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第2章 雄飛の青少年期編

153 背番号、登録名、ポジション

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「うーん、まだちょっと慣れないな」
「……背番号のこと?」

 春季キャンプの活気で満ち溢れるグラウンドを見渡しながら苦笑気味に呟いた俺に対し、あーちゃんが確認をするように問う。
 俺の目が練習に励んでいるチームメイト達の背中に向いているのを見て、何に関しての話かすぐに察することができたようだ。
 村山マダーレッドサフフラワーズがプロ野球球団となったことで背番号も一新され、一部選手は登録名も変更となった。
 そのため、俺の中でまだ数字と選手が紐づいていなかった。

「皆、好き勝手に選んだからグチャグチャ」
「まあ、プロはアマチュアよりも選択の自由度が高いからな」

 アマチュア野球では背番号は基本的にポジションに合わせたものになる。
 エースピッチャーは1番でキャッチャーは2番、ファーストは3番。
 セカンドからライトも同じように4番から9番が割り振られる。
 10番はキャプテンだったり、2番手ピッチャーだったり。
 30番はリトルやシニア、大学野球では監督がつけることになっている。
 ただの慣習とかではなく、ちゃんと野球の規則で定められているらしい。

 逆にプロ野球の方は背番号の縛りが大分緩い。
 支配下登録選手は2桁までの数字の中から選ぶ必要があるという程度のものだ。
 3桁の数字は育成選手だったり、コーチ以外のチームスタッフだったり。
 規定としてはそんなところで、後は球団と選手次第。
 語呂やら数字に抱く印象やらで使用頻度にちょっと偏りが出るぐらいだ。

「しゅー君の背番号は永久欠番確実」
「…………俺としては普通に使って欲しいけどな」

 背中を確認するように、軽く後ろに視線をやりながら呟く。
 当然、それで自分のユニフォームに記された数字が視界に入ることはない。
 しかし、自ら選んで希望した背番号であるだけに、ちょっとした思い入れがあって重さのようなものを勝手に感じてしまう。

「永久欠番、か」

 一般的に。
 球史に残るレベルで球界に貢献した選手や特別な理由でそうすべきと認定された選手の背番号は、永久欠番に指定されて使用されなくなることがある。
 宮城オーラムアステリオスの10番や千葉オケアノスガルズの26番は、例外的に別の理由で永久欠番になっていたりもするけれども。
 前者はスタメン9人の次の番号として、後者はベンチ入り上限である25人の次の数字ということで、いずれもファンナンバーという形での永久欠番だ。
 まあ、サッカーのクラブの多くがサポーターを12番目の選手として捉え、背番号12を欠番にしているのと似たようなノリだな。

 それはともかくとして。
 転生者というある種のイレギュラーな存在である俺の背番号という形でこの数字が永久欠番になってしまうのは、少しばかり後ろめたさを感じる部分もあった。

「できれば、準永久欠番ぐらいに留めて欲しいところだけど……」

 俺が選んだ背番号は19。
 幸い他の選手が希望することはなかったらしく、すんなりと認められた。
 この世界でもエースナンバーとされている背番号18に1プラスした数字ということで「投手に加えて捕手をも担うことを示す」というのが表向きの理由だ。
 本当の理由は俺にしか分からないもの。
 月見草を自称した前世のレジェンドが現役時代に使用していた背番号だからだ。

 とは言え、19という背番号は割と見かける数字でもある。
 特にピッチャーの背番号としてよく使われている。
 なので、そういった意味でもこれを永久欠番にしてしまうのは忍びなかった。
 そんな考えから準永久欠番と口にしたが……。

「準永久欠番でも、結果として事実上の永久欠番みたいになりそう」
「それはそうかもだけど、心情としてな」

 名誉番号とも呼ばれているそれの場合、その背番号を背負うに相応しい選手が出てくるまでの間だけ欠番という形を取る。
 しかし、この相応しい選手という条件が中々ネックになる。
 その背番号に選ばれながら碌に活躍できなかったら確実に叩かれるだろうし、そもそも求められる活躍のハードル自体が並の選手以上となってしまう。
 常に前任者と比較され続けもする訳で、重圧も生半可なものではないだろう。
 無用のリスクとして腫れものみたいにもなりかねない。
 そうして誰も触れようとしなければ、実質永久欠番みたいなものだ。

「けど、どちらにせよ、わたし達が悩むようなことじゃない。後の人達が勝手にその背番号に意味を見出して思いを馳せたり、利用しようとしたりするだけ」
「うん、まあ……それはその通り」
「わたし達は目の前の試合で1つ1つ結果を出していくことだけ考えればいい」

 あーちゃんが最初に永久欠番確実とか言い出したことを除けば正論だ。
 多分、俺の反応が芳しくなかったからサクッと方向転換したのだろう。

 まあ、何にせよ。
 そういうことは実際に活躍してから言えって話なのは確かだ。
 まだ3部のシーズンすら始まっていない春季キャンプ。
 そんな時期に永久欠番がどうとか準永久欠番どうとか心配している姿は、それこそ来年のことを言うどころの話じゃないと鬼も大笑いするぐらい滑稽だ。

「少なくとも、この球団の背番号は何ものにも染まってない状態。数字そのものの意味とか価値以上のものはまだない」

 前世のレジェンドへの思い入れもそれはそれ。
 この19は村山マダーレッドサフフラワーズの19だ。
 あーちゃんの言う通り、今はまだまっさらなまま。
 そして、そこに刻み込まれていくのはあくまでも結果に過ぎない。
 振り返った時にできていた道の形であり、今の俺が思い描くイメージではない。
 あーちゃんや他のチームメイトの背番号にしても同じこと。
 ここからチームの歴史が始まっていく訳だな。

 ちなみに。
 村山マダーレッドサフフラワーズの支配下登録選手と背番号、ついでに登録名とポジションは次の通りだ。

 背番号   名前    登録名   ポジション
  0  木村 大成   木村    遊撃手/三塁手/二塁手/外野手/捕手
  1  鈴木 新之助  鈴木新   投手
  3  長尾 成春   長尾    三塁手/一塁手
  6  村木 純助   村木    遊撃手/二塁手/守備走塁コーチ
  7  崎山 武蔵   ムサシ   三塁手/一塁手
  8  山元 功    山元    外野手
 11  川谷 有    川谷    投手
 12  福元 佐助   サスケ   外野手/二塁手
 13  山田 真一   山田    投手
 14  加隈 道雄   加隈    投手
 17  田之上 寿   田之上   投手
 18  松本 大典   松本    投手
 19  野村 秀治郎  野村    投手/捕手/投手コーチ
 22  鈴木 茜    鈴木茜   捕手/二塁手
 24  高梁 隆之   高梁    外野手
 27  新垣 九朗   新垣    捕手/ヘッドコーチ
 29  猪川 大和   ヤマト   投手
 30  源 虎次郎   コジロウ  投手
 32  大坂 誠司   大坂    遊撃手/三塁手/二塁手
 33  内海 良蔵   内海    三塁手
 35  志水 義信   志水    外野手
 37  島岡 秀喜   島岡    投手
 44  西藤 斎    西藤    投手
 45  藤川 浩史   藤川    外野手/一塁手
 55  大法 豊    大法    一塁手/打撃コーチ

 総勢25名。
 尚、プロ野球の出場選手登録は最大29名。
 ベンチ入りは先述の通り最大25名だ。
 後者ピッタリの人数ではあるが、通常全員がベンチ入りすることはない。
 先発投手は次の登板まで調整に入るからな。
 ある程度は人員を補充しているが、まだまだ人数不足だ。
 シーズンが開始前からチームの台所事情は火の車と評されてもおかしくはない。

 とは言え。
 2部リーグと3部リーグは前期後期制を採用していることもあり、1部リーグと比べるとほんの少しではあるものの緩い日程ではある。
 その上で俺が2人分、いや、3人分は働くつもりなので何とかなるはずだ。
【怪我しない】のおかげで酷使上等だからな。
 一先ずは春季キャンプ中の練習試合やその後のオープン戦辺りまでこの体制でやってみて、無理があるようなら更なる補充を検討する形になるだろう。

 ……まずは再来週の宮城オーラムアステリオスとの練習試合からだな。
 さて。
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