第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

文字の大きさ
上 下
160 / 319
第2章 雄飛の青少年期編

143 1点差

しおりを挟む
『9回の表。兵庫ブルーヴォルテックスユースの攻撃は2番の九十九君から。スコアは1-0のまま。緊迫した投手戦が続いています』
『ここまでのロースコアは兵庫ブルーヴォルテックスユースとしても予想外でしょう。逆に山形県立向上冠高校としては想定通りの試合展開かもしれませんが、1点の差が重く重くのしかかってきています』

 場面は最終回。山形県立向上冠高校が1点を追いかける展開。
 現時点での主要選手の打撃成績は以下の通りだ。
 美海ちゃんは4打数2安打。
 昇二は3打数1安打。
 大松君は3打数2安打。
 磐城君は3打数3安打1打点。

 ちなみに兵庫ブルーヴォルテックスユース全体の安打数も3。
 完全に磐城君1人にやられてしまっている形だ。
 山形県立向上冠高校全体の安打数は5。
 こちらも美海ちゃんと昇二、そして大松君のヒットだけだった。
 その内、得点圏までランナーを進めることができたのは3回。
 大松君のツーベースヒット2本で2回。
 9番昇二と1番美海ちゃんの2連打で1回。
 しかし、そのいずれも得点には繋がらなかった。

『九十九君は3球三振に倒れ、1アウトランナーなし』

 球数はそれなりに積み上がっているが、両者共に投げられない程ではない。
 大松君は初回で8球連続ボールがあったものの現在101球だ。
【Total Vitality】がカンストしているので、まだ疲労はないだろう。
 球数制限についてもWBWだと95球だが、甲子園では連続で登板さえしなければ1週間で500球までと何故か大分緩い。
 なので、まだまだ余裕がある。

 甲子園での高校生ピッチャーの熱投は、野球界ではよくも悪くも有名だからな。
 野球狂神による世界観の補正に含まれてしまっているのかもしれない。

 磐城君も磐城君で現在92球。
 両チーム共、もし延長に入ったとしても続投させるつもりでいるはずだ。

『遠野君は1-2から空振り三振! 2アウトランナーなしで磐城君を迎えます』
「ここが山場」
「……そうだな」

 あーちゃんの言葉に深く頷きながら同意する。
 まず磐城君を打ち取り、この回0点に抑えること。
 それが勝利への最低条件だ。
 何せ、次の回は大松君から始まる打順。
 これまでの傾向から見て、彼の手に全てかかっていると言っても過言ではない。
 ここで1点でも奪われてしまったら、その時点で勝利から遠ざかってしまう。
 致命的な1点となるだろう。

『磐城君に対して大松君、大きく振りかぶって第1球……投げました! 内角高めに僅かに外れるボール!』

 まずは左バッターに対して食い込んでいくスライダー。
 磐城君は小さな動きで回避する。
 彼もまた、ここが勝負の分かれ目だと認識しているのだろう。
 1打席目よりも遥かに深い超集中状態に入っている。
 大松君の方も集中力を高いレベルで維持しているのが画面越しに分かるが……。

「残念だけど、これは勝負がついた、かな」

 俺の呟きを合図とするように、大松君が少し逸ったように投球動作に入る。
 ワインドアップからボールをリリースし――。

「ん。駄目そう」

 そこで【直感】が作用したのか、あーちゃんがポツリと呟いた。
 正にその直後。

『第2球を、投げました! 打ちました打ちました! 磐城君、内角高めに入ってくる変化球に狙いを定め、腕をうまく畳んで振り切った!』

 フロントドアのシュートがピンポン玉のように弾き返された。
 角度もいい。

『打球はグングン伸びていく!』
「行ったな」
「終戦」
『ライト追いかける! しかし、ボールは無情にも頭上を超えてスタンドへ! 入りました! ホームラン! これで2-0! 2点差になりました』
『ここに来てこの点差は大きいですよ』
『そうですね。ここぞというところでの1発! さすがと言わざるを得ません!』

 実況席も観客も大興奮だ。
 兵庫ブルーヴォルテックスユースベンチも鬱憤を晴らすように騒いでいる。
 それだけ苦しかった証だろう。

 解説の言う通り、これは非常に大きな1点だ。
 9回裏で磐城君から最低2点取らなければ同点にならない。
 サヨナラには3点必要になる訳だから。
 それも、4番の大松君から開始という打順で。

『ホームランを打たれてしまった大松君、5番大宮君に対して1球目2球目ボールと制球を乱しております!』
「……これも経験だ。踏ん張れ、大松君。昇二」

 3球目の前にキャッチャースボックスから昇二がマウンドに向かう。
 少し間を取ってから試合再開。
 そこから大松君は何とか立て直してフルカウントまで持ってきた。

『大松君、振りかぶって6球目を……投げた! 外角低めいっぱいのストレートで見逃し三振! しかし、この回磐城君のホームランで2失点目を喫しました』
『兵庫ブルーヴォルテックスユース相手に9回2失点は十分な結果と言えるでしょう。ですが、9回の裏でこの点差はかなり苦しいものがあります』

 9回表終わって2-0、か。
 ……実力が伯仲したいい試合だったな。
 美海ちゃんにとっても昇二にとっても。
 大松君にとっても磐城君にとっても。
 間違いなく将来の糧になったことだろう。
 などと頭の中で勝手に総括を始めてしまったが――。

『9回裏も磐城君がマウンドに上がります。点差は2点。山形県立向上冠高校、磐城君を打ち崩して逆転することができるのか、それとも兵庫ブルーヴォルテックスユースが抑えて連覇を果たすのか。勝負の最終回です!』

 まだ試合は終わっていない。
 山形県立向上冠高校の選手達の目は死んでいない。諦めていない。
 打席に入って構えた大松君も、いつになく集中した様子を見せている。
 味方ベンチもスタンドも、一矢報いてくれと声を張り上げている。

 ちょっと客観視し過ぎてしまったな。
 いくらテレビを隔てていて温度差があるにせよ、まだ頑張っている皆に失礼だ。
 今は最後まで見守ろう。

 そう思って姿勢を正した直後。

『磐城君、振りかぶって第1球……投げました! 外角低め、打った!』
「お」
「ん」
『打球は低い弾道でレフトへ! ポール際! 切れるか、入るか!? ポール直撃! ホームラン! 大松君、磐城君からホームランを放ちました!』

 アウトコース低めのストレートだったが、ほんの少しだけ甘かった。
 ゾーンギリギリからボール半個分高く、ボール1個分内側に来ていた。

 9回の表に磐城君自身のホームランで点差が2点に開いた。
 それによって彼の心に極々僅かながら隙が生じていたのかもしれない。

『これで2-1となり、再び1点差となりました!』

 球場の熱狂振りが音の圧となってテレビから伝わってくる。
 まだ勝負は分からないといった空気が形成されつつある。
 しかし――。

「万事休す、だな」
『5番青島君はなす術もなく3球三振!』

 恐らく、ホームランよりもヒットでランナーとして出ていた方がまだ勝利・・の可能性はあったかもしれない。
 得点・・の可能性は限りなく低くとも。

『6番松浦君も2-2から空振り三振で連続三振!』

 大松君のホームランによって気を引き締め直した磐城君は隙がなかった。
 自分の甘さを戒めているかのようだった。

 だから、そうはならない程度の微妙な出塁で何とかランナーを貯めていって1打で同点かサヨナラまで持っていく。
 山形県立向上冠高校の勝利には、これしかなかったと思う。

『7番木立君も3球三振で3者連続三振! ゲームセット!』
「……終わったか」
『最後は磐城君の圧巻のピッチングで1点差を守り抜き、兵庫ブルーヴォルテックスユースが昨年に続いて全国高校生硬式野球選手権大会を制しました!』

 1点差に泣いた山形県立向上冠高校。
 初回の8連続ボールが致命的だったのは勿論だが、結果的に見れば打線の組み方が悪かった側面もあるだろう。
 磐城君からヒットを打つことができた美海ちゃん、昇二、大松君。
 こと決勝戦においては、この3人を並べた方が得点の確率は高かったはずだ。

 しかし、これもまた1つの経験。
 これを糧にして個人もチームも、指導者の虻川先生も成長していって欲しい。
 美海ちゃん達には、まだ次があるのだから。

 うん。
 来年の戦いが今から楽しみだな。

「……さて、それはそれとして俺達も頑張らないと」
「ん。今度はわたし達の番」

 元チームメイト達の白熱した試合を見て、力を貰った。
 都市対抗野球東北地区予選も決勝戦を残すのみだが、気持ちが昂っている。
 鎧袖一触で本戦に進み、今度は俺達が野球界を盛り上げてやるとしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【3章開始】刀鍛冶師のリスタート~固有スキルで装備の性能は跳ね上がる。それはただの刀です~

みなみなと
ファンタジー
ただいま、【3章・魔獣激戦】を書いてます。【簡単な粗筋】レベルがない世界で武器のレベルをあげて強くなって、国を救う物語【ちゃんとした粗筋】その世界には【レベル】の概念がなく、能力の全ては個々の基礎能力に依存するものだった。刀鍛冶師兼冒険者である青年は、基礎能力も低く魔法も使えない弱者。──仲間に裏切られ、魔獣の餌になる寸前までは。「刀の峰に数字が?」数字が上がる度に威力を増す武器。進化したユニークスキルは、使えば使うだけレベルがあがるものだった。これは、少しお人好しの青年が全てをうしない──再起……リスタートする物語である。小説家になろうにも投稿してます

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

処理中です...