁波と多種多様な金属のせいで地中探査が妨害されてる」
頭を下げたアテラをフォローするようにククラが告げる。
そういうことであれば仕方がないだろう。
「成程。……じゃあ、大体の当たりをつけて強引に抉じ開けるしかない、か?」
「ドリィちゃんの出番です!」
「そうね。けど、コアユニットの大まかな場所ぐらいは把握して狙いをしっかり定めないと、下手をするとコアユニットに影響が出る可能性があるわ」
「……危険」
「そうデスね。宇宙崩壊の最後の一押しを私達がすることになるかもデス」
皆の返答に対し、マグは同意と共に頷いた。
時空間転移システムの停止は決して失敗が許されない。
それだけに慎重に慎重を重ねて行動する必要があるだろう。
勿論、それで時間切れになってしまっては本末転倒にも程があるが、強行策は最後の手段としておいた方がいい。
「一先ずは、向学の街・学園都市メイアでの分析待ちか」
「そうですね。ですが、少し移動しましょう」
「ん? どうしてだ?」
「幻想獣です」
アテラが理由を答える間に装甲車が走り出した。
シールドがあれば大概の障害は問題ないのではないか、と疑問の目を向ける。
「旦那様。あそこを御覧下さい」
すると、彼女は促すようにある方向を指差した。
マグがそちらに視線を移すと、何かゲル状のものが蠢いていた。
「何だ、あれ。スライムみたいな……」
「はい。名をつけるならアシッドスライムとでも呼ぶべきでしょう」
「いやいや……ってか、幻想獣なんだろ? 元は何だったんだ?」
以前、討伐したトレントもそうだったが、またぞろファンタジー感が強いのが出てきたものだと思いながら問いかける。
あれはそのまま、木が転移の再構成によって運動機能を得たものだったが……。
「元々はクラゲ。それが陸上に適応してスライムみたくなった」
「更に、この雨に対応して強酸や強アルカリのボディになった訳デスね」
「成程……」
もし普通に生身で相対するのならば、恐るべき敵となっていたことだろう。
狩猟者がこの酸の雨の中で討伐するのは困難極まりない。
まあ、見た感じ倒すメリットらしいメリットはなさそうだが。
「と言うか、移動する意味あるのか? シールドで中への侵入は防げるだろ?」
「数が恐ろしいことになっていますので」
「もし纏わりつかれたら身動きできなくなるかもしれない」
アテラとククラの返答を受け、改めて遠くに蠢くそれらを見る。
周りが荒れ地であるせいで遠近感が狂ってしまっていたようだが、改めて距離から大きさを判断すると全長数百メートルはありそうだ。
恐らく無数のスライムが寄り集まっているのだろう。
「確かに。あんなものに飲み込まれたら、身動きが取れなくなるかもしれないな」
たとえ装甲車の内部は無事だったとしても、それでは意味がない。
そう考えると、接触しないように距離を取るのは正しい選択と言える。
【アクセラレーター】を使って移動しないのは、幻想獣の動きが遅いのと分析が終わるまでの主観時間が延びるのをアテラ達も厭ったからだろう。
そうして群体スライムから距離を取り続けること数分。
「旦那様、連絡が来ました」
ディスプレイを少し点滅させた後、アテラが告げる。
向学の街・学園都市メイアから分析の結果が来たらしい。
「位置が分かったのか?」
「いえ、更に範囲が絞られたという程度です。ですが、これならコアユニットに影響が出ない位置から迷宮遺跡に押し入ることが可能です」
「最善の突入地点は、ここ」
アテラの答えに続き、ククラが端末に示した地図のある点を指差して言う。
「じゃあ、アタシの出番ね」
それを受けて、準備運動をするようにレーザービームライトの射出口を動かしながら気合いを入れるドリィ。
「よし。行こう」
そんな彼女に頷き、マグ達はククラが示した場所へと向かったのだった。
「事前情報の範囲の地形データ、取得完了しました。現在、データ送信中です」
動き出したかと思えば再び停車してしまった装甲車の中で、その彼女が言った。
先史兵装【アクセラレーター】の超加速を利用して指定された領域を一通り走らせることで、地形の起伏や土壌の成分など計測したのだろう。
人間の脳の処理能力では認識できないせいでマグとしては若干置いてけぼりな感があったが、さすがに三度目ともなれば慣れてくる。
「怪しい場所とかあったか?」
だから特に戸惑ったりすることなく、とりあえず集めた情報から何か手がかりが得られなかったか尋ねた。
「地下に構造物が埋まっている反応はありました」
「入口の場所は?」
「そこまでは特定できませんでした。申し訳ありません」
「迷宮遺跡からの電磁波と多種多様な金属のせいで地中探査が妨害されてる」
頭を下げたアテラをフォローするようにククラが告げる。
そういうことであれば仕方がないだろう。
「成程。……じゃあ、大体の当たりをつけて強引に抉じ開けるしかない、か?」
「ドリィちゃんの出番です!」
「そうね。けど、コアユニットの大まかな場所ぐらいは把握して狙いをしっかり定めないと、下手をするとコアユニットに影響が出る可能性があるわ」
「……危険」
「そうデスね。宇宙崩壊の最後の一押しを私達がすることになるかもデス」
皆の返答に対し、マグは同意と共に頷いた。
時空間転移システムの停止は決して失敗が許されない。
それだけに慎重に慎重を重ねて行動する必要があるだろう。
勿論、それで時間切れになってしまっては本末転倒にも程があるが、強行策は最後の手段としておいた方がいい。
「一先ずは、向学の街・学園都市メイアでの分析待ちか」
「そうですね。ですが、少し移動しましょう」
「ん? どうしてだ?」
「幻想獣です」
アテラが理由を答える間に装甲車が走り出した。
シールドがあれば大概の障害は問題ないのではないか、と疑問の目を向ける。
「旦那様。あそこを御覧下さい」
すると、彼女は促すようにある方向を指差した。
マグがそちらに視線を移すと、何かゲル状のものが蠢いていた。
「何だ、あれ。スライムみたいな……」
「はい。名をつけるならアシッドスライムとでも呼ぶべきでしょう」
「いやいや……ってか、幻想獣なんだろ? 元は何だったんだ?」
以前、討伐したトレントもそうだったが、またぞろファンタジー感が強いのが出てきたものだと思いながら問いかける。
あれはそのまま、木が転移の再構成によって運動機能を得たものだったが……。
「元々はクラゲ。それが陸上に適応してスライムみたくなった」
「更に、この雨に対応して強酸や強アルカリのボディになった訳デスね」
「成程……」
もし普通に生身で相対するのならば、恐るべき敵となっていたことだろう。
狩猟者がこの酸の雨の中で討伐するのは困難極まりない。
まあ、見た感じ倒すメリットらしいメリットはなさそうだが。
「と言うか、移動する意味あるのか? シールドで中への侵入は防げるだろ?」
「数が恐ろしいことになっていますので」
「もし纏わりつかれたら身動きできなくなるかもしれない」
アテラとククラの返答を受け、改めて遠くに蠢くそれらを見る。
周りが荒れ地であるせいで遠近感が狂ってしまっていたようだが、改めて距離から大きさを判断すると全長数百メートルはありそうだ。
恐らく無数のスライムが寄り集まっているのだろう。
「確かに。あんなものに飲み込まれたら、身動きが取れなくなるかもしれないな」
たとえ装甲車の内部は無事だったとしても、それでは意味がない。
そう考えると、接触しないように距離を取るのは正しい選択と言える。
【アクセラレーター】を使って移動しないのは、幻想獣の動きが遅いのと分析が終わるまでの主観時間が延びるのをアテラ達も厭ったからだろう。
そうして群体スライムから距離を取り続けること数分。
「旦那様、連絡が来ました」
ディスプレイを少し点滅させた後、アテラが告げる。
向学の街・学園都市メイアから分析の結果が来たらしい。
「位置が分かったのか?」
「いえ、更に範囲が絞られたという程度です。ですが、これならコアユニットに影響が出ない位置から迷宮遺跡に押し入ることが可能です」
「最善の突入地点は、ここ」
アテラの答えに続き、ククラが端末に示した地図のある点を指差して言う。
「じゃあ、アタシの出番ね」
それを受けて、準備運動をするようにレーザービームライトの射出口を動かしながら気合いを入れるドリィ。
「よし。行こう」
そんな彼女に頷き、マグ達はククラが示した場所へと向かったのだった。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる