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第二章 ガイノイドが管理する街々

092 手がかり?

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 既に標本の街・機械都市ジアムの管理者ロットという年配の(ように見える)機人を目にしていたが、眼前の存在はそれに輪をかけて老いていた。
 いや、勿論、最初からそのように設計されて製作されているはずで、この状態が彼にとってのベストではあるのだろうが……。
 作り込みが半端なく、かなり高齢の老人と相対している感覚が強かった。

「キリは、残念であったな」
「相手が一枚も二枚も上手だったと思うしかないデス」

 彼の言葉に、普通に声を出して応じるオネット。
 どうやら、この部屋は端末の通信が遮断されているようだ。

「メタを直接どうにかするのは、やはり困難であるか」
「デスね。都合のいい力を持った先史兵装PTアーマメントでも発見されれば話は別デスが……」
「基本は先んじて時空間転移システムを発見、暴走を停止させた後、二度と使用できない状態にするぐらいしか彼女の野望を食いとめる方法はなさそうであるな」

 交わされた会話は、おおよそマグ達と話していたことの再確認のような内容。
 だが、情報の共有は大事だ。
 確証の乏しい話を前提に動くと、手痛いミスに繋がってしまう可能性もある。

「さて、そこで君達に依頼したいことがある」
「え、ええと……俺達に、ですか?」

 言いながら奥まった目を向けてきたローフェに、マグは若干警戒しつつ尋ねた。
 しばらく共に過ごしたオネットはともかく、初対面の彼はまだ信用し切れない。
 メタのように上辺だけ取り繕っている可能性もなくはない。

「うむ。君達に、とある未踏破の迷宮遺跡を攻略して欲しいのである」
「……え? も、もしかして、あそこデスか?」

 ローフェの求めを受け、オネットが驚いたように確認の問いを口にする。
 迷宮遺跡の攻略は、ASHギルド所属の探索者の本分ではあるが……。
 オネットのその反応。あるいは、難易度が桁違いに高いのかもしれない。

「複数の断片フラグメントを有している彼らであれば、あの厄介な迷宮遺跡であっても最奥に至ることができる可能性が高い。それは君も理解できるであろう?」
「デスが……」

 異を唱えようとしている雰囲気の言葉は後に続かない。
 ローフェの主張を半ば肯定しているようなものだ。

「未踏破領域を切り開き、迷宮遺跡を発見する。そして一つでも多くの迷宮遺跡を攻略し、新たな先史兵装PTアーマメントを発見する。それが今は肝要であろう」

 それは間違いないと完全に口を噤んでしまうオネット。
 情が移ったのか比較的マグ達寄りの立場で考えてくれているようだが、当然ながらメタという脅威をどうにかしようという気持ちは変わることなく強い。
 立ち位置的に交渉役には向かない。
 何より、そもそもマグ達に対する依頼だ。
 彼女に応対を任せ切りというのは道理に合わないだろう。

「どうであるかな?」
「…………報酬は?」
「当然ある。命を懸けて貰う訳であるからな。だが、君達にとって釣り合う対価は見当がつかないのである。何か望むものはあるか?」

 その問いかけにマグは警戒を強めた。
 こちらに任せた報酬。
 破格の条件は依頼が相当困難な内容であることの証明としか思えない。
 ……とは言え、本当に見返りを自由に求めていいのなら一考に値するだろう。
 だから――。

「俺の望みは一つ。アテラと同じ機人になることです。アテラと共に歩んでいくために。何か情報があれば、それを報酬として下さい」

 マグは取り繕うことなくストレートに告げた。
 対してローフェは想定外の答えだったのか、年齢を作るために深く刻まれたしわと弛んだ皮膚で小さく見える目を大きく見開いた。
 だが、年の功を模するプログラムによってか即座に冷静さを取り戻した彼は、マグが口にした内容を吟味するように瞑目した。
 少しの間、沈黙が場を支配する。
 それからややしばらくして――。

「人間を機人に、であるか。そう言えば、あの街ではそれに類する研究もしていると聞いたことがあったな」
「え?」

 口を開いたローフェが告げた内容に、思わず問い返す。
 正直なところ吹っかけた感もあった要求。
 まさか手がかりを得られそうな言葉が返ってくるとマグは思っていなかった。
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