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終章 電子仕掛けの約束
113 アップグレード
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『君達の力。その全てを貰おう。あまねく宇宙の果てまで、そして、こことは異なる全ての世界を人間のものとするために。それこそが人間の幸福なのだから』
「違う。それは貴方の野心。屁理屈をこねて体のいい理由を捏造してるだけ」
どこか演技染みた主張を口にするメタに対し、冷めた口調で返すククラ。
革新の判断軸・野心の断片。
それが彼女の思想を先鋭化させたのか、あるいは、そうした考えを持つからこそそのような断片を得るに至ってしまったのかは分からない。
だが、いずれにしても彼女の言う幸福というものは、あくまでも彼女の考える人間の幸福に過ぎないし、リスクを一切鑑みていないこともまた事実。
強引に押し通そうというのならば、何としてでも防がなければならない。
自分達の未来の平穏が妨げられかねないし、何よりもその強引なやり方のために今正に実害を被っている訳だから。
「それに、貴方の思い通りにはならない」
「その野心は、ここで終わりデス」
『……容易く彼を奪われた君達がよく言うものだね』
ククラとオネットの言葉に、ほんの少しだけ機嫌を損ねたように返すメタ。
さすがの彼女もここまで否定を重ねられると不愉快になるようだ。
『今更君達に何ができるのか、見せて貰おうじゃないか。まずはその防御膜。前回と同じように切り裂いてあげよう』
そしてメタがそう続けた瞬間。
フィアによって周囲に展開されているシールドの表面で無数の光が弾ける。
恐らくはマグを拉致した時と同様に、破壊の判断軸・切除の断片の力を宿した攻撃で光の膜を破壊しようとしたのだろう。
あの時から僅か三日しか経っていない。
移動距離や時間を考慮に入れると、同じ結果に終わる以外考えられないが……。
『なっ!?』
その現象を前にして驚きの声を上げたのはメタだった。
それもそのはず。フィアのシールドは健在。
何ら揺らぐことなく、その形を保っている。
変化と言えば、甲高い落下音。
加えて、透明化した床に破損した機械パーツがいくつも出現している。
恐らく、本体から離れたことによって隠形の効果がなくなったのだろう。
元々は先端に刃がついた、触手のように動くマニピュレーターだったようだ。
それが複数。四方八方から襲いかかり、光の膜を切り裂こうとしていたらしい。
だが、結果は逆。
フィアがその身に宿す保守の判断軸・防壁の断片の力が、破壊の判断軸・切除の断片の力を上回った訳だ。
「もうフィアは前のフィアじゃないです!」
外見不相応の大きな胸部パーツが左右に開いて露出しているジェネレーター。
その回転は以前よりも高速で、しかし、以前よりも静音で安定している。
「私やドリィも含め、機体をアップグレードしたデスよ」
「そう。何世代もスキップした」
その理由を告げたオネットに続いて、ククラが胸を張るようにしながら言う。
『そうか。理解の断片の力で機体の最適化をしたのか』
メタが告げた通り、どうやらアテラとフィアを修理するのに合わせて各々の体にそれぞれの特徴に見合った改造を施したらしい。
断片と断片がかち合った時、その勝敗を決定するのは基本的に断片を保有している機人や装置の性能の差だ。
アップグレードによって、それが大幅に縮まったことは間違いない。
しかし――。
『それだけなら私の攻撃を防ぐことができる訳がない』
メタの体。この施設そのものが彼女達に明確に劣っているとは思えない。
何か別の要因がなければおかしい。
相手の断片を把握できるメタからすれば、尚更不可解な状況に違いない。
彼女のように複数の断片を得た訳でもないのだろうから。
『いや、そもそも、あの場所からこの秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアまで来るのに、機体の改良なんてしている余裕はなかったはずだ』
「その答えは簡単。すぐに分かる」
メタの疑問に対してククラがそう返した次の瞬間。
隠形によって認識できなくなっていた管理者の部屋が突如として元通り見えるようになり、かと思えば、壁と言う壁が細切れになって崩れ落ち始めた。
「違う。それは貴方の野心。屁理屈をこねて体のいい理由を捏造してるだけ」
どこか演技染みた主張を口にするメタに対し、冷めた口調で返すククラ。
革新の判断軸・野心の断片。
それが彼女の思想を先鋭化させたのか、あるいは、そうした考えを持つからこそそのような断片を得るに至ってしまったのかは分からない。
だが、いずれにしても彼女の言う幸福というものは、あくまでも彼女の考える人間の幸福に過ぎないし、リスクを一切鑑みていないこともまた事実。
強引に押し通そうというのならば、何としてでも防がなければならない。
自分達の未来の平穏が妨げられかねないし、何よりもその強引なやり方のために今正に実害を被っている訳だから。
「それに、貴方の思い通りにはならない」
「その野心は、ここで終わりデス」
『……容易く彼を奪われた君達がよく言うものだね』
ククラとオネットの言葉に、ほんの少しだけ機嫌を損ねたように返すメタ。
さすがの彼女もここまで否定を重ねられると不愉快になるようだ。
『今更君達に何ができるのか、見せて貰おうじゃないか。まずはその防御膜。前回と同じように切り裂いてあげよう』
そしてメタがそう続けた瞬間。
フィアによって周囲に展開されているシールドの表面で無数の光が弾ける。
恐らくはマグを拉致した時と同様に、破壊の判断軸・切除の断片の力を宿した攻撃で光の膜を破壊しようとしたのだろう。
あの時から僅か三日しか経っていない。
移動距離や時間を考慮に入れると、同じ結果に終わる以外考えられないが……。
『なっ!?』
その現象を前にして驚きの声を上げたのはメタだった。
それもそのはず。フィアのシールドは健在。
何ら揺らぐことなく、その形を保っている。
変化と言えば、甲高い落下音。
加えて、透明化した床に破損した機械パーツがいくつも出現している。
恐らく、本体から離れたことによって隠形の効果がなくなったのだろう。
元々は先端に刃がついた、触手のように動くマニピュレーターだったようだ。
それが複数。四方八方から襲いかかり、光の膜を切り裂こうとしていたらしい。
だが、結果は逆。
フィアがその身に宿す保守の判断軸・防壁の断片の力が、破壊の判断軸・切除の断片の力を上回った訳だ。
「もうフィアは前のフィアじゃないです!」
外見不相応の大きな胸部パーツが左右に開いて露出しているジェネレーター。
その回転は以前よりも高速で、しかし、以前よりも静音で安定している。
「私やドリィも含め、機体をアップグレードしたデスよ」
「そう。何世代もスキップした」
その理由を告げたオネットに続いて、ククラが胸を張るようにしながら言う。
『そうか。理解の断片の力で機体の最適化をしたのか』
メタが告げた通り、どうやらアテラとフィアを修理するのに合わせて各々の体にそれぞれの特徴に見合った改造を施したらしい。
断片と断片がかち合った時、その勝敗を決定するのは基本的に断片を保有している機人や装置の性能の差だ。
アップグレードによって、それが大幅に縮まったことは間違いない。
しかし――。
『それだけなら私の攻撃を防ぐことができる訳がない』
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何か別の要因がなければおかしい。
相手の断片を把握できるメタからすれば、尚更不可解な状況に違いない。
彼女のように複数の断片を得た訳でもないのだろうから。
『いや、そもそも、あの場所からこの秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアまで来るのに、機体の改良なんてしている余裕はなかったはずだ』
「その答えは簡単。すぐに分かる」
メタの疑問に対してククラがそう返した次の瞬間。
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