248 / 283
第3章 日本プロ野球1部リーグ編
205 壮行試合テレビ観戦
しおりを挟む
春季キャンプも後半戦に入り、今シーズンのチームの形も大方見えてきた。
ただ、まあ、それについては特筆すべきことはない。
俺達5人を核として、残るポジションに去年のレギュラーを割り振る。
それだけのこと。
今季の支配下登録選手が定まった段階で既に構想していた通りの形でしかない。
夜遊びカルテット呼ばわりされた4人については今年も似た立場になるだろう。
控えの控え。投手なら敗戦処理。
その扱いは彼らのモチベーションを更に奪って悪循環を生んでしまうかもしれないが、プロ野球選手というものはあくまでも個人事業主。
部活動という名のある種の教育の場でもなし、そこはもう自己責任だ。
彼らにとってこれ以上の環境はなかったはずだしな。
皆、いい大人。有効活用するも無駄にするも全て自分次第。
それ以上でもそれ以下でもない。
自我が乏しい子供の頃に誘導されたあーちゃん達とは話が違うのだから。
元アマチュアの選手が1部リーグのプロ野球選手に成り上がった。
それだけで十分だろう。
ちなみに。
今回のスキャンダル(?)は本当にゴシップレベルの話だったため、日々の情報の濁流に飲み込まれて既に若干古いネタになってしまっている。
「……ネガティブな話題だから結構なことだけど、流行り廃りが激しいわね」
「世間ってのはそんなもんだよ」
今回の件は、そもそも犯罪って訳でも人倫にもとる行為って訳でもないからな。
単純に、そんなことをしてられるような立場なのか? って話でしかない。
燃え盛って話題になり続けるぐらいの燃料はない。
なので、世の中の関心はもう次の話題へと移ってしまっていた。
直近の主要なトピックスはと言えば、当然ながら間近に控えたWBW本選。
特に今は、その直前に行われる壮行試合の話題が盛んだ。
そして数試合予定されているそれの中でも一際注目を浴びているのが、WBW日本代表対兵庫ブルーヴォルテックス、
多くのSNSでトレンド1位となっていた。
と言うのも――。
「磐城君、いきなり大役ね」
昨年ドラフト1位で入団したばかりの新神童、磐城君がこの試合に先発登板することが兵庫ブルーヴォルテックス公式から発表されていたからだ。
ちなみにトレンド2位は東京プレスギガンテス対WBW日本代表。
こちらは大松君が先発登板することが正式に決まって話題になっているが、トレンド2位に留まっているのは単純にこちらの方が後に開催されるからだ。
別に人気や期待の差ではない……はずだ。
「しかし、いきなりトッププロ相手に、大丈夫なんすかね」
「まあ、普段の実力を発揮できれば問題ないと思うよ」
心配そうな倉本さんに軽い口調で答える。
今は春季キャンプの本日の練習を終え、早目に夕食を取った後。
ホテルのロビーに置かれた大型テレビの前に集まり、日本代表対兵庫ブルーヴォルテックスの試合が始まるのを待っているところだ。
いつもの5人は近くに固まって待機中。
周囲には村山マダーレッドサフフラワーズのチームメイトの姿もチラホラある。
主に、中学生の頃に実施した合同練習で磐城君とも顔見知りになった面々だ。
やはり彼らもこの壮行試合には興味があるようだ。
「俺としては、心配なのはむしろ磐城君よりも日本代表のメンタルの方だな。下手したらWBW本選開始前に再起不能になりかねない」
「秀治郎君が言うなら、本当にそうなりかねないんだろうけど……」
隣の1人がけの椅子に座る美海ちゃんが、言いながら首を傾げる。
微妙な反応だ。
相手は曲がりなりにも1部リーグの全球団から選りすぐられた日本代表。
さすがにそこまで圧倒的な結果になるとは思えずにいるようだ。
彼女はまだ今の実力を1部リーグ相手に試すことができていない。
それだけに、トッププロとの距離を測り切れていないのだろう。
……俺からすると、彼女ももう大概だと思うけどな。
倉本さんと組んで挑めば、屋外球場ならナックルで普通に抑えられるはずだ。
屋内球場だったら、まあ、後1つぐらい使える変化球が欲しいところ。
特に、逆方向への変化球があるといい。
という考えの下、美海ちゃんには春季キャンプで得た【経験ポイント】を消費して既にワンシームを習得させるだけさせている。
シンカー気味に小さく曲がって芯を外す変化球だ。
もうしばらく練習で試して自分の中のイメージや感覚とステータス上の能力とが齟齬なく一致すれば、試合でも十全に使いこなすことができるだろう。
それがシーズン開幕までの彼女の新たな課題だ。
同時に直球と横スラ、縦スラ、それからナックルとこの新球を組み合わせた効果的なリードを考えるのが倉本さんの課題でもある。
「……そろそろ始まる」
と、あーちゃんが2人がけのソファに腰かけていた俺の隣で言った。
その彼女は俺の腕を抱え込むようにしながら指を絡めて手を握っている。
背もたれで隠れている部分なので後ろから見ると分かりにくいだろうが、悪戯するように指で俺の手の甲をスリスリしている。
ただし、美海ちゃんからは丸見えで、それに気づいた彼女は呆れ顔。
しかし、あーちゃんは別に変なことはしていないとばかりに真顔だ。
そのまま片手で器用にスマホを弄ってもいる。
チラッとその画面を見ると、別のアングルからこの壮行試合を見ることができるネット中継をいくつか開いて比較しているようだ。
『注目の壮行試合。WBW日本代表対兵庫ブルーヴォルテックス。試合開始です』
スピーカーから聞こえてきた実況の声に、意識を彼女からテレビ画面に戻す。
開催地は兵庫ブルーヴォルテックスの本拠地、神戸エメラルド球場。
スタンドは観客で埋め尽くされている。満員御礼だ。
先攻はWBW日本代表。兵庫ブルーヴォルテックスが後攻。
つまり、早速磐城君のピッチングを見ることができる訳だ。
『WBW日本代表の先頭打者は東京ラクトアトミクスのリードオフマン、飯山鉄朗です。昨年は打率3割1分、32盗塁とキャリアハイの成績を残しています』
バッターボックスに入った飯山選手。
彼はゴールデングラブ賞も受賞したことのある走攻守揃った外野手だ。
サードを守ることもできる。
日本代表に相応しい選手だ。
相対するマウンドには告知通り磐城君の姿がある。
背番号は18。エースナンバー。
前につけていた選手が快く譲ってくれたらしい。
球団の期待が数字から見て取れる。
スターティングオーダーを見ると尚更だ。
【先攻】WBW日本代表
1番 右翼手 飯山鉄朗 東京ラクトアトミクス
2番 遊撃手 登坂聖也 千葉オケアノスガルズ
3番 一塁手 黒井力皇 福岡アルジェントヴァルチャーズ
4番 DH 海峰永徳 埼玉セルヴァグレーツ
5番 三塁手 白露尊 神奈川ポーラースターズ
6番 中堅手 山 友義 兵庫ブルーヴォルテックス
7番 左翼手 畑口荘衛 兵庫ブルーヴォルテックス
8番 二塁手 田岡影秋 大阪トラストレオパルズ
9番 捕手 古茂中司 愛知ゴールデンオルカーズ
投手 野上浩樹 東京プレスギガンテス
【後攻】兵庫ブルーヴォルテックス
1番 右翼手 佐藤壱郎
2番 遊撃手 塩口誠
3番 中堅手 大橋智則
4番 投手 磐城巧
5番 三塁手 貝木禅
6番 一塁手 富士廉士
7番 左翼手 茶山村雲
8番 二塁手 小島幸助
9番 捕手 若田太陽
兵庫ブルーヴォルテックスはDHを使わず、ルーキーで尚且つピッチャーである磐城君を4番に据えている。
実力を鑑みると当然ではあるが、彼はあくまでも新人選手。
試合の注目度を考えると、一時のパフォーマンスでそうするのはリスクが高い。
春季キャンプという短い期間で首脳陣に実力を認めさせた証と言えるだろう。
正にその磐城君は飯山選手を2球で相手を追い込む。
そして、そのまま3球目もストライクゾーンに投じた。
――カツンッ!
『打った! サードへのボテボテのゴロ! 打ち取った当たり! しかし、飯山は俊足を飛ばし1塁を駆け抜ける! セーフ! 飯山、内野安打で出塁しました!』
詰まったのが功を奏してのヒット。
続く2番打者も同様で……。
――カンッ!
『打球はふらふらとセカンドの頭上を僅かに超えてセンター前ヒット! 飯山は一気に3塁まで進んでノーアウト1塁3塁! 日本代表、容赦がありません!』
「緊張してる?」
「いや、普通するでしょ……」
呑気なあーちゃんの言葉に美海ちゃんが突っ込む。
しかし、実際はスキルのおかげで過度な緊張状態にはなっていないはずだ。
そこは原因ではない。
「内容的に見て、手も足も出ない感じではないっすよね? むしろ……」
「うん。これは単純に飛んだところが悪いだけだ。磐城君は基本的に打たせて取るピッチングだから、こういうことも起こり得る」
「でも、初回からピンチになっちゃったし、ここらでギアを上げてくるかな?」
昇二の心配そうな問いかけに「だろうな」と頷く。
ここは打たせて取るのではなく、三振を狙ってくるだろう。
そして、その予想通りに。
『またも3球勝負! 161km/hのストレートがインコース高めに決まって3球三振! 磐城、まずはアウトを1つ取りました!」
これで1アウト1塁3塁。
次は日本代表の4番打者。
ところどころで接点のある彼だ。
『ここで打席には今大会も4番としての起用が明言されている海峰永徳。日本一と名高いバッターに、神童と呼ばれたルーキーが挑みます』
「ふっ」
「あ、鼻で笑うなんて酷い人ね」
「実力だけで言うなら、挑戦するのはむしろ海峰選手の方だからな」
点差が開いていない序盤の彼は尚のこと。
スキルの呪縛のせいでポンコツと言っても過言ではない。
実態を知っていれば、ピンチのように見えて全くピンチではない。
――カツンッ!
『低めの球を引っかけ、打球はセカンド真正面! 463のダブルプレーで3アウトチェンジ! 公式戦デビュー前のルーキーが初回のピンチを切り抜けました!』
結果として、磐城君は無失点の立ち上がり。
これで彼も勢いに乗ることができるだろう。
思いっ切り初回のチャンスを潰した海峰選手については正直想定の通り。
スキルのせいで比較的高い基本ステータスを全く発揮できていない。
これは勝負が粗方決まるまで続く。
しかもチーム全体へのデバフまでつくようになった。
こんなだから日本代表に選ばれては困るのだ。
そして、だからこそ。
俺は磐城君と大松君と事前に連絡を取り、彼らにミッションを課していた。
内容は単純。
海峰選手を徹底的に抑え込むことだ。
勿論、この2試合だけで全て済むとは思っていない。
だが、楔は打ち込んでおきたい。
100の言葉よりも1つの結果。
俺の煽りなんかよりも余程確かな亀裂を作ることができるはず。
……そろそろ彼には一線から退いて貰いたいものだ。
ただ、まあ、それについては特筆すべきことはない。
俺達5人を核として、残るポジションに去年のレギュラーを割り振る。
それだけのこと。
今季の支配下登録選手が定まった段階で既に構想していた通りの形でしかない。
夜遊びカルテット呼ばわりされた4人については今年も似た立場になるだろう。
控えの控え。投手なら敗戦処理。
その扱いは彼らのモチベーションを更に奪って悪循環を生んでしまうかもしれないが、プロ野球選手というものはあくまでも個人事業主。
部活動という名のある種の教育の場でもなし、そこはもう自己責任だ。
彼らにとってこれ以上の環境はなかったはずだしな。
皆、いい大人。有効活用するも無駄にするも全て自分次第。
それ以上でもそれ以下でもない。
自我が乏しい子供の頃に誘導されたあーちゃん達とは話が違うのだから。
元アマチュアの選手が1部リーグのプロ野球選手に成り上がった。
それだけで十分だろう。
ちなみに。
今回のスキャンダル(?)は本当にゴシップレベルの話だったため、日々の情報の濁流に飲み込まれて既に若干古いネタになってしまっている。
「……ネガティブな話題だから結構なことだけど、流行り廃りが激しいわね」
「世間ってのはそんなもんだよ」
今回の件は、そもそも犯罪って訳でも人倫にもとる行為って訳でもないからな。
単純に、そんなことをしてられるような立場なのか? って話でしかない。
燃え盛って話題になり続けるぐらいの燃料はない。
なので、世の中の関心はもう次の話題へと移ってしまっていた。
直近の主要なトピックスはと言えば、当然ながら間近に控えたWBW本選。
特に今は、その直前に行われる壮行試合の話題が盛んだ。
そして数試合予定されているそれの中でも一際注目を浴びているのが、WBW日本代表対兵庫ブルーヴォルテックス、
多くのSNSでトレンド1位となっていた。
と言うのも――。
「磐城君、いきなり大役ね」
昨年ドラフト1位で入団したばかりの新神童、磐城君がこの試合に先発登板することが兵庫ブルーヴォルテックス公式から発表されていたからだ。
ちなみにトレンド2位は東京プレスギガンテス対WBW日本代表。
こちらは大松君が先発登板することが正式に決まって話題になっているが、トレンド2位に留まっているのは単純にこちらの方が後に開催されるからだ。
別に人気や期待の差ではない……はずだ。
「しかし、いきなりトッププロ相手に、大丈夫なんすかね」
「まあ、普段の実力を発揮できれば問題ないと思うよ」
心配そうな倉本さんに軽い口調で答える。
今は春季キャンプの本日の練習を終え、早目に夕食を取った後。
ホテルのロビーに置かれた大型テレビの前に集まり、日本代表対兵庫ブルーヴォルテックスの試合が始まるのを待っているところだ。
いつもの5人は近くに固まって待機中。
周囲には村山マダーレッドサフフラワーズのチームメイトの姿もチラホラある。
主に、中学生の頃に実施した合同練習で磐城君とも顔見知りになった面々だ。
やはり彼らもこの壮行試合には興味があるようだ。
「俺としては、心配なのはむしろ磐城君よりも日本代表のメンタルの方だな。下手したらWBW本選開始前に再起不能になりかねない」
「秀治郎君が言うなら、本当にそうなりかねないんだろうけど……」
隣の1人がけの椅子に座る美海ちゃんが、言いながら首を傾げる。
微妙な反応だ。
相手は曲がりなりにも1部リーグの全球団から選りすぐられた日本代表。
さすがにそこまで圧倒的な結果になるとは思えずにいるようだ。
彼女はまだ今の実力を1部リーグ相手に試すことができていない。
それだけに、トッププロとの距離を測り切れていないのだろう。
……俺からすると、彼女ももう大概だと思うけどな。
倉本さんと組んで挑めば、屋外球場ならナックルで普通に抑えられるはずだ。
屋内球場だったら、まあ、後1つぐらい使える変化球が欲しいところ。
特に、逆方向への変化球があるといい。
という考えの下、美海ちゃんには春季キャンプで得た【経験ポイント】を消費して既にワンシームを習得させるだけさせている。
シンカー気味に小さく曲がって芯を外す変化球だ。
もうしばらく練習で試して自分の中のイメージや感覚とステータス上の能力とが齟齬なく一致すれば、試合でも十全に使いこなすことができるだろう。
それがシーズン開幕までの彼女の新たな課題だ。
同時に直球と横スラ、縦スラ、それからナックルとこの新球を組み合わせた効果的なリードを考えるのが倉本さんの課題でもある。
「……そろそろ始まる」
と、あーちゃんが2人がけのソファに腰かけていた俺の隣で言った。
その彼女は俺の腕を抱え込むようにしながら指を絡めて手を握っている。
背もたれで隠れている部分なので後ろから見ると分かりにくいだろうが、悪戯するように指で俺の手の甲をスリスリしている。
ただし、美海ちゃんからは丸見えで、それに気づいた彼女は呆れ顔。
しかし、あーちゃんは別に変なことはしていないとばかりに真顔だ。
そのまま片手で器用にスマホを弄ってもいる。
チラッとその画面を見ると、別のアングルからこの壮行試合を見ることができるネット中継をいくつか開いて比較しているようだ。
『注目の壮行試合。WBW日本代表対兵庫ブルーヴォルテックス。試合開始です』
スピーカーから聞こえてきた実況の声に、意識を彼女からテレビ画面に戻す。
開催地は兵庫ブルーヴォルテックスの本拠地、神戸エメラルド球場。
スタンドは観客で埋め尽くされている。満員御礼だ。
先攻はWBW日本代表。兵庫ブルーヴォルテックスが後攻。
つまり、早速磐城君のピッチングを見ることができる訳だ。
『WBW日本代表の先頭打者は東京ラクトアトミクスのリードオフマン、飯山鉄朗です。昨年は打率3割1分、32盗塁とキャリアハイの成績を残しています』
バッターボックスに入った飯山選手。
彼はゴールデングラブ賞も受賞したことのある走攻守揃った外野手だ。
サードを守ることもできる。
日本代表に相応しい選手だ。
相対するマウンドには告知通り磐城君の姿がある。
背番号は18。エースナンバー。
前につけていた選手が快く譲ってくれたらしい。
球団の期待が数字から見て取れる。
スターティングオーダーを見ると尚更だ。
【先攻】WBW日本代表
1番 右翼手 飯山鉄朗 東京ラクトアトミクス
2番 遊撃手 登坂聖也 千葉オケアノスガルズ
3番 一塁手 黒井力皇 福岡アルジェントヴァルチャーズ
4番 DH 海峰永徳 埼玉セルヴァグレーツ
5番 三塁手 白露尊 神奈川ポーラースターズ
6番 中堅手 山 友義 兵庫ブルーヴォルテックス
7番 左翼手 畑口荘衛 兵庫ブルーヴォルテックス
8番 二塁手 田岡影秋 大阪トラストレオパルズ
9番 捕手 古茂中司 愛知ゴールデンオルカーズ
投手 野上浩樹 東京プレスギガンテス
【後攻】兵庫ブルーヴォルテックス
1番 右翼手 佐藤壱郎
2番 遊撃手 塩口誠
3番 中堅手 大橋智則
4番 投手 磐城巧
5番 三塁手 貝木禅
6番 一塁手 富士廉士
7番 左翼手 茶山村雲
8番 二塁手 小島幸助
9番 捕手 若田太陽
兵庫ブルーヴォルテックスはDHを使わず、ルーキーで尚且つピッチャーである磐城君を4番に据えている。
実力を鑑みると当然ではあるが、彼はあくまでも新人選手。
試合の注目度を考えると、一時のパフォーマンスでそうするのはリスクが高い。
春季キャンプという短い期間で首脳陣に実力を認めさせた証と言えるだろう。
正にその磐城君は飯山選手を2球で相手を追い込む。
そして、そのまま3球目もストライクゾーンに投じた。
――カツンッ!
『打った! サードへのボテボテのゴロ! 打ち取った当たり! しかし、飯山は俊足を飛ばし1塁を駆け抜ける! セーフ! 飯山、内野安打で出塁しました!』
詰まったのが功を奏してのヒット。
続く2番打者も同様で……。
――カンッ!
『打球はふらふらとセカンドの頭上を僅かに超えてセンター前ヒット! 飯山は一気に3塁まで進んでノーアウト1塁3塁! 日本代表、容赦がありません!』
「緊張してる?」
「いや、普通するでしょ……」
呑気なあーちゃんの言葉に美海ちゃんが突っ込む。
しかし、実際はスキルのおかげで過度な緊張状態にはなっていないはずだ。
そこは原因ではない。
「内容的に見て、手も足も出ない感じではないっすよね? むしろ……」
「うん。これは単純に飛んだところが悪いだけだ。磐城君は基本的に打たせて取るピッチングだから、こういうことも起こり得る」
「でも、初回からピンチになっちゃったし、ここらでギアを上げてくるかな?」
昇二の心配そうな問いかけに「だろうな」と頷く。
ここは打たせて取るのではなく、三振を狙ってくるだろう。
そして、その予想通りに。
『またも3球勝負! 161km/hのストレートがインコース高めに決まって3球三振! 磐城、まずはアウトを1つ取りました!」
これで1アウト1塁3塁。
次は日本代表の4番打者。
ところどころで接点のある彼だ。
『ここで打席には今大会も4番としての起用が明言されている海峰永徳。日本一と名高いバッターに、神童と呼ばれたルーキーが挑みます』
「ふっ」
「あ、鼻で笑うなんて酷い人ね」
「実力だけで言うなら、挑戦するのはむしろ海峰選手の方だからな」
点差が開いていない序盤の彼は尚のこと。
スキルの呪縛のせいでポンコツと言っても過言ではない。
実態を知っていれば、ピンチのように見えて全くピンチではない。
――カツンッ!
『低めの球を引っかけ、打球はセカンド真正面! 463のダブルプレーで3アウトチェンジ! 公式戦デビュー前のルーキーが初回のピンチを切り抜けました!』
結果として、磐城君は無失点の立ち上がり。
これで彼も勢いに乗ることができるだろう。
思いっ切り初回のチャンスを潰した海峰選手については正直想定の通り。
スキルのせいで比較的高い基本ステータスを全く発揮できていない。
これは勝負が粗方決まるまで続く。
しかもチーム全体へのデバフまでつくようになった。
こんなだから日本代表に選ばれては困るのだ。
そして、だからこそ。
俺は磐城君と大松君と事前に連絡を取り、彼らにミッションを課していた。
内容は単純。
海峰選手を徹底的に抑え込むことだ。
勿論、この2試合だけで全て済むとは思っていない。
だが、楔は打ち込んでおきたい。
100の言葉よりも1つの結果。
俺の煽りなんかよりも余程確かな亀裂を作ることができるはず。
……そろそろ彼には一線から退いて貰いたいものだ。
10
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる