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終章 電子仕掛けの約束

104 医療都市

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 装甲車の速度を落とし、高く立ち並ぶ不思議な壁へと近づいていく。
 どうやら光学迷彩的な技術によって隠されていた部分はまだあったらしい。

「……ドーム状になってるのか」

 目を凝らすと壁の上部に、街全体を覆うように透明な蓋がなされていた。
 昔のSFに登場する未来的な都市のような雰囲気がある。

「ちょっとここで待つデス」

 壁の前で完全に停車した後、車内でオネットに言われるまま待機する。
 そうしていると、壁の繋ぎ目が全くなかった部分に中心付近から上下に縦の線が描かれ、そこから壁が自動ドアのように左右に開いた。
 そして開ききった扉から、白い防護服を着た者達がワラワラと出てくる。

「な、何だ?」

 外見が外見だけに、マグは思わず身構えてしまった。

「私達が変な病原体を持っていないか調べるのデスよ」
「……ああ、成程」

 どうやら検疫のようなものだったらしい。
 オネットの説明を受けて納得し、とりあえず皆で車から降りる。
 清適の街・医療都市ポリーク。
 人間の健康を第一に考えるだけあって、防疫はしっかりしているようだ。

「けど、かえって免疫力が落ちたりしないか?」
「この街にいる限り、イレギュラーな感染症に罹患することはありません」

 と、防護服の中の一人がマグの自問に答える。
 比較的若い男性の声だ。

「また、街の清浄度を常時調整しており、各人の体質に応じて免疫力、自然治癒力が最大となるようにしております」

 万が一、街の恩恵を受けられなくなった場合にも備えている訳だ。
 マグが懸念する程度のことは、ちゃんと考えているのだろう。当たり前か。
 しかし、疑問に答えてくれた彼は生身の人間ではなく機人だった。
 目の奥側で判別できる。
 機人ならば人間がかかる病気など問題ないはずだが、それでも防護服を着ているのは洗浄しにくい場所に病原体が付着しないようにするためと見て間違いない。

「では、少しの間、動かないようにしていて下さい」

 その彼はそう指示を出すと、何やらハンディタイプの金属探知機のような平たい装置を取り出し、手に持ってマグにかざし始めた。
 そして平たい面の片方、淡い光を放っている側をマグの体に向け、頭の天辺から爪先までゆっくりと動かしていく。
 それが終わると、彼は結果のやり取りでもしているのか瞳の奥を明滅させ、それから一つ頷いて再び口を開いた。

「特筆すべき病原体はいませんでした。健康そのものです」
「そ、そうですか。ありがとうございます」

 この未来に来て体の調子がすこぶるよくなり、それ以来全く気にしていなかったが改めて保証されると少し気が楽になったようにも思う。
 検査を担当した彼が若干物足りなさそうな表情を浮かべているのはどうかとは思ったが、この場は一先ず感謝しておくことにした。

「次に、念のための殺菌と洗浄を行います。門の中の殺菌室へどうぞ」

 アテラ達も特に問題ないとのことで、全員で左右に分かれた壁の真ん中を進む。
 装甲車は外側から内部に至るまで隈なく洗浄中だ。
 薬品を噴射するノズルのようなものを持った防護服の者達によって。
 後で駐車スペースに運んでおいてくれるらしい。
 それはさておき、彼に言われた通りに門をくぐる。
 すると、すぐに新しい扉があり、一人ずつ部屋の中に入るように促された。

「まずは私が」

 最初にアテラ、次にマグの順番で指示に従う。
 中では白い煙を全身に噴きつけられ、それが終わるとマグは自動的に開いた奥側の扉から外に出た。そして廊下でしばらく待っていると――。

「ご協力ありがとうございました」

 全員揃ったところで、別の扉からイケメン風の男性型機人が現れて頭を下げた。
 検疫が済んだためか、防護服を着ていない。
 声の感じからして、マグを担当していた彼のようだ。

「管理者たるスピル様がお待ちです。ご案内いたします」

 そう告げてから歩き出した彼の後に続く。
 廊下の壁は清潔感を出そうとしているのか純白で、やはりと言うべきか、病院のような印象を受ける。
 白過ぎるのもかえって圧迫感があり、ずっとここにいると気が滅入りそうだ。

「……街もこんな感じなんですか?」
「いえ。ここはあくまでも公共の施設なのでこのようになっていますが、普段生活している場所は至って普通です。精神衛生上の問題もありますので」

 案内役の彼の返答にそうだろうと頷く。
 体だけ健康でも仕方がない。心と体のバランスが何より大事だ。
 ……しかし、排他的と聞いていたが、随分と丁寧な対応をしてくれるものだ。
 やはり関係深い街からの紹介状が利いているのだろう。
 そんなことを考えながら白い廊下をしばらく歩いていくと、同じく白い扉の前で男性型機人は立ちどまる。

「こちらです。中へどうぞ」

 彼はそう言いながら扉を開け、マグ達は頷いてから部屋に入った。
 中は廊下の過剰なまでの白さとは対照的に、様々な機器がところ狭しと置かれていた。如何にも生物系の研究室という感じだ。
 一目で用途が分かるのは、遠心分離機と電子顕微鏡と培養用の冷蔵庫ぐらいか。
 複数ある謎のチャンバーは、真空状態などの特異な環境を作るという機能そのものは分かるものの、それで何をするかまで分からない。

「よく来たな」

 その声を受けて目を部屋の奥に向けると、一体のガイノイドの姿が視界に入る。
 何故かコーヒーカップを片手に机に腰をかけている妙齢の女性型機人。
 彼女こそ、この清適の街・医療都市ポリークの管理者スピルその人であるようだ。
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