第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第2章 雄飛の青少年期編

189 皆の完成形について②

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『では、2位に参りましょう』
『ここからが世間で特に疑問に思われてるとこだねー』
『…………あの番組が多分に影響していると思いますが』

 恐らく、仁科さんもアレには思うところがあったのだろう。
 ここも台本通りのやり取りではあったものの、声色が大分不愉快そうだった。
 しかし、彼女の動画内での立ち位置的に、そういった感情はなるべく表に出さないようにして貰わなければならない。
 彼女は泉南さんと合わせてバランスを取る役割なのだから。
 なので、このタイミングで画面外にいる諏訪北さんからカンペが出ていた。
 気持ちを抑えて進行を続けるように、と書いてあったのを覚えている。
 それを受けて、動画の中の仁科さんは気持ちを切り替えるように小さく息を吐いてから淡々とした口調で台詞を再開した。

『村山マダーレッドサフフラワーズの2位指名は向上冠高校の倉本未来選手。ポジションはキャッチャー。昇二選手同様、今年の夏の甲子園で優勝しています』
『まあ、同じチームですからね。ちなみに昨年度も準優勝していますよ』
『甲子園最多安打を記録していますし、実績としては十分だと思いますが……』
『色んなところからパワー不足が指摘されてたねー』
『そうですね。正直、現時点では否めません。ただ、改めて同条件で打球速度を測定したところ、美海ちゃ……コホン、浜中選手も含めて番組の時よりも速く計測されていました。何かしら環境的な問題もあったんじゃないかなと思っています』

 さすがに俺が率直に指摘するのは色々問題があるだろう。
 だから、それとなく触れるに留めておいた。
 勿論、俺達は道具に細工があったことを確信している。
 だが、あの番組、ひいてはテレビ局にあからさまに反発するのは得策ではない。
 何せ、この世界では野球中継は未だに地上波の生放送が大盛況。
 公式戦を垂れ流した方がバラエティ番組よりも遥かに数字が取れる。
 最近はネットでも試合の生中継を行っているが……。
 そちらはサブ的な立ち位置だ。
 コアなファンを持つ往年の名選手を解説に呼んで差別化を図ったりしてはいるものの、やはりお茶の間の大画面で見るのが主流なのが現状だ。
 それもあってか、テレビというメディアは前世以上の力を保っている。
 なので、うまくつき合っていかなければならない訳だ。

 といった考えでの発言だったのだが。
 視聴者が食いついたのはそこではなかった。

・美海ちゃんっ!?
・随分と仲よさげだな……
・そりゃ幼馴染だし
・高校まで関係が続く異性の幼馴染とか、幻想じゃなかったのか?(戦慄)
・そんなん千差万別よ
・でも、もう別の幼馴染と結婚してる訳だろ?
・隣にいる野村(旧姓鈴木)茜選手な
・それはそうだが……今や1部でタイトルを取れば両手に花も不可能じゃないぞ
・くそっ、爆発しろ!
・いや、男女の友情だって成り立つだろ……

 動画はあくまでも収録したもの。
 なので、これも一応は意図した言い間違いではある。
 簡単に説明すれば、何やら美海ちゃんにちょっかいをかけようとしてるっぽい色ボケ選手達に対する牽制的な意味合いを含んだものだ。
 しかし、想像以上にコメント欄がそれに対する反応で埋め尽くされてしまった。
 やはり美少女バッテリーというのはセンセーショナルな存在なのだろう。
 中には、半ばアイドル視してしまっている者もいそうだ。
 気持ちは分からなくもない。
 だが、スポーツ選手としての2人を見て欲しいものだ。
 そう思いながら、少し呆れ気味にコメント欄を眺めていると――。

・いや、お前ら環境的な問題の方に食いつけよ
 そっちが今回の動画の主旨に関わる部分だろ?
・あー、まあ、そうだな
・とは言え、環境的な問題、ねえ
・単純に緊張してたせい、とかじゃないか?
・それはメンタルの問題だろ
・初めての球場なら勝手が違って気分も変わるだろ
・バットとかボールの反発力が低かった、とか?
・待て待て、さすがに番組でそんな小細工はしてこないだろ
・同条件で違う結果だってなったら、あながちないとは言えないんじゃないか?

「あ、陸玖ちゃん先輩」
「だな。他の皆も適度に頑張ってくれてる」

 話題の軌道修正を試みているコメントはほぼサクラだ。
 今回用に作った陸玖ちゃん先輩達の別アカウント名が表示されている。
 後でササヤイターでもそれっぽいササヤキをして貰うことになっている。
 俺が美海ちゃんと言いかけた話題の陰に隠れる可能性が高いが、今はいい。
 一先ず疑惑の種を撒くことさえできれば。
 来年、彼女達が大活躍すれば、その疑惑は掘り起こされて確信に変わるだろう。
 直接やり合うことなく、大衆の側からテレビ局に圧をかけられるはずだ。
 誰の差し金かは知らないが、さすがに選手を正当に評価できなくなるような番組が作られるのは今後を考えても困るからな。

 そうやって水面下であれやこれやされている間にも。
 動画は時間通りに進んでいく。

『いずれにせよ、倉本さんの課題は明白です。パワー不足解消とインサイドワークの強化。この2点をどうにかできれば83~86点の選手になれるはずです』
『……指名順位が下の瀬川兄弟よりも低い点数ですね』
『まあ、さすがに体格差がありますからね。ただ、例として示した選手達よりも遥かに上の点数であることもお忘れなく』
『現時点だと、どんな感じの点数になるのー?』
『数字に裏打ちされている異常とも言えるコンタクト率を評価した上で、現状では65点というところでしょうか』

 高校の3年間だけだとステータスを上げ切れなかったからな。
 特にバッティング関係。
 ほとんど【軌道解析】と金属バットの反発力だけで、甲子園最多安打を成し遂げたようなものなのは間違いない。
 それはつまり、安打製造機としての伸び代は計り知れないということでもある。

『指名順位に関しては、ドラフトの妙とでも言うべきか、他球団に絶対に取られることがないように上位指名とした形ですね』

 直前に出たマイナス評価を考慮して尚、一種のカンフル剤として2人を狙いに行く球団がいないとも限らなかった。
 一方で、正樹と昇二は指名順の関係で3位、4位でも取れる確率が高かった。
 だから彼女達の方を上位で指名した。
 それだけのことでしかない。
 欲しい選手を高確率で獲得できるように順位を決めていく。
 ドラフトとはそういうものだ。

『彼女には浜中選手の相棒役というだけでなく、村山マダーレッドサフフラワーズのリーディングヒッターとして活躍してくれることを期待しています』

 倉本さんについてはそう締め括り、残るは1人。

『1位指名は同じく向上冠高校の浜中美海選手。ポジションはピッチャー。大松選手に次ぐ2番手投手として、向上冠高校の甲子園初優勝に大きく貢献しました』
『久しく現れなかったフルタイムナックルボーラーとして大きく取り上げられたことは、皆さんの記憶にも新しいことでしょう』
『けど、この前の番組で1部プロに滅多打ちにされちゃったんだよねー?』
『あれは正直な話、見ていて美海さんが可哀想になりました』

・まあ、それはな
・ほとんど晒し投げだったし
・たとえ実力が不足していたにしたって、あそこまで投げさすのは酷過ぎるわ
・普通なら1人の選手に1イニング2本塁打とかされる前に変えるからな
・監督(?)の意地が悪い
・いや、番組の指示じゃねーの?
・そこはどうあれ、プロの洗礼を浴びたってのは事実だろ
・晒し投げ可哀想ってのと1位指名されるには実力不足ってのは別問題だからな

『まあ、あれについては色々と不利な状況があったのは否めません。ドーム球場だとナックルは曲がりにくいというのは、よく言われることですからね』

・ただ、1部リーグの大半はドーム球場な訳で
・ドームだと起用できないってのは圧倒的に不利なのは間違いない
・屋外球場限定投手なんて使いにくいったらないからな
・先発だったらローテーションがぐちゃぐちゃになるわ
・特別な扱いしてると他の選手から反感買うぞ
・中継ぎならワンチャンあるんじゃね?
・屋外球場限定の中継ぎをドラ1で取るのはちょっと……

『ドーム球場では登板させない感じなのー?』
『いえ。そんなつもりはありません。彼女にはローテーションピッチャーとしてフル稼働して貰うつもりですから。ドーム球場だろうが投げて貰いますよ』
『でも、ナックルは使えないんだよねー?』
『別に余り変化しないだけで使えない訳ではないですが……それ以前に、そもそもナックルに拘る必要は全然ないので』

・???
・どういうこと?
・ナックルボーラーがナックルに拘らないでどうすんだ

 疑問のコメントがいくつも流れていく。
 まあ、そうなるように仕向けた部分もなくはない。
 彼女の完成形を悟らせないようにするために。

『彼女にはパートタイムナックルボーラーにモデルチェンジして貰うつもりです』
『パートタイム……ってどういうことー?』
『ナックル以外にも普通の変化球も投げていくってことですか?』
『その通りです』

・新球を習得するってことか?
・いやいや、一朝一夕じゃ使える変化球にはならんだろ
・精度の低い変化球だと持ち球には数えられないしな
 そんなのと144km/hの直球を組み合わせたところで1部じゃ並以下だ
・けど、ナックルも織り交ぜればワンチャンあるんじゃないか?
・ナックルはリリースが独特だから読まれ易い。読まれたら意味がない

『一先ず、来シーズン開幕までに最低2種。使える変化球を覚えて貰う予定です』
『そんな短期間でできるものなのですか?』
『そこは投手コーチとしての腕の見せ所ですね。何とかしますよ』

・そう言えば、コイツ投手コーチだったか
・何かすぐ忘れちゃうんだけど
・若過ぎるせいだな
・ってか、お飾りじゃなかったんか

『そう言えば、野村君がナックルを指導したんだよねー』
『ええ。高校1年生の時ですね。今となっては懐かしいです。難易度の高い変化球を1年であそこまで仕上げてくれたので、今回も問題ないと思っています』

・本気で言ってる?
・いや、嘘だろ?
・コイツがナックルの仕掛人だったってこと?
・マジかよ……
・まあ、嘘か真か。オープン戦辺りには答えが出るだろ

 俺も彼女が【成長タイプ:マニュアル】でなければこんなことは言わないけどな。
 逆に【成長タイプ:マニュアル】だからこそ十分可能な話だ。

『そんな美海さんの点数は如何ですか?』
『現時点だと70点ぐらいですね。最終的には倉本さんと同じく83~86点の投手を目指すような形になるでしょうか』

・これで全員か
・まあ、実態はどうあれ、心底期待して指名してるってことだけは分かったわ
・つーか、野村の意向が相当反映されてね?
・スピーカーになってるだけでは?
・まあ、新興球団で編成部もまだまだノウハウがないだろうからな
 首脳陣の意向がそのまま反映されてたっておかしくはない
・今いる選手がやりやすいように敢えて県内で統一した、とか?
・それなら大松選手を指名してもよさそうだが……
・22球団競合だからな。尻込みしても不思議じゃない

 コメントは色々と流れていく。
 しかし、一先ずこちらの考えは伝えた。
 この答え合わせがすぐにできるものではない。
 彼女達のみならず、新人選手とはそういうものだ。
 それだけに、とりあえず結果が出揃うまでは判断を待ってくれるはずだ。
 勿論、発言に見合った数字でなければ徹底的に叩かれることになるだろうが。
 怪我をすること以外に、何1つとして不安はない。

『以上が今年度のドラフト会議で彼女達を指名した意図になります』
『はい。野村君、ありがとうございました』

 仁科さんが頭を下げて一段落する。
 尚、動画はもう少しだけ続く模様。
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