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第2章 雄飛の青少年期編
120 もどかしさとプロ入りルートあれこれ
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高校で新しく始める案件は、一先ずこれぐらいしかないか。
倉本さんを美海ちゃんに引き合わせた日の部活動後。
いつものように迎えに来てくれた加奈さんが運転する車の後部座席で考える。
以降はこの3年で形にした体制を維持しながら活動していく想定だ。
選手は各々に定めたトレーニングメニューに従い、最低限の個の強さを得る。
チームとしては、シートバッティングとシートノックを中心に連携を高める。
そして各同好会所属の部員達は他校の情報収集。
勿論、ブラッシュアップできる部分があればそうするけれども。
目新しさという点では、美海ちゃんと倉本さんのナックルコンビ以外特にない。
着実に日々を積み重ねていくのみだ。
これがスポーツ漫画だったら単調極まりないフェーズになる。
しかし、運動競技における華々しい部分は全体の割合で言えば微々たるもの。
大部分は日常の地道な練習が占める。それが現実だ。
むしろ突発的で珍しいイベントが発生する方が困る。
大概、そういったものは怪我とか病気とかネガティブな出来事だろうから。
「しゅー君はこれからどうするの?」
と、隣に座るあーちゃんが尋ねてきた。
俺の制服の袖口をクイクイと控えめに引っ張りながら。
「どうって?」
「高校でも目立たないように、みなみーを前面に出すんでしょ?」
「そうなるな。……あーちゃんはそれが不満なのか?」
【以心伝心】で伝わってくる感情を基に問いかける。
すると、彼女は「ん。少しだけ」と微かに頷いて肯定した。
「しゅー君が1番凄い。なのに小学校の時も、中学校の時も、世間で騒がれたのは違う子。高校でまでそうなるのは、何となくもどかしい」
「まあ、それは俺がそういう風に仕向けたことだから仕方がないよ」
雌伏の時というのはそういうものだ。
歯がゆさに耐えなければならないこともまた、工作や画策の代償とも言える。
勿論、それはあーちゃんも分かっていることだ。
とは言え、人間の感情はそう単純なものではない。
大々的に俺の実力を知らしめたいという気持ちも、心の片隅にはあるのだろう。
好感度100+/100を考えると、むしろ抑え込んでいる方かもしれない。
「でも、茜。秀治郎君が表舞台に立ったら女の子が放っておかないんじゃない?」
と、加奈さんがバックミラー越しに俺達を見て悪戯っぽく言う。
前世では非モテ側だった身としては、いやいやと否定したくなる気持ちもある。
しかし、急にスポットライトを浴びると扱いが急に変わることがあるのも事実。
……実際、俺自身も中学校の時にその一端を味わったからな。
動画がプチバズりした結果、校内で名が知れてあーちゃんには迷惑をかけた。
もし全国区で有名になってしまったら、その比ではなくなるだろう。
中学校生活最後の数ヶ月の磐城君なんかは、もはや肉食獣の群れに放り込まれた羊のように成り果てていたし。
何とか卒業まで逃げ切って、兵庫県の高校に去っていったけれども。
もしかすると、あちらでも似たような目に遭っているかもしれないな。
「茜は秀治郎君がモテモテになってもいいの?」
「むぅ……それは、ちょっと嫌」
あーちゃんは本気で困ったように顔をしかめる。
「しゅー君の将来のためなら、我慢するけど」
とは言いながら、他人には渡したくないとばかりに俺の腕に抱き着いてくる。
高校生になっても、あけすけに好意を示してくれる姿は変わらない。
そんなあーちゃんの姿を愛らしく思いながらも顔には苦笑を浮かべつつ、安心させるように彼女の手を包み込むように触れる。
【以心伝心】でも俺の感情が伝わったようで、ホッとした気持ちが返ってくる。
しかし、それも束の間。
彼女は何やら考え込み始めた。
「……でも、やっぱり18歳になるまでは実力を隠すべき」
そして大真面目な顔を俺に向けながら、そんなようなことを言い出した。
「結婚するまで、かしら?」
茶化すように問う加奈さんに、我が意を得たりと深く頷くあーちゃん。
この類の話では、彼女に冗談は通じない。
加奈さんももう諦めたように苦笑するのみだ。
しかし、2人には悪いけれども。と言うか、当たり前のことだけど。
俺はそういう意図でこうしている訳ではない。
現に時計の針を一気に進めることも検討に入れているぐらいだ。
「でも、秀治郎君。高校生で活躍しないとドラフトにかからないんじゃないの?」
「む。それも問題」
俺の右肩の辺りから、あーちゃんが心配そうに見上げてくる。
「しゅー君、大丈夫?」
「まあ、そこはいくらでもやりようはあるから」
この世界ではプロ野球選手になるルートはいくつかある。
最もポピュラーで、誰もが目指しているのがドラフト指名を受けること。
これは前世とほぼ同じ制度だ。
公営のプロ野球チームと私営1部のプロ野球チームにのみ適用される。
私営2部以下のプロ野球チームは参加できない。
1部リーグの特権だ。
次にスカウト。
主に私営2部以下のプロ野球チームは、選手を直接勧誘することになる。
と言うより、制度的にそうするしかない。
こちらは前世のサッカーに近い方式だ。
11月のドラフト会議後。
1部リーグのチームから指名されなかった選手への勧誘合戦が始まる。
10月までのプロ志望届の提出が必須でドラフトが優先される上に指名拒否した選手はスカウトできないため、事前の囲い込みはできない。
そもそも待遇が違い過ぎて、好き好んで2部以下を志望する者も稀だけども。
とにもかくにも。
有望な選手は1部リーグで揉まれてWBWの戦力になって欲しい。
そんな国の意図が透けて見える。
「……秀治郎君なら入団テストからでもプロになれそうだものね」
加奈さんが呟いた通り、入団テストというルートもある。
これもプロ志望届の提出が必要なので、敗者復活に近い側面もある。
絶対に受かる自信があるなら、球団を選ぶことができるルートだったりもする。
後は数少ないエリートコース。
ユースチームからエスカレーターでプロ契約を掴み取る形もある。
これは俺には全く関係のない話だが。
他にも隠しルートとでも言うべき方法もある。
実はそれが最有力候補だったりする。
まあ、プロ入りルートも色々あるという話だな。
「いずれにせよ」
細かいところに差はあれど、今生の目標は変わらない。
「あーちゃんと一緒に、約束を守ってプロになる。そして1部リーグで日本一の活躍をしてWBWでアメリカ代表を倒す。俺が考えてるのはそれだけですよ」
倉本さんを美海ちゃんに引き合わせた日の部活動後。
いつものように迎えに来てくれた加奈さんが運転する車の後部座席で考える。
以降はこの3年で形にした体制を維持しながら活動していく想定だ。
選手は各々に定めたトレーニングメニューに従い、最低限の個の強さを得る。
チームとしては、シートバッティングとシートノックを中心に連携を高める。
そして各同好会所属の部員達は他校の情報収集。
勿論、ブラッシュアップできる部分があればそうするけれども。
目新しさという点では、美海ちゃんと倉本さんのナックルコンビ以外特にない。
着実に日々を積み重ねていくのみだ。
これがスポーツ漫画だったら単調極まりないフェーズになる。
しかし、運動競技における華々しい部分は全体の割合で言えば微々たるもの。
大部分は日常の地道な練習が占める。それが現実だ。
むしろ突発的で珍しいイベントが発生する方が困る。
大概、そういったものは怪我とか病気とかネガティブな出来事だろうから。
「しゅー君はこれからどうするの?」
と、隣に座るあーちゃんが尋ねてきた。
俺の制服の袖口をクイクイと控えめに引っ張りながら。
「どうって?」
「高校でも目立たないように、みなみーを前面に出すんでしょ?」
「そうなるな。……あーちゃんはそれが不満なのか?」
【以心伝心】で伝わってくる感情を基に問いかける。
すると、彼女は「ん。少しだけ」と微かに頷いて肯定した。
「しゅー君が1番凄い。なのに小学校の時も、中学校の時も、世間で騒がれたのは違う子。高校でまでそうなるのは、何となくもどかしい」
「まあ、それは俺がそういう風に仕向けたことだから仕方がないよ」
雌伏の時というのはそういうものだ。
歯がゆさに耐えなければならないこともまた、工作や画策の代償とも言える。
勿論、それはあーちゃんも分かっていることだ。
とは言え、人間の感情はそう単純なものではない。
大々的に俺の実力を知らしめたいという気持ちも、心の片隅にはあるのだろう。
好感度100+/100を考えると、むしろ抑え込んでいる方かもしれない。
「でも、茜。秀治郎君が表舞台に立ったら女の子が放っておかないんじゃない?」
と、加奈さんがバックミラー越しに俺達を見て悪戯っぽく言う。
前世では非モテ側だった身としては、いやいやと否定したくなる気持ちもある。
しかし、急にスポットライトを浴びると扱いが急に変わることがあるのも事実。
……実際、俺自身も中学校の時にその一端を味わったからな。
動画がプチバズりした結果、校内で名が知れてあーちゃんには迷惑をかけた。
もし全国区で有名になってしまったら、その比ではなくなるだろう。
中学校生活最後の数ヶ月の磐城君なんかは、もはや肉食獣の群れに放り込まれた羊のように成り果てていたし。
何とか卒業まで逃げ切って、兵庫県の高校に去っていったけれども。
もしかすると、あちらでも似たような目に遭っているかもしれないな。
「茜は秀治郎君がモテモテになってもいいの?」
「むぅ……それは、ちょっと嫌」
あーちゃんは本気で困ったように顔をしかめる。
「しゅー君の将来のためなら、我慢するけど」
とは言いながら、他人には渡したくないとばかりに俺の腕に抱き着いてくる。
高校生になっても、あけすけに好意を示してくれる姿は変わらない。
そんなあーちゃんの姿を愛らしく思いながらも顔には苦笑を浮かべつつ、安心させるように彼女の手を包み込むように触れる。
【以心伝心】でも俺の感情が伝わったようで、ホッとした気持ちが返ってくる。
しかし、それも束の間。
彼女は何やら考え込み始めた。
「……でも、やっぱり18歳になるまでは実力を隠すべき」
そして大真面目な顔を俺に向けながら、そんなようなことを言い出した。
「結婚するまで、かしら?」
茶化すように問う加奈さんに、我が意を得たりと深く頷くあーちゃん。
この類の話では、彼女に冗談は通じない。
加奈さんももう諦めたように苦笑するのみだ。
しかし、2人には悪いけれども。と言うか、当たり前のことだけど。
俺はそういう意図でこうしている訳ではない。
現に時計の針を一気に進めることも検討に入れているぐらいだ。
「でも、秀治郎君。高校生で活躍しないとドラフトにかからないんじゃないの?」
「む。それも問題」
俺の右肩の辺りから、あーちゃんが心配そうに見上げてくる。
「しゅー君、大丈夫?」
「まあ、そこはいくらでもやりようはあるから」
この世界ではプロ野球選手になるルートはいくつかある。
最もポピュラーで、誰もが目指しているのがドラフト指名を受けること。
これは前世とほぼ同じ制度だ。
公営のプロ野球チームと私営1部のプロ野球チームにのみ適用される。
私営2部以下のプロ野球チームは参加できない。
1部リーグの特権だ。
次にスカウト。
主に私営2部以下のプロ野球チームは、選手を直接勧誘することになる。
と言うより、制度的にそうするしかない。
こちらは前世のサッカーに近い方式だ。
11月のドラフト会議後。
1部リーグのチームから指名されなかった選手への勧誘合戦が始まる。
10月までのプロ志望届の提出が必須でドラフトが優先される上に指名拒否した選手はスカウトできないため、事前の囲い込みはできない。
そもそも待遇が違い過ぎて、好き好んで2部以下を志望する者も稀だけども。
とにもかくにも。
有望な選手は1部リーグで揉まれてWBWの戦力になって欲しい。
そんな国の意図が透けて見える。
「……秀治郎君なら入団テストからでもプロになれそうだものね」
加奈さんが呟いた通り、入団テストというルートもある。
これもプロ志望届の提出が必要なので、敗者復活に近い側面もある。
絶対に受かる自信があるなら、球団を選ぶことができるルートだったりもする。
後は数少ないエリートコース。
ユースチームからエスカレーターでプロ契約を掴み取る形もある。
これは俺には全く関係のない話だが。
他にも隠しルートとでも言うべき方法もある。
実はそれが最有力候補だったりする。
まあ、プロ入りルートも色々あるという話だな。
「いずれにせよ」
細かいところに差はあれど、今生の目標は変わらない。
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