第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

文字の大きさ
上 下
278 / 318
第3章 日本プロ野球1部リーグ編

225 好感度アップ作戦?

しおりを挟む
「ええと……一体、何をするつもりなんだ?」
「内緒」

 そのあーちゃんの返答にちょっとだけ驚く。
 普段は俺に対して諸々オープンにしている彼女にしては大分珍しい。
 とは言え、まあ、そういうこともあるだろう。
【生得スキル】【以心伝心】は全力で愛情と善意を伝えてきているからな。
 何故かワクワクしている気配も結構な割合で感じられるけれども。
 ……もしかしたら何かサプライズでも企んでいるのかもしれない。
 いつだったか、プレゼントの中身を秘密にされた時と似たような感じもするし。

 けど、サプライズだとすると……。
 今は6月の頭。直近のイベントはと言えば、うーん。
 29日に俺の誕生日があるぐらいか?
 そこでサプライズイベントでもするつもりなのだろうか。
 誕生日に好感度アップに繋がるようなことができるとは今一思えないけれども。

「不安?」
「いや……楽しみにしとく」
「ん」

 俺の答えに、あーちゃんは嬉しそうに表情を柔らかくする。
 マイペースで稀に斜め上の行動に出ることもある彼女だが、俺にとって不利益になるようなことは決してしない。はずだ。
 とりあえず様子を見るとしよう。

「とは言え、あーちゃんだけに任せるのもあれだし、俺も少し考えようかな」
「ん。案はいくつあってもいい」
「なら、私も考えるわ」
「ウチもやるっすよ!」

 俄然、ウキウキとした様子でやる気を見せる美海ちゃんと倉本さん。
 何か文化祭や学園祭みたいなテンションだな。
 切っかけが切っかけだけに、ちょっと不謹慎な感もあるけど……。
 2人の様子をよくよく見ると、演技っぽさも見え隠れしている。
 もしかすると、俺がまた落ち込んだりしないように明るい雰囲気を作ろうとしてくれているのかもしれない。
 そんな風に気を遣わせるぐらい目に見えて動揺していたのかと思うと尚更情けない気持ちになるけれども、彼女達の配慮はありがたい。

「あ、そうだ。美瓶達にも考えて貰いましょ!」
「ん。わたしも皆に相談がある」

 と、あーちゃんと美海ちゃんはそう言いながらスマホを操作し出した。

 ――ピロン!

 少しして通知音が鳴るが、それは俺のスマホからではない。
 その音を受けて倉本さんもスマホの画面に目を落とし始める。
 どうやら女性陣専用グループチャットでやり取りをしているようだ。

 うーん。
 信じるとは言ったものの、目の前で内緒話状態になるとさすがに気になるな。
 とは言え、覗き見るのはデリカシーがなさ過ぎる。
 ここは我慢の一手だ。

 まあ、でも。
 あーちゃんが1人で突っ走ろうとしている訳ではなく、ちゃんと周りに相談した上で計画しようとしているのであれば逆に安心かもしれない。
 皆の意見も取り入れるなら、そこまで変なことにはならないだろう。
 色々と個性的な彼女達ではあるが、別に非常識集団ではないからな。
 なんて割と失礼なことを考えていると、隣で黙っていた昇二が口を開く。

「好感度アップなら、もっと社会貢献活動の頻度を増やすのがいいんじゃない?」

 女性の輪に入れないので、1人で作戦を考えていたらしい。
 昇二は真面目だな。
 とは言え――。

「うーん、それはオフシーズンじゃないと中々なあ。勿論、やって悪いことじゃないけど、好感度アップって観点だと結構長期的な話になっちゃいそうだ」

 彼が折角提案してくれた案に対し、ついついネガティブに返してしまう俺。
 いわゆるブレインストーミングの場なら避けなければならないことだ。
 ただ、前世の俺は上役達がそういう場で出したアイデアを押しつけられて実行しなければならない側の底辺労働者だったからな。
 あんなこといいなできたらいいなの能天気な意見に振り回された挙句、失敗の責任を負わされた人間も見てきたせいでマイナス面を先に考えてしまう。
 しっかりとデメリットを把握しておかないと、どうにも不安になるのだ。

 ちなみに、ブレインストーミングは無駄という研究報告もある。
 都合がいいだけで現実味も何もない単なるノイズみたいな案に時間を取られ、真に有用なものが今一出てこないといったことが往々にしてあるのだとか。
 とは言え、ポジティブなやり取りはモチベーションや連帯感を高める効果はあるそうなので、うまく使うことができれば有用な側面も間違いなくあるのだろう。
 俺が悪し様に言うのは、うまく使えなかった例しか目にしていないせいだ。

 閑話休題。

「でも、確かにシーズン中じゃ時間がないし、やっても効果が薄いかもね」
「当然だけど、シーズン中は試合がスポーツニュースの中心だからな。埋もれてしまって目立たない可能性の方が高い」

 目立つ目立たないでやるもんじゃないけど。

「でも、まあ、シーズンオフに予定してるのは増やす方向で考えとこう」
「……自分で言っておいてなんだけど、忙しくなり過ぎない? 多分、今オフはメディア出演とか引っ張りダコになりそうだけど」
「そんなのは絞ればいいだけさ」

 別に全部強行したっていいしな。
 俺は【衰え知らず】で【怪我しない】から、自主トレーニングなしで春キャンプに突入したって何の問題もない。
 勿論、あーちゃんには絶対につき合わせないようにしないとだけど。
 いずれにせよ、中長期的な戦略も大事だ。

「今回求められるのは、すぐできて短期的で尚且つ効果的な方法ってことだよね」
「そうなんだけど、さすがにそれは都合がよ過ぎるよな」

 互いに苦笑し合ってから、昇二は再び真面目に考え込む。
 それから少しして、彼はおずおずと口を開いた。

「寄付、とか?」
「それもありだけど、このタイミングだとあからさま過ぎて逆に反感を買いそうなのがな。アナウンスの仕方もかなり難しいだろうし」

 幸いと言うべきか、この前ムーンストーンドームで「当たったら1億円」の看板にホームランをぶち当てて手に入れた1億円もあるのでやれないことはない
 だが、そもそも目的が好感度アップだと余りにも不純過ぎる。
 やらない善よりやる偽善とは言うものの、それこそ下手なタイミングで実行してしまったら相手方に迷惑がかかるかもしれないからな。
 それに、この1億円は既に使い道も考えてある。
 直近はWBW制覇のために色々と入り用なので手をつけにくい。

 当然ながら、いずれは大リーガーよろしくチャリティ活動やら寄付やらは当たり前のこととして行うことになるとは思っているが……。
 それは契約更改してからになるだろう。
 元々小市民な俺だ。
 自分自身には贅沢品や嗜好品はそこまで必要としていないからな。
 この野球に狂った世界でトップレベルのプロ野球選手という立場を維持し続けていれば、自然と余剰資金で溺れるぐらいになりかねない。
 夢のようではあるが、そんな状態は庶民には毒だ。
 むしろ精神安定のためにも、そういったことが必要不可欠になる。

「秀治郎は何かアイデア出ないの?」
「あー、うん。いくつかは思い浮かんだけど……俺も中長期的な話なんだよな」
「とりあえず言ってみなよ」
「笑うなよ?」
「笑わないよ」
「前提として、俺も偶々野球ができてるだけで他はパッとしない男だ」
「む。しゅー君は格好いい。誰が何と言おうと、わたしの最高の旦那様」

 半分ぐらい耳はこちらに傾けていたのか、そんな反論をしてくるあーちゃん。
 これには昇二も苦笑いだ。
 笑うなとは言ったが、こればかりは仕方がない。

 蓼食う虫も好き好き。
 割れ鍋に綴じ蓋。
 まあ、俺とあーちゃんはそれでいいのだろう。

「コホン。ともかく、そんな俺が表立って動いても見苦しいだけかもしれない。なら、最初から好感度の高い存在に擦り寄るのがいいんじゃないかと思うんだ」
「擦り寄るって……卑屈過ぎない? つまるところ、コラボってことでしょ?」
「そう。特に有名キャラクターとのコラボグッズとかどうかなって思ってる」
「成程ね。でも、それって大分短期的な話じゃない? 後、秀治郎は無駄に謙遜してるけど、どっちかって言うと相手側の方がメリットの方が大きい気がする」

 まあ、この世界だとな。
 プロ野球選手のネームバリューは最上位だし。

「まあ、それを対価に好感度を恵んで貰うってことだ」
「また卑屈なこと言って」

 呆れたような目を向けてくる昇二。
 外では「プロ野球選手野村秀治郎」でいるから、仲間内ではそうさせてくれ。

「……けど、好感度アップの効果は多分ホントに相手のおこぼれ程度になりそうだよね。そうなると数打つ必要があるけど、乱発するとありがたみもなくなる」

 考えを整理するように呟く昇二。
 実際、程よく間を置かなければ効果的ではないのは間違いない。
 そもそも今から始動だと、開始時期がちょっと先になってしまう。

「だから、これも中長期的な話になっちゃうってことだね」

 納得したように頷いてから、昇二は困ったような顔で腕を組む。

「うーん。中々ぴったりハマる案がないなあ」
「そこで、わたしの案」

 一通り相談が終わったのか、再び話に参加してくるあーちゃん。
 どうやら彼女の秘密のアイデアは「すぐできて短期的で尚且つ効果的な方法」のつもりらしい。

「詳細、話す気になった?」
「ううん。当日まで内緒」
「当日……」

 うーん。やっぱり誕生日のことだろうか。
 しかし、20日以上も後の話だけど、それはすぐできてに該当するか?
 俺と昇二の案に比べれば、すぐだろうけど。

「ま、悪いことじゃないのは私も保証するから、心配しないで」
「ウチもいいアイデアだと思ったっすよ!」

 首を傾げる俺に、美海ちゃんと倉本さんがそう保証する。
 そこは別に問題視していないけどな。まあ、いいや。
 とりあえず色々と案を考えながら、その日を待つとしよう。

 ……で、結局のところ。
 あーちゃんの計画が明らかになったのは、それから2週間と少し経った日曜日。
 村山マダーレッドサフフラワーズの山形きらきらスタジアムでのホームゲームの試合開始前のことだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【3章開始】刀鍛冶師のリスタート~固有スキルで装備の性能は跳ね上がる。それはただの刀です~

みなみなと
ファンタジー
ただいま、【3章・魔獣激戦】を書いてます。【簡単な粗筋】レベルがない世界で武器のレベルをあげて強くなって、国を救う物語【ちゃんとした粗筋】その世界には【レベル】の概念がなく、能力の全ては個々の基礎能力に依存するものだった。刀鍛冶師兼冒険者である青年は、基礎能力も低く魔法も使えない弱者。──仲間に裏切られ、魔獣の餌になる寸前までは。「刀の峰に数字が?」数字が上がる度に威力を増す武器。進化したユニークスキルは、使えば使うだけレベルがあがるものだった。これは、少しお人好しの青年が全てをうしない──再起……リスタートする物語である。小説家になろうにも投稿してます

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

処理中です...