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第二章 ガイノイドが管理する街々
082 森の中の迷宮遺跡
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裏門から外に出たウィードは、そこに用意してあった馬に乗って走り出した。
マグ達に対して何の説明もしないまま。
余所者と話をしたくない、と言うよりは人型ではあれ一目で機械だと分かるアテラを視界に入れたくないという感じだ。
こうもあからさまだとマグ達も不快感しかない。
だが、今は依頼の途中。不満は飲み込み、急ぎ装甲車で彼の背中を追う。
当然、この車の方が馬より遥かに速いので即座に追いつくが、追い越してしまう訳にもいかないのでウィードに合わせて速度を調整して後ろをついていく。
どうやら街の縁を回っていっているらしい。
「はあ。黙ったままでいるのはつまらないデスね。辛いデス」
「車から降りたら、また黙らないと駄目だけどね」
無情に事実を突きつけられ、オネットは嘆息を繰り返した。
そんな音声と音の発生源たるアテラに、フィアが同情の視線を送る。
「…………少し可哀想です」
「そうは言っても彼女、私の頭の中ではずっと喋ってましたが」
「そ、そうだったデスか? ……えっと、そこは容赦して欲しいのデスよ」
一瞬誤魔化そうとしたオネットに若干呆れる。
しかし、身動きもできず話もできずとなれば人間なら相当きつい。
単純極まりない人格のない機械なら問題ないだろうが、高度なAIを有しているのであれば多大なストレスを受けることも性格次第ではあり得る。
同情に気持ちが傾くが、容赦するかしないかはアテラ次第だ。
「大丈夫か? アテラ。処理能力とか」
「……スペック的にはむしろ電子頭脳が一個追加された形なので、処理速度は向上しています。ただ単純に頭の中が少しうるさいだけです」
「耐えられそうにないなら――」
「そこまでではないので……まあ、問題はありません」
「アテラさん……!」
オネットは感極まったように名前を呼ぶが、アテラは特に表情を変えない。
何だかんだ、脳内で会話をして少し仲よくなったのかもしれない。
ともあれ、そんな感じで依頼とは全く関係のない話をしながらしばらく進んでいくと、そこそこの高さに揃った木々が見えてきた。
高低差もあって全体像は見えないが、結構な面積を占めていそうだ。
「あれが恵みの森、か」
「森……まあ、森ね。砂漠の真ん中にあっていい類の森じゃないけど」
相変わらず植生がおかしいようで、ドリィが奥歯にものが挟まった言い方をする。
その辺りの疑問も、依頼をこなせば自ずと明らかになるのかもしれない。
そんなことを考えていると、森との境界でウィードが馬から降りた。
彼はそのままマグ達を振り返りもせず、森の中へと歩いていってしまう。
何とも徹底した嫌厭っぷりだ。いっそ笑えてくる。
「……行きましょう」
嘆息気味のアテラに言われ、マグ達もまた車を降りて足早に森へと入る。
既に彼の姿は見当たらない。
「見失った?」
「大丈夫です。私についてきて下さい」
先史兵装【エコーロケイト】で彼の位置を把握したらしい。
彼女の先導で奥の方に歩いていく。
「依頼を達成させる気、あるのかしら。一応これって大元はあの男が要求したことなんでしょ? 依頼を達成できなくて困るのは自分自身なのに」
「…………俺達を試してるのかもな」
「それか、後から不当なクレームでも入れるつもりなのかもしれません」
「ちゃんとついてこなかった、とか?」
あるいは単なる当てつけか何かか。
想像で批判するのはよくないが、現時点で既に相当ではある。
碌な意図ではないことは間違いないだろう。
何にせよ、今はさっさと依頼を終わらせてしまうのが吉だ。
アテラが反響定位で得た位置情報を基に、そのまま目的地であろう場所を目指す。
「とまりましたね」
間もなく。地面を一度掘り起こして埋めたかのような痕跡が残る地面の手前に立っているウィードの姿が見えた。
「ここが?」
「その下に迷宮遺跡がある。とっとと中枢を破壊して、この街から出ていってくれ。この地には機人も迷宮遺跡も必要ない」
マグの問いにそうとだけ告げると、彼は足早に去っていく。
最後までブレない男だ。
「……わざわざ入口を埋めたのかしら」
「そうでしょう。迷宮遺跡の入口は、彼らが厭う機械的なものですから」
「…………そんなに機械が嫌いなんでしょうか」
二人の推測に、落ち込んだように俯くフィア。
そんな彼女の頭を、マグは柔らかく撫でた。
「まあ、そういう人もいるさ。人間同士だって合う合わないはあるものだしな」
「はい……」
「けど、俺達はフィアのことが大好きだし、大切に思ってるぞ」
「おとー様……はいっ!」
マグの言葉に、フィアは一転して嬉しそうな笑顔を見せる。
暗い気持ちは薄れてくれたようだ。
「よし。じゃあ、行こうか。ドリィ、頼む」
「はいはい。立ち塞がる障害はアタシが排除したげるわ」
射出口を展開し、色の変わった地面に照準を定める彼女。
そこから対象を消滅させる光が放たれる。
すると、地下へと向かう階段が露出した。
しかし、迷宮遺跡の自己修復機能によってか扉が生成されていく。
「抑えます!」
対してフィアがシールドを捻じ込み、入口が閉ざされてしまうのを妨げ……。
「さあ、入りましょう」
【エコーロケイト】で安全確認したアテラの声を合図に、マグ達は新たな迷宮遺跡の攻略に踏み出したのだった。
マグ達に対して何の説明もしないまま。
余所者と話をしたくない、と言うよりは人型ではあれ一目で機械だと分かるアテラを視界に入れたくないという感じだ。
こうもあからさまだとマグ達も不快感しかない。
だが、今は依頼の途中。不満は飲み込み、急ぎ装甲車で彼の背中を追う。
当然、この車の方が馬より遥かに速いので即座に追いつくが、追い越してしまう訳にもいかないのでウィードに合わせて速度を調整して後ろをついていく。
どうやら街の縁を回っていっているらしい。
「はあ。黙ったままでいるのはつまらないデスね。辛いデス」
「車から降りたら、また黙らないと駄目だけどね」
無情に事実を突きつけられ、オネットは嘆息を繰り返した。
そんな音声と音の発生源たるアテラに、フィアが同情の視線を送る。
「…………少し可哀想です」
「そうは言っても彼女、私の頭の中ではずっと喋ってましたが」
「そ、そうだったデスか? ……えっと、そこは容赦して欲しいのデスよ」
一瞬誤魔化そうとしたオネットに若干呆れる。
しかし、身動きもできず話もできずとなれば人間なら相当きつい。
単純極まりない人格のない機械なら問題ないだろうが、高度なAIを有しているのであれば多大なストレスを受けることも性格次第ではあり得る。
同情に気持ちが傾くが、容赦するかしないかはアテラ次第だ。
「大丈夫か? アテラ。処理能力とか」
「……スペック的にはむしろ電子頭脳が一個追加された形なので、処理速度は向上しています。ただ単純に頭の中が少しうるさいだけです」
「耐えられそうにないなら――」
「そこまでではないので……まあ、問題はありません」
「アテラさん……!」
オネットは感極まったように名前を呼ぶが、アテラは特に表情を変えない。
何だかんだ、脳内で会話をして少し仲よくなったのかもしれない。
ともあれ、そんな感じで依頼とは全く関係のない話をしながらしばらく進んでいくと、そこそこの高さに揃った木々が見えてきた。
高低差もあって全体像は見えないが、結構な面積を占めていそうだ。
「あれが恵みの森、か」
「森……まあ、森ね。砂漠の真ん中にあっていい類の森じゃないけど」
相変わらず植生がおかしいようで、ドリィが奥歯にものが挟まった言い方をする。
その辺りの疑問も、依頼をこなせば自ずと明らかになるのかもしれない。
そんなことを考えていると、森との境界でウィードが馬から降りた。
彼はそのままマグ達を振り返りもせず、森の中へと歩いていってしまう。
何とも徹底した嫌厭っぷりだ。いっそ笑えてくる。
「……行きましょう」
嘆息気味のアテラに言われ、マグ達もまた車を降りて足早に森へと入る。
既に彼の姿は見当たらない。
「見失った?」
「大丈夫です。私についてきて下さい」
先史兵装【エコーロケイト】で彼の位置を把握したらしい。
彼女の先導で奥の方に歩いていく。
「依頼を達成させる気、あるのかしら。一応これって大元はあの男が要求したことなんでしょ? 依頼を達成できなくて困るのは自分自身なのに」
「…………俺達を試してるのかもな」
「それか、後から不当なクレームでも入れるつもりなのかもしれません」
「ちゃんとついてこなかった、とか?」
あるいは単なる当てつけか何かか。
想像で批判するのはよくないが、現時点で既に相当ではある。
碌な意図ではないことは間違いないだろう。
何にせよ、今はさっさと依頼を終わらせてしまうのが吉だ。
アテラが反響定位で得た位置情報を基に、そのまま目的地であろう場所を目指す。
「とまりましたね」
間もなく。地面を一度掘り起こして埋めたかのような痕跡が残る地面の手前に立っているウィードの姿が見えた。
「ここが?」
「その下に迷宮遺跡がある。とっとと中枢を破壊して、この街から出ていってくれ。この地には機人も迷宮遺跡も必要ない」
マグの問いにそうとだけ告げると、彼は足早に去っていく。
最後までブレない男だ。
「……わざわざ入口を埋めたのかしら」
「そうでしょう。迷宮遺跡の入口は、彼らが厭う機械的なものですから」
「…………そんなに機械が嫌いなんでしょうか」
二人の推測に、落ち込んだように俯くフィア。
そんな彼女の頭を、マグは柔らかく撫でた。
「まあ、そういう人もいるさ。人間同士だって合う合わないはあるものだしな」
「はい……」
「けど、俺達はフィアのことが大好きだし、大切に思ってるぞ」
「おとー様……はいっ!」
マグの言葉に、フィアは一転して嬉しそうな笑顔を見せる。
暗い気持ちは薄れてくれたようだ。
「よし。じゃあ、行こうか。ドリィ、頼む」
「はいはい。立ち塞がる障害はアタシが排除したげるわ」
射出口を展開し、色の変わった地面に照準を定める彼女。
そこから対象を消滅させる光が放たれる。
すると、地下へと向かう階段が露出した。
しかし、迷宮遺跡の自己修復機能によってか扉が生成されていく。
「抑えます!」
対してフィアがシールドを捻じ込み、入口が閉ざされてしまうのを妨げ……。
「さあ、入りましょう」
【エコーロケイト】で安全確認したアテラの声を合図に、マグ達は新たな迷宮遺跡の攻略に踏み出したのだった。
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