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第一章 未来異星世界

069 裏の攻防

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 街を包囲した無数の機獣の存在に、城壁の内側は騒然としていた。
 とは言え、当初は大きな混乱もなく、すぐに解決するものと多くが考えていた。
 何故なら、近くに多くの迷宮遺跡を有するこの街、秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアは何重にも機獣の襲撃への対抗策を備えていたはずだったからだ。
 しかし、端末の通信が遮断された上に防衛システムが作動する気配もない。
 情報が得られなくなり、城壁の外では戦闘が未だに続いている。
 それでも、こういった状況を想定したマニュアルに従い、中世騎士の恰好をした治安組織が避難誘導を行っているおかげでパニックには至っていなかったが……。
 人々の顔に滲む不安は徐々に色濃くなっていっていた。

「……深謝」

 それを横目に呟きながら、街の中を駆けていく少女の姿が一つ。
 忍者の意匠が取り入れられた黒ずくめのボディースーツに黒いマスク。
 セミショートぐらいの髪も瞳も黒く、マスクに隠れていない顔の上半分も偽装のためかダークグレーに染め上げられている。
 もっとも明るい時分にこれは逆に目立つが、誰も気にした様子はなかった。
 それこそが彼女、キリが有する超越現象PBPの効果であり、その身に宿した断片フラグメントの属性でもあるからだ。加えて――。

「機獣が侵入しているぞっ!!」

 街の外ではオネットと多数の機獣が派手に動き、街の中にも地下から侵入した陽動部隊がいる。それに気づいた者の声で混乱が一気に広がっている様子だ。
 尚のこと、キリの存在に気づくことは困難だろう。

「……好機」

 だからキリは、別方向から同じ目的地に向かう機獣達に合わせて速度を上げた。
 目指すは街の管理者メタの屋敷。
 目的は彼女を破壊すること。
 有り体に言えば暗殺だ。

「……必達」

 オネット共々依頼を受けての仕事だが、キリもまたこれを成し遂げることは先の世界のために必要不可欠なことだと心の底から思っている。
 オネットの方も同様だ。
 人間によって人間のために生み出された人格の根底にある存在意義に関わるせいで、こうも回りくどく困難な方法を取らざるを得ないが、それは仕方がない。
 ガイノイドとは、アンドロイドとは、そういうものなのだから。

「……侵入」

 しばらくしてメタの屋敷に到着し、機獣が開けた穴を通って中に入る。
 この建物のセキュリティは街の管理システムから独立しており、加えて【アブソーバー】対策に原炎アイテール技術を使用していない部分もある。
 つまるところ古い電気式のものや非電気式のものも含まれているのだ。
 勿論、キリの超越現象PBPならば監視はすり抜けられるが、物理的に閉鎖されたりしてしまうと目的の達成が容易ではなくなる。
 先行した機獣が暴れて、それらをどれだけ無効化できているかが鍵だ。
 彼らがメタのところに到達して彼女を討ってくれるなら、それはそれでいいが。

「……感知」

 罠にかかった機獣の残骸を踏み越えながら進む中。
 戦闘音が耳に届き、その発生源へと急行する。
 場所は通常メタが街を管理している部屋。
 どうやら屋敷を襲撃されているにもかかわらず、彼女は避難していないようだ。
 自分一人で対処できると考えているのだろう。

「……傲慢」

 破壊されて開きっ放しの扉を潜り、白い部屋に入る。
 そこにはメタが機獣を翻弄している光景があった。
 迫る爪や牙を回避し、徒手空拳で鋼鉄の装甲を容易く引き裂く。
 ダンスのように洗練された動きだが、その表情は虫を見るように冷たい。

「……覚悟」

 そんな彼女を前に、キリは小さく告げて短刀のような形状の先史兵装PTアーマメント【ヴァイブレートエッジ】を太もものホルスターから取り出した。
 破壊の判断軸アクシス・切除の断片フラグメントを宿し、およそ切り裂けないものはない逸品だ。
 メタの装甲がどうあれ、容易く貫くことができるだろう。

「……斬首」

 そしてキリは一体の機獣が攻撃を仕かけたのに合わせ、死角から襲いかかった。
 当然、メタは眼前の敵対者の処理を行おうとし、無防備な背中を見せ続ける。
 隠形からの一撃。防ぐことなどできるはずがない。
 しかし――。

「……何故」
「ふふっ、驕ったね」

 機獣への攻撃を途中でとめたメタは短刀の軌道上から消え、認識できないはずのキリの腕をニヤリと笑いながら掴み上げていた。
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