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第2章 雄飛の青少年期編
148 山形マンダリンダックスと掘り出し物
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「いくら何でも弱過ぎない?」
明彦氏が運転する車の中で、あーちゃんがいっそ困惑したように首を傾げる。
今は入れ替え戦の初戦を26-0の完封勝利で飾った後。
山形マンダリンダックスの本拠地の山形きらきらスタジアムからの帰り道だ。
「とてもプロとは思えない」
「まあ、相手が弱いってのも1つの要因なのは確かだけど……そんな風に感じちゃうのは単純に俺達が強過ぎるからだよ」
私営3部イーストリーグ最下位、山形マンダリンダックス。
その弱さは残念ながら誰が見ても分かるぐらい突出しており、3部リーグの全チーム中ぶっちぎりの最弱と言っても過言ではないレベルだった。
エースも4番も不在。ローテーションも中継ぎも抑えも常にスクランブル態勢。
スタメンも打順もコロコロ変わる。ただただ満遍なく弱い。
そんな悲惨なチーム状況がずっと続いていた。
翻って我らが村山マダーレッドサフフラワーズ。
こちらは企業チームを逸脱したレベルで戦力が充実している。
1年近く【経験ポイント】取得量増加系スキルを持つ俺やあーちゃんと共に練習して、選手達の能力が大幅に伸びたおかげだ。
総じて2部上位ぐらいのステータスは既にあると言っていい。
更に守備位置も適性に従って適正に配置しているので、俺とあーちゃんを除外したとしても総合的なチーム力は現時点で1部下位程度はあるだろう。
そんな2チームによる入れ替え戦。
相手には申し訳ないけれども、客観的に見て負ける要素は皆無だ。
今の戦力で負けたら、もはや人知を超えた何かの関与を疑わざるを得ない。
とは言え、あの野球狂神も直接干渉してくるような真似はしないだろう。
奴としても、別に自分の思い通りに結果を操作したい訳じゃないっぽいしな。
日本には他に転生者の影もないし、ここで予期せぬ事態が起こることはない。
「それにしたって弱い」
しきりに不思議そうに首を捻るあーちゃん。
逆にプロ球団の弱さが納得できないようで、モヤモヤしているようだ。
恐らくだが、彼女も彼女なりにプロ野球選手という存在を特別視し、権威のようなものを感じていたのだろう。
野球に狂ったこの世界では、プロ野球選手は抜きん出た社会的地位を持つ。
その認識は当然のものとして世間一般に根づいており、誰もがそういった価値観を幼い頃から刷り込まれて育ってきている。
前世の記憶を持つ転生者ならともかく、あーちゃんもそこは多分に漏れない。
プロ球団との試合ということでそれなりに意気込んで戦いに臨み、しかし、軽々と圧勝してしまったことで拍子抜けしてしまったに違いない。
「よくこんなので降格せずに済んでた」
ちょっと酷い言い草だが、表情にも声色にも馬鹿にした気配はない。
純粋に疑問を抱いただけという感じだ。
まあ、一口にプロ野球選手と言っても、ピンからキリまで存在するからな。
当たり前のことだけど、肩書きの有無で実力がいきなり増減する訳じゃない。
プロとアマチュアの境界付近は普通に玉石混交。
プロに石が紛れ込んでいたり、アマチュアに玉が埋もれていたりもする。
にもかかわらず、企業チームの昇格が起こるのは極めて稀だ。
勿論、偶然が続いている訳ではない。
それなりの理由がある。
「そこはルールに助けられたって感じかな」
「ルールに?」
「入れ替え戦は3勝先勝方式の5連戦だからな。しかも投球制限がある」
このルールこそが企業チームの昇格を阻む最大の関門であり、3部最弱の山形マンダリンダックスが首の皮一枚のところで降格しなかった所以となる。
日本のプロ野球では大体チームの先発ピッチャーは6人。
それでローテーションを組むのが基本となっている。
登板間隔は中5日から中6日。
しっかり投手陣が揃っていなければ、この日程を戦い抜くのは厳しい。
折角昇格したはいいが、延々と最下位を独走されても困る。
最低限のチーム力の保証が欲しい。
と言うことで、3勝先勝方式の5連戦(投球制限つき)という方式が採用されたらしいのだが……。
「このルールに適応できるチームを作るのが、また中々難しいんだ」
短期決戦と言えば短期決戦ではある。
しかし、投球制限のせいで1人か2人のピッチャーを酷使する訳にもいかない。
その上で3部プロ相手に3勝しなければならない状況。
逆算すると、最低でも3部プロに通用するピッチャーを3人。
継投まで考えると、戦力になるピッチャーはその倍は欲しい。
打線も3部プロのピッチャーから1試合最低1点を奪えるだけの打力が必要。
投打共に十分な選手を揃えていなければ、勝利の目はないに等しい訳だ。
このルールは上位チーム側のアドバンテージでもあり、それを覆すぐらいでないとプロ球団としては認められないというメッセージだとも言えるだろう。
逆に言えば、これで降格するようなチームにプロたる資格はないということだ。
「3部のプロとしては総合的に弱々だけど、アマチュアよりは総合的に強い?」
「うん。そんなとこ」
その他の要因として。
企業チームの有力選手は大体プロに引き抜かれてしまう、というのもある。
この世界ではプロ野球は公営の他に私営リーグまで存在しており、更に3部まであるものだから、プロ野球選手の総数は前世よりも桁違いに多い。
企業チームの戦力がうまいこと充実するタイミングはほぼないようなものだ。
そのせいもあって、前世でよく耳にする「下手なプロより強い企業チーム」みたいなのはほとんど存在しない。
故に、ヒエラルキーは盤石……だった。これまでは。
「何となく理解した。でも、今回は軽く3連勝して終わり」
「身も蓋もないけど、そうなるな」
だから、俺は入れ替え戦に臨むに当たって別の目的も持っている。
端的に言えば、燻っている選手の引き抜きだ。
事前に目星をつけていた対象の最終確認を、球場で行っている訳だ。
そのことは勿論あーちゃんも明彦氏も知っている。
候補者が誰かまでは明かしていなかったけれども。
「ところで秀治郎。よさそうな選手はいたか?」
1戦してそこが気になったのか、明彦氏が運転席から問いかけてくる。
対して俺は、勿体ぶるように少し間を置いてから答えた。
「掘り出し物って意味では1人。キャッチャーの木村大成選手はいいですね」
「……正直、平凡な選手のように感じたけど」
「あの人、本来はキャッチャーを守るべき選手じゃないですからね」
山形マンダリンダックスの正捕手。木村大成。
彼は【成長タイプ:守備】の完全なる守備職人タイプの選手だ。
守備に関するステータスについては1部リーグ上位と遜色ない。
にもかかわらず、3部リーグ最弱のチームに所属して降格の危機に晒されているのは、彼が野球人生においてキャッチャーしかやってこなかったからだ。
「それ以外ならどこでも野手として超一流の守備力を発揮できるのに、勿体ない」
彼の守備適性はキャッチャーがBで、ピッチャーを除いて他はSSかSという守備固めとして非常に使い勝手のいいユーティリティープレイヤーだった。
しかし、【戦績】を見ると小中高大学とキャッチャー一筋。
他の守備位置の経験はない。
彼の不運は、どのチームにおいても彼以上のキャッチャーがいなかったことだ。
適性が一応Bで、尚且つステータス値も高い。
そのおかげでキャッチャーとしてもそこそこやれた。
だからこそ3部のチームにスカウトされたものの、結局そこそこどまりだった。
とは言え、チームに彼以上のキャッチャーはいない。
そのせいで他の守備位置を試してみるという考えは誰の頭にも浮かばなかった。
キャッチャーに拘りがなければ、守備のスペシャリストとして欲しい人材だ。
「後はピッチャーが2人程。こっちはまだ確証がないです」
確認がまだなので名前を挙げることはできないが、所持してるはずの変化球を使わない……と言うより、使えることを知らない感じのピッチャーが2名いるのだ。
実際に見てみないと何とも言えないが、戦力になる可能性はなくはない。
明日からサクッと連勝する予定なので、残りは2試合だけ。
登板してくれるといいが、どうだろう。
少なくとも今日は出てこなかったからな。
と言うのも敗戦処理で登板し、自責点14などという晒し投げを食らってしまった可哀想過ぎるピッチャーがいたからだ。
そう追い込んだのは俺達だけど。
最後には「もう勘弁してやれよ」という空気が球場に流れ、たまらずチーム全体で凡打に徹してしまったぐらいだった。
まあ、それはともかくとして。
俺達と縁があれば試合に出てくるはずだ。
そうなったら、じっくりと見極めさせて貰うとしよう。
明彦氏が運転する車の中で、あーちゃんがいっそ困惑したように首を傾げる。
今は入れ替え戦の初戦を26-0の完封勝利で飾った後。
山形マンダリンダックスの本拠地の山形きらきらスタジアムからの帰り道だ。
「とてもプロとは思えない」
「まあ、相手が弱いってのも1つの要因なのは確かだけど……そんな風に感じちゃうのは単純に俺達が強過ぎるからだよ」
私営3部イーストリーグ最下位、山形マンダリンダックス。
その弱さは残念ながら誰が見ても分かるぐらい突出しており、3部リーグの全チーム中ぶっちぎりの最弱と言っても過言ではないレベルだった。
エースも4番も不在。ローテーションも中継ぎも抑えも常にスクランブル態勢。
スタメンも打順もコロコロ変わる。ただただ満遍なく弱い。
そんな悲惨なチーム状況がずっと続いていた。
翻って我らが村山マダーレッドサフフラワーズ。
こちらは企業チームを逸脱したレベルで戦力が充実している。
1年近く【経験ポイント】取得量増加系スキルを持つ俺やあーちゃんと共に練習して、選手達の能力が大幅に伸びたおかげだ。
総じて2部上位ぐらいのステータスは既にあると言っていい。
更に守備位置も適性に従って適正に配置しているので、俺とあーちゃんを除外したとしても総合的なチーム力は現時点で1部下位程度はあるだろう。
そんな2チームによる入れ替え戦。
相手には申し訳ないけれども、客観的に見て負ける要素は皆無だ。
今の戦力で負けたら、もはや人知を超えた何かの関与を疑わざるを得ない。
とは言え、あの野球狂神も直接干渉してくるような真似はしないだろう。
奴としても、別に自分の思い通りに結果を操作したい訳じゃないっぽいしな。
日本には他に転生者の影もないし、ここで予期せぬ事態が起こることはない。
「それにしたって弱い」
しきりに不思議そうに首を捻るあーちゃん。
逆にプロ球団の弱さが納得できないようで、モヤモヤしているようだ。
恐らくだが、彼女も彼女なりにプロ野球選手という存在を特別視し、権威のようなものを感じていたのだろう。
野球に狂ったこの世界では、プロ野球選手は抜きん出た社会的地位を持つ。
その認識は当然のものとして世間一般に根づいており、誰もがそういった価値観を幼い頃から刷り込まれて育ってきている。
前世の記憶を持つ転生者ならともかく、あーちゃんもそこは多分に漏れない。
プロ球団との試合ということでそれなりに意気込んで戦いに臨み、しかし、軽々と圧勝してしまったことで拍子抜けしてしまったに違いない。
「よくこんなので降格せずに済んでた」
ちょっと酷い言い草だが、表情にも声色にも馬鹿にした気配はない。
純粋に疑問を抱いただけという感じだ。
まあ、一口にプロ野球選手と言っても、ピンからキリまで存在するからな。
当たり前のことだけど、肩書きの有無で実力がいきなり増減する訳じゃない。
プロとアマチュアの境界付近は普通に玉石混交。
プロに石が紛れ込んでいたり、アマチュアに玉が埋もれていたりもする。
にもかかわらず、企業チームの昇格が起こるのは極めて稀だ。
勿論、偶然が続いている訳ではない。
それなりの理由がある。
「そこはルールに助けられたって感じかな」
「ルールに?」
「入れ替え戦は3勝先勝方式の5連戦だからな。しかも投球制限がある」
このルールこそが企業チームの昇格を阻む最大の関門であり、3部最弱の山形マンダリンダックスが首の皮一枚のところで降格しなかった所以となる。
日本のプロ野球では大体チームの先発ピッチャーは6人。
それでローテーションを組むのが基本となっている。
登板間隔は中5日から中6日。
しっかり投手陣が揃っていなければ、この日程を戦い抜くのは厳しい。
折角昇格したはいいが、延々と最下位を独走されても困る。
最低限のチーム力の保証が欲しい。
と言うことで、3勝先勝方式の5連戦(投球制限つき)という方式が採用されたらしいのだが……。
「このルールに適応できるチームを作るのが、また中々難しいんだ」
短期決戦と言えば短期決戦ではある。
しかし、投球制限のせいで1人か2人のピッチャーを酷使する訳にもいかない。
その上で3部プロ相手に3勝しなければならない状況。
逆算すると、最低でも3部プロに通用するピッチャーを3人。
継投まで考えると、戦力になるピッチャーはその倍は欲しい。
打線も3部プロのピッチャーから1試合最低1点を奪えるだけの打力が必要。
投打共に十分な選手を揃えていなければ、勝利の目はないに等しい訳だ。
このルールは上位チーム側のアドバンテージでもあり、それを覆すぐらいでないとプロ球団としては認められないというメッセージだとも言えるだろう。
逆に言えば、これで降格するようなチームにプロたる資格はないということだ。
「3部のプロとしては総合的に弱々だけど、アマチュアよりは総合的に強い?」
「うん。そんなとこ」
その他の要因として。
企業チームの有力選手は大体プロに引き抜かれてしまう、というのもある。
この世界ではプロ野球は公営の他に私営リーグまで存在しており、更に3部まであるものだから、プロ野球選手の総数は前世よりも桁違いに多い。
企業チームの戦力がうまいこと充実するタイミングはほぼないようなものだ。
そのせいもあって、前世でよく耳にする「下手なプロより強い企業チーム」みたいなのはほとんど存在しない。
故に、ヒエラルキーは盤石……だった。これまでは。
「何となく理解した。でも、今回は軽く3連勝して終わり」
「身も蓋もないけど、そうなるな」
だから、俺は入れ替え戦に臨むに当たって別の目的も持っている。
端的に言えば、燻っている選手の引き抜きだ。
事前に目星をつけていた対象の最終確認を、球場で行っている訳だ。
そのことは勿論あーちゃんも明彦氏も知っている。
候補者が誰かまでは明かしていなかったけれども。
「ところで秀治郎。よさそうな選手はいたか?」
1戦してそこが気になったのか、明彦氏が運転席から問いかけてくる。
対して俺は、勿体ぶるように少し間を置いてから答えた。
「掘り出し物って意味では1人。キャッチャーの木村大成選手はいいですね」
「……正直、平凡な選手のように感じたけど」
「あの人、本来はキャッチャーを守るべき選手じゃないですからね」
山形マンダリンダックスの正捕手。木村大成。
彼は【成長タイプ:守備】の完全なる守備職人タイプの選手だ。
守備に関するステータスについては1部リーグ上位と遜色ない。
にもかかわらず、3部リーグ最弱のチームに所属して降格の危機に晒されているのは、彼が野球人生においてキャッチャーしかやってこなかったからだ。
「それ以外ならどこでも野手として超一流の守備力を発揮できるのに、勿体ない」
彼の守備適性はキャッチャーがBで、ピッチャーを除いて他はSSかSという守備固めとして非常に使い勝手のいいユーティリティープレイヤーだった。
しかし、【戦績】を見ると小中高大学とキャッチャー一筋。
他の守備位置の経験はない。
彼の不運は、どのチームにおいても彼以上のキャッチャーがいなかったことだ。
適性が一応Bで、尚且つステータス値も高い。
そのおかげでキャッチャーとしてもそこそこやれた。
だからこそ3部のチームにスカウトされたものの、結局そこそこどまりだった。
とは言え、チームに彼以上のキャッチャーはいない。
そのせいで他の守備位置を試してみるという考えは誰の頭にも浮かばなかった。
キャッチャーに拘りがなければ、守備のスペシャリストとして欲しい人材だ。
「後はピッチャーが2人程。こっちはまだ確証がないです」
確認がまだなので名前を挙げることはできないが、所持してるはずの変化球を使わない……と言うより、使えることを知らない感じのピッチャーが2名いるのだ。
実際に見てみないと何とも言えないが、戦力になる可能性はなくはない。
明日からサクッと連勝する予定なので、残りは2試合だけ。
登板してくれるといいが、どうだろう。
少なくとも今日は出てこなかったからな。
と言うのも敗戦処理で登板し、自責点14などという晒し投げを食らってしまった可哀想過ぎるピッチャーがいたからだ。
そう追い込んだのは俺達だけど。
最後には「もう勘弁してやれよ」という空気が球場に流れ、たまらずチーム全体で凡打に徹してしまったぐらいだった。
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俺達と縁があれば試合に出てくるはずだ。
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