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第3章 日本プロ野球1部リーグ編
閑話25 埼玉セルヴァグレーツ対村山マダーレッドサフフラワーズ交流戦第2回戦ラジオ中継(埼玉地元放送局)
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試合は現在5回の表が終わったところ。
埼玉セルヴァグレーツはこのイニングも4点を失ってしまい、21点という大き過ぎるビハインドを背負っている状況です。
それでも点差の上では昨日の試合よりは幾分かマシといったところではありますが、比較にならない絶望感がここムーンストーンドームを包み込んでおります。
と言うのも、埼玉セルヴァグレーツはここまで村山マダーレッドサフフラワーズ先発の野村秀治郎選手に完璧に抑え込まれており、未だにノーヒット。
しかも12者連続3球三振という屈辱的な事態に陥っております。
稲藤さん。
まさかとは思いますが、野村秀治郎選手は3球三振を狙っているのでしょうか。
ほとんどストライクゾーンで勝負しているようですが。
……確かにストライクゾーンに行っている球がほとんどではありますが、さすがに野村秀治郎選手が3球三振に拘っているかは分かりませんね。
ボールゾーンに行っている球が全くなかった訳ではないので。
まあ、ここまでの全36球の内たったの3球ではありますが。
何にせよ、ボール球を振らせて取ったストライクがあることは事実です。
それはバッターが見送ればボールですからね。
何が何でも3球三振にしてやろうと考えている訳ではないでしょう。
三振は狙っているかもしれませんが。
とは言え、ここまで続いてしまうと少し色気が出てくるかもしれませんね。
27者連続3球三振、ですか?
(アナウンサーの問いかけに、元埼玉セルヴァグレーツのエースピッチャーにして通算200勝のレジェンドである稲藤和康の苦笑したような声が入る)
さすがにそれは神業が過ぎますね。
ボール球を振ってくれるかどうかはバッター次第ですから。
そうした不確定要素を完全に排除しようとすると、とにかく全ての球をストライクゾーンに入れなければならなくなってしまいます。
ボール球を使わない縛りの配球となると、三振の難易度は跳ね上がるでしょう。
とは言え、このストライク率なら自ずと振らざるを得なくなるのでは?
ボール球だろうと振ってしまいそうですが……。
まあ、コースや緩急によって全く手が出ないということもありますから。
やはり厳しいとは思いますよ。
と言うか、そもそも27奪三振での完全試合自体が奇跡的な偉業ですからね。
2部リーグでは以前、野村秀治郎選手自身が成し遂げていますが――。
(言葉を選ぶように稲藤和康が一瞬言い淀む)
歴史的な低迷が続いているとは言え、1部リーグの球団相手には至難の業です。
勿論、普通の完全試合であれば、野村秀治郎選手は既に達成していますが。
村山マダーレッドサフフラワーズの本拠地開幕戦。
野村秀治郎選手の2度目の登板の時ですね。
もし同一シーズン中に2度完全試合となると史上初でしょうか。
勿論そうです。
そもそも完全試合は通算でも2度達成した選手がいませんからね。
本来はそれだけ稀な記録です。
……確かにその通りですね。
どうにも感覚が麻痺してしまっている気がします。
まあ、野村秀治郎選手のパフォーマンスは、今シーズン中に2度目を達成しても不思議じゃないと思わせるぐらいに圧倒的ですからね。
気持ちは分かります。
『4番、指名打者、海峰永徳』
さて。5回裏の埼玉セルヴァグレーツの攻撃が始まります。
この回の先頭バッターは海峰選手。
野村秀治郎選手との初対決はインコース低めを攻められての3球三振でした。
その打席の初球は外角から鋭く曲がった160km/hの高速スライダー。
2球目は外寄りの高めから大きく曲がって落ちてきた140km/hのカーブ。
3球目は低めから浮かび上がってくるような170km/hのストレート。
海峰選手はこれに対して空振り、見逃し、見逃し。
半ば手も足も出ないといった様相でした。
いやはや。改めて振り返ってもおかしいですね。
同じ日本人とはとても思えません。
特にあのカーブ。
こんなのを投げ込まれたら、ほとんどのバッターは何もできませんよ。
170km/hの直球とのコンビネーションは悪夢のようですね。
緩急と言いながら遅い方が140km/hなのも意味が分かりません。
ええ、本当に。
WBWアメリカ代表のサイクロン・D・ファクト選手を彷彿とさせます。
つまり、野村秀治郎選手は大リーガー級の選手ということでしょうか。
それは間違いないでしょう。
球速こそ僅かに劣っていますが、変化球の変化量やキレ、何よりもコントロール技術については遜色ないと思います。
球種の数という意味では上回っているかもしれません。
ストレート。ワンシーム。ツーシーム。カットボール。
カーブ。ドロップ。スライダー。高速スライダー。スイーパー。
シュート。高速シュート。シンカー。高速シンカー。
フォーク。スプリット。チェンジアップ。
最低でもこの程度は明確に投げ分けているという情報があります。
そのどれもが一級品。
ウイニングショットを通り越して、魔球とでも呼ぶべき域にありますからね。
恐ろしい投手です。
しかし、ここ最近は打たせて取るピッチングをしていたようですが……。
何か理由があるのでしょうか。
そうですね――。
(稲藤和康が考えを纏めるように口を噤み、無言が続く。鳴り物の音は入り込んでいて、無音ではなかったので放送事故とはならなかった。その間も試合は進む)
っと、野村秀治郎選手。
海峰選手に対して1球目を振りかぶり……投げました!
インコース高めのストレートを見逃し、ストライク!
またも170km/h!
5回の裏も全く衰えることがありません!
……先程の話ですが。
それこそ縛りプレイ、なのかもしれませんね。
縛りプレイ、ですか。
野村秀治郎選手は常々打倒アメリカ代表を公言しています。
彼にとって、レギュラーシーズンはWBWに向けての練習の場なのでしょう。
まあ、実際それこそが本来の、正しい捉え方ではありますが。
いずれにしても。
自分か、もしくはチームメイトか。
最低限得るものがあるように、相手のレベルに合わせているのかもしれません。
彼はそこまでの……っと、2球目!
内角低めへのシンカー!
海峰選手、やや腰が引けたスイングは空を切ってノーボール2ストライク!
デッドボールコースから鋭く曲がってストライクゾーンに来る変化球。
今日の試合では多用しているので、配球を読んで振ってきましたね。
崩れたフォームながら、凄まじいスイングスピードでした。
色々と言われていますが、日本一の打者と呼ばれていただけのことはあります。
しかし、初見のシンカーとの軌道が合いませんでしたね。
多種多様な変化球を持つということは、本当に恐ろしいことですね。
先程挙げられた球種の数を考えると、同じ試合で4打席は対戦しないと全ての変化球を網羅できないでしょうからね。
慣れる間もありません。
しかも、どれもが決め球になり得る球。
そんなものを完璧にコントロールされたら、対処のしようがないでしょう。
そうですね。
そして、ここでキャッチャーの野村茜がアウトコース低めに構えます。
まあ、彼女は構えを偽装するので本当にそこに来ると断言はできませんが……。
前の打席から数えて5球連続インコースの後のアウトコースとなると、内に甘く入ってくることがない限り、バッターにとっては厳しいかもしれませんね。
果たして海峰選手は反応できるのか。
野村秀治郎選手、3球目を……投げました!
打ってファ――!?
は?
マジか……。
ファ、ファウルチップで三振……。
海峰選手、ファウルで連続3球三振を防ぐことができたかと思われましたが、チップしたボールは野村茜選手のキャッチャーミットに吸い込まれました。
ファウルチップはストライクとして扱われますので、三振が成立。
埼玉セルヴァグレーツの選手として今日の試合初めてバットに当てることができましたが、これで13者連続3球三振です。
アウトコース低めいっぱいに逃げていくシュートでしたね。
何とか追いかけて当てることができましたが、僅かに掠ったのみでした。
しかし、チップしたと一口に言っても、最初に野村茜選手が構えていたところから30cm以上高い位置に飛んでいました。
あのキャッチングの仕方は……。
リプレイをスローモーションで確認したところ、野村茜選手は海峰選手がスイングを始動した時にはミットを動かしていますね。
まるでチップすることを予知していたかのように捕球しています。
……野村秀治郎選手程のピッチャーが頑なに彼女とバッテリーを組んでいる理由の片鱗が見て取れたような気がします。
打撃成績だけ見てもその異常性は明らかではありますが、思えばあの魔球のような変化球を当たり前にキャッチしている訳ですからね。
はい。思えば、ボールをこぼしているところを見たことがありません。
少なくともキャッチングの技術では球界一と言ってもいいかもしれません。
ナックルを難なく捕球できる倉本選手は如何でしょう。
フレーミング技術まで含めると、野村茜選手の方が優位だと思います。
キャッチングでいい音も鳴らしてくれますし。
ただ、それらはあくまでも経験の問題でしょう。
倉本選手は高校生からキャッチャーを始めたとのことですからね。
小学生の頃から野村秀治郎選手と組んでいた野村茜選手に一日の長があります。
では、キャッチャー野村秀治郎選手と比べると如何でしょうか。
キャッチングの1点のみで言えば、これも野村茜選手に軍配が上がるでしょう。
ただ、配球は野村秀治郎選手が考えていると聞きます。
それが事実であれば、日本最強のキャッチャーは彼になるかと思います。
最強のピッチャーにして、最強のキャッチャーということですか。
まるでマンガのようですね。
全くです。
それに加え、野村秀治郎選手は内外野も普通以上に守ることができますからね。
究極のユーティリティプレイヤーと言っても過言ではないでしょう。
……村山マダーレッドサフフラワーズの選手の話題は尽きませんが、そろそろ実況に戻った方がよさそうです。
あ、っと。申し訳ありませんでした。
現在、5番の石村剛太の打席です。
カウントはノーボール2ストライク。
初球はインコース低めへのスイーパー。
2球目はアウトコース低めへのシュート。
そして3球目を、野村秀治郎選手が今……投げました!
ストライクッ! 空振り三振!
インコース高めのボール球を振らされました!
やはり、3球三振に拘っている訳ではないようですね。
三振狙いで早めは早めに追い込んだ結果としてそうなっているだけでしょう。
つまり……余りにも力の差があり過ぎて、組み立ての途中で相手が三振してしまっているということでしょうか。
勿論、3球で仕留めに行っている場合もあるでしょうが……。
有り体に言えば、そうなります。
こうなってくると、唯一バットに当てた海峰選手に期待せざるを得ませんね。
是非とも意地を見せて欲しいものです。
ええ。どうにか一矢報いて貰いたいです。
ただ、このままで行くと次が最終打席になってしまうんですよねえ。
果たして1打席で対応できるのか……。
(その後、6番の秋倉翔二選手もまた3球三振に倒れて3アウトチェンジ。そのまま海峰永徳の第3打席まで連続記録が積み重なっていく)
埼玉セルヴァグレーツはこのイニングも4点を失ってしまい、21点という大き過ぎるビハインドを背負っている状況です。
それでも点差の上では昨日の試合よりは幾分かマシといったところではありますが、比較にならない絶望感がここムーンストーンドームを包み込んでおります。
と言うのも、埼玉セルヴァグレーツはここまで村山マダーレッドサフフラワーズ先発の野村秀治郎選手に完璧に抑え込まれており、未だにノーヒット。
しかも12者連続3球三振という屈辱的な事態に陥っております。
稲藤さん。
まさかとは思いますが、野村秀治郎選手は3球三振を狙っているのでしょうか。
ほとんどストライクゾーンで勝負しているようですが。
……確かにストライクゾーンに行っている球がほとんどではありますが、さすがに野村秀治郎選手が3球三振に拘っているかは分かりませんね。
ボールゾーンに行っている球が全くなかった訳ではないので。
まあ、ここまでの全36球の内たったの3球ではありますが。
何にせよ、ボール球を振らせて取ったストライクがあることは事実です。
それはバッターが見送ればボールですからね。
何が何でも3球三振にしてやろうと考えている訳ではないでしょう。
三振は狙っているかもしれませんが。
とは言え、ここまで続いてしまうと少し色気が出てくるかもしれませんね。
27者連続3球三振、ですか?
(アナウンサーの問いかけに、元埼玉セルヴァグレーツのエースピッチャーにして通算200勝のレジェンドである稲藤和康の苦笑したような声が入る)
さすがにそれは神業が過ぎますね。
ボール球を振ってくれるかどうかはバッター次第ですから。
そうした不確定要素を完全に排除しようとすると、とにかく全ての球をストライクゾーンに入れなければならなくなってしまいます。
ボール球を使わない縛りの配球となると、三振の難易度は跳ね上がるでしょう。
とは言え、このストライク率なら自ずと振らざるを得なくなるのでは?
ボール球だろうと振ってしまいそうですが……。
まあ、コースや緩急によって全く手が出ないということもありますから。
やはり厳しいとは思いますよ。
と言うか、そもそも27奪三振での完全試合自体が奇跡的な偉業ですからね。
2部リーグでは以前、野村秀治郎選手自身が成し遂げていますが――。
(言葉を選ぶように稲藤和康が一瞬言い淀む)
歴史的な低迷が続いているとは言え、1部リーグの球団相手には至難の業です。
勿論、普通の完全試合であれば、野村秀治郎選手は既に達成していますが。
村山マダーレッドサフフラワーズの本拠地開幕戦。
野村秀治郎選手の2度目の登板の時ですね。
もし同一シーズン中に2度完全試合となると史上初でしょうか。
勿論そうです。
そもそも完全試合は通算でも2度達成した選手がいませんからね。
本来はそれだけ稀な記録です。
……確かにその通りですね。
どうにも感覚が麻痺してしまっている気がします。
まあ、野村秀治郎選手のパフォーマンスは、今シーズン中に2度目を達成しても不思議じゃないと思わせるぐらいに圧倒的ですからね。
気持ちは分かります。
『4番、指名打者、海峰永徳』
さて。5回裏の埼玉セルヴァグレーツの攻撃が始まります。
この回の先頭バッターは海峰選手。
野村秀治郎選手との初対決はインコース低めを攻められての3球三振でした。
その打席の初球は外角から鋭く曲がった160km/hの高速スライダー。
2球目は外寄りの高めから大きく曲がって落ちてきた140km/hのカーブ。
3球目は低めから浮かび上がってくるような170km/hのストレート。
海峰選手はこれに対して空振り、見逃し、見逃し。
半ば手も足も出ないといった様相でした。
いやはや。改めて振り返ってもおかしいですね。
同じ日本人とはとても思えません。
特にあのカーブ。
こんなのを投げ込まれたら、ほとんどのバッターは何もできませんよ。
170km/hの直球とのコンビネーションは悪夢のようですね。
緩急と言いながら遅い方が140km/hなのも意味が分かりません。
ええ、本当に。
WBWアメリカ代表のサイクロン・D・ファクト選手を彷彿とさせます。
つまり、野村秀治郎選手は大リーガー級の選手ということでしょうか。
それは間違いないでしょう。
球速こそ僅かに劣っていますが、変化球の変化量やキレ、何よりもコントロール技術については遜色ないと思います。
球種の数という意味では上回っているかもしれません。
ストレート。ワンシーム。ツーシーム。カットボール。
カーブ。ドロップ。スライダー。高速スライダー。スイーパー。
シュート。高速シュート。シンカー。高速シンカー。
フォーク。スプリット。チェンジアップ。
最低でもこの程度は明確に投げ分けているという情報があります。
そのどれもが一級品。
ウイニングショットを通り越して、魔球とでも呼ぶべき域にありますからね。
恐ろしい投手です。
しかし、ここ最近は打たせて取るピッチングをしていたようですが……。
何か理由があるのでしょうか。
そうですね――。
(稲藤和康が考えを纏めるように口を噤み、無言が続く。鳴り物の音は入り込んでいて、無音ではなかったので放送事故とはならなかった。その間も試合は進む)
っと、野村秀治郎選手。
海峰選手に対して1球目を振りかぶり……投げました!
インコース高めのストレートを見逃し、ストライク!
またも170km/h!
5回の裏も全く衰えることがありません!
……先程の話ですが。
それこそ縛りプレイ、なのかもしれませんね。
縛りプレイ、ですか。
野村秀治郎選手は常々打倒アメリカ代表を公言しています。
彼にとって、レギュラーシーズンはWBWに向けての練習の場なのでしょう。
まあ、実際それこそが本来の、正しい捉え方ではありますが。
いずれにしても。
自分か、もしくはチームメイトか。
最低限得るものがあるように、相手のレベルに合わせているのかもしれません。
彼はそこまでの……っと、2球目!
内角低めへのシンカー!
海峰選手、やや腰が引けたスイングは空を切ってノーボール2ストライク!
デッドボールコースから鋭く曲がってストライクゾーンに来る変化球。
今日の試合では多用しているので、配球を読んで振ってきましたね。
崩れたフォームながら、凄まじいスイングスピードでした。
色々と言われていますが、日本一の打者と呼ばれていただけのことはあります。
しかし、初見のシンカーとの軌道が合いませんでしたね。
多種多様な変化球を持つということは、本当に恐ろしいことですね。
先程挙げられた球種の数を考えると、同じ試合で4打席は対戦しないと全ての変化球を網羅できないでしょうからね。
慣れる間もありません。
しかも、どれもが決め球になり得る球。
そんなものを完璧にコントロールされたら、対処のしようがないでしょう。
そうですね。
そして、ここでキャッチャーの野村茜がアウトコース低めに構えます。
まあ、彼女は構えを偽装するので本当にそこに来ると断言はできませんが……。
前の打席から数えて5球連続インコースの後のアウトコースとなると、内に甘く入ってくることがない限り、バッターにとっては厳しいかもしれませんね。
果たして海峰選手は反応できるのか。
野村秀治郎選手、3球目を……投げました!
打ってファ――!?
は?
マジか……。
ファ、ファウルチップで三振……。
海峰選手、ファウルで連続3球三振を防ぐことができたかと思われましたが、チップしたボールは野村茜選手のキャッチャーミットに吸い込まれました。
ファウルチップはストライクとして扱われますので、三振が成立。
埼玉セルヴァグレーツの選手として今日の試合初めてバットに当てることができましたが、これで13者連続3球三振です。
アウトコース低めいっぱいに逃げていくシュートでしたね。
何とか追いかけて当てることができましたが、僅かに掠ったのみでした。
しかし、チップしたと一口に言っても、最初に野村茜選手が構えていたところから30cm以上高い位置に飛んでいました。
あのキャッチングの仕方は……。
リプレイをスローモーションで確認したところ、野村茜選手は海峰選手がスイングを始動した時にはミットを動かしていますね。
まるでチップすることを予知していたかのように捕球しています。
……野村秀治郎選手程のピッチャーが頑なに彼女とバッテリーを組んでいる理由の片鱗が見て取れたような気がします。
打撃成績だけ見てもその異常性は明らかではありますが、思えばあの魔球のような変化球を当たり前にキャッチしている訳ですからね。
はい。思えば、ボールをこぼしているところを見たことがありません。
少なくともキャッチングの技術では球界一と言ってもいいかもしれません。
ナックルを難なく捕球できる倉本選手は如何でしょう。
フレーミング技術まで含めると、野村茜選手の方が優位だと思います。
キャッチングでいい音も鳴らしてくれますし。
ただ、それらはあくまでも経験の問題でしょう。
倉本選手は高校生からキャッチャーを始めたとのことですからね。
小学生の頃から野村秀治郎選手と組んでいた野村茜選手に一日の長があります。
では、キャッチャー野村秀治郎選手と比べると如何でしょうか。
キャッチングの1点のみで言えば、これも野村茜選手に軍配が上がるでしょう。
ただ、配球は野村秀治郎選手が考えていると聞きます。
それが事実であれば、日本最強のキャッチャーは彼になるかと思います。
最強のピッチャーにして、最強のキャッチャーということですか。
まるでマンガのようですね。
全くです。
それに加え、野村秀治郎選手は内外野も普通以上に守ることができますからね。
究極のユーティリティプレイヤーと言っても過言ではないでしょう。
……村山マダーレッドサフフラワーズの選手の話題は尽きませんが、そろそろ実況に戻った方がよさそうです。
あ、っと。申し訳ありませんでした。
現在、5番の石村剛太の打席です。
カウントはノーボール2ストライク。
初球はインコース低めへのスイーパー。
2球目はアウトコース低めへのシュート。
そして3球目を、野村秀治郎選手が今……投げました!
ストライクッ! 空振り三振!
インコース高めのボール球を振らされました!
やはり、3球三振に拘っている訳ではないようですね。
三振狙いで早めは早めに追い込んだ結果としてそうなっているだけでしょう。
つまり……余りにも力の差があり過ぎて、組み立ての途中で相手が三振してしまっているということでしょうか。
勿論、3球で仕留めに行っている場合もあるでしょうが……。
有り体に言えば、そうなります。
こうなってくると、唯一バットに当てた海峰選手に期待せざるを得ませんね。
是非とも意地を見せて欲しいものです。
ええ。どうにか一矢報いて貰いたいです。
ただ、このままで行くと次が最終打席になってしまうんですよねえ。
果たして1打席で対応できるのか……。
(その後、6番の秋倉翔二選手もまた3球三振に倒れて3アウトチェンジ。そのまま海峰永徳の第3打席まで連続記録が積み重なっていく)
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