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第2章 雄飛の青少年期編
174 朝帰りと甲子園準々決勝
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婚姻届を役所に出し、あーちゃんと正式に夫婦となった翌日の土曜日。
時刻は朝の7時を少し回ったところ。
「た、ただいま帰りましたー……」
「ただいま」
タクシーで鈴木家に帰ってきた俺達は、2人並んで家の敷居を跨いだ。
俺は何となく後ろめたさもあって、ちょっとだけコソコソするように。
あーちゃんは悪いことなど何1つしていないと主張するように堂々と。
そんな状態でそっとリビングに向かう。
すると――。
「おかえりなさい。早かったわね」
お義母さんがいつもと変わらない様子で俺達を出迎えた。
「……ふふっ」
それから彼女は意味深な笑顔を浮かべる。
その視線は恋人繋ぎをしている俺達の手に向けられていた。
タクシーが去ってすぐにあーちゃんの方から求めてきて、そのままだった。
しかし、お義母さんはそれを見ても突っ込んだことは何も言わない。
ただただ、指を絡ませて手を繋いでいる俺達をニコニコと眺めるのみだ。
き、気まずい。
こんな風に優しげな目を向けられるぐらいだったら、むしろ思いっ切りからかってくれた方が気が楽だったかもしれない。
あるいは、俺がそう感じると分かっていて敢えてそういう反応をしたのか。
だとすれば、さすがは義理の母って感じだ。
まあ、素直にそう呼ぶに足るつき合いの長さだからな。
俺の性格も熟知しているだろう。
「あ、あはは……」
「うふふ」
誤魔化すように愛想笑いをしても、お義母さんは変わらず柔らかく微笑むのみ。
凄い敗北感を抱く。
……やっぱり一生頭が上がらないな。
お義母さんには。
そんな風に思っていると、あーちゃんが恋人繋ぎのまま腕に抱き着いてきた。
彼女はそれから数秒の間、母親と視線を交わし合う。
何やら牽制をしているかのような雰囲気だ。
「ごめんなさい。悪戯が過ぎたわね」
「ホントそう」
しばらくして苦笑気味にお義母さんが謝り、それにあーちゃんが大きく頷く。
案の定、わざとそういう応対をしていたらしい。
あーちゃんはそれをアイコンタクトで窘めていたようだ。
それでちゃんと伝わる辺り、さすが親子というところか。
「まあ、とにかく。よかったわね、茜」
「ん」
何とは言わずに祝福するお義母さんに、一転して笑顔で応じるあーちゃん。
【以心伝心】が彼女の幸福な気持ちを伝えてくるので、こちらが恥ずかしくなる。
「あー、えっと、暁はもう出たんですか?」
そのせいで若干居心地が悪くなり、俺は話題を変えようと問いかけた。
昨日も姿がなかった義弟の暁。
あーちゃんと入籍したため、彼も名実共に俺の義理の弟になった訳だが……。
ここしばらく顔を見ていない。
「ええ。今日は試合があるから、お父さんと一緒に。ついさっきよ」
「入れ違いでしたか」
お義父さんまでいたら気まずさ倍増どころじゃないから、よかったけれども。
それはともかくとして。
「暁、頑張ってるんですね」
「そうね。頑張ってるわ」
「お兄ちゃんみたいになりたいって必死」
俺の言葉にあーちゃんとお義母さんが微笑みと共に応じる。
暁は、少し前から県内のそこそこ有名な学外野球チームに所属していた。
そのため、夏休みの今は高頻度で朝の早い時間から練習に出ている。
こちらの世界では専任の指導者も多いので、長期休みともなれば土日だけではなく平日も朝から普通に練習があるチームがほとんどだ。
野球で身を立てるつもりが少しでもあるなら当然だろう。
勿論、暁はまだまだ9歳の男の子。
怪我などないように、練習量や休養日などはしっかり管理されているはずだ。
開始時間が朝早いのは規則正しい生活を送るため。
特に夏場は熱中症対策のために日が高い時間は避ける意図もある。
日がな一日野球をやっている訳ではない。
……けど、そうか。
「必死に頑張ってる、か」
暁は俺にとっても大切な弟だ。
夢を掴もうと足掻く意思があるのなら、その手助けをしてやりたい。
ただ、彼は【成長タイプ:マニュアル】ではない。
なので、ステータスへの直接的な干渉は不可能だ。
それでも時折【経験ポイント】取得量増加系スキルを持つ俺達と一緒に練習したりもしているおかげで、暁の能力値は同年代に比べると大分高い。
真面目に努力を続ければ、プロになれる可能性は十分にあるだろう。
その時までに別の夢を持ったりしなければ、の話だけど。
まあ、つまるところ暁次第という訳だな。
もし壁にぶち当たったりして助けが必要になったら、即座に手を差し伸べる。
そうすることができるように、準備だけはしっかりとしておくとしよう。
「何にしても、少し休んでなさい。球場に行く用意をするから」
昨日は試合前の全体練習には遅れてしまった。
球団の広報的な側面もあって事前に了解は得ていたものの、今日はなるべく早めに球場入りしておきたいところだ。
とは言え、好意で送迎してくれているお義母さんを急かす訳にもいかない。
「分かりました」
「ん」
なので、一先ずあーちゃんと一緒にソファに座って一息つく。
そうしてテレビ画面に目を向けると、夏の甲子園準々決勝の特集が流れていた。
「時間的に、みなみー達の準々決勝は追えそう」
「危ないから、練習中は練習に集中しような」
「分かってる」
山形県立向上冠高校の試合は今日の第1試合。
8時開始なので、一応練習やミーティングの合間に状況を確認できなくもない。
勿論、好ましいことではないけれども。
「まあ、美海ちゃん達なら大丈夫なはず」
対戦相手を見る限り、大松君が先発なら特に問題はない。
そう断言できるだけの能力差がステータス上では存在している。
「だから、信じて結果を待とう」
「ん」
「…………にしても、露骨に差があるな。取り上げ方に」
「この組み合わせだと仕方がない。第3試合に注目が集中するのも当然」
あーちゃんの言葉に、同意するように頷く。
実際、俺も似たようなものだからな。
他人のことは言えない。
準々決勝第3試合。
東京プレスギガンテスユース対兵庫ブルーヴォルテックスユース。
今日のメインイベントがこのカードになるのは、誰の目にも明らかだ。
「多分こっちの試合と被るだろうから、リアルタイムでは追えないだろうけど」
第3試合の開始予定時間は13時10分。
第1試合が大松君先発だから、早まる可能性もあるけれども。
村山マダーレッドサフフラワーズの試合もデーゲームで13時丁度の開始。
今日は俺がピッチャーやキャッチャー以外のポジションで出場する日なので、試合時間が短く済む可能性は低い。
俺達の試合が終わる頃には、正樹と磐城君の戦いも決着がついているはずだ。
2人の投げ合いとなれば、息の詰まる投手戦になるのは間違いないだろうしな。
テンポよく試合が進んでいく公算が大きい。
ライブで楽しむことができないのは残念だが、社会人とはそういうものだ。
個人事業主に有給休暇なんてものはないしな。
「さ。茜、秀治郎君。行きましょう」
「はい」
お義母さんに促され、あーちゃんと一緒に車に向かう。
彼女はススッと俺の隣に並び、自然な動作で手を取った。
また恋人繋ぎだ。
「……茜。球場では過度にくっつかないようにね」
いつも以上に接触したがる娘の様子に、お義母さんが呆れ気味に言う。
さすがに注意すべきと判断したようだ。
「分かってる。わたしももう大人だから」
何か余計な意味が付与されてそうな言い回しだが、触れないでおく。
藪蛇は勘弁だ。
「夫婦とは言え、公共の場では節度を守らないとね」
「当然。妻として、夫の評価を下げるようなことはしない」
キリッとした顔で頷くあーちゃんに、苦笑するお義母さん。
実際、山形きらきらスタジアムの駐車場に到着して車から降りたら、彼女は澄ました顔で体裁を取り繕い始めた。
この調子なら公私の区別は問題ないだろう。
「じゃあ、行ってらっしゃい。2人共」
「「行ってきます」」
そんなこんなでお義母さんと別れ、いつものように球場入りする。
チームの雰囲気も全くのいつも通り。
俺達が夫婦になったことに驚きは皆無といった様子だ。
さすがに相手チームの選手や観客からの好奇の視線は少しばかり感じたりもしたものの、特に何ごともなく試合開始時間を迎える。
その頃には既に第1試合の結果が出ていて――。
「みなみー達、勝ったみたい」
あーちゃんがホッとしたようにそう報告してきた。
試合の展開は予想通り。
エースで4番の大松君を中心に相手打線を完封。
効率よく点数を重ねていき、山形県立向上冠高校は9-0と力の差がハッキリと分かる形で試合をものにしていた。
準々決勝を通過し、これでベスト4だ。
そんな母校とは対照的に。
本日の村山マダーレッドサフフラワーズの試合は酷いものだった。
キャッチャーからのスキルバフが乏しい投手陣が尽く崩れ、乱打戦の様相。
両チーム二桁得点という馬鹿試合を演じた挙句に敗北を喫してしまった。
「……まあ、たまにはこういうこともあるよな」
11連勝後の敗北だけに、チームの雰囲気は悪くなっていない。
ファンもノーガードの打ち合いを楽しんでいた。
登板したピッチャーは悔しげだったが、それは次の成長の糧になるはずだ。
実際、ステータスは微増しているしな。
自分で反省点を見つけ、修正していって欲しい。
他の選手は、明日の試合に向けて気持ちを切り替えよう。
そんな感じで試合後のミーティングを簡潔に終えた。
「帰ろうか。あーちゃん」
「ん」
今日は登板していないので、軽めのクールダウンのみで球場を出る。
そうして、迎えに来てくれていたお義母さんの車に乗り込んだところで。
「さて。どうなったかな」
俺はスマホを取り出し、東京プレスギガンテスユース対兵庫ブルーヴォルテックスユースの試合結果を確認しようとした。
正樹と磐城君。
どちらか勝った方が、ほぼ間違いなく決勝戦まで勝ち進んで山形県立向上冠高校の前に立ち塞がることになるだろう。
熱い勝負を期待したい。
負けた方も、あくまでも同格の相手との競い合いの結果だ。
いい経験になったはず。
そんなことを考えながらスポーツニュースサイトを覗く。
「あれ?」
しかし、勝敗の記事がトップ画面に出ていなかった。
「まさか、まだやってるのか」
軽く首を傾げながら1球速報の方に進む。
すると……。
試合は延長戦に突入していて、2-2の同点で12回を迎えていた。
時刻は朝の7時を少し回ったところ。
「た、ただいま帰りましたー……」
「ただいま」
タクシーで鈴木家に帰ってきた俺達は、2人並んで家の敷居を跨いだ。
俺は何となく後ろめたさもあって、ちょっとだけコソコソするように。
あーちゃんは悪いことなど何1つしていないと主張するように堂々と。
そんな状態でそっとリビングに向かう。
すると――。
「おかえりなさい。早かったわね」
お義母さんがいつもと変わらない様子で俺達を出迎えた。
「……ふふっ」
それから彼女は意味深な笑顔を浮かべる。
その視線は恋人繋ぎをしている俺達の手に向けられていた。
タクシーが去ってすぐにあーちゃんの方から求めてきて、そのままだった。
しかし、お義母さんはそれを見ても突っ込んだことは何も言わない。
ただただ、指を絡ませて手を繋いでいる俺達をニコニコと眺めるのみだ。
き、気まずい。
こんな風に優しげな目を向けられるぐらいだったら、むしろ思いっ切りからかってくれた方が気が楽だったかもしれない。
あるいは、俺がそう感じると分かっていて敢えてそういう反応をしたのか。
だとすれば、さすがは義理の母って感じだ。
まあ、素直にそう呼ぶに足るつき合いの長さだからな。
俺の性格も熟知しているだろう。
「あ、あはは……」
「うふふ」
誤魔化すように愛想笑いをしても、お義母さんは変わらず柔らかく微笑むのみ。
凄い敗北感を抱く。
……やっぱり一生頭が上がらないな。
お義母さんには。
そんな風に思っていると、あーちゃんが恋人繋ぎのまま腕に抱き着いてきた。
彼女はそれから数秒の間、母親と視線を交わし合う。
何やら牽制をしているかのような雰囲気だ。
「ごめんなさい。悪戯が過ぎたわね」
「ホントそう」
しばらくして苦笑気味にお義母さんが謝り、それにあーちゃんが大きく頷く。
案の定、わざとそういう応対をしていたらしい。
あーちゃんはそれをアイコンタクトで窘めていたようだ。
それでちゃんと伝わる辺り、さすが親子というところか。
「まあ、とにかく。よかったわね、茜」
「ん」
何とは言わずに祝福するお義母さんに、一転して笑顔で応じるあーちゃん。
【以心伝心】が彼女の幸福な気持ちを伝えてくるので、こちらが恥ずかしくなる。
「あー、えっと、暁はもう出たんですか?」
そのせいで若干居心地が悪くなり、俺は話題を変えようと問いかけた。
昨日も姿がなかった義弟の暁。
あーちゃんと入籍したため、彼も名実共に俺の義理の弟になった訳だが……。
ここしばらく顔を見ていない。
「ええ。今日は試合があるから、お父さんと一緒に。ついさっきよ」
「入れ違いでしたか」
お義父さんまでいたら気まずさ倍増どころじゃないから、よかったけれども。
それはともかくとして。
「暁、頑張ってるんですね」
「そうね。頑張ってるわ」
「お兄ちゃんみたいになりたいって必死」
俺の言葉にあーちゃんとお義母さんが微笑みと共に応じる。
暁は、少し前から県内のそこそこ有名な学外野球チームに所属していた。
そのため、夏休みの今は高頻度で朝の早い時間から練習に出ている。
こちらの世界では専任の指導者も多いので、長期休みともなれば土日だけではなく平日も朝から普通に練習があるチームがほとんどだ。
野球で身を立てるつもりが少しでもあるなら当然だろう。
勿論、暁はまだまだ9歳の男の子。
怪我などないように、練習量や休養日などはしっかり管理されているはずだ。
開始時間が朝早いのは規則正しい生活を送るため。
特に夏場は熱中症対策のために日が高い時間は避ける意図もある。
日がな一日野球をやっている訳ではない。
……けど、そうか。
「必死に頑張ってる、か」
暁は俺にとっても大切な弟だ。
夢を掴もうと足掻く意思があるのなら、その手助けをしてやりたい。
ただ、彼は【成長タイプ:マニュアル】ではない。
なので、ステータスへの直接的な干渉は不可能だ。
それでも時折【経験ポイント】取得量増加系スキルを持つ俺達と一緒に練習したりもしているおかげで、暁の能力値は同年代に比べると大分高い。
真面目に努力を続ければ、プロになれる可能性は十分にあるだろう。
その時までに別の夢を持ったりしなければ、の話だけど。
まあ、つまるところ暁次第という訳だな。
もし壁にぶち当たったりして助けが必要になったら、即座に手を差し伸べる。
そうすることができるように、準備だけはしっかりとしておくとしよう。
「何にしても、少し休んでなさい。球場に行く用意をするから」
昨日は試合前の全体練習には遅れてしまった。
球団の広報的な側面もあって事前に了解は得ていたものの、今日はなるべく早めに球場入りしておきたいところだ。
とは言え、好意で送迎してくれているお義母さんを急かす訳にもいかない。
「分かりました」
「ん」
なので、一先ずあーちゃんと一緒にソファに座って一息つく。
そうしてテレビ画面に目を向けると、夏の甲子園準々決勝の特集が流れていた。
「時間的に、みなみー達の準々決勝は追えそう」
「危ないから、練習中は練習に集中しような」
「分かってる」
山形県立向上冠高校の試合は今日の第1試合。
8時開始なので、一応練習やミーティングの合間に状況を確認できなくもない。
勿論、好ましいことではないけれども。
「まあ、美海ちゃん達なら大丈夫なはず」
対戦相手を見る限り、大松君が先発なら特に問題はない。
そう断言できるだけの能力差がステータス上では存在している。
「だから、信じて結果を待とう」
「ん」
「…………にしても、露骨に差があるな。取り上げ方に」
「この組み合わせだと仕方がない。第3試合に注目が集中するのも当然」
あーちゃんの言葉に、同意するように頷く。
実際、俺も似たようなものだからな。
他人のことは言えない。
準々決勝第3試合。
東京プレスギガンテスユース対兵庫ブルーヴォルテックスユース。
今日のメインイベントがこのカードになるのは、誰の目にも明らかだ。
「多分こっちの試合と被るだろうから、リアルタイムでは追えないだろうけど」
第3試合の開始予定時間は13時10分。
第1試合が大松君先発だから、早まる可能性もあるけれども。
村山マダーレッドサフフラワーズの試合もデーゲームで13時丁度の開始。
今日は俺がピッチャーやキャッチャー以外のポジションで出場する日なので、試合時間が短く済む可能性は低い。
俺達の試合が終わる頃には、正樹と磐城君の戦いも決着がついているはずだ。
2人の投げ合いとなれば、息の詰まる投手戦になるのは間違いないだろうしな。
テンポよく試合が進んでいく公算が大きい。
ライブで楽しむことができないのは残念だが、社会人とはそういうものだ。
個人事業主に有給休暇なんてものはないしな。
「さ。茜、秀治郎君。行きましょう」
「はい」
お義母さんに促され、あーちゃんと一緒に車に向かう。
彼女はススッと俺の隣に並び、自然な動作で手を取った。
また恋人繋ぎだ。
「……茜。球場では過度にくっつかないようにね」
いつも以上に接触したがる娘の様子に、お義母さんが呆れ気味に言う。
さすがに注意すべきと判断したようだ。
「分かってる。わたしももう大人だから」
何か余計な意味が付与されてそうな言い回しだが、触れないでおく。
藪蛇は勘弁だ。
「夫婦とは言え、公共の場では節度を守らないとね」
「当然。妻として、夫の評価を下げるようなことはしない」
キリッとした顔で頷くあーちゃんに、苦笑するお義母さん。
実際、山形きらきらスタジアムの駐車場に到着して車から降りたら、彼女は澄ました顔で体裁を取り繕い始めた。
この調子なら公私の区別は問題ないだろう。
「じゃあ、行ってらっしゃい。2人共」
「「行ってきます」」
そんなこんなでお義母さんと別れ、いつものように球場入りする。
チームの雰囲気も全くのいつも通り。
俺達が夫婦になったことに驚きは皆無といった様子だ。
さすがに相手チームの選手や観客からの好奇の視線は少しばかり感じたりもしたものの、特に何ごともなく試合開始時間を迎える。
その頃には既に第1試合の結果が出ていて――。
「みなみー達、勝ったみたい」
あーちゃんがホッとしたようにそう報告してきた。
試合の展開は予想通り。
エースで4番の大松君を中心に相手打線を完封。
効率よく点数を重ねていき、山形県立向上冠高校は9-0と力の差がハッキリと分かる形で試合をものにしていた。
準々決勝を通過し、これでベスト4だ。
そんな母校とは対照的に。
本日の村山マダーレッドサフフラワーズの試合は酷いものだった。
キャッチャーからのスキルバフが乏しい投手陣が尽く崩れ、乱打戦の様相。
両チーム二桁得点という馬鹿試合を演じた挙句に敗北を喫してしまった。
「……まあ、たまにはこういうこともあるよな」
11連勝後の敗北だけに、チームの雰囲気は悪くなっていない。
ファンもノーガードの打ち合いを楽しんでいた。
登板したピッチャーは悔しげだったが、それは次の成長の糧になるはずだ。
実際、ステータスは微増しているしな。
自分で反省点を見つけ、修正していって欲しい。
他の選手は、明日の試合に向けて気持ちを切り替えよう。
そんな感じで試合後のミーティングを簡潔に終えた。
「帰ろうか。あーちゃん」
「ん」
今日は登板していないので、軽めのクールダウンのみで球場を出る。
そうして、迎えに来てくれていたお義母さんの車に乗り込んだところで。
「さて。どうなったかな」
俺はスマホを取り出し、東京プレスギガンテスユース対兵庫ブルーヴォルテックスユースの試合結果を確認しようとした。
正樹と磐城君。
どちらか勝った方が、ほぼ間違いなく決勝戦まで勝ち進んで山形県立向上冠高校の前に立ち塞がることになるだろう。
熱い勝負を期待したい。
負けた方も、あくまでも同格の相手との競い合いの結果だ。
いい経験になったはず。
そんなことを考えながらスポーツニュースサイトを覗く。
「あれ?」
しかし、勝敗の記事がトップ画面に出ていなかった。
「まさか、まだやってるのか」
軽く首を傾げながら1球速報の方に進む。
すると……。
試合は延長戦に突入していて、2-2の同点で12回を迎えていた。
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