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第2章 雄飛の青少年期編
バッターボックス01 新旧神童対決3回目(磐城君視点)
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3回の表。1アウト1塁3塁。
初回と全く同じシチュエーションで再び僕に打順が回ってきた。
ただ、内容は大分異なり、先頭の野村君はライト前ヒット。
続く鈴木さんはセーフティ気味のバントで自分も生きてノーアウト1塁2塁。
3番の浜中さんは三振だったけど、その間に野村君が3盗してこの状況だ。
絶好のチャンスではあるけれど、だからこそプレッシャーも大きい。
初回に凡退してしまっているから尚のことだ。
4番打者の重責とはこういうものなのだと強く実感する。
相手が世代を代表するピッチャーであることも影響しているかもしれない。
瀬川正樹君。
かつての野村君のチームメイトであり、瀬川昇二君の双子のお兄さんでもある。
小学6年生で頭角を現した彼は、国内の大会は勿論のこと国際大会でも突出した活躍を見せており、知る人ぞ知る野球界の期待の星だ。
小学校や中学校の大会まで網羅するのは中々マニアックだけど、同世代で尚且つ同じ県出身の選手だっただけに僕も彼のことは知っている。
情報を追っていたりもした。
正直、野村君と出会うまでは憧れと嫉妬の対象だった。
今では僕自身も能力的には引けを取らない。
一方的にライバル意識は持っているけれど、以前のような拗らせた感情はない。
……つもりだったけど、あの三振はそれが顔を出した結果だったかもしれない。
実際に対戦してみて、国内最高峰のチームでエースピッチャーとして戦ってきた彼には経験という名のアドバンテージが多くあるように感じられた。
そこに僅かに怯んでしまって迷いが生じたことが敗因だったと思う。
実際、2回の表にベンチで初回の打席の反省会をした時に野村君にアドバイスされたことは、全く以ってもっともなことばかりだった。
「正樹レベルのピッチャー相手じゃ、来た球を素直に打ち返すなんて普通は無理なんだから、これって決めて振っていかないと。中途半端なスイングは凡打の素だ」
さっきの打席と、準決勝までの打席の違い。
それは迷いなくバットを振り抜くことができたか、そうでないかだ。
率直に言うと、投球練習時の野村君や今正に対峙している瀬川正樹君以外のピッチャーは球速が遅く、ギリギリまで見極めてからでも余裕で捉えることができた。
翻って、瀬川正樹君との1回目の勝負。
とりあえず当てに行くことは不可能ではなかった。
けれども、そんなスイングで芯に当てるには、彼の球は余りにも速く重かった。
「磐城君も、いつかプロでもやっていく時が来るんだから、ある程度配球を読んでヤマを張ることを覚えないと。プロは球の質がアマチュアとは段違いなんだから」
その指摘も今回、身を以って実感した。
強敵との真剣勝負というものは、本当に学びに溢れている。
「まあ、世の中には自分から超集中状態に入って、ニュートラルに来た球を待ち構えて普通に打つ奴もいるけど……それは基本的に例外だと思っておいた方がいい」
ゾーンとかフローとか呼ばれるもの。
意識的かどうかはともかく、2回裏の瀬川正樹君はそれに近かったように思う。
彼に投げた最後の球には、普通の状態だったら手も足も出ていなかっただろう。
それだけの手応えがあった。
しかし、結果は予想とは異なり、容易く芯に当てられてしまった。
飛んだ先が守備の真正面だったからよかったようなものの(野村君はそう仕向けたと言っていたけど)、僕の中では勝ちとはとても思えないような結果だった。
そのリベンジは、この打席で果たしたいところだ。
思考を整理してから1つ軽く息を吐き、意識を研ぎ澄ませる。
そうしながらネクストバッターズサークルを出てバッターボックスに向かった。
スコアは1-0。
先制してはいるものの、心許ない点差だ。
まだ最低でも1打席は瀬川正樹君に回ってしまうことを考えると、このチャンスで追加点を入れておきたいところ。
そのために、野村君のアドバイスを基に固めた方針を再度頭の中で確認する。
配球を読んでヤマを張り、迷わず振る。
僕は最初の打席で彼に負けた。
バッテリーは僕に対する警戒度を若干下げて臨んでくるだろう。
ピンチとは言え、通常通りかそれに近い配球をしてくると思う。
そうでなくともコントロールに優れたピッチャーだ。
大きく外れたボール球はこの場では来ないと決めてかかる。
となれば、初球から狙っていくのがいい。
下手にカウントを悪くした後で選択肢に迷うのは、今の僕には適さない。
「プレイッ!」
球審のコールを受け、狙い澄ます。
コースは外角。
高さは低め。
球種はファストボール系。
絶対にゴロは打たないようにすくい上げることを心がける。
それを相手バッテリーには気取られないように内角に意識を向けた構えを取る。
前の打席、インコースの球で見逃し三振を喫したから意図はバレにくいだろう。
……間を取る様子はない。
目先を変えてくる可能性は低い。
瀬川正樹君がセットポジションから若干クイック気味に腕を振る。
僕は小さいステップから迷わずバットを振りに行く。
アウトコース低め。バックドアのカットボール。
ほぼ予想通り!
膝を曲げて腰を落とし、ボールの下にバットを入れる。
――カキンッ!
タイミングはいい。振り遅れはしていない。
けれどもコースのせいもあって、打球はレフトへと上がる。
大飛球だ。
しかし、やや芯の内側に当たってしまった。
カットボールの変化が想定より僅かに大きかった形だ。
やはり瀬川正樹君は一筋縄ではいかない。
フェンスの近くでレフトがグローブを構える。
あとひと伸び足りなかった。
けど、犠牲フライには十分な飛距離だ。
レフトがフライを捕ると同時に、野村君がスタートする。
中継にボールが返ってくるまでの間に、彼はホームベースを駆け抜けていた。
これで追加点が入ってスコアは2-0。
4番打者として最低限の仕事はできたと言える。
「これで満足しちゃダメだぞ」
「うん。分かってるよ」
ベンチに戻ってきたところで野村君に厳しく注意されてしまう。
けど、その通り。
ある意味、エースを仕留めるチャンスを逃したとも取れる結果だ。
ホームランを打っていれば、精神的に追い込むことができたはず。
それもまた4番打者の務めだと思う。
「もっと相手のイメージを固めて、スイングの精度も高めないと」
現在3回表2アウト。
後1打席は確実に回ってくる。
その時には、必ず分かり易い結果を出さなければならない。
将来にわたって大好きな野球を続けていく道を、確固たるものとするために。
そう強く思いながら、僕は瀬川正樹君の投球に意識を集中させたのだった。
初回と全く同じシチュエーションで再び僕に打順が回ってきた。
ただ、内容は大分異なり、先頭の野村君はライト前ヒット。
続く鈴木さんはセーフティ気味のバントで自分も生きてノーアウト1塁2塁。
3番の浜中さんは三振だったけど、その間に野村君が3盗してこの状況だ。
絶好のチャンスではあるけれど、だからこそプレッシャーも大きい。
初回に凡退してしまっているから尚のことだ。
4番打者の重責とはこういうものなのだと強く実感する。
相手が世代を代表するピッチャーであることも影響しているかもしれない。
瀬川正樹君。
かつての野村君のチームメイトであり、瀬川昇二君の双子のお兄さんでもある。
小学6年生で頭角を現した彼は、国内の大会は勿論のこと国際大会でも突出した活躍を見せており、知る人ぞ知る野球界の期待の星だ。
小学校や中学校の大会まで網羅するのは中々マニアックだけど、同世代で尚且つ同じ県出身の選手だっただけに僕も彼のことは知っている。
情報を追っていたりもした。
正直、野村君と出会うまでは憧れと嫉妬の対象だった。
今では僕自身も能力的には引けを取らない。
一方的にライバル意識は持っているけれど、以前のような拗らせた感情はない。
……つもりだったけど、あの三振はそれが顔を出した結果だったかもしれない。
実際に対戦してみて、国内最高峰のチームでエースピッチャーとして戦ってきた彼には経験という名のアドバンテージが多くあるように感じられた。
そこに僅かに怯んでしまって迷いが生じたことが敗因だったと思う。
実際、2回の表にベンチで初回の打席の反省会をした時に野村君にアドバイスされたことは、全く以ってもっともなことばかりだった。
「正樹レベルのピッチャー相手じゃ、来た球を素直に打ち返すなんて普通は無理なんだから、これって決めて振っていかないと。中途半端なスイングは凡打の素だ」
さっきの打席と、準決勝までの打席の違い。
それは迷いなくバットを振り抜くことができたか、そうでないかだ。
率直に言うと、投球練習時の野村君や今正に対峙している瀬川正樹君以外のピッチャーは球速が遅く、ギリギリまで見極めてからでも余裕で捉えることができた。
翻って、瀬川正樹君との1回目の勝負。
とりあえず当てに行くことは不可能ではなかった。
けれども、そんなスイングで芯に当てるには、彼の球は余りにも速く重かった。
「磐城君も、いつかプロでもやっていく時が来るんだから、ある程度配球を読んでヤマを張ることを覚えないと。プロは球の質がアマチュアとは段違いなんだから」
その指摘も今回、身を以って実感した。
強敵との真剣勝負というものは、本当に学びに溢れている。
「まあ、世の中には自分から超集中状態に入って、ニュートラルに来た球を待ち構えて普通に打つ奴もいるけど……それは基本的に例外だと思っておいた方がいい」
ゾーンとかフローとか呼ばれるもの。
意識的かどうかはともかく、2回裏の瀬川正樹君はそれに近かったように思う。
彼に投げた最後の球には、普通の状態だったら手も足も出ていなかっただろう。
それだけの手応えがあった。
しかし、結果は予想とは異なり、容易く芯に当てられてしまった。
飛んだ先が守備の真正面だったからよかったようなものの(野村君はそう仕向けたと言っていたけど)、僕の中では勝ちとはとても思えないような結果だった。
そのリベンジは、この打席で果たしたいところだ。
思考を整理してから1つ軽く息を吐き、意識を研ぎ澄ませる。
そうしながらネクストバッターズサークルを出てバッターボックスに向かった。
スコアは1-0。
先制してはいるものの、心許ない点差だ。
まだ最低でも1打席は瀬川正樹君に回ってしまうことを考えると、このチャンスで追加点を入れておきたいところ。
そのために、野村君のアドバイスを基に固めた方針を再度頭の中で確認する。
配球を読んでヤマを張り、迷わず振る。
僕は最初の打席で彼に負けた。
バッテリーは僕に対する警戒度を若干下げて臨んでくるだろう。
ピンチとは言え、通常通りかそれに近い配球をしてくると思う。
そうでなくともコントロールに優れたピッチャーだ。
大きく外れたボール球はこの場では来ないと決めてかかる。
となれば、初球から狙っていくのがいい。
下手にカウントを悪くした後で選択肢に迷うのは、今の僕には適さない。
「プレイッ!」
球審のコールを受け、狙い澄ます。
コースは外角。
高さは低め。
球種はファストボール系。
絶対にゴロは打たないようにすくい上げることを心がける。
それを相手バッテリーには気取られないように内角に意識を向けた構えを取る。
前の打席、インコースの球で見逃し三振を喫したから意図はバレにくいだろう。
……間を取る様子はない。
目先を変えてくる可能性は低い。
瀬川正樹君がセットポジションから若干クイック気味に腕を振る。
僕は小さいステップから迷わずバットを振りに行く。
アウトコース低め。バックドアのカットボール。
ほぼ予想通り!
膝を曲げて腰を落とし、ボールの下にバットを入れる。
――カキンッ!
タイミングはいい。振り遅れはしていない。
けれどもコースのせいもあって、打球はレフトへと上がる。
大飛球だ。
しかし、やや芯の内側に当たってしまった。
カットボールの変化が想定より僅かに大きかった形だ。
やはり瀬川正樹君は一筋縄ではいかない。
フェンスの近くでレフトがグローブを構える。
あとひと伸び足りなかった。
けど、犠牲フライには十分な飛距離だ。
レフトがフライを捕ると同時に、野村君がスタートする。
中継にボールが返ってくるまでの間に、彼はホームベースを駆け抜けていた。
これで追加点が入ってスコアは2-0。
4番打者として最低限の仕事はできたと言える。
「これで満足しちゃダメだぞ」
「うん。分かってるよ」
ベンチに戻ってきたところで野村君に厳しく注意されてしまう。
けど、その通り。
ある意味、エースを仕留めるチャンスを逃したとも取れる結果だ。
ホームランを打っていれば、精神的に追い込むことができたはず。
それもまた4番打者の務めだと思う。
「もっと相手のイメージを固めて、スイングの精度も高めないと」
現在3回表2アウト。
後1打席は確実に回ってくる。
その時には、必ず分かり易い結果を出さなければならない。
将来にわたって大好きな野球を続けていく道を、確固たるものとするために。
そう強く思いながら、僕は瀬川正樹君の投球に意識を集中させたのだった。
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