上 下
114 / 283
第2章 雄飛の青少年期編

105 飛び交う噂とフルスペック磐城君

しおりを挟む
 全国中学校硬式野球選手権大会の地方大会1回戦を明日に控え、俺達はミーティングルームに集まっていた。
 今日は明日の対戦相手についての情報共有のみで、休養日となっている。
 既に磐城君のステータスは仕上がっているので準備は万端だ。
 ちなみに彼の基本能力値は以下の通り。

状態/戦績/▽関係者/プレイヤースコープ
・磐城巧(成長タイプ:マニュアル) 〇能力詳細 〇戦績
 BC:1000 SP:1000 TAG:1000 TAC:1000 GT:1000
 PS:170 TV:1000 PA:1000
 残り経験ポイント:851 好感度:85/100

▽ポジション適性
        センター:SS+
レフト:SS+            ライト:SS+

    ショート:SS+   セカンド:SS+

サード:SS+   ピッチャー:SS+  ファースト:SS+

       キャッチャー:SS+
先発:SS+    中継ぎ:SS+    抑え:SS+

 この辺りはもう正樹や俺と同じだ。
 しかし、現時点では【超早熟】の正樹より【年齢補正】と【体格補正】によるマイナス補正が若干大きく、最高球速は147km/h程。
 MAX153km/hの正樹よりは遅い。
 代わりに変化球は一通り備えているし、投手としては1枚上手というところ。
 さすがに野手としての能力まで含めて考えると互角か少し下ぐらいになるけれども、最終的な到達点は正樹より上になるのが確定的だ。
【超早熟】ではない分だけ、まだ成長の余地があるからな。

 勿論、ステータスを上げ過ぎると時間経過で能力が低下するデメリットはある。
 だが、今のところ【経験ポイント】の消費を2割減らすことができる【天才】であれば相殺できる計算だ。
 後は現状を維持したままマイナス補正が小さくなるのを待てばいい。
 恐らく1年もすれば、世代最強の呼び声をほしいままにすることだろう。
 ……俺は当面表立って動くつもりもないしな。

 ちなみに、磐城君のライバルという立ち位置についた大松君は【経験ポイント】の収支が釣り合うところで平均900ぐらいに抑えている。
 投手能力も磐城君の9割というところ。
 2番手投手として、磐城君が球数制限で投げられない時には彼を立てる予定だ。

 決して追いつくことができない大松君。
 追いつかれることはなくとも、背後に気配を常に感じている磐城君。
 いい具合に互いを意識してくれている様子だ。

 それはともかくとして。
 正直なところ、この2人がいれば1回戦など余裕だろう。
 敵チームの戦力の観点から見てもそうだ。

「どう言い繕っても、相手は昔の私達と同じ万年1回戦負けのチームです。秋の大会で地方大会決勝まで進むことができた私達が苦戦する相手ではありません」

 プロジェクタースクリーンの脇で敵戦力を解説していた陸玖ちゃん先輩も、似たような結論を口にする。

「油断は危険ですが、無駄に気負う必要もありません。普段通りにやれば普通に勝てるでしょう。リラックスして行きましょう」

 ミーティングルームには今年入った新しい後輩もいるが、彼女は先輩らしい姿を取り繕うことができるようになっている。
 高校生になって意識が変わったのか。
 あるいはこの2年、何度もケーススタディのために講義をして慣れたのか。
 内心はどうあれ、落ち着いた雰囲気を醸し出していてちゃんと先輩っぽい。
 いや、っぽいではなく、間違いなく先輩だけれども。

 まあ、何はともあれ。
 試合前日のミーティングはこれで終わり。
 後は本番を待つばかりだ。

「では、明日は集合時間に遅れないように」

 最後に、それまで黙って見守っていた虻川先生がそう締め括って解散となる。
 三々五々と部屋を出ていく部員達。

「それよりさー、これからどうなるんだろうねー。世の中ー」

 虻川先生の背中を見送った後で、諏訪北さんが緩慢かつ軽い口調で問いかける。
 これは……余裕やリラックスというより油断、だな。

「陰謀論染みた暴露を受けてのWBWの開催頻度の増加。それに伴って、ネット上では色々な噂が飛び交っていますね」
「皆、好き勝手言ってるねー」
「けど、テレビを見てると結構政治家の人達も慌ただしく動いてるみたいだし、何が起きるか分からない感じがするよ」

 他の3人も、明日の試合よりもそっちに意識が向いている模様。
 やはり皆、浮足立ってしまっているようだ。

「ちなみに、どんな噂があるの?」

 4人組に美海ちゃんが尋ねる。
 俺と同じく格安スマホの彼女は、余りネットでの情報収集は行えていないはず。
 そういったところには割と疎い。

「噂って言うかー? 他の国が既に実施を示唆してる施策にー、追随するんじゃないかー、って感じー?」
「施策って、どんな?」
「端的に言えば、より優秀な野球選手を育成する環境を整えるための制度や体制の構築、でしょうか」
「……それって、今と何が違うの?」

 今一ピンと来ないのか、美海ちゃんは首を傾げる。

「今だとトレーニング設備の改善、指導者の育成、スポーツ科学に基づくトレーニング理論やスポーツ医学の発展への尽力と、比較的常識的なところでしたが……」
「これからはスポーツで優れた成績をおさめた者同士のマッチングの推進、遺伝子検査による適性の判別とか、才能の領域を開拓しようとしてるみたい」

 悪し様に言えば、野球に特化した人間の品種改良に目を向けている訳か。
 まあ、もっとも。
 前世でもスポーツに関わる遺伝子検査は既にあった。
 少なくとも瞬発力に長けた速筋と持久力に優れた遅筋のどちらがつきやすいかは個体差があり、遺伝子検査で判別できるらしいのだ。
 この分野を突き詰めていくと、その競技との相性が事前に分かることにもなる。
 その是非を問うのは少々難しい問題だが……。
 どのような競技であれ、その頂点に立つ者は血反吐を吐くような努力を以って天稟を開花させた化物であることは言うまでもないことだろう。

「果ては、一定の成績を収めたプロ野球選手の重婚許可だの、遺伝子操作によって野球への適性を高めたデザイナーベビーを作るだの、そんな与太話も出てるね」
「何それ。馬鹿じゃないの?」

 呆れたように言う美海ちゃん。
 俺も同じ気持ちだが、野球に狂った世界だけにやらかしそうな気もしてしまう。
 某野球ゲームの育成モードだったら、もう完全に携帯機側の世界観になるな。

「今まではアメリカには負けても仕方がないって空気だったけど、さすがに今回の件でこのままだとマズいってなったんだろうねー」
「ネット上も混沌としています」

 うーむ。加奈さんに言われても実感が余り湧かなかったが、本当に結構な大事になっているみたいだな。
 しかし、世間の方は如何ともしがたい。
 とりあえず、身内だけでも目の前の大会に意識を向けさせないと。

「まあ、世の中がどう変わっていくにせよ、公式戦に勝つことが有利に働くことは間違いない。一戦必勝。集中していこう」

 理屈をつけて軌道修正し、話を打ち切る。
 一応、それで皆も切り替えてくれたようだった。少なくとも表面上は。

 ……この件はしばらく様子見だな。
 全く。考えることが増えてばかりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...