第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第2章 雄飛の青少年期編

閑話17 散々(美海ちゃん視点)

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 東京プレスギガンテスの本拠地、インペリアルエッグドーム東京。
 ドーム球場としては日本最大級で、収容人数も非常に多い。
 この規模の屋内野球場に足を踏み入れるのは初めてで、正直圧倒されてしまう。
 ただ、今日は閑散としていて物寂しさもあった。
 声援や鳴り物がないのは当然として、とにもかくにも人の気配が乏しい。
 今日ここにいるのは、まず球場職員とテレビクルー。
 この企画に呼ばれたプロ野球選手。
 招待を受けたアマチュア選手とその付き添い。
 それからスポンサー関係っぽい見学者だけだったからだ。

 もっとも、だけ・・とは言いながら、数字にすると最低でも100人は同じ敷地の中にいることになる訳だけど……。
 屋内で、しかもこれだけ広い空間ともなると人口密度が著しく低く感じられる。
 試合のテレビ中継とかで球場の様子が映し出された時との差が余りに大きい。
 そのせいで、何やら異空間に迷い込んだかのような違和感があった。
 公式戦だったら数万人は入ってる訳だし、そうなるのも仕方のないことだろう。
 けど、折角このインペリアルエッグドーム東京という場所を訪れるのなら、試合やライブなどイベントを行っている時の方がよかったかもしれない。
 私は球場に隣接しているホテルのレストランで夕食を食べながら、そう思った。
 まあ、これはこれで得難い体験ではあるんだろうけど。

「にしても、何だか想像してたのと違うっすね」
「何が?」
「収録っす。やっぱりテレビで見るのと実際に参加するのとでは全く別なんすね」
「……そりゃそうでしょ。放送されるのは編集済みの映像なんだから」

 シーフードドリアをスプーンで雑にすくいつつ、ちょっと適当な感じで答える。
 撮影は2日に分けて行われるスケジュールだった。
 今日はバラエティに富んだ競技を一通り消化。
 明日はアマチュア選手チーム対プロ野球選手チームの練習試合エキシビションマッチの予定。
 それらを最終的に3時間から4時間の番組として編集する訳だ。

「とにかく待ち時間が長かったっす」
「そうね。もう少し効率的にやって欲しかったわ」

 未来の言葉に同意しつつ、不満をつけ加える。
 随分と自分の順番を待たされたし、競技に使う器具の入れ替えもあった。
 当たり前のことだけど、そんな場面は普通テレビには映らない。
 視聴者と参加者とで感覚が違ってくるのは当然だろう。

「……不機嫌そうだな、浜中」

 と、私達の付き添いとして来てくれた虻川先生に尋ねられる。
 選手は私達以外全員男性という状況。
 なので、虻川先生の存在は安心感が大きい。
 ちなみに。アマチュア選手1人につき1名まで交通費と滞在費を出してくれるということだったので、もう1人同行者がいる。
 同学年の周防尾張君だ。
 元々はプロ野球個人成績同好会に所属しており、今年の夏に私達と同じく野球部を引退するまでは情報収集部隊として活動していた。
 対外的にはマネージャー的な立ち位置で、部活動の一環という形を取っている。
 その周防君は、眼鏡をクイッと上げて口を開く。

「後半の成績に思うところがあったのでしょう」

 そして、私の機嫌についてそんな風に分析した。
 まあ、図星ではある。
 けど、そのちょっと皮肉っぽい言い回しにはイラっと来た。

 彼は何やら秀治郎君から頼まれごとをされているらしい。
 山形県立向上冠中学高等学校の補助金問題の後。
 部の立て直しに真面目に取り組んで陰ながら野球部に貢献してきた彼は、目立たないながらも秀治郎君と交流を続けていた。
 それもあって白羽の矢が立ったそうだ。
 ただ、何を依頼されたのかは内緒だそうだ。
 それがまた何とも苛立たしく、刺々しい態度になってしまう。

「悪かったわね。酷い成績で」
「そこまでは言っていませんが」

 再び眼鏡を上げる動作。
 イライラが募る。

「いやあ、さすがに思いっ切りフィジカルに左右される競技は分が悪いっすよ」
「……それは、その通りだけどね」

 未来のフォローに少し気持ちを落ち着かせて同意する。

 最初の3種目。
 ナインパネル・エイムバイピッチ。
 ナインパネル・エイムバイスイング。
 ナインパネル・エイムバイロングスロー。
 これらはパワーやスピードよりもテクニックが重視される競技だ。
 だからこそ、私達も安定して好成績を残すことができた。

 ……まあ、この3年間ピッチャーとして頑張ってきただけに、ナインパネル・エイムバイピッチでパーフェクトを取れなかったのは心底悔しかったけどね。
 言い訳をするなら、キャッチャーと単なる的の差が大きかったんだと思う。
 競技後に感想を求められた時にも口にしたけど、未来の存在にどれだけ助けられてきたか思い知らされてしまった。
 自覚する程、コントロールの難易度が違ったものだから。
 もう少し、バッテリーを組む彼女を大事にしようと思った。

 それはともかくとして。
 問題は残りの5種目。
 ザ・ホームランダービー。
 ヴェロシティマッチ・イグジット。
 ヴェロシティマッチ・プルダウン。
 ディスタンスマッチ・ロングスロー。
 フォーリンボール・ダイビングキャッチ。
 これらは個人成績で1位から3位の選手に賞金が出るということだったけど、そんなことを考えるのもおこがましい悲惨な結果に終わってしまった。
 本当にもう散々だった。

 まずはザ・ホームランダービー。
 これはオールスターゲームとかで行われるホームラン競争に近いものだ。
 持ち球は10球。
 その中で、パートナーが投げる球を何本ホームランにできるかを競う。
 私も未来も0本でフィニッシュ。
 元々パワー不足の自覚はあるので別にそれはいいのだけど、使い慣れていない木製バットだったせいもあってか外野の定位置にも届かなかった。
 屈辱だ。

 次にヴェロシティマッチ・イグジット。
 ティーバッティングで5球の内、最も速い打球速度で競う。
 これも当然のように私が30人中29位、未来が最下位だった。
 28位と私の間にも格差はあったけど、私と未来の間にも相当な差があった。
 番組が放送されてしまったら、未来の評価が傷つきそうなぐらいだ。

 ヴェロシティマッチ・プルダウンは助走つき投球による球速勝負。
 5球の内、最も速い記録でもって争う。
 助走をつけるのでマウンドからの球速よりも当然速くなる訳だけど、ピッチャーだからと言って有利になる訳じゃない。
 この競技も順位は最悪だった。
 それでも、私は一部でゴリラ呼ばわりされるぐらいの球速は出せるし、未来だってキャッチャーとして送球の練習をしているので他よりマシな負け方ではあった。

 ロングスロー・ディスタンスマッチは遠投の距離を競うもの。
 こちらはもうダメダメだった。
 ウチの野球部では距離を伸ばすことを主眼に置いた遠投の練習はしない。
 それもあって、秀治郎君から事前にこの競技は捨てるように言われていた。
 3連続で結果が悪かったのでムキになりそうだったけど、フォームが崩れて怪我をする危険性があると忠告されていたので自制した。
 あくまでも普段通り。
 低く強いボールを意識して投げたため、私も未来も余り記録は伸びなかった。

 最後にフォーリンボール・ダイビングキャッチ。
 ボタンを押すと同時に10mの高さから落ちてくる野球ボールを、どれだけ離れた位置からグローブでキャッチすることができるかを争う競技だ。
 安全の対策で落下地点にはクッション性のあるセーフティマットが敷かれているため、駆け抜けるよりも飛び込むのが基本となる。
 しかし、無理なダイビングキャッチは怪我の基。
 と言うことで、私と未来は大分慎重に競技に挑んだ。
 結果、この種目についても突出して悪い成績を収めてしまった。

 8種目全て終え、チームとしての成績は2勝6敗。
 ナインパネル系で唯一負けたエイムバイロングスローでは私達以外が今一だったし、この5種目も私達の成績が大勢に影響することはなかっただろうけど……。
 いずれにしても、フィジカルの差をまざまざと見せつけられた形となった。

「……明日の試合で少しは挽回しないと」

 私達の評価が落ちれば、そんな選手を獲得しようとしている村山マダーレッドサフフラワーズ、ひいてはそれを主導している秀治郎君の株が下がる。
 彼は全く気にしないかもしれないけど、それは私が我慢ならない。
 それに、私達を女性選手の希望と見なしてくれている人達にも申し訳ない。
 頑張らないといけない。

「まあ、余り気負わないことですね。今日の結果についても、そのように気にしない方がいいと思いますよ。明日の試合も含めて、恐らくは――」
「恐らくは、何よ」
「いえ、何でもありません」

 あからさまに誤魔化す周防君を睨みつける。
 その意味深な態度は、クイズがどうとか言っていた秀治郎君を彷彿とさせる。
 答える気はなさそうだ。

 そこで秀治郎君の言葉を思い出す。
 もし試合で打たれたとしても、打てなかったとしても気にしないように。
 抑えることができない前提、抑えられてしまう前提のアドバイス。
 きっと、秀治郎君の見立ては私が考えるよりも正確なんだろう。
 けれど、私は彼の予測を覆したい。
 多分、そうなった方が彼の計画にとっても有意義なはずだから。
 そして、そのためにはクイズの答えに自力で辿り着く必要があるに違いない。
 だから――。

「……分かった。もう聞かない。今日はとっとと部屋に戻って早く寝るわ」
「ええ。それがいいでしょう」

 私は食事を終えると自分に割り当てられたホテルの一室にこもり、明日のエキシビションマッチに備えて秀治郎君の言葉の意味を考えたのだった。
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