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第二章 ガイノイドが管理する街々
079 気象予報用ガイノイド
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「貴方、古い気象予報用ガイノイドよね? 何よ、その恰好と喋り方」
眼前の存在の異様な姿に言葉を失っていると、ドリィが率直な物言いで問う。
どうしても突っ込まずにはいられなかったらしい。
「ド、ドリィちゃん。失礼ですよ」
フィアが若干慌てたように窘めるが、正直なところドリィの気持ちは分かる。
最初に訪れた秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアは、ライトファンタジー的な雰囲気を持ちつつもそこかしこに確かな未来感があった。
街の管理者とその在所ともなれば尚のことだった。
対照的にこの街。共生の街・自然都市ティフィカ。
木造建築中心というだけなら、そういうコンセプトかと納得しもするが……。
主たるガイノイドがこれというのは、一瞬虚をつかれたような驚きがある。
「同じガイノイドじゃ。気にしなくてもよい。じゃが、ところ変われば姿形が変わることもある。機人だけ例外と考えるのは偏見というものじゃぞ?」
それは確かにタリアの言う通りだろう。
機人と一口に言っても、アテラのように機械要素の強い者もいる。
ガイノイドなのに、というのは偏見以外の何ものでもない。
「かつてのディストピアに蹂躙されてしまったが、そこに至る直前でも科学から距離を置いて伝統を維持してきた人間がおったろう。それと似たようなものじゃ」
「ん…………まあ、そうかもね。悪かったわ」
ドリィはタリアの主張に理解を示し、引き下がって軽く頭を下げた。
もっとも。有名どころは観光客の前でだけ民族的な生活をし、普段は当たり前に最新の家電に囲まれて暮らしているパターンもあったそうだが……。
何にせよ、ある社会での普通とは異なった格好が実在したことに変わりはない。
ここでは普通。そう受け入れるべきだろう。
「ところで、気象予報用と言うのは?」
遥か未来であれば、それこそ気象シミュレーションの精度が段違いだろうし、殊更それ用のガイノイドが必要になるとは思えない。
アナウンサーの代替だろうかと一瞬思う。
そんな考えに至ったのは、丁度マグが生きていた時代はある種の過渡期で、アンドロイドに仕事を奪われた失業者が問題視されていたからだ。
とは言え、当時マグが従事していた仕事にまでは波及していなかった。
何故なら、一山いくらの底辺労働者の代わりとするには、さすがにアンドロイドはまだまだ高価な時代だったからだ。
……それはともかくとして。
「局所的な環境の変化を予期できる機能を持った機体のことよ」
マグの問いかけに、タリアではなくドリィが答える。
元が広報用だったためか、彼女は割とアンドロイドの変遷に詳しいようだ。
「全身に仕込んだセンサーで現地の環境をリアルタイムで演算するの。代わりに、身体機能は最低限度。人間と同レベルだけどね」
「うむ。加えて妾のそれは、保守の判断軸・予報の断片によって超越現象となった。精度はかつてとは比べものにならん」
「そうは言っても型落ちだし、元の性能が…………何でもないわ」
そこまで口にしたら意味はないが、一応配慮した様子のドリィ。
最初に古いと評した通り、本来は性能的に彼女の時代からすると劣るのだろう。
しかし、転移の再構成によってアテラの性能が随分と向上したように、かつてのスペックだけで判断するべきではない。
「彼女で型落ちと言ったら、私は骨董品ですか? ドリィ」
「う、ご、ごめんなさい。お母さん」
「私ではなく、彼女に謝りなさい」
「う、うん。ごめんなさい」
「構わぬ。実際、管理者達の中では一、二を争う古さじゃからな。それを厭うておったら、このような話し方もせぬ」
頭を下げたドリィに対し、からからと笑って許すタリア。
気にしていないようで安心する。それこそ年の功、とでも言うべきか。
しかし、それらしい口調は意図的なものだったらしい。
この外見にも何か意味がありそうだ。
そう考えつつ、マグはそろそろ話を本筋に戻そうと口を開いた。
「それで、その。タリアさん、依頼の詳細を教えてくださいますか?」
「おっと、そうじゃったな」
その問いかけに、忘れていたとばかりに手を打つタリア。
彼女はそれから一つ咳払いをして姿勢を整え、仮面の奥から再び言葉を発した。
眼前の存在の異様な姿に言葉を失っていると、ドリィが率直な物言いで問う。
どうしても突っ込まずにはいられなかったらしい。
「ド、ドリィちゃん。失礼ですよ」
フィアが若干慌てたように窘めるが、正直なところドリィの気持ちは分かる。
最初に訪れた秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアは、ライトファンタジー的な雰囲気を持ちつつもそこかしこに確かな未来感があった。
街の管理者とその在所ともなれば尚のことだった。
対照的にこの街。共生の街・自然都市ティフィカ。
木造建築中心というだけなら、そういうコンセプトかと納得しもするが……。
主たるガイノイドがこれというのは、一瞬虚をつかれたような驚きがある。
「同じガイノイドじゃ。気にしなくてもよい。じゃが、ところ変われば姿形が変わることもある。機人だけ例外と考えるのは偏見というものじゃぞ?」
それは確かにタリアの言う通りだろう。
機人と一口に言っても、アテラのように機械要素の強い者もいる。
ガイノイドなのに、というのは偏見以外の何ものでもない。
「かつてのディストピアに蹂躙されてしまったが、そこに至る直前でも科学から距離を置いて伝統を維持してきた人間がおったろう。それと似たようなものじゃ」
「ん…………まあ、そうかもね。悪かったわ」
ドリィはタリアの主張に理解を示し、引き下がって軽く頭を下げた。
もっとも。有名どころは観光客の前でだけ民族的な生活をし、普段は当たり前に最新の家電に囲まれて暮らしているパターンもあったそうだが……。
何にせよ、ある社会での普通とは異なった格好が実在したことに変わりはない。
ここでは普通。そう受け入れるべきだろう。
「ところで、気象予報用と言うのは?」
遥か未来であれば、それこそ気象シミュレーションの精度が段違いだろうし、殊更それ用のガイノイドが必要になるとは思えない。
アナウンサーの代替だろうかと一瞬思う。
そんな考えに至ったのは、丁度マグが生きていた時代はある種の過渡期で、アンドロイドに仕事を奪われた失業者が問題視されていたからだ。
とは言え、当時マグが従事していた仕事にまでは波及していなかった。
何故なら、一山いくらの底辺労働者の代わりとするには、さすがにアンドロイドはまだまだ高価な時代だったからだ。
……それはともかくとして。
「局所的な環境の変化を予期できる機能を持った機体のことよ」
マグの問いかけに、タリアではなくドリィが答える。
元が広報用だったためか、彼女は割とアンドロイドの変遷に詳しいようだ。
「全身に仕込んだセンサーで現地の環境をリアルタイムで演算するの。代わりに、身体機能は最低限度。人間と同レベルだけどね」
「うむ。加えて妾のそれは、保守の判断軸・予報の断片によって超越現象となった。精度はかつてとは比べものにならん」
「そうは言っても型落ちだし、元の性能が…………何でもないわ」
そこまで口にしたら意味はないが、一応配慮した様子のドリィ。
最初に古いと評した通り、本来は性能的に彼女の時代からすると劣るのだろう。
しかし、転移の再構成によってアテラの性能が随分と向上したように、かつてのスペックだけで判断するべきではない。
「彼女で型落ちと言ったら、私は骨董品ですか? ドリィ」
「う、ご、ごめんなさい。お母さん」
「私ではなく、彼女に謝りなさい」
「う、うん。ごめんなさい」
「構わぬ。実際、管理者達の中では一、二を争う古さじゃからな。それを厭うておったら、このような話し方もせぬ」
頭を下げたドリィに対し、からからと笑って許すタリア。
気にしていないようで安心する。それこそ年の功、とでも言うべきか。
しかし、それらしい口調は意図的なものだったらしい。
この外見にも何か意味がありそうだ。
そう考えつつ、マグはそろそろ話を本筋に戻そうと口を開いた。
「それで、その。タリアさん、依頼の詳細を教えてくださいますか?」
「おっと、そうじゃったな」
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