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終章 電子仕掛けの約束
119 再び学園都市へ
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『さすがにそれだけ揺れたなら、ある程度の位置は推測できたんじゃないかな』
秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアの管理者の部屋に軽い口調の声が響く。
スタンドアロンの端末から聞こえてきたそれは、街の元管理者メタのものだ。
敵意もわだかまりも何もない余裕に満ちた態度だが、特に逆襲の手立てがあるという訳ではない。既に方針通りに処置を済ませているので安全だ。
ただ単に、状況を説明したマグ達に対して率直に意見を言っているに過ぎない。
素でそういう性格なのだろう。
『だから、向学の街・学園都市メイアに行って情報収集した方がいいね。直接』
「そうですね。メタを無力化したことを信じて貰えなければ、こちらから問い合わせても情報を開示してくれないでしょうし……直に尋ねるしかありません」
当然ながら、管理者には他の街との連絡手段がある。
使う使わないは別にして。
だが、時空間転移システムのコアユニットの在処はメタも探し求めていた情報だけに、彼女が敗北を偽って情報を得ようとしていると見なされる可能性もある。
あちらの管理人であるローフェと顔を合わせて話すのが手っ取り早いだろう。
『どれだけ時間の猶予があるか分からないし、急いだ方がいいと思うよ?』
純然たる助言という風に言うメタ。
しかし、彼女の裏側を知った後では何とも胡散臭さを感じざるを得ない。
そんな周りの雰囲気に、メタは苦笑したような顔を端末の画面に映して続けた。
『気持ちは分からなくもないけど、他意はないって。時空間転移システムの無意味な暴走で世界が滅ぶのは、さすがに私だって望んでいないからね』
「…………まあ、そこは信用していいかと」
図らずも長い時間、すぐ傍で彼女の相手をしてきたコスモスが、どことなく不本意そうにフォローを入れる。
実際、そこは間違いない話だろう。
メタとて人間のために作られたガイノイドであることに変わりはないのだから。
とは言え――。
『そうそう。私の野心の断片は確固たる己を保持するもの。何万年、何億年でも耐えられるからね。存在している限り、人間の幸福のために行動するだけのことさ』
わざとらしくそんなことを言うから、普通の発言も今一つ信じ切れないのだが。
「……コスモスさん、くれぐれも彼女のことは頼みますよ?」
特に一度マグと引き離されたアテラは輪をかけて不信感を持っているらしく、強い警戒を示すようにディスプレイを黄色に染めながら管理の徹底を促す。
「勿論です。二度と勝手な真似はさせません」
『折角集めた断片も失っちゃったから、今は何もできないって』
メタはそう肩を竦めるように言うが、野心の断片は所有者の辞書から諦めの二文字を消し去る効果もあるようだから警戒はしておく必要があるだろう。
どうも別の何か、別の誰かに断片を移そうとしても対象を乗っ取ってしまうようなので、断片そのものはメタに保持させたままにしなければならないようだが。
……それはともかくとして。
「何にせよ、まずは向学の街・学園都市メイアに向かうデスよ」
「急いだ方がいいわよね」
「はい。よろしくお願いします」
オネットとドリィの言葉に頷き、コスモスが街の管理者として頭を下げる。
腕輪型の端末にも正式な形で依頼が届いていた。
マグとしては乗りかかった舟という感覚もあり、わざわざ頼まれずとも確認に行こうとは思っていたが、彼女もしっかりと切り分けする性分のようだ。
「キリはどうするデス?」
「……同行」
「助かるデスよ」
そうしてキリを仲間に加えたマグ達は、新たに一回り大きな装甲車を借りて秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアを出発した。
「パパは【エクソスケルトン】を起動して」
走り出した車内でククラに言われるがまま、新しく受け取ったそれを纏う。
これもまた彼女の理解の力で改良したものらしい。
「到着」
そう考えていると、ククラのそんな声が耳に届く。
まだ街を出てすぐだろうに何を言っているのかと窓の外に視線をやると、確かに向学の街・学園都市メイアが目前に迫っていた。
「……転移でもしてきたのか?」
そうとしか考えられないような状況に、思わずそんな疑問が口に出てしまう。
「【アクセラレーター】の適用範囲を装甲車全体にした」
どうやら、それによって移動時間を大幅に短縮したらしい。
アテラ達の改良を行った上でメタが設定した期限に間に合ったのも、これのおかげだったのだろう。
「いや、でも――」
「旦那様への負荷は、新たに得た断片の応用で軽減しました」
疑問を先回りして答えるアテラ。
メタが保有していたものの中で、本来の持ち主が既にいない断片。
一先ずアテラが吸収しておくこととなったそれらのおかげで、超加速した装甲車の中にあって何も問題なく共に移動できたようだった。
さすがにマグの認識の方にまで適用するのは無理のようだが、そこは旅路を簡略化することができて逆によかったと言うべきかもしれない。
ともあれ、秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアを出て体感五分。
マグ達は前回同様地下駐車場からパーソナルモビリティを使用し、街の管理者たるローフェの下へと向かったのだった。
秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアの管理者の部屋に軽い口調の声が響く。
スタンドアロンの端末から聞こえてきたそれは、街の元管理者メタのものだ。
敵意もわだかまりも何もない余裕に満ちた態度だが、特に逆襲の手立てがあるという訳ではない。既に方針通りに処置を済ませているので安全だ。
ただ単に、状況を説明したマグ達に対して率直に意見を言っているに過ぎない。
素でそういう性格なのだろう。
『だから、向学の街・学園都市メイアに行って情報収集した方がいいね。直接』
「そうですね。メタを無力化したことを信じて貰えなければ、こちらから問い合わせても情報を開示してくれないでしょうし……直に尋ねるしかありません」
当然ながら、管理者には他の街との連絡手段がある。
使う使わないは別にして。
だが、時空間転移システムのコアユニットの在処はメタも探し求めていた情報だけに、彼女が敗北を偽って情報を得ようとしていると見なされる可能性もある。
あちらの管理人であるローフェと顔を合わせて話すのが手っ取り早いだろう。
『どれだけ時間の猶予があるか分からないし、急いだ方がいいと思うよ?』
純然たる助言という風に言うメタ。
しかし、彼女の裏側を知った後では何とも胡散臭さを感じざるを得ない。
そんな周りの雰囲気に、メタは苦笑したような顔を端末の画面に映して続けた。
『気持ちは分からなくもないけど、他意はないって。時空間転移システムの無意味な暴走で世界が滅ぶのは、さすがに私だって望んでいないからね』
「…………まあ、そこは信用していいかと」
図らずも長い時間、すぐ傍で彼女の相手をしてきたコスモスが、どことなく不本意そうにフォローを入れる。
実際、そこは間違いない話だろう。
メタとて人間のために作られたガイノイドであることに変わりはないのだから。
とは言え――。
『そうそう。私の野心の断片は確固たる己を保持するもの。何万年、何億年でも耐えられるからね。存在している限り、人間の幸福のために行動するだけのことさ』
わざとらしくそんなことを言うから、普通の発言も今一つ信じ切れないのだが。
「……コスモスさん、くれぐれも彼女のことは頼みますよ?」
特に一度マグと引き離されたアテラは輪をかけて不信感を持っているらしく、強い警戒を示すようにディスプレイを黄色に染めながら管理の徹底を促す。
「勿論です。二度と勝手な真似はさせません」
『折角集めた断片も失っちゃったから、今は何もできないって』
メタはそう肩を竦めるように言うが、野心の断片は所有者の辞書から諦めの二文字を消し去る効果もあるようだから警戒はしておく必要があるだろう。
どうも別の何か、別の誰かに断片を移そうとしても対象を乗っ取ってしまうようなので、断片そのものはメタに保持させたままにしなければならないようだが。
……それはともかくとして。
「何にせよ、まずは向学の街・学園都市メイアに向かうデスよ」
「急いだ方がいいわよね」
「はい。よろしくお願いします」
オネットとドリィの言葉に頷き、コスモスが街の管理者として頭を下げる。
腕輪型の端末にも正式な形で依頼が届いていた。
マグとしては乗りかかった舟という感覚もあり、わざわざ頼まれずとも確認に行こうとは思っていたが、彼女もしっかりと切り分けする性分のようだ。
「キリはどうするデス?」
「……同行」
「助かるデスよ」
そうしてキリを仲間に加えたマグ達は、新たに一回り大きな装甲車を借りて秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアを出発した。
「パパは【エクソスケルトン】を起動して」
走り出した車内でククラに言われるがまま、新しく受け取ったそれを纏う。
これもまた彼女の理解の力で改良したものらしい。
「到着」
そう考えていると、ククラのそんな声が耳に届く。
まだ街を出てすぐだろうに何を言っているのかと窓の外に視線をやると、確かに向学の街・学園都市メイアが目前に迫っていた。
「……転移でもしてきたのか?」
そうとしか考えられないような状況に、思わずそんな疑問が口に出てしまう。
「【アクセラレーター】の適用範囲を装甲車全体にした」
どうやら、それによって移動時間を大幅に短縮したらしい。
アテラ達の改良を行った上でメタが設定した期限に間に合ったのも、これのおかげだったのだろう。
「いや、でも――」
「旦那様への負荷は、新たに得た断片の応用で軽減しました」
疑問を先回りして答えるアテラ。
メタが保有していたものの中で、本来の持ち主が既にいない断片。
一先ずアテラが吸収しておくこととなったそれらのおかげで、超加速した装甲車の中にあって何も問題なく共に移動できたようだった。
さすがにマグの認識の方にまで適用するのは無理のようだが、そこは旅路を簡略化することができて逆によかったと言うべきかもしれない。
ともあれ、秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアを出て体感五分。
マグ達は前回同様地下駐車場からパーソナルモビリティを使用し、街の管理者たるローフェの下へと向かったのだった。
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