266 / 319
第3章 日本プロ野球1部リーグ編
掲示板19 【間もなく】日本プロ野球総合板Part10992【交流戦開幕】
しおりを挟む レイゾンは自分の態度を振り返り、「まずかっただろうか」「いやしかし」と懊悩する。王太子に対して失礼なことをしたような気もする。が、騎士同士なら問題ないのではないだろうかという気もする。
(……わからぬ……)
いずれにせよ”やらかして”しまったのだとしたら、もう手遅れだ。
しかし、まさか王太子が足を運んでくるとは思っていなかった。
彼は「見届け」とか「立ち会い」と言っていた。レイゾンは知らなかったが、つまりそれが騏驥を下賜される時の作法なのだろう。
そしてこのシィン殿下は、レイゾンは知らなかった(気にしていなかった)「見届け」のために、わざわざここへやってきたと言うわけだ。この騏驥のために。
一人二人ではない数のずらり揃った女官たちも、そのために手配されたのだろう。それを思うと、らしくなく動揺してしまう。
レイゾンはひとまずシィンへの礼儀として頭を下げると、そのままチラリと騏驥を見る。確かめるように、騏驥を見る。
侍女のような女性に付き添われ、そこに静かに佇む騏驥(そもそも騏驥に侍女とは! しかし、傍にいる女性はそうとしか見えないのだ)。
互いが近づいた分、その姿はさっきまでよりいくらかはっきりと見える。美しい装束。その白さには靴先まで一点の染みもない。気づけば胸に染み渡るような深い芳香が感じられる。衣に焚きしめているものだろう。
レイゾンにはさっぱりわからないが、それもおそらく高価な香に違いない。
そして貌は……。
レイゾンはさっきよりも一層速くなっている心音を宥めるように長く息をつく。
綺麗だ。近くで見てもやはり綺麗だ。白で統一された印象故に美しく”見えるだけ”かと思っていたら、そうではなかった。雰囲気も美しいがより近くで見てもやはり美しい。いや——間近で見れば見るほど綺麗だという印象を受ける。
肌は抜けるように白い。透明感があって雪のようだ。新雪。まだ誰にも触れられたことがないような、そんな無垢な気配はこちらの庇護欲を駆り立てる。元踊り子で前王に囲われていたなら無垢でなどあるわけもないだろうに。
そしてそんな白い肌と対照的な淡く色づいた唇は、露を含んだ花弁か熟した果実のようだ。面差しを隠している面紗がもどかしい。できるならいっそ今すぐ、引き剥いでやりたくなる。全てが見たくなる。何もかも暴いてやりたくなる。この手で全て。
庇護してやりたいと思った直後にそんな風に乱暴なことも思ってしまう。
白く艶やかな長い髪は、よく見れば丁寧に結われて宝玉や輝石で飾られている。それらも全て白だ。少しずつ質感が違うから、さっと色々な石玉なのだろう。無粋なレイゾンではわからないような……きっと高価で稀少な……。
それらを目の当たりにして、レイゾンは微かに唇を噛む。
この騏驥はそれほどだというのか。
下げ渡される際にまでわざわざ手をかけて飾られ、王太子である自ら見送る——それほど価値のある騏驥だと……。
(だが細すぎるのではないか? 小柄だし、心もとない。人の姿の時の体格がそのまま馬の姿のそれではないとはいえ、こんなに華奢では心配だ。実戦では役に立たないのではないか? 確かに美麗だが強くない騏驥では意味がない。美しいだけの騏驥では、ただの観賞用だ。俺はそんな騏驥など……)
見れば見るほど美しく、そして自分には不似合いな騏驥。
「…………」
レイゾンの胸の中に、これまで感じた事のない混沌が産まれる気配がある。込み上げてくる混乱に煽られるように、思わず一歩踏み出しかけた時。
「レイゾン、待たせたついで——と言うわけではないが、一杯茶をもらえるだろうか? 其方に白羽を授ける前に、少し話しておくこともある」
朗らかに、シィンが言う。
びくりと動きを止めてレイゾンが見れば、シィンはそこにある卓子の上の茶杯や茶壺(急須)に向けて軽く顎をしゃくって見せる。さっきまでレイゾンが何杯も飲んでいたものだ。
「待たせたついで」——とは、聞きようによってはずいぶんふざけた言い回しだが、彼が口にするとどこか親しみやすさが感じられるから不思議なものだ。
貴族など気に食わないと思っていたし、今もそれは変わっていないつもりなのに、そんな貴族も貴族——王太子であるシィンに対して好感を抱くとは。
(不思議な方だ……)
一対一で顔を合わせることなどないと思っていたから、シィンに対しての知識は皆無に等しい。辛うじて名前を知っていたぐらいで顔さえろくに知らなかったのに。
これが王や王子というものなのだろうか。
そのほとんどが騎士となる貴族たちの中でも、特に王族は生まれながらに騎士であり加護の魔術を受けているという。特別の中の特別な存在だ。
(そんな王族に——前王に囲われていた……騏驥……)
——手に余る。
と、レイゾンは思った。
そんなもの、もらっても困る。扱えぬ。故に不要。
しかしそう思っていても今さら事態は変えられない。
それに。
(それに、あの美貌は……)
思い出すと、柄にもなく耳が熱くなる。
気になってチラリと騏驥を見やりかけ、レイゾンは慌てて顔を戻す。
何をやっているんだ、俺は。
そうこうしていると、シィンはレイゾンの返事を待たずにさっさと椅子に腰を下ろしてしまう。
慌てるレイゾンに構わず、シィンはゆったりとした様子で脚を組むと、
「お前が淹れてくれるか。わたしはあまり熱くないものが好みだ」
と楽しげに言う。
びっくりしてレイゾンがそちらを見ると、そこには、大役を仰せつけられ、かしこまった様子で幾度も頷いているユゥの姿があった。
(……わからぬ……)
いずれにせよ”やらかして”しまったのだとしたら、もう手遅れだ。
しかし、まさか王太子が足を運んでくるとは思っていなかった。
彼は「見届け」とか「立ち会い」と言っていた。レイゾンは知らなかったが、つまりそれが騏驥を下賜される時の作法なのだろう。
そしてこのシィン殿下は、レイゾンは知らなかった(気にしていなかった)「見届け」のために、わざわざここへやってきたと言うわけだ。この騏驥のために。
一人二人ではない数のずらり揃った女官たちも、そのために手配されたのだろう。それを思うと、らしくなく動揺してしまう。
レイゾンはひとまずシィンへの礼儀として頭を下げると、そのままチラリと騏驥を見る。確かめるように、騏驥を見る。
侍女のような女性に付き添われ、そこに静かに佇む騏驥(そもそも騏驥に侍女とは! しかし、傍にいる女性はそうとしか見えないのだ)。
互いが近づいた分、その姿はさっきまでよりいくらかはっきりと見える。美しい装束。その白さには靴先まで一点の染みもない。気づけば胸に染み渡るような深い芳香が感じられる。衣に焚きしめているものだろう。
レイゾンにはさっぱりわからないが、それもおそらく高価な香に違いない。
そして貌は……。
レイゾンはさっきよりも一層速くなっている心音を宥めるように長く息をつく。
綺麗だ。近くで見てもやはり綺麗だ。白で統一された印象故に美しく”見えるだけ”かと思っていたら、そうではなかった。雰囲気も美しいがより近くで見てもやはり美しい。いや——間近で見れば見るほど綺麗だという印象を受ける。
肌は抜けるように白い。透明感があって雪のようだ。新雪。まだ誰にも触れられたことがないような、そんな無垢な気配はこちらの庇護欲を駆り立てる。元踊り子で前王に囲われていたなら無垢でなどあるわけもないだろうに。
そしてそんな白い肌と対照的な淡く色づいた唇は、露を含んだ花弁か熟した果実のようだ。面差しを隠している面紗がもどかしい。できるならいっそ今すぐ、引き剥いでやりたくなる。全てが見たくなる。何もかも暴いてやりたくなる。この手で全て。
庇護してやりたいと思った直後にそんな風に乱暴なことも思ってしまう。
白く艶やかな長い髪は、よく見れば丁寧に結われて宝玉や輝石で飾られている。それらも全て白だ。少しずつ質感が違うから、さっと色々な石玉なのだろう。無粋なレイゾンではわからないような……きっと高価で稀少な……。
それらを目の当たりにして、レイゾンは微かに唇を噛む。
この騏驥はそれほどだというのか。
下げ渡される際にまでわざわざ手をかけて飾られ、王太子である自ら見送る——それほど価値のある騏驥だと……。
(だが細すぎるのではないか? 小柄だし、心もとない。人の姿の時の体格がそのまま馬の姿のそれではないとはいえ、こんなに華奢では心配だ。実戦では役に立たないのではないか? 確かに美麗だが強くない騏驥では意味がない。美しいだけの騏驥では、ただの観賞用だ。俺はそんな騏驥など……)
見れば見るほど美しく、そして自分には不似合いな騏驥。
「…………」
レイゾンの胸の中に、これまで感じた事のない混沌が産まれる気配がある。込み上げてくる混乱に煽られるように、思わず一歩踏み出しかけた時。
「レイゾン、待たせたついで——と言うわけではないが、一杯茶をもらえるだろうか? 其方に白羽を授ける前に、少し話しておくこともある」
朗らかに、シィンが言う。
びくりと動きを止めてレイゾンが見れば、シィンはそこにある卓子の上の茶杯や茶壺(急須)に向けて軽く顎をしゃくって見せる。さっきまでレイゾンが何杯も飲んでいたものだ。
「待たせたついで」——とは、聞きようによってはずいぶんふざけた言い回しだが、彼が口にするとどこか親しみやすさが感じられるから不思議なものだ。
貴族など気に食わないと思っていたし、今もそれは変わっていないつもりなのに、そんな貴族も貴族——王太子であるシィンに対して好感を抱くとは。
(不思議な方だ……)
一対一で顔を合わせることなどないと思っていたから、シィンに対しての知識は皆無に等しい。辛うじて名前を知っていたぐらいで顔さえろくに知らなかったのに。
これが王や王子というものなのだろうか。
そのほとんどが騎士となる貴族たちの中でも、特に王族は生まれながらに騎士であり加護の魔術を受けているという。特別の中の特別な存在だ。
(そんな王族に——前王に囲われていた……騏驥……)
——手に余る。
と、レイゾンは思った。
そんなもの、もらっても困る。扱えぬ。故に不要。
しかしそう思っていても今さら事態は変えられない。
それに。
(それに、あの美貌は……)
思い出すと、柄にもなく耳が熱くなる。
気になってチラリと騏驥を見やりかけ、レイゾンは慌てて顔を戻す。
何をやっているんだ、俺は。
そうこうしていると、シィンはレイゾンの返事を待たずにさっさと椅子に腰を下ろしてしまう。
慌てるレイゾンに構わず、シィンはゆったりとした様子で脚を組むと、
「お前が淹れてくれるか。わたしはあまり熱くないものが好みだ」
と楽しげに言う。
びっくりしてレイゾンがそちらを見ると、そこには、大役を仰せつけられ、かしこまった様子で幾度も頷いているユゥの姿があった。
10
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説

【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。


龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。

黄金の魔導書使い -でも、騒動は来ないで欲しいー
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。
そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。
‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!!
これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。
「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる