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第3章 日本プロ野球1部リーグ編

212 世界の同世代②

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 プロジェクタースクリーンに映し出されていたスライドがまた切り替える。
 イタリアのルカ選手に続いて取り上げられたのは――。

「オーストラリアのトップリーグであるクラクストン・シールドリーグの名門チーム、パース・ブレイジングの黄金ルーキー、ジョシュア・ミラー選手です」

 プロフィールを見ると同い年。
 18歳の新人選手だ。
 尚且つ、この場で取り上げられる程に突出した活躍を見せている。
 となれば、そう。
 彼もまた転生者だった。
 その証である【マニュアル操作】と【離見の見】も完備している。

「ジョシュア選手もまた新人ながら開幕投手を務め、既に3勝を挙げています。打者としても2桁本塁打を記録するなど驚異的な数字を残しています」

 とは言いながら。
 個人成績については、正直なところ余り代わり映えしない。
 1人目のルカ選手と似たようなものだ。
 二刀流がデフォルトで、国の球史において過去類を見ない成績を叩き出す。
 生まれながらに【マニュアル操作】を持つ【成長タイプ:マニュアル】であるのなら、当人の能力はおおよそ同じような数字に収束するだろう。
 後は【生得スキル】に何を選択したか個性がいくらか出るか、という程度のもの。
 そして、それが反映されたジョシュア選手の個性はと言うと……。

「彼は異色の選手であり、名門パース・ブレイジングに所属していながら同時に首都キャンベラの国立大学にも在籍している大学生でもあります」
「……二兎を追って二兎を得た?」

 佐藤さんの説明に、五月雨さんが屈折した感情を滲ませたような声で呟く。
 ことわざに従えば、二兎を追う者は一兎をも得ずとなるところ。
 ジョシュア選手は今生の究極的なレベルで文武両道を成し遂げているらしい。
 昔から運動を苦手としていた彼女にとっては、酷く癪に障る内容だったようだ。
 まあ、その根源にあるのは嫉妬心と見て間違いないだろうが。

「月雲。それだけ効率的に練習する術があるってことだから、研究対象として丁度いいっても言えるんじゃない?」
「…………あ、そ、そうかも」
「ああ、いや。それはやめといた方がいいと思いますよ」
「えっと。野村君、どういうこと?」
「見た感じ、ジョシュア選手は相当イレギュラーな存在っぽいので。むしろ研究のノイズになりかねません」

 陸玖ちゃん先輩の問いかけに対し、一先ず伝えられる範囲で答える。
 結局のところ、具体性は皆無な言葉になってしまっているが……。
 本音を言えば「なりかねない」ではなく「なる」と断言したかった。
 何故なら、ジョシュア選手の現状には彼が持つ【生得スキル】の1つである【無駄方便】が大きく影響しているからだ。
 その効果は『通常であれば【経験ポイント】を得ることができないような行動であっても同様に【経験ポイント】を得ることができる』というもの。
 どういうことかと言えば、何をしても、たとえ何もしていなくても【経験ポイント】を手に入れることができるということだ。
 それこそ机に座って勉強していても、小遣い稼ぎにアルバイトをしていても、何ならボーッとしていたり、眠っていたりしていても。
 そんな彼を追いかけても、逆に五月雨さんの目標から遠ざかってしまうだけだ。
 例外中の例外以外のなにものでもなく、頭を抱えることになりかねない。

「頭の片隅に置いておく程度に留めた方がいいかと」
「うーん。まあ、野村君が言うなら、そうしといた方がいいかも?」
「そ、そうだね。や、やるべきことは、いっぱいあるしね……」

 お世辞にも論理的とは言えない信用に任せた説得。
 それでも彼女達は納得してくれたようだ。

 ……しかし、このスキル。
 有用なようで、ちょっとばかし無駄な部分が多い気がするな。
 恐らくだが、ジョシュア選手も同じように思っているはずだ。
 きっと彼自身の【経験ポイント】はダダ余りしているだろうから。

 尚、もう1つの彼の【生得スキル】は【タイプチェンジ】となっている。
 効果は『自分または他人の【成長タイプ】を変更することができる』だ。
 個人的にはこちらの方がヤバいと思う。
 うまく使えば、各【成長タイプ】のメリットだけを享受できる訳だから。

「所属球団のパース・ブレイジングについては現在リーグ1位ではありますが、日本やイタリアのトップリーグ程に独走している訳ではないようです」

 アチラのニュース番組で放送されたらしい試合映像が映し出される。
 ジョシュア選手のチームメイトの中には、大松君級の選手が何人かいた。
 となれば、パース・ブレイジングの戦力は過去類を見ないレベルにあるはずだ。
 にもかかわらず、独走できていない。
 それはつまり、チーム間の力の差がそこまで開いていないということになる。
 他の球団にも同等の選手が複数人存在していなければ、そうはならないだろう。
 ジョシュア選手がこの18年間意欲的に活動してきたことが窺い知れる。
【成長タイプ:マニュアル】と他の【成長タイプ】をうまく使い分けて優れた選手を大量に育成し、各チームに送り込んだと見て間違いない。
 少なくとも俺がその【生得スキル】を持っていたら確実にそうする。

 勿論、優秀な選手が増えれば増える程、WBW代表選手に選ばれるためのハードルもまた高くなっていくことだろう。
 だが、それはそのまま野球界全体のレベルアップを意味している。
 ジョシュア選手擁するオーストラリアも要注意とすべきだ。

「続いて紹介するのはオランダのトップリーグ、ホーフトクラッセの球団アムステルダム・ピングインス所属のフェリクス・ファン・デン・ベルフ選手です」

 個人の成績については似たり寄ったり。
 なので、もう割愛する。
 当然のように彼も転生者だった。
 とは言え、実際のところそこは最重要な要素という訳ではない。
 大事なのは彼が持つ2つの【生得スキル】がどういったものなのかだ。
 早速【マニュアル操作】で確認する。

「これはまた……」

 内容を見た限り、彼のそれもまたチーム作りの面で非常に有用なものだった。
 1つ目は【経験ポイント共有】というスキルで『チームメイト、またはバフの対象に選べる【関係者】と【経験ポイント】を共有することができる』というもの。
 2つ目は【キャッシュバック】というスキル。
 その中身は『【経験ポイント】を50点使用する毎に5点分の【経験ポイント】が返還される』というものだ。
 この2つは大分シナジーがあるように感じられる。
 少なくとも同じチームの選手については、効率的に強化できているはずだ。

「次にキューバのトップリーグ、セリエ・ナシオナル・デ・ベイスボルの球団ガラクシア・デ・ラ・ハバナ所属のノスレン・アルバレス選手です」

【生得スキル】は【リズムアクション】と【バンドワゴン】の2つ。
 前者は『自分の動作や呼吸と相手の動作や呼吸が一致した時、その度合いに応じてステータス値が著しく上昇する』というもの。
 後者は『自身の活躍度合いに応じてチームメイト、またはバフの対象に選べる【関係者】のステータスが向上する』というものだ。
【生得スキル】だけを見ると、彼1人を封じれば問題ないようにも見える。
 しかし、実際に対峙する時までにチームとしてどれだけ戦力を積み上げることができているかが全てだ。
 油断することはできない。

「コチラは知っている方も多いと思います。既にメキシコ代表としてWBWにも出場しているエドアルド・ルイス・ロペス・ガルシア選手です」

 磐城君と同じ【天才】【模倣】の【生得スキル】を持つ男。
 アメリカ代表にも一目置かれてはいるが……。
 WBWメキシコ代表は今のところエドアルド・ルイス選手個人軍という様相だ。

 こうして並べてみると、俺と彼は自分本位とも言えるスキル構成になっている。
 打倒アメリカを考えると、仲間を強化する【生得スキル】も欲しくなるが……。
 そもそも自分自身が一廉の人物にならなければ、発言権もないに等しいからな。
 中々バランスが難しい側面もある。
 もう1つ言い訳をするならば、俺の選択は前世のトラウマに端を発したものだ。
 そこまで深く考えてスキルの選択をしていなかった気もする。

 まあ、何にせよ。
 俺と彼は【生得スキル】的に他よりも仲間の確保が難しい部類となる。
 本気でアメリカに挑むのならば、次のWBWまでに相当な戦力拡充が必要だ。
 だが、果たしてエドアルド・ルイス選手はそのために動いているのだろうか。
 今のところ気配は感じられないけれども。
 ……彼については、むしろ当人よりもそっちを調査すべきかもしれないな。
 それを以ってメキシコ代表チームの脅威度とすべきだ。

「最後に、ドーピング問題で今年のWBWに出場できなかったロシアです。こちらは着目すべき選手が複数存在しています」
「え? ロシア?」
「はい。そうです」

 佐藤さんが肯定して尚、思わず真偽を問うような視線を向けてしまう。
 偏見だが、ロシアはちょっとイメージになかった。
 複数ということは、転生者の影響を受けた選手が活躍でもしているのか。
 いや、別にそれ自体は十分あり得る話だけど……。
 本当に野球狂神が配置した転生者が存在しているのか?

 スライドが切り替わって映し出された映像を、軽く首を傾げながら見る。
 即座に【マニュアル操作】でステータスを確認し、転生者を探す。

「何だ、これ」

 何度も何度も確認してから、俺は呆然と呟いた。
 何故なら、そこには異常としか言いようのない数値が記されていたからだ。
 ステータス画面を一通り見ただけでは、そうなっている理由は分からない。
 しかし、【取得スキル一覧】から確かに言えることがいくつかあった。

 まず、少なくとも映し出された選手の中に転生者はいないこと。
 にもかかわらず、アメリカ代表に比肩する能力を彼らが有していること。
 そしてそれは、俺の知る【マニュアル操作】ではなし得ないことだった。
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