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第一章 未来異星世界
023 検証
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「成程な。やはり無制限とはいかないか」
検証のために修復された様々な出土品を見下ろし、クリルは満足げに頷いた。
そして顎に手を当てながら、得られた知見を口にし始める。
「能力の発動は接触が大前提。これは通常の修復能力も同じだが……」
一度言葉を区切った彼女は、作業台の上に並べられたいくつかの出土品の内、破損したままになっているものを手に取って続けた。
「認識可能な範囲に九割の部品が揃っていないと状態は戻せない。初心者でも五割あれば部品を補填して修復可能な通常とはそこが大きく違うな」
学者肌の顕れか、どことなく楽しげな雰囲気だ。
完全にペースに巻き込まれた感がある。
だが、マグにも一定の利点はあったので文句はない。
「メモリー内のデータまで元の状態に戻ってしまう点は注意すべきだろう」
クリルはそこまで言うと「……とりあえずは、こんなところか」と締め括る。
「……一割以上パーツが損失したら元に戻せない、か」
マグは彼女のまとめを頭の中で咀嚼しつつ、アテラに視線を向けて呟いた。
「加えて、能力の効果範囲内に記録されたデータが元に戻ってしまう、と」
つまるところ一片の欠けもなく記録データを保持しようとすると、メモリーを対象にして力を使うことはできず、その部分の経年劣化を防げなくなってしまう訳だ。
人間で言えば、脳を若返らせるには若返らせる時間の分だけ記憶を犠牲にしなければならないということ。記憶の連続性を持った不老にはできない。不完全だ。
突発的な破損には対処可能かもしれないが、永遠ではないし、万能ではない。
能力的な限界は肝に銘じておく必要があるだろう。
とは言え、ある程度の検証ができてよかった。だから。
「クリルさん、ありがとうございました」
マグは感謝を込めて頭を下げた。
勿論、他にもルールがある可能性は大いにある。
今後も自身の能力の把握は不可欠だ。
「……旦那様の超越現象の一端が見えたのはいいことですが、結局のところ結果は合格ということでよろしかったですか?」
と、話が一段落したと見てか、アテラが隣から問いかけた。
「ん? ああ、そう言えばテストをしていたのだったな。……うむ。文句なしに合格だ。汝さえよければ、我の手伝いをして欲しい」
クリルはそう応じると、少し考える素振りを見せてから言葉を続けた。
「そうだ。検証にかこつけて、正式に雇用契約を結ぶ前に随分と仕事をさせてしまったな。その分の報酬は、今支払っておこう」
「え? いいんですか?」
「当然だろう。成果には相応の報酬があって然るべきだ」
マグの反応に、そこで驚く理由が分からないという表情をするクリル。
彼女は当たり前のことを言っているだけだが、搾取に慣れ過ぎたせいだろう。
少し意識して感覚を矯正する必要がありそうだ。
「……それとアテラ。汝にはこれを」
「え? 私に、ですか?」
自分に話を振られるとは思っていなかったのだろう。
棚から持ってきた何かをクリルに差し出され、アテラは戸惑いながら受け取った。
彼女が手にしたのは大きな歯車のような謎の物体で、一層当惑して首を傾げる。
「ええと、これは?」
「機人しか使えぬ先史兵装だ。報酬の一つとして汝にやろう」
「あ、ありがとうございま、す?」
見た目で機能が分からないからか、疑問気味に礼を言うアテラ。
対してクリルは説明のチャンスと捉えたのか、嬉々として口を開いた。
「これは中々に特別な先史兵装でな。歯車を回すことで起動し――」
しかし、その直後。
部屋の明かりが唐突に消え去り……。
「むっ?」
店舗の入口の方から、ガラスが叩き割られたような音が響き渡ったのだった。
検証のために修復された様々な出土品を見下ろし、クリルは満足げに頷いた。
そして顎に手を当てながら、得られた知見を口にし始める。
「能力の発動は接触が大前提。これは通常の修復能力も同じだが……」
一度言葉を区切った彼女は、作業台の上に並べられたいくつかの出土品の内、破損したままになっているものを手に取って続けた。
「認識可能な範囲に九割の部品が揃っていないと状態は戻せない。初心者でも五割あれば部品を補填して修復可能な通常とはそこが大きく違うな」
学者肌の顕れか、どことなく楽しげな雰囲気だ。
完全にペースに巻き込まれた感がある。
だが、マグにも一定の利点はあったので文句はない。
「メモリー内のデータまで元の状態に戻ってしまう点は注意すべきだろう」
クリルはそこまで言うと「……とりあえずは、こんなところか」と締め括る。
「……一割以上パーツが損失したら元に戻せない、か」
マグは彼女のまとめを頭の中で咀嚼しつつ、アテラに視線を向けて呟いた。
「加えて、能力の効果範囲内に記録されたデータが元に戻ってしまう、と」
つまるところ一片の欠けもなく記録データを保持しようとすると、メモリーを対象にして力を使うことはできず、その部分の経年劣化を防げなくなってしまう訳だ。
人間で言えば、脳を若返らせるには若返らせる時間の分だけ記憶を犠牲にしなければならないということ。記憶の連続性を持った不老にはできない。不完全だ。
突発的な破損には対処可能かもしれないが、永遠ではないし、万能ではない。
能力的な限界は肝に銘じておく必要があるだろう。
とは言え、ある程度の検証ができてよかった。だから。
「クリルさん、ありがとうございました」
マグは感謝を込めて頭を下げた。
勿論、他にもルールがある可能性は大いにある。
今後も自身の能力の把握は不可欠だ。
「……旦那様の超越現象の一端が見えたのはいいことですが、結局のところ結果は合格ということでよろしかったですか?」
と、話が一段落したと見てか、アテラが隣から問いかけた。
「ん? ああ、そう言えばテストをしていたのだったな。……うむ。文句なしに合格だ。汝さえよければ、我の手伝いをして欲しい」
クリルはそう応じると、少し考える素振りを見せてから言葉を続けた。
「そうだ。検証にかこつけて、正式に雇用契約を結ぶ前に随分と仕事をさせてしまったな。その分の報酬は、今支払っておこう」
「え? いいんですか?」
「当然だろう。成果には相応の報酬があって然るべきだ」
マグの反応に、そこで驚く理由が分からないという表情をするクリル。
彼女は当たり前のことを言っているだけだが、搾取に慣れ過ぎたせいだろう。
少し意識して感覚を矯正する必要がありそうだ。
「……それとアテラ。汝にはこれを」
「え? 私に、ですか?」
自分に話を振られるとは思っていなかったのだろう。
棚から持ってきた何かをクリルに差し出され、アテラは戸惑いながら受け取った。
彼女が手にしたのは大きな歯車のような謎の物体で、一層当惑して首を傾げる。
「ええと、これは?」
「機人しか使えぬ先史兵装だ。報酬の一つとして汝にやろう」
「あ、ありがとうございま、す?」
見た目で機能が分からないからか、疑問気味に礼を言うアテラ。
対してクリルは説明のチャンスと捉えたのか、嬉々として口を開いた。
「これは中々に特別な先史兵装でな。歯車を回すことで起動し――」
しかし、その直後。
部屋の明かりが唐突に消え去り……。
「むっ?」
店舗の入口の方から、ガラスが叩き割られたような音が響き渡ったのだった。
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