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終章 電子仕掛けの約束
105 エゴトランスファー
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「さて、マグ君だったか。君は魂を移し替える技術に興味があるそうだな」
「はい」
自己紹介や挨拶もそこそこに、いきなり本題に入ったスピルに頷いて答える。
それこそが個人的に最大の関心事であるだけに、長々と前置きを並べ立てられるよりはそうしてくれた方がありがたいと言えばありがたい。
なので、意識を集中して言葉を待つ。
そんなマグに対して、間違いなく伊達である眼鏡をかけた彼女は、足を組んで有能な女医のような雰囲気を醸し出しながら口を開いた。
「それを用いて機人となることを望んでいるとか」
「その通りです。ここにいるアテラと添い遂げるために」
マグは即答した上で隣に立つ彼女に視線を向けながらつけ加える。
それをスピルは物珍しそうな目で見た。
傷病や老化から逃れるためとかでもなく、マグのような理由でそれを望む者は街の管理者として様々な人間を見てきたはずの彼女にとっても稀な存在なのだろう。
「ふ。面白い奴がいたものだな」
それからスピルは楽しげな笑みを浮かべると、机の脇の大きな引き出しからヘッドギアのような装置を取り出した。
「もしかして、それが……」
「そう。これがかつての文明で作られた魂を移す装置【エゴトランスファー】だ」
「そ、それを使えば、人間が機人になることもできるってことですか?」
もしかしたら目的が今すぐにでも叶うかもしれないと心臓が高鳴る。
……しかし、どうやらそう簡単な話ではないようだ。
「いや、そうするにはまだいくつか問題があってな」
スピルはそう首を横に振りながら答える。
「問題、ですか?」
実物があるにもかかわらず、使うことができない。
と言うことは、時空間転移システムと同じく使い方が分からないとかだろうか。
「それなら――」
人見知りしているかのように脇の辺りにくっついているククラに視線を落とす。
受容の判断軸・理解の断片を持つ彼女であれば、その問題とやらを解決することができるかもしれない。そう思って。
……しかし、ククラはこの世界の行く末を大きく左右する存在だ。
その存在を闇雲に明かしてしまうのはよろしくない。
たとえマグにとって最大の望みであっても、彼女を危険に晒す訳にはいかない。
「…………いえ、どういった問題なんですか?」
「便宜上魂と呼ぶべきものを別の器に移すことは、これを使用することで可能となる。だが、対応する器がないのだ」
「と言うと?」
「肉体の感覚の違いに拒絶反応を示し、精神に異常をきたす。それは人間を機人の器に移しても、機人をたんぱく質の肉体に移しても起こる。人間を、遺伝子的に同一の成人した肉体に移した場合は軽微だがな」
サラリと人体実験をしなければ分からないようなことを口にするスピル。
それに気づいたマグは微妙な顔をしてしまった。
その反応に彼女は「ああ」と理解したように頷くと、言葉を続けた。
「勿論、治験をしたのは別の街で死刑を言い渡された重罪人や、余命幾ばくもなく自ら志願した者だけだ。前者にしても事前に同意は得ている」
それでもどうかとは思うが、人権意識が高い時代に生きていたが故の感情か。
医療の発展には最終的に人体を用いた実証が必要になる事実もあるし、その時代その場所での法律の範囲で実施されているのであれば文句は言いにくい。
過去の時代で病に侵され、それでも僅かな時間であれアテラと共に過ごすことができたのも、その恩恵の一つでもあるのだから尚のことだ。
しかし、別の街の重罪人……。
オネットが言っていた資材とは恐らく、それも含まれていたのだろう。
「その器を作り上げることが、我々の目下の研究内容だ」
「迷宮遺跡に転がってないデス?」
「可能性としてはなくはない。君達をこの街に招き入れたのも、それを探し出す依頼を受けて欲しいからだ。君達は活動歴こそ浅いが、非常に優秀だと聞いている」
あくまでもフィアとドリィ主体の評価だろう。
だが、そう言われて悪い気はしない。
いずれにしても、マグの目的に自分が宿ることとなる器は必要不可欠だ。
こればかりは拒否する理由がない。
「探索すべきは、その出土品が発見された場所ですか?」
「いや、そこは最深部まで探索済みだ。何より生産設備ではなかった。まあ、隠し部屋が存在する可能性は否定できないが……限りなくゼロに近いだろう」
と言うことは、探すべきは未発見の迷宮遺跡か。
彼女達が自らの技術力によって適正な器を作り出すのが先か、どこかから見つけ出されるのが先かは分からない。
しかし、いずれにしても道筋がハッキリと見えてきた気がする。
夢物語ではなく、現実的な目標として。
「今後は冒険者寄りの活動に切り替えるべきかもしれないな……」
研究に関わるには知識が圧倒的に不足している。
ククラの力があれば別かもしれないが、今はまだそうできる状況にない。
大っぴらに彼女に頼るには、時空間転移システムの暴走をとめる必要がある。
そう考えると、コアユニットを探すことにも繋がるし、今の自分にとっては未踏破領域に踏み入って未発見の遺跡を探すことが最善の行動かもしれない。
マグはスピルの話を聞いてそう思った。
「はい」
自己紹介や挨拶もそこそこに、いきなり本題に入ったスピルに頷いて答える。
それこそが個人的に最大の関心事であるだけに、長々と前置きを並べ立てられるよりはそうしてくれた方がありがたいと言えばありがたい。
なので、意識を集中して言葉を待つ。
そんなマグに対して、間違いなく伊達である眼鏡をかけた彼女は、足を組んで有能な女医のような雰囲気を醸し出しながら口を開いた。
「それを用いて機人となることを望んでいるとか」
「その通りです。ここにいるアテラと添い遂げるために」
マグは即答した上で隣に立つ彼女に視線を向けながらつけ加える。
それをスピルは物珍しそうな目で見た。
傷病や老化から逃れるためとかでもなく、マグのような理由でそれを望む者は街の管理者として様々な人間を見てきたはずの彼女にとっても稀な存在なのだろう。
「ふ。面白い奴がいたものだな」
それからスピルは楽しげな笑みを浮かべると、机の脇の大きな引き出しからヘッドギアのような装置を取り出した。
「もしかして、それが……」
「そう。これがかつての文明で作られた魂を移す装置【エゴトランスファー】だ」
「そ、それを使えば、人間が機人になることもできるってことですか?」
もしかしたら目的が今すぐにでも叶うかもしれないと心臓が高鳴る。
……しかし、どうやらそう簡単な話ではないようだ。
「いや、そうするにはまだいくつか問題があってな」
スピルはそう首を横に振りながら答える。
「問題、ですか?」
実物があるにもかかわらず、使うことができない。
と言うことは、時空間転移システムと同じく使い方が分からないとかだろうか。
「それなら――」
人見知りしているかのように脇の辺りにくっついているククラに視線を落とす。
受容の判断軸・理解の断片を持つ彼女であれば、その問題とやらを解決することができるかもしれない。そう思って。
……しかし、ククラはこの世界の行く末を大きく左右する存在だ。
その存在を闇雲に明かしてしまうのはよろしくない。
たとえマグにとって最大の望みであっても、彼女を危険に晒す訳にはいかない。
「…………いえ、どういった問題なんですか?」
「便宜上魂と呼ぶべきものを別の器に移すことは、これを使用することで可能となる。だが、対応する器がないのだ」
「と言うと?」
「肉体の感覚の違いに拒絶反応を示し、精神に異常をきたす。それは人間を機人の器に移しても、機人をたんぱく質の肉体に移しても起こる。人間を、遺伝子的に同一の成人した肉体に移した場合は軽微だがな」
サラリと人体実験をしなければ分からないようなことを口にするスピル。
それに気づいたマグは微妙な顔をしてしまった。
その反応に彼女は「ああ」と理解したように頷くと、言葉を続けた。
「勿論、治験をしたのは別の街で死刑を言い渡された重罪人や、余命幾ばくもなく自ら志願した者だけだ。前者にしても事前に同意は得ている」
それでもどうかとは思うが、人権意識が高い時代に生きていたが故の感情か。
医療の発展には最終的に人体を用いた実証が必要になる事実もあるし、その時代その場所での法律の範囲で実施されているのであれば文句は言いにくい。
過去の時代で病に侵され、それでも僅かな時間であれアテラと共に過ごすことができたのも、その恩恵の一つでもあるのだから尚のことだ。
しかし、別の街の重罪人……。
オネットが言っていた資材とは恐らく、それも含まれていたのだろう。
「その器を作り上げることが、我々の目下の研究内容だ」
「迷宮遺跡に転がってないデス?」
「可能性としてはなくはない。君達をこの街に招き入れたのも、それを探し出す依頼を受けて欲しいからだ。君達は活動歴こそ浅いが、非常に優秀だと聞いている」
あくまでもフィアとドリィ主体の評価だろう。
だが、そう言われて悪い気はしない。
いずれにしても、マグの目的に自分が宿ることとなる器は必要不可欠だ。
こればかりは拒否する理由がない。
「探索すべきは、その出土品が発見された場所ですか?」
「いや、そこは最深部まで探索済みだ。何より生産設備ではなかった。まあ、隠し部屋が存在する可能性は否定できないが……限りなくゼロに近いだろう」
と言うことは、探すべきは未発見の迷宮遺跡か。
彼女達が自らの技術力によって適正な器を作り出すのが先か、どこかから見つけ出されるのが先かは分からない。
しかし、いずれにしても道筋がハッキリと見えてきた気がする。
夢物語ではなく、現実的な目標として。
「今後は冒険者寄りの活動に切り替えるべきかもしれないな……」
研究に関わるには知識が圧倒的に不足している。
ククラの力があれば別かもしれないが、今はまだそうできる状況にない。
大っぴらに彼女に頼るには、時空間転移システムの暴走をとめる必要がある。
そう考えると、コアユニットを探すことにも繋がるし、今の自分にとっては未踏破領域に踏み入って未発見の遺跡を探すことが最善の行動かもしれない。
マグはスピルの話を聞いてそう思った。
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