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第2章 雄飛の青少年期編

129 向上冠高校野球部のこれから

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 俺の宣言にシンとなるミーティングルーム。
 隣のあーちゃんは何故かドヤ顔。
 このノリに慣れていない倉本さんは、刺激が強すぎたのか半ば目を回している。
 他の面々は俺の発言を咀嚼中というところだ。

「…………けど、それが実現したらサ。俺達が目立たなくなるんじゃないか?」

 と、真っ先に大松君がそんなことを問いかけてきた。
 そこが判断基準なのは彼の面白いところでもある。
 まあ、真面目な顔とは裏腹に、チラチラといつもの4人組の方を見ているが。
 根本的なところでは恋愛脳なのが玉に瑕だ。

 ……にしても、ここは全く進展がないな。
 日々アピールしているつもりなのは傍から見ていて分かるんだけども。
 本命に伝わっていなければ何もしていないのと同じことだ。
 結果、実質的に待ちの姿勢になってしまっている。
 それでは何かが始まるはずもない。
 恋愛の極意はやはり直接攻撃、そして手数……なのかもしれない。

 そんな戯言はともかくとして。
 彼の立場からすると、その心配はもっともなことではある。
 異色な存在はそれだけ人の目を引き、話題を呼ぶもの。
 計画通りにことが進めば、いよいよ俺も注目を浴びてしまうだろう。
 以前の正樹や今現在の磐城君のように。

 勿論、まだ手札の全てを明かす気はない。
 隠せるものは可能な限り隠すつもりだ。
 それでも過去類を見ないルートを突き進むことは間違いない。
 周りが騒がしくなるのは覚悟しておかなければならない。

 しかし、その前に彼らの話だ。

「うん。だから、大松君達には2年生の頭から表舞台に立って欲しい。そして甲子園で思いっ切り活躍して、世の中を席巻するんだ」

 私営3部との入れ替え戦の出場資格を得ることができる都市対抗野球。
 前世における同名の社会人野球大会は開催時期が結構コロコロ変わっていたりもしたが、この世界では基本的に甲子園が終わった9月に始まる。
 地方予選は夏の甲子園と日程が被っている部分もあるものの、さすがに8月までは甲子園とそれに関係した話題の方が注目度は上だ。
 勿論、プロや国際大会は別だが。
 何にせよ、甲子園に向けて順当に活躍していけば、世間一般に認知されるのは大松君達の方が先になるのは間違いない。

「……けど、それもサ。何か前座っぽくないか?」
「まあ、うん。見方によってはそうかもな。けど、この世代のドラフト会議注目選手になるのは大松君達の方だ。俺には資格がないからな」

 高校生と社会人。そしてプロ。
 話題の方向性が異なるのは客観的な事実だ。
 それで大松君が納得するかは分からないが、もう少しだけ言葉を重ねよう。

「想像してみてくれ。既に神童と名高い磐城君や正樹と、ドラフト1位の座をかけて争うんだ。話題にならないはずがないじゃないか」

 俺の言葉を聞き、思考を巡らすように目を閉じる大松君。
 ドラフト1位の指名を受ける瞬間を思い描いているのだろう。
 言葉を続ける。

「まず間違いなく、史上最高として後世に残るドラフト会議。そこで名だたる逸材を抑えて複数指名でも勝ち取れば、その価値は計り知れないものになる」
「……それができれば、俺だけの勲章になる、かもな」
「ああ。何せ、最強世代でのドラフト競合だ。後から振り返った時、必ず名前が挙がる。歴史に名を刻んだと言っても過言じゃない」
「歴史に名を……それは、悪くない」

 大松君がニヤリと笑う。
 勿論、それがプラスとなるかマイナスとなるかはその後の活躍次第だ。
 プロに入ってから無残な成績を収めてしまうと、ドラフト1位という名声も容易く反転して期待外れの烙印を押されかねない。
 しかし、今の彼は輝かしい未来のみ想像しているようだ。

「プロになれば全員ライバル。仮に野村君の計画が全部うまくいっても1部リーグで横並びのスタートだ。なら、最後には俺が世代のNo.1になってやるゼ!」
「ああ。その意気だ」

 何はともあれ、うまく乗せられてくれたらしい。
 目立ちたがりもまた1つのモチベーションだ。
 正樹や磐城君とは別の原動力で、目標に向かっていって欲しい。
 それがひいてはアメリカ代表に挑む力の1つになってくれると信じている。
 そう思っていると――。

「あ、あの」

 倉本さんが一区切りついたと見てか、おずおずと手を挙げた。

「ウチはこれからどうすればいいっすか? 野村君がいなくなったら……」
「ああ。そこは心配しなくていいよ。練習メニューは確立したし、虻川先生にも引き継いで貰ってる。何より、これっきりでノータッチになる訳じゃないからさ」

 少なくとも【成長タイプ:マニュアル】の子は、定期的に【マニュアル操作】でステータスを弄る機会を作る必要がある。
 ましてや、倉本さんの場合はまだ守備系能力にしか手を入れていないからな。
 公式戦に出場するまでには打撃系の能力もある程度上げておきたいところだ。

「学校を辞めても、指導に来てくれるってことっすか?」
「いや、さすがに部外者が校内に入るのはマズいだろうから、村山マダーレッドサフフラワーズとの合同練習を増やす形かな」
「な、成程っす」
「…………けど、再来年。3部リーグに昇格したら難しくなるんじゃない?」

 先の先を見据えて美海ちゃんが問う。
 こちらの世界では前世でプロとアマチュアが断絶するきっかけになった事件も起きていないので、プロとアマチュアの確執はほぼないと言っていい。
 それでもプロの球団が特定の高校と頻繁に練習するのは、さすがに贔屓と捉えられて批判があるかもしれない。
 ただ、まあ、それもやりようだろう。

「機会は減るだろうけど、もうちょっと広範に、県内の中学生、高校生と交流会をする……とかになるかな。まあ、そこら辺は球団側と考えてみるよ」

 プロ球団ともなれば、野球だけでなく社会貢献や地域貢献も仕事の内となる。
 急激に1部リーグまで駆け上がる計画だけに、今の内からそのための組織作りと人員の確保もしていかなければならない。

「とにかく。倉本さんは安心してくれ。必ず表舞台に引っ張り上げるから」
「は、はいっす。野村君を信じるっす」
「ああ」

 と、野球部の今後の話はこんなところか。
 後は……。

「別件で陸玖ちゃん先輩に検討して欲しいことがあるんですが。諏訪北さん達も」
「……え? 私?」
「なーにー?」

 陸玖ちゃん先輩は少し驚いたように、4人組は互いに顔を見合わせてから俺に呼ばれた諏訪北さんが代表して応じる。
 陸玖ちゃん先輩はほぼ裏方、4人組も選手としての能力は一段劣る。
 そのため、プロ云々や甲子園、ドラフト会議といった話の流れから振られるとは思っていなかったようだ。
 実際、野球選手としての話ではない。

「村山マダーレッドサフフラワーズがプロになったら、データ整理とか広報とか長期インターンで募集かけると思うんで考えといて下さい。将来の就職先としても」

 さっき脳内で考えが過ぎった組織作りと人員確保の一環。
 勿論、今し方思いついたことではない。
 明彦氏とも何度か話し合っている内容だ。

「インターン……」
「はい。とりあえず、陸玖ちゃん先輩は進学ですよね?」
「……う、うん。そのつもり」
「最短で大学1年生から、まあ、バイト感覚でもいいんで考えといて下さい」
「う、うん。考えとく」

 とは言いながら、表情から興味をひかれているのが分かる。
 前向きな返答が期待できそうだ。

「諏訪北さん達も、場合によっては高卒の求人を出す可能性もあるから」
「高卒の求人ー? 就職かー」
「それは考えてなかったなー」
「……うん。悩みどころだね。私も進学しか頭になかったし」
「ですが、大学に行っても球団スタッフの道が開かれるとは限りません」

 考え込む仁科さん。
 実際、タイミングというものもある。
 どれだけ優秀な人間でも、求人が出ていなければ希望の職にはつけない。
 就職活動にも縁というものがあるのだ。

「まあ、まだ可能性の話だから。選択肢の1つとして検討だけして欲しい」

 4人組は俺の言葉に真剣に頷く。
 今は頭に入れておいて貰えれば、それでいい。

 ……こんなところかな。ここでやるべきことは。
 まあ、別に今生の別れでもない。
 また何かあれば連絡を取ればいい。

 さて、後は虻川先生に挨拶して、この学校を去るとしようか。
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