第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

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第2章 雄飛の青少年期編

閑話14 寄り道として(五月雨月雲視点)

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 岩手県盛岡市の盛岡きたきたボールパークで開催された岩手サーモンプライヅ対村山マダーレッドサフフラワーズの試合を現地で観戦してから数日後。
 既に2部リーグと3部リーグの入れ替え戦は他の3カードも含めた全ての日程が消化され、その結果を以って各リーグの後期シーズンの顔触れが確定していた。
 そうしたプロ野球界の状況を目にしながら。
 ボク達は現地観戦の振り返りと今後の日本野球界の動向について、山大総合野球研究会の部室で軽いディスカッションをしていた。

「――以上です!」

 妙にテンションが高い状態の陸玖が、そのまま所感を話し終える。
 さすがに2、3ヶ月も一緒にサークル活動をしていれば、はっちゃけた彼女の姿を目撃する機会もそれぞれ何度かはあったに違いない。
 全員、陸玖のそうした変貌振りも既知のもの。
 オタクあるあるとして温かい目を向けてくれている。
 加えて、今回は十分楽しんで来たことが伝わる語り口で非常に共感し易かった。
 先輩達もこれにはニッコリだ。

「シュシュも生で見たかったなぁ」
「それは私も思ったけど……高速バスで片道3時間の日帰りはさすがにね」
「仙台で乗り換えて、だもんねー」

 珠々先輩と御華先輩(心の中ではそう呼んでいる)がちょっと苦笑気味に言う。
 確かに移動は大変だった。
 まあ、お金と比べると時間や体力の方に余裕がある大学生としては、料金の安い高速バスが総合的に見てベターだったので仕方がないことだけど……。
 時間の有効活用をするためにスマホとかを見ると車酔いしちゃうのがネックだ。
 お金を考えなければ、仙台からは新幹線を使った方が効率的なのは間違いない。
 余裕があれば、ボクだってそうしたかった。
 ……うん。次があるなら是非そうしたい。
 今回みたいに現地で観戦しないと分からないこともたくさんあるだろうしね。

 そうなると、今から活動資金を作っておいた方がよさそうだけど……。
 ボクみたいな性格でもできそうな真っ当なアルバイトってあるのかな。
 正直、怪しい気がする。
 その辺まで考えると、近い将来待ち受けてる就職活動本番も不安になってくる。
 やっぱり、今の内から色々と情報収集しといた方がいい、よね。
 でも、下手な考え休むに似たりなんてことわざもあるし、ボク1人だけじゃ碌なアイデアが出てこないのが目に見えている。
 今度、陸玖や先輩に相談してみよう。
 そう結論して、その方向の思考を一先ず打ち切る。
 とりあえず今は、今回の入れ替え戦の話だ。

 とは言え、事前の予想から大きく外れた出来事は特に起きなかった。
 勝敗だけを見るなら下馬評通りと言って差し支えない。
 入れ替え戦に臨んだ3部リーグの4チーム。
 その内の3チームは、例年通り上位リーグの壁に阻まれてしまった。
 何とか1勝もぎ取ったチームもあったものの、いわゆる不思議の勝ちそのもの。
 総じて、2部リーグとの大き過ぎる差を分からされてしまった形だった。
 今回の敗北を糧に、後期日程で暴れて欲しいところだ。

 そうした現状維持に終わった3チームとは対照的なチームが1つ。
 我が県のおらほのプロ野球チーム、村山マダーレッドサフフラワーズだ。

「……それにしても、本当に山形県に2部リーグの球団が誕生したんだね」
「山形マンダリンダックスの3部が山形県史上最高だったからな。長かった」

 感慨深げな大島先輩と石嶺先輩の会話の通り、村山マダーレッドサフフラワーズは2部リーグ昇格を決めて山形県の歴史に名を残した。
 山形県民にとっては紛うことなき朗報だ。
 きっと皆、素直に喜んでいるに違いない。

 その一方で、岩手サーモンプライヅは降格の憂き目に遭った。
 岩手県民の悲哀は如何ばかりのものか計り知れない。
 とは言っても、後期リーグで1位か2位になれば返り咲くことも可能ではある。
 結果が確定した今となっては、それを期待するしかないだろう。

 ただ、何はともあれ――。

「強かった……」
「ホントにね」

 思わず口から零れ落ちたボクの呟きに、大島先輩が深く同意した。
 けれども、社会不適合者寄りなボクには内心忸怩たるものもあった。

 村山マダーレッドサフフラワーズの入れ替え戦の勝敗は大方の予想通り。
 反面、内容は想像以上のものだった。
 3戦先勝方式で3連勝のスイープ。
 スコアは1試合目15-0、2試合目11-1、3試合目12-1。
 2部リーグのチームを全く寄せつけなかった。
 いくら2部リーグの最下位チームが相手だったにしても、目を見張る結果だ。

 この調子なら間違いなく2部リーグ後期1位に上り詰め、総合優勝して1部リーグとの入れ替え戦に進出することができるはず。
 そして、そこでも勝利を収め、元企業チームがプロ球団として公式戦に臨んだ初年度に日本野球界最高峰のリーグまで成り上がる快挙を果たすのだ。
 今や世間もそれを期待しているし、きっと不可能じゃないだろう。

 陸玖じゃないけど、前代未聞の珍事にワクワクしてしまう気持ちもある。

「月雲、野村君が初回の初打席で満塁ホームランを打った時には凄く興奮してたもんね! その後の奪三振ショーも!」
「うぅ、それは……」

 不覚にも野球で高揚してしまったことは変えようのない事実。
 球場でのそれについても否定できない。
 だから、とにかく悔しくて恥ずかしかった。

 まさか、このボクがスポーツでドキドキさせられるなんて。
 ぐぬぬ。
 必死に理論武装してきたつもりなのに、単なる運動音痴の逆恨みだって再認識させられちゃうじゃないか。
 頭の中には野村選手のスイングやピッチングが鮮明に焼きついちゃってるし。
 ボクって昔から感情が激しく動いたりすると、その光景がまるで【瞬間記憶】みたいに記憶に残っちゃうんだよね……。
 それがまた、琴線に触れた証拠のようで身悶えしそうだ。

 けど、いつか。
 正解の選手の作り方を確立して、野村選手レベルが当たり前になってくれれば。
 あんなドキドキを抱かせられることはなくなるはずだ。
 多分。きっと。

「2部リーグ維持のため、四球攻めにするかと思いましたが……」
「さすがに初戦の初回、それも満塁の状況で敬遠はできないだろう。結果、押し出し1点の方がマシな結果になってしまったが」

 ボクが複雑な気分になっている間も試合の話は続く。
 この声は大和撫子な紅葉先輩とマッシブな菜摘先輩だね。

「結局その後は全打席敬遠した訳だけど、しっかり得点力は下がってたな。やっぱり作戦としては効果がある訳だ」
「下がって二桁得点なんですが、それは」
「まあ、あれだけ打線が安定してればな」
「四球攻めって言っても、確定で出塁だからなあ。普通だったらバッターにとってもチームにとっても得になる訳で」
「四球が損になるとか、ハッキリ言って頭がおかしい状況だわな。シーズンでもそうだったけど、改めて異常な選手だよ。野村選手は」

 男性陣も楽しそうに言葉を交わし合っている。

「春季キャンプから半年弱。代表の目から見て、村山マダーレッドサフフラワーズの変化は感じられましたか?」
「改めて振り返ると野手陣も投手陣も成長したと思うよ。データにも出てるし」
「ええ。グラフで見ると分かりやすいわ」

 御華先輩がパソコンを操作して画面に集計ソフトで作った折れ線グラフを出す。
 どうやら5試合毎の平均のようだ。
 バッティングは打率、長打率、出塁率が伸び、三振数が減っていっている。
 ピッチングは奪三振率が上がり、防御率、与四球率が下がっていっている。
 打者はミート力とパワーが向上し、投手はコントロールが改善されたのが明確。
 だけど、たった半年弱のグラフで視覚的にハッキリと分かる程なのはおかしい。
 意味が分からない。

「こんな成長率、異常よ」
「だねえ。大リーグでもあり得ないもん」

 御華先輩と珠々先輩も同じ意見のようだ。
 ただ、まあ。
 それだけ伸び代が残っていたということでもある。
 そういう風に考えれば、逆にある程度完成された選手の巣窟である1部リーグや大リーグでは起こりえない現象とも言えるかもしれない。

「さすが野村君だね」
「の、野村選手の功績なの? 尾高監督じゃなく?」
「山形県立向上冠中学高等学校時代からそんな感じだったし」
「あ……」

 そう言えば。
 かの学校は補助金詐欺で悪評を買いながら、数年で有数の強豪校となった。
 野村選手も陸玖も同校の出身で、その変化は彼らが在籍した時に起こったこと。
 そして村山マダーレッドサフフラワーズの状況。
 それらを合わせて考えると、彼女の意見はきっと正しいのだろう。

「の、野村選手は、正解の選手の作り方を知ってるのかな」
「それは……どうだろう」

 ボクの嫉妬気味の感情には気づかず、首を傾げる陸玖。

「アメリカ代表に挑むにはまだまだ不足ばかりだって、いつも言ってるし」
「アメリカ代表に、挑む……」
「野村君の最終目標はWBWでアメリカ代表に勝つことだからね」

 陸玖の爽やかな笑顔を見て、野村選手は本気なんだろうと思った。
 無謀過ぎる目標。
 ほんのちょっとだけ、勝手な共感を抱く。

「フィジカルで劣る日本人がそうするには、月雲の言う正解の選手を増やさないといけないだろうし。野村君もそのために懸命だとは思う」

 アメリカ代表の選手だって、まだ100%の正解な訳じゃないはず。
 であれば、こちらが正解に近づくだけ勝利の可能性は見えてくる。
 それは確かなことだ。

「けど、野村君は選手としても活動してるからね。やれることは限られてる」

 時間は有限だし、それはそうだろう。
 プロ野球選手をやりながら完璧な正解を模索し続け、他の選手をも正解へと導くなんて1人の力では絶対に不可能だ。

「だから私は、野村君のお手伝いがしたいんだ」

 ちょっと照れ臭そうに言う陸玖。
 その表情は、何だかキラキラと輝いているように見えた。

「で、可能なら月雲にも手伝って貰えたらなって思ってる」
「ボ、ボクが、陸玖と野村選手の……?」
「うん。よかったら、考えてみてくれないかな?」
「う……うん……」

 この場で答えを出すのは保留にさせて貰った。
 でも。
 スポーツを正解で埋め尽くして陳腐化する前のちょっとした寄り道として。
 この世界最高峰のスポーツ選手たるアメリカ代表に吠え面をかかせる。
 それも悪くないんじゃないか。
 そんな気持ちがボクの中に芽生えていたのは確かだった。
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